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三波新、放浪編
俺の仕事を、なんでお前らが決め付けるんだ 俺のことは俺が決める
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それからは更に散々だった。
頬の傷は気にされたが、説明すると「ほら見たことか」という意味の言葉を連発で食らった。
可愛い魔物を餌にする、という心象は悪かったらしいが……。
そもそも、人間の食い物のほとんどは生き物だろうよ。
弱い者が守られて寿命をまっとうできるのは、それよりも力が強い者達で形成される社会の中で、その者達から可愛がられているからだ。
飽きられたり、守ってくれることがない生き物は、生存競争で負けたらそれより強い物のエサになる。
全部が全部って訳じゃないだろうがな。
だから一理ある気がしたんだがなぁ。
まぁ正確な事と正しい事は一致しないことも分かってる。
批判だのなんだのが出てくるのは覚悟の上だったしな。
けど、ライムから脛をペシペシと叩かれた感触は、ちょっと気持ち良かった。
日も暮れて、客も来なくなる。
店を閉め、近くの洞窟に入って晩ご飯の準備。
「ライムちゃんとテンちゃんを悪者にしたバツ」
ということで、おかず一品減らされた。
それでチャラにしてくれるならそれでもいいか。
晩ご飯も終わり、就寝時間がやって来る。
日中のことはすべて帳消しにした気持ちでいるのか、テンちゃんは俺を、ライムとヨウミと共に自分の体に引っ張り込んだ。
そしていつもの夜になる。
──────
この世界に来てから時々うなされる。
会社員時代の記憶が、何度か夢で再生された。
そしてこの夜も。
「アラターっ。これから俺用事あるから、俺の残った仕事引き受けてくれ。お前は用事ないんだろ?」
「え? いや、そろそろ俺、家に帰ろうかと」
「あぁ、大丈夫。この仕事終わったら帰れるからさ。俺は無理なんだよ。帰る時間長引きそうだからな。じゃ、頼むわ」
「いや、ちょっと……」
「何、新君、仕事山積みなの? ふーん……これくらいなら、私の仕事が加わっても大したことないかもね」
「え? いや、俺も家に」
「大丈夫よ。あなたの仕事と私の、関連してる項目が色々あるから。逆に分担作業の方が効率悪いもの」
「じゃあこっちも頼む。お前なら大丈夫。できるさ」
「こっちも頼む」
「私のもー」
なんなんだ、これ。
またこんな風に押し付けられて。
やりたくない仕事を押し付けられて。
いつも。
いつもいつもいつも。
「お、俺の仕事もたまには手伝って」
言い返すことができるとしたら、せいぜいこんなことくらい。
だけど。
「大丈夫。お前なら問題ない」
「失敗しても怒られるだけよ」
「平気平気。俺達は平気じゃないけどな」
なんで俺ばかり、こんな面倒なことをっ!
「ほんとだよねぇ。なんでアラタだけ、こんな目に遭いたがるの?」
遭いたがる?
何を言ってる。
こんな面倒事は、誰だって嫌だろうが!
「じゃあ日中のアレは何?」
「アレって……あ……?」
そこにいたのは、どこかで見た高校の制服を着た、黒い長い髪の女子。
いや、どこかで見たってもんじゃない。
俺が卒業した高校の制服……。
でもその顔は……影がかかっていて見えない。
「誰だよ? お前」
「テンちゃんだよ。何言ってんの。モザイクが嫌だって言うから、夢の世界を巡ってこんなのを見つけたから着てみたよ」
……夢の世界って、何でもありだな、オイ。
でも顔が見えないということは……。
誰かをモデルにするつもりはないんだろうし、俺が気を留めてる奴の記憶もないってことか。
まぁそれはいいが。
「アラタ。自分の世界にいた時の記憶を悪夢としてるなら、この世界でも悪夢を再現しようとしてるんだよね」
突然何を言ってる?
「嫌な事、いろいろさせられてたんだよね。こないだも、そして今見てた夢も、アラタには悪夢なんでしょ?」
夢の中だから、すべて俺の都合通り、俺の思う通りに事が運ぶもんだと思ってたんだがな。
悪夢を見てしまうのも、悪夢の中身を変えず、その時の感情を忘れ去りたくない、人間らしさを証明する感情をなくしたくないという抵抗なんじゃないだろうか、とまで思える。
けど、俺の夢の中に出てくるテンちゃんは、俺の思い通りに動いてくれないし、訳の分からない話をどんどん進めていく。
「じゃあなんで日中のアラタは、こんな悪夢の中のアラタになろうとしたの?」
「はい?」
思わず声が出た。
あんな思いは二度としたくないし、なろうとするつもりもない。
何を言ってんだこいつは。
「大声を出して断ればよかったじゃない。あんな人達、あちこちにいるはずもないし。何も対応しないで立ち去ればよかったじゃない。何で好き好んで、自分の立場悪くしちゃうかな」
「……言いたいこと、したいことを我慢し続ける方が悪夢だったんでな。それだけ。……その巻き添え食らわせて悪かったな」
「あたしは平気。あ、ライムちゃんも来てるよ。ライムちゃん、おいで。こっちだよ」
ライムも夢の中に入って来れるのか。
「あたしが誘導しなきゃ入れないんだけどね。出ていくことは自由にできるみたいだけど」
ライムは現実と同じ姿なのな。
「……ライムにも嫌な事言ってすまなかったな」
「あたしもライムも平気だよ。特にあたしは、新を支えるって決めたからね」
有り難い話だな、うん。
けどな。
「じゃああの翼のビンタはどういうことだよ」
「今言ったでしょ? 自分から憎まれ役になってどういうつもりなのよって」
「その割には血が出るようなビンタだったぞ? ちょっときつすぎないか?」
「あぁ、あれ? 当たり所が悪かっただけよ。アラタの頬にビタンってやるつもりだったけど、距離感がずれてシュッといっちゃった。テヘ」
いや、テヘじゃねぇだろ。
ひどい扱いするの、むしろお前だろ。
「まぁいいけどよ。……日中のあいつらは現実が見えてなかったようだったからな。残酷な現実もあるってことを教えてやりたくなっただけだよ」
「それで自分でイメージ悪くしてりゃ意味ないでしょうよ。ヨウミからも顰蹙買ってたわよ? ね、ライム」
あ、夢の中に入れるのは俺のばかりじゃないんだ。
「ま、ここの世界じゃ、したくないことを押し付けられたら拒否するし、俺が自発的にやることは全部俺が好き好んで前向きに受け止めるつもりでいるからな。心配してもらってうれしいが、そういうことだから」
「やれやれ。貧乏くじを自分で選んで引くこともあるのか。厄介なパートナーよねぇ、ライム」
ライムはぴょんぴょこ跳ねている。
テンちゃんの言うことに同意してる動きなんだろうか。
にしても、パートナーか。
「でもこれから、風当たり強くなるかもよ?」
「誰かの指示でこんなことをしろって言われたら耐えられなかったろうな。けど俺が好きでやったことだ。気にならんよ」
辛い目に遭った分鈍感になってるのか、耐久力が高まっているのか。
まともな神経でなくなってるのかもしれないな。
可哀想なんて思われても、俺のどこが可哀そうなんだ? って、逆にそう言う奴の神経を疑うかもしれん。
「ま、甘えたくなったら甘えてきていいからね」
「悪いが、どちらかというと年上が好みだ。学制服着てる奴からそんなこと言われても、遠慮する以外何も思うところはないな」
「じゃあ他の格好考えないとなー。でも参考になるの、ほとんどのないのよね」
コスプレでもする気かこいつは。
「それにしても、つくづく面倒くさいわね、アラタってば」
普段のお前の方が面倒くせぇよ!
頬の傷は気にされたが、説明すると「ほら見たことか」という意味の言葉を連発で食らった。
可愛い魔物を餌にする、という心象は悪かったらしいが……。
そもそも、人間の食い物のほとんどは生き物だろうよ。
弱い者が守られて寿命をまっとうできるのは、それよりも力が強い者達で形成される社会の中で、その者達から可愛がられているからだ。
飽きられたり、守ってくれることがない生き物は、生存競争で負けたらそれより強い物のエサになる。
全部が全部って訳じゃないだろうがな。
だから一理ある気がしたんだがなぁ。
まぁ正確な事と正しい事は一致しないことも分かってる。
批判だのなんだのが出てくるのは覚悟の上だったしな。
けど、ライムから脛をペシペシと叩かれた感触は、ちょっと気持ち良かった。
日も暮れて、客も来なくなる。
店を閉め、近くの洞窟に入って晩ご飯の準備。
「ライムちゃんとテンちゃんを悪者にしたバツ」
ということで、おかず一品減らされた。
それでチャラにしてくれるならそれでもいいか。
晩ご飯も終わり、就寝時間がやって来る。
日中のことはすべて帳消しにした気持ちでいるのか、テンちゃんは俺を、ライムとヨウミと共に自分の体に引っ張り込んだ。
そしていつもの夜になる。
──────
この世界に来てから時々うなされる。
会社員時代の記憶が、何度か夢で再生された。
そしてこの夜も。
「アラターっ。これから俺用事あるから、俺の残った仕事引き受けてくれ。お前は用事ないんだろ?」
「え? いや、そろそろ俺、家に帰ろうかと」
「あぁ、大丈夫。この仕事終わったら帰れるからさ。俺は無理なんだよ。帰る時間長引きそうだからな。じゃ、頼むわ」
「いや、ちょっと……」
「何、新君、仕事山積みなの? ふーん……これくらいなら、私の仕事が加わっても大したことないかもね」
「え? いや、俺も家に」
「大丈夫よ。あなたの仕事と私の、関連してる項目が色々あるから。逆に分担作業の方が効率悪いもの」
「じゃあこっちも頼む。お前なら大丈夫。できるさ」
「こっちも頼む」
「私のもー」
なんなんだ、これ。
またこんな風に押し付けられて。
やりたくない仕事を押し付けられて。
いつも。
いつもいつもいつも。
「お、俺の仕事もたまには手伝って」
言い返すことができるとしたら、せいぜいこんなことくらい。
だけど。
「大丈夫。お前なら問題ない」
「失敗しても怒られるだけよ」
「平気平気。俺達は平気じゃないけどな」
なんで俺ばかり、こんな面倒なことをっ!
「ほんとだよねぇ。なんでアラタだけ、こんな目に遭いたがるの?」
遭いたがる?
何を言ってる。
こんな面倒事は、誰だって嫌だろうが!
「じゃあ日中のアレは何?」
「アレって……あ……?」
そこにいたのは、どこかで見た高校の制服を着た、黒い長い髪の女子。
いや、どこかで見たってもんじゃない。
俺が卒業した高校の制服……。
でもその顔は……影がかかっていて見えない。
「誰だよ? お前」
「テンちゃんだよ。何言ってんの。モザイクが嫌だって言うから、夢の世界を巡ってこんなのを見つけたから着てみたよ」
……夢の世界って、何でもありだな、オイ。
でも顔が見えないということは……。
誰かをモデルにするつもりはないんだろうし、俺が気を留めてる奴の記憶もないってことか。
まぁそれはいいが。
「アラタ。自分の世界にいた時の記憶を悪夢としてるなら、この世界でも悪夢を再現しようとしてるんだよね」
突然何を言ってる?
「嫌な事、いろいろさせられてたんだよね。こないだも、そして今見てた夢も、アラタには悪夢なんでしょ?」
夢の中だから、すべて俺の都合通り、俺の思う通りに事が運ぶもんだと思ってたんだがな。
悪夢を見てしまうのも、悪夢の中身を変えず、その時の感情を忘れ去りたくない、人間らしさを証明する感情をなくしたくないという抵抗なんじゃないだろうか、とまで思える。
けど、俺の夢の中に出てくるテンちゃんは、俺の思い通りに動いてくれないし、訳の分からない話をどんどん進めていく。
「じゃあなんで日中のアラタは、こんな悪夢の中のアラタになろうとしたの?」
「はい?」
思わず声が出た。
あんな思いは二度としたくないし、なろうとするつもりもない。
何を言ってんだこいつは。
「大声を出して断ればよかったじゃない。あんな人達、あちこちにいるはずもないし。何も対応しないで立ち去ればよかったじゃない。何で好き好んで、自分の立場悪くしちゃうかな」
「……言いたいこと、したいことを我慢し続ける方が悪夢だったんでな。それだけ。……その巻き添え食らわせて悪かったな」
「あたしは平気。あ、ライムちゃんも来てるよ。ライムちゃん、おいで。こっちだよ」
ライムも夢の中に入って来れるのか。
「あたしが誘導しなきゃ入れないんだけどね。出ていくことは自由にできるみたいだけど」
ライムは現実と同じ姿なのな。
「……ライムにも嫌な事言ってすまなかったな」
「あたしもライムも平気だよ。特にあたしは、新を支えるって決めたからね」
有り難い話だな、うん。
けどな。
「じゃああの翼のビンタはどういうことだよ」
「今言ったでしょ? 自分から憎まれ役になってどういうつもりなのよって」
「その割には血が出るようなビンタだったぞ? ちょっときつすぎないか?」
「あぁ、あれ? 当たり所が悪かっただけよ。アラタの頬にビタンってやるつもりだったけど、距離感がずれてシュッといっちゃった。テヘ」
いや、テヘじゃねぇだろ。
ひどい扱いするの、むしろお前だろ。
「まぁいいけどよ。……日中のあいつらは現実が見えてなかったようだったからな。残酷な現実もあるってことを教えてやりたくなっただけだよ」
「それで自分でイメージ悪くしてりゃ意味ないでしょうよ。ヨウミからも顰蹙買ってたわよ? ね、ライム」
あ、夢の中に入れるのは俺のばかりじゃないんだ。
「ま、ここの世界じゃ、したくないことを押し付けられたら拒否するし、俺が自発的にやることは全部俺が好き好んで前向きに受け止めるつもりでいるからな。心配してもらってうれしいが、そういうことだから」
「やれやれ。貧乏くじを自分で選んで引くこともあるのか。厄介なパートナーよねぇ、ライム」
ライムはぴょんぴょこ跳ねている。
テンちゃんの言うことに同意してる動きなんだろうか。
にしても、パートナーか。
「でもこれから、風当たり強くなるかもよ?」
「誰かの指示でこんなことをしろって言われたら耐えられなかったろうな。けど俺が好きでやったことだ。気にならんよ」
辛い目に遭った分鈍感になってるのか、耐久力が高まっているのか。
まともな神経でなくなってるのかもしれないな。
可哀想なんて思われても、俺のどこが可哀そうなんだ? って、逆にそう言う奴の神経を疑うかもしれん。
「ま、甘えたくなったら甘えてきていいからね」
「悪いが、どちらかというと年上が好みだ。学制服着てる奴からそんなこと言われても、遠慮する以外何も思うところはないな」
「じゃあ他の格好考えないとなー。でも参考になるの、ほとんどのないのよね」
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