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三波新、放浪編
俺の居場所が無かった世界と在る世界~そしてここからがスローライフ~
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固くなる。
柔らかくなる。
重くなる。
軽くなる。
大きくなる。
小さくはならないが元にも戻る。
そして……。
餌と見なせば吸収する。
ライムの生態の特徴だ。
もしかしたら。
「ライム! 来いっ!」
いつものように可愛らしさを見せつけながら来るかと思ったが、俺の気持ちを読み取ったのかぴょんぴょん飛び跳ねて急いでやってきた。
両腕をライムに差し出すと、その上にピョンと飛び乗った。
「お前、俺の頭から全身すっぽりと包んで、つるつるの防具になれたりできるか?」
言い終わるや否や、俺の要望通り頭に飛び乗って全身を包む。
「お、おい、アラタ」
「まじかよ。そんなことまで」
「す、すごい……」
衣服の上からだが、まるで全身にフィットするボディスーツのように、ライムは俺の体を包み込む。
体全体がオーロラの様に光の色彩が変わる。
ライムに触ると、ツルツルして、しかも固くなっている。
「お、おい……アラタ……」
「ダンジョンの中でも……行商できるんじゃね?」
ライムの変化する体を見て、ただ思いついただけだ。
とりあえずこれでダンジョンとやらに行くことができるが……。
……俺は何をやってるんだ。
おにぎりの販売、しなきゃダメだろ。
「あ、すまん。待たせちまってるな。ライム、戻っていいぞ」
頭の部分から溶けるような感じで、ライムは床の上で本来の姿に戻っていく。
客の冒険者達から感嘆の声が次々にあがる。
「とりあえず、おにぎりの販売、続けるからな?」
※
この日の夜、俺達は荷車の中で一夜を過ごした。
それぞれの寝袋の中、……ヨウミは無理やりライムを連れ込んで狭っ苦しくしているが、時々外から聞こえる虫の音が混じる静かな夜。
「……日中、気を悪くしたらごめんね。……何かおかしなことを言ったのならこれから気を付けるから、どこが悪かったか、教えて?」
ヨウミが静かに問うてきた。
だが俺は、晩飯も食べてすぐに入った寝袋の中で、気持ちの整理を終わらせていた。
自分でも分かっていた。
自分の仕事の処理能力を上回る仕事を、上司が、同僚が押し付けてきた。
きっぱりと断っても無理やり押し付け、予測通りやり遂げることができなくても、その責任を負わせようとしてきた。
仕事を押し付けておいて、「仕事する気ないだろ、お前」と彼らから責められ続けた会社員時代。る
ヨウミの言い方が、俺の記憶の中にある彼らと重なった。
自分の世界に帰る気は……。
正直、帰りたい気持ちは、ない。
帰っても、責められることはないが職探しから始めなきゃならない。
見つけても、今までと同じように責められる日が再来するかもしれない。
でも、自分が生まれ、そして馴染んだ習慣ばかりの世界の方が暮らしやすいに決まってる。
けれど、自分から志して帰る方法を探そうという気はなかった。
偶然見つかれば帰ってもいいか、くらいにしか考えてなかった。
そんな世界に帰りたくないから、この世界に逃げていよう、隠れていよう。
そんな卑怯なことを考えているのか?
あの時ヨウミから、そう糾弾されたような気がした。
日中の客の冒険者達の顔を見た。
売ってくれて有り難い。
そんな感謝に満ちた顔をむけられたことを実感した。
俺の世界でそんな風に思われたことは一度もなかった。
魔物がうじゃうじゃいるダンジョンでも店をやればいいのに。
そう言われた時、俺は彼らからアテにされている、頼りにされている、そんな実感を得た。
会社員時代は、自分が楽したいから面倒な仕事はすべて押し付けられた。
彼らにとって、俺は都合のいい道具でしかなかった。
もし今日の客も俺のことをそう思っていたなら、願いではなく強制させていたに違いない。
力づくで引っ張られれば、引っ張られるままに移動するしかなかった。
そして、それは無理だろう、と俺を慮ることを言ってくれた奴もいた。
そして、あの会社から追い出された。
結局俺は、あそこにいてもいなくても同じだったのだ。
俺が存在することに意味はなく、意義もなかった。
この世界でも、神殿から追い出された時は無視もされた。
そして都合のいいように悪く言われた。
この世界も、俺の世界と同じように、俺はいてもいなくても、その世界は回っていられるのだ。
とばかり思っていた。
けれど、おれはここにいる。
ここにいるからしょうがないじゃないか、とも。
それでも、いなくなりたいと思ったことはあっても、自分から死にたいなどと思ったことはなく。
けれども。
「アラタが……してくれたら有り難いんだが」
「アラタに悪いじゃない」
そんな言葉を何度か聞いた。
俺がいてもいなくても変わらない世界にいるよりも
俺にしかできない役割があって、それをみんなが有り難がって、俺のことを大切にしてくれる人たちがいる世界の方が、俺の価値を無駄にすることはないんじゃないだろうか、とも思う。
俺の世界からの逃げの考えかもしれない。
でも、俺の世界は、俺なしでも気にしない世界だ。
帰り道を無理してでも探す必要はない。
だって、見つかるまでは健康をいじする必要があるからだ。
そのためには、この世界での生活が一番大事になる。
だから逃げるも何も、俺の世界は俺を求めて追いかけようとはしないのだ。
ならば。
「ここでの商売終わったら、ちょっと考えることがある。きっちり突き詰めて考えられれば新展開できそうな気がするんだ」
少しの間、時々虫の音が耳に突く。
ヨウミはそんな静かさを維持していたが。
「うん! 期待してるよ!」
薄暗い荷車の中、ヨウミはこっちを見て笑ったような気がした。
が、これはあくまでも俺自身の方針だから勘違いしないでほしいものだが……。
その感情を悟ったのか、ライムはヨウミから俺の寝袋に飛び込んできた。
「あーっ! ライムちゃあん」
……この位置で店を続ける限り、朝は早いんだ。
とっとと寝ろ!
柔らかくなる。
重くなる。
軽くなる。
大きくなる。
小さくはならないが元にも戻る。
そして……。
餌と見なせば吸収する。
ライムの生態の特徴だ。
もしかしたら。
「ライム! 来いっ!」
いつものように可愛らしさを見せつけながら来るかと思ったが、俺の気持ちを読み取ったのかぴょんぴょん飛び跳ねて急いでやってきた。
両腕をライムに差し出すと、その上にピョンと飛び乗った。
「お前、俺の頭から全身すっぽりと包んで、つるつるの防具になれたりできるか?」
言い終わるや否や、俺の要望通り頭に飛び乗って全身を包む。
「お、おい、アラタ」
「まじかよ。そんなことまで」
「す、すごい……」
衣服の上からだが、まるで全身にフィットするボディスーツのように、ライムは俺の体を包み込む。
体全体がオーロラの様に光の色彩が変わる。
ライムに触ると、ツルツルして、しかも固くなっている。
「お、おい……アラタ……」
「ダンジョンの中でも……行商できるんじゃね?」
ライムの変化する体を見て、ただ思いついただけだ。
とりあえずこれでダンジョンとやらに行くことができるが……。
……俺は何をやってるんだ。
おにぎりの販売、しなきゃダメだろ。
「あ、すまん。待たせちまってるな。ライム、戻っていいぞ」
頭の部分から溶けるような感じで、ライムは床の上で本来の姿に戻っていく。
客の冒険者達から感嘆の声が次々にあがる。
「とりあえず、おにぎりの販売、続けるからな?」
※
この日の夜、俺達は荷車の中で一夜を過ごした。
それぞれの寝袋の中、……ヨウミは無理やりライムを連れ込んで狭っ苦しくしているが、時々外から聞こえる虫の音が混じる静かな夜。
「……日中、気を悪くしたらごめんね。……何かおかしなことを言ったのならこれから気を付けるから、どこが悪かったか、教えて?」
ヨウミが静かに問うてきた。
だが俺は、晩飯も食べてすぐに入った寝袋の中で、気持ちの整理を終わらせていた。
自分でも分かっていた。
自分の仕事の処理能力を上回る仕事を、上司が、同僚が押し付けてきた。
きっぱりと断っても無理やり押し付け、予測通りやり遂げることができなくても、その責任を負わせようとしてきた。
仕事を押し付けておいて、「仕事する気ないだろ、お前」と彼らから責められ続けた会社員時代。る
ヨウミの言い方が、俺の記憶の中にある彼らと重なった。
自分の世界に帰る気は……。
正直、帰りたい気持ちは、ない。
帰っても、責められることはないが職探しから始めなきゃならない。
見つけても、今までと同じように責められる日が再来するかもしれない。
でも、自分が生まれ、そして馴染んだ習慣ばかりの世界の方が暮らしやすいに決まってる。
けれど、自分から志して帰る方法を探そうという気はなかった。
偶然見つかれば帰ってもいいか、くらいにしか考えてなかった。
そんな世界に帰りたくないから、この世界に逃げていよう、隠れていよう。
そんな卑怯なことを考えているのか?
あの時ヨウミから、そう糾弾されたような気がした。
日中の客の冒険者達の顔を見た。
売ってくれて有り難い。
そんな感謝に満ちた顔をむけられたことを実感した。
俺の世界でそんな風に思われたことは一度もなかった。
魔物がうじゃうじゃいるダンジョンでも店をやればいいのに。
そう言われた時、俺は彼らからアテにされている、頼りにされている、そんな実感を得た。
会社員時代は、自分が楽したいから面倒な仕事はすべて押し付けられた。
彼らにとって、俺は都合のいい道具でしかなかった。
もし今日の客も俺のことをそう思っていたなら、願いではなく強制させていたに違いない。
力づくで引っ張られれば、引っ張られるままに移動するしかなかった。
そして、それは無理だろう、と俺を慮ることを言ってくれた奴もいた。
そして、あの会社から追い出された。
結局俺は、あそこにいてもいなくても同じだったのだ。
俺が存在することに意味はなく、意義もなかった。
この世界でも、神殿から追い出された時は無視もされた。
そして都合のいいように悪く言われた。
この世界も、俺の世界と同じように、俺はいてもいなくても、その世界は回っていられるのだ。
とばかり思っていた。
けれど、おれはここにいる。
ここにいるからしょうがないじゃないか、とも。
それでも、いなくなりたいと思ったことはあっても、自分から死にたいなどと思ったことはなく。
けれども。
「アラタが……してくれたら有り難いんだが」
「アラタに悪いじゃない」
そんな言葉を何度か聞いた。
俺がいてもいなくても変わらない世界にいるよりも
俺にしかできない役割があって、それをみんなが有り難がって、俺のことを大切にしてくれる人たちがいる世界の方が、俺の価値を無駄にすることはないんじゃないだろうか、とも思う。
俺の世界からの逃げの考えかもしれない。
でも、俺の世界は、俺なしでも気にしない世界だ。
帰り道を無理してでも探す必要はない。
だって、見つかるまでは健康をいじする必要があるからだ。
そのためには、この世界での生活が一番大事になる。
だから逃げるも何も、俺の世界は俺を求めて追いかけようとはしないのだ。
ならば。
「ここでの商売終わったら、ちょっと考えることがある。きっちり突き詰めて考えられれば新展開できそうな気がするんだ」
少しの間、時々虫の音が耳に突く。
ヨウミはそんな静かさを維持していたが。
「うん! 期待してるよ!」
薄暗い荷車の中、ヨウミはこっちを見て笑ったような気がした。
が、これはあくまでも俺自身の方針だから勘違いしないでほしいものだが……。
その感情を悟ったのか、ライムはヨウミから俺の寝袋に飛び込んできた。
「あーっ! ライムちゃあん」
……この位置で店を続ける限り、朝は早いんだ。
とっとと寝ろ!
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