勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新、放浪編

俺がとうとうお尋ね者に?! エピローグと召喚当時の真相考察

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 ふかふかのベッドで寝たい。
 ふわふわの布団で寝たい。
 できればライムと一緒に寝たい。

 って、ヨウミ……。

 やかましいわっ!

 まぁずっと野宿だったし、気持ちは分からなくもない。
 ライムのお陰でその間も体は清潔を保てたが、広い湯船に浸かってゆったりしたいという気持ちも理解できる。

 幸い近くの町はかなりの賑わいを見せる繁華街があった。
 個別の車庫もある。用心棒の質も数も十分。
 専業の料理人もいる。
 設備も十分で予約なしで宿泊できる宿を見つけられたのは、まぁ幸運なんだろうな。
 ちょっかいを出す奴もおらず、周りは騒がしかったが特に声もかけられず、食事の時間は心を穏やかに十分堪能できた。

「……ここの新聞、部屋に持ち込んでもいいかな?」
「ん? あぁ、構わんよ。チェックアウトの時もそのままでいいけど、処分はこっちでするから捨てないでくれ。切り抜きや書き込みは禁止な」
「あぁ、有り難う」

 ヨウミと二人で部屋に入る。

 日中聞いた話で、不足な情報を得られるかもしれない、ということで、食堂に置いてある新聞をちょっと拝借。

「ねぇ、あたし、大浴場に行ってくるから」
「あいよ。行ってらっしゃい」

 ヨウミには目もくれず、覚え書き用のメモ帳を取り出して新聞を広げる。
 狙いのページはもちろん……。

「あるかどうか分からんかったが……まぁこれだけありゃ十分か」

 今後、新聞とか週刊誌とか読んで、まずはこの国、そしてこの世界の基礎知識とか身に付けなきゃダメなんだろうなぁ。

 目指したページはニュース解説。
 知りたい項目は慈勇教。
 教義とかそっち方面じゃなく、組織面について。

 これまでは、この組織のトップは大司教。
 その下に、なにやらいろいろな部門があるようだ。

「えーと? 規律、教論、奉仕、信仰、施術? この部門のトップがそれぞれいて、そのトップをまとめているのが大司教、か……ふーん?」

 ただの権力欲の塊なんじゃないの?
 まぁ私情はともかく、だ。

 規律は、教義によって決められた規則通りの生活。
 教論は教義の研鑽。
 奉仕は社会的活動。まあ労働ってことだよな?
 信仰は、儀式関連。
 施術は、魔術とかってことか。

 あの冒険者達の言う通り、これらの人事を一新して……王妃が人選に携わるって?
 国王から王妃に変わっただけじゃねえか。
 で……、大司教の役職を撤廃し、これからの一宗の動きはこの五名の協議によって定められる……。
 手ごわい論客が一人いればそいつの独裁じゃね?
 なになに?
 まずは他者の利得を優先し、且つ己のみに労力が集中することを避け……。
 ウィンウィンってやつだな。
 けどどんなもんなのかね。

 ふーむ……で……。
 国王が私欲から旗手を一人排除しようとしたことを、王妃が成り代わって詫びを入れ、正当の旗手として今後、魔物の増加現象に当たってもらう……。
 ふーん……。

 そういえば俺があの地下室にいた時は、テーブルの上に何もなかった。
 ということは、俺が来る前にその正規の旗手とやらが現れて、先に神殿に向かったんだな。
 グダグダがあって、国王が「お前はいなかったことにする! ここから出ていけー!」と言ういざこざの後、俺達があそこに入っていって……。
 いなかったことにするんだから、そいつの手配書とか出るわけがない。
 けど俺がその後巻き沿い食らって、あの地下室に現れた。
 いなかったことにしたはずの旗手とやらが現れた地下室。
 そこに再度誰かが現れる。
 国王からすれば、存在しないはずの旗手を俺が名乗るかもしれない、と考える。
 俺の似顔絵の張り紙、張り出されるわけだ。

 張り紙の効果が広まらなかったのは、俺が行商を始めたから、ってことだよな。
 仕事見つけられて助かったわ。
 俺を追い出したヨウミの祖父さんには恨み言の一つも言いたいが、これだけは感謝してもしきれないな。
 荷車を提供してくれたんだから。

 ……いや、でも待てよ?
 俺にも詫びを入れたがってるって話聞いたよな。
 ……ってことは……。
 俺としちゃ、ただごめんなさいの一言だけで十分だ。
 でも俺を探してるみたいなこと言ってなかったか?
 手紙の一つでも十分間に合う用件なのに、それでも会いたがってるということは、他に目的があるわけだ。
 例えば俺が受けた損害を補填する、だとする。
 けど……あいつらが得た情報が、どこまで本当のことか分からんぞ?
 補填するための金がもったいない。
 俺に対して真っ当な対応をしていたら、そんな費用は本来出費せずに済んだんだ。

 王妃が国王の悪評を拭うためにそんな話を広めたとしたら……。
 今までより追手が迫ることはないだろうが、あったら最後、二度と王族の評判を落とさないように俺の口を封じる、なんてこともなくはない……。

 俺の立場、まだやばいままじゃねぇか!
 あ、いや。
 神殿から出る時にもらった一万円を返せば、俺への心象はいくらか良くなるはずだ。
 けど行きづらいのは変わりないなー……。

 ……面倒なことを考えてるが、考えなかったおかげで貧乏くじを引かされたことは何度もあった。
 つまり、こんな風に推察しなくてもいいんだが、その場合、自分で自分の立場を追い込むことが多かったってこと。
 自分に責任を持てる大人になっても、その責任を誰かに任せた代償ってわけだ。
 だからこの世界では、今までの失敗を教訓にできて、しかも俺の人生は俺の思うがままにできる。
 人生のやり直しのチャンスを天からもらえたってことじゃないか。

 有り難いな。
 異世界生活万歳だ!

「……何が万歳だって?」
「うおっ! ……ヨウミか。随分早いな」
「早くないよ? 普通だよ。それにしても気持ち良かったー。アラタも入ってきたら?」
「いや、このまま寝る」
「えー? せっかくの宿なのにー?」

 入浴中に王妃の気配が近づいてきたら動きがとれねぇだろうが。
 周りはいつもと違ったとしても、俺達はいつもと変わらん毎日だよ。
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