62 / 493
三波新、放浪編
こだわりがない毎日のその先 その1
しおりを挟む
彷徨う行商から旅をする行商にジョブチェンジした。
別にステータスアップとか、運命が変わったとか、そういう話じゃない。
経営方針を転換しただけの話だ。
「荷車に感情持ってなくてつくづく助かったと思う」
「何よいきなり」
荷車を新しく購入することにした。
宿屋の布団ほどじゃないが、それでもふかふかの布団を敷くこともできるくらいに広い荷台。
万年床にしたら床板が腐りやすくなる。
換気もできる窓に天窓もついている。
もちろん開閉可能だし、カーテン? シャッター? それに似た物もついている。
ちょっとした貯蔵庫もついている。
もちろん収納した物が劣化することのない魔力効果付き。
「たくさん作り置きしても平気なのね」
「数多くは入れられないが、それでも負担は減るはずだ」
「ふーん……二人にはうれしい限りでしょうけど、あたし達にはあまり変わったところはないわね。見た目が新しくなったから新鮮な気分になれるけど。ね? ライム」
だが実際布団を使うことはほとんどないと思われる。
正直言うと、布団よりもテンちゃんのお腹を枕にして、翼を掛布団にすると眠りにつきやすい。
だから……。
「荷車の下から板をスライドさせるようにカスタマイズしてもらうからそれで我慢してくれ。岩のごつごつとか草の葉っぱで皮膚切ったりとか、そういうの考えると、地べたで寝てもらうのも流石に気にかかってたからな」
そんな体勢で寝るとしたら、俺達も外で眠ることになるからな。
寝るたびに寝間着が土で汚れるのは避けたい。
「まぁ気にしないけどね。でもそうなるだけでも楽と言えば楽かなー」
楽と言えば、履帯、すなわちキャタピラーもつけられる車輪にしてもらった。
車輪は左右に三つずつ。
しかも幅も太くなっており、荷車の重心も低くなってるため安定性がいい。
テンちゃんもライムも、決して便利な道具じゃない。
つまり荷車に関しては、ぬかるみや凸凹道にハマったので助けてくれなどと頼むつもりはない。
あくまでも自力で何とかできるように、という知恵だ。
このベルトを着け外しできるような仕組みにしてもらい、且つ俺でも引っ張り歩けるくらいに軽くしてもらえるように魔力をつけてもらった。
ちなみに屋根の上にも上がることはできるが、さすがにテンちゃんを乗せるのは無理だった。
「あたしも屋根の上で気持ちいい風を感じながら寝てみたかったぁ……」
「でもお前は飛べるよな?」
「ぶー」
ツバ飛ばすんじゃねぇ!
そんなこんなで、気分一新で出発!
「で……どこに向かうんだっけ?」
「サキワ村。ここから歩いて一週間くらいかかるかな」
距離じゃなくておおよその期間で位置を知らせて来たか。
「普通はどれくらい離れてるって言わないか?」
「言っても無駄でしょ? いまだに地図買おうとしないんだもん」
あー……。
それは必要だな。
この世界の住人になるって決めたようなもんだから。
今まではそれでもよかったかもしれないが、これからはこの世界の世話になる。
なら、この世界に関心を向けなきゃなぁ。
「お、おう。とりあえずサキワ村だな? 方向は? 東? 東方向に一週間と」
「でも奇妙なのよね。『ここでの冒険者達の仕事は終わらないから』だって。そこの出身の冒険者の人がそんなこと言ってた」
終わらない仕事ってのも変な話だ。
穴を掘っても進まないとか?
永遠に続くループめいた仕事?
まぁここでそんなことを考えても意味がない。
それに俺達の仕事は、その仕事じゃない。
その仕事に取り掛かる人達への補給だ。
「でも一週間歩き詰めじゃないんでしょ?」
何それ。
「そうよね。途中で魔物が湧いて出る所に出くわすことがあるかもしれないもんね」
あぁ、そうか。
サキワ村までの距離が、徒歩で一週間かかるのであって、一週間で村に行けって話じゃない。
そしてそこでの仕事は終わらないというのだから、どれだけ期間が空いても問題ないってことだ。
しかもその約束でその村に向かうという話でもない。
「となると、おにぎりの具になるものをこの町で仕入れてから出発してもいいわけだ」
「うん。保存がきく貯蔵庫もあるしね」
でも買い出しに行ってる間、テンちゃんとライムはどうしよう?
一緒に町中を歩くとなると……灰色の天馬は全国的に縁起が悪いと見なされてるから……。
石でも投げつけられるものなら、俺にも損害を受けることもある。
それに、魔物を引き連れて町中を歩く人達もいるが、はっきり言えばテンちゃんは大型だ。
ライムは大きめに見立てても中型。
だけどライムは荷車の中に入れることができるからまだ平気なんだよな。
今までも町の中に入ったことはあったが、それはあくまでも宿屋で休むため。
買い出しはいつもヨウミに任せてたからな。
となりゃ……。
「いつも通り、ヨウミに買い出し任せるか。俺達は町の入り口で待ってるよ」
「アラタ。あなたもヨウミについていったら?」
「え?」
まぁ普通の動物とは違ってどっかに逃げたり、興味の向くまま本能の向くままにどっかに行っちゃうことはないだろうが……。
「荷車はあたしとライムで見張ってるからさ。それに、この世界の住人になるってんなら、この世界の人達の生活ぶりを見て回るのも、アラタのこれからの生活に役立つことも出てくるんじゃない?」
まぁ……それもそうか。
テンちゃんとライムを同時にのして荷車を奪うような連中がいたら、それくらいの力があればこの町をすぐに乗っ取ることもできるだろうし、そんな輩はそうそう現れやしないだろう。
「じゃあお言葉に甘えるか。となりゃひょっとしたら生活用品の買い物も済ませる方がいいな。とりあえず町の入り口まで移動してからだな」
あれ?
となると、俺、この世界に来て初めて買い物にお出かけってことになるのか?
なんか……新鮮だな……。
別にステータスアップとか、運命が変わったとか、そういう話じゃない。
経営方針を転換しただけの話だ。
「荷車に感情持ってなくてつくづく助かったと思う」
「何よいきなり」
荷車を新しく購入することにした。
宿屋の布団ほどじゃないが、それでもふかふかの布団を敷くこともできるくらいに広い荷台。
万年床にしたら床板が腐りやすくなる。
換気もできる窓に天窓もついている。
もちろん開閉可能だし、カーテン? シャッター? それに似た物もついている。
ちょっとした貯蔵庫もついている。
もちろん収納した物が劣化することのない魔力効果付き。
「たくさん作り置きしても平気なのね」
「数多くは入れられないが、それでも負担は減るはずだ」
「ふーん……二人にはうれしい限りでしょうけど、あたし達にはあまり変わったところはないわね。見た目が新しくなったから新鮮な気分になれるけど。ね? ライム」
だが実際布団を使うことはほとんどないと思われる。
正直言うと、布団よりもテンちゃんのお腹を枕にして、翼を掛布団にすると眠りにつきやすい。
だから……。
「荷車の下から板をスライドさせるようにカスタマイズしてもらうからそれで我慢してくれ。岩のごつごつとか草の葉っぱで皮膚切ったりとか、そういうの考えると、地べたで寝てもらうのも流石に気にかかってたからな」
そんな体勢で寝るとしたら、俺達も外で眠ることになるからな。
寝るたびに寝間着が土で汚れるのは避けたい。
「まぁ気にしないけどね。でもそうなるだけでも楽と言えば楽かなー」
楽と言えば、履帯、すなわちキャタピラーもつけられる車輪にしてもらった。
車輪は左右に三つずつ。
しかも幅も太くなっており、荷車の重心も低くなってるため安定性がいい。
テンちゃんもライムも、決して便利な道具じゃない。
つまり荷車に関しては、ぬかるみや凸凹道にハマったので助けてくれなどと頼むつもりはない。
あくまでも自力で何とかできるように、という知恵だ。
このベルトを着け外しできるような仕組みにしてもらい、且つ俺でも引っ張り歩けるくらいに軽くしてもらえるように魔力をつけてもらった。
ちなみに屋根の上にも上がることはできるが、さすがにテンちゃんを乗せるのは無理だった。
「あたしも屋根の上で気持ちいい風を感じながら寝てみたかったぁ……」
「でもお前は飛べるよな?」
「ぶー」
ツバ飛ばすんじゃねぇ!
そんなこんなで、気分一新で出発!
「で……どこに向かうんだっけ?」
「サキワ村。ここから歩いて一週間くらいかかるかな」
距離じゃなくておおよその期間で位置を知らせて来たか。
「普通はどれくらい離れてるって言わないか?」
「言っても無駄でしょ? いまだに地図買おうとしないんだもん」
あー……。
それは必要だな。
この世界の住人になるって決めたようなもんだから。
今まではそれでもよかったかもしれないが、これからはこの世界の世話になる。
なら、この世界に関心を向けなきゃなぁ。
「お、おう。とりあえずサキワ村だな? 方向は? 東? 東方向に一週間と」
「でも奇妙なのよね。『ここでの冒険者達の仕事は終わらないから』だって。そこの出身の冒険者の人がそんなこと言ってた」
終わらない仕事ってのも変な話だ。
穴を掘っても進まないとか?
永遠に続くループめいた仕事?
まぁここでそんなことを考えても意味がない。
それに俺達の仕事は、その仕事じゃない。
その仕事に取り掛かる人達への補給だ。
「でも一週間歩き詰めじゃないんでしょ?」
何それ。
「そうよね。途中で魔物が湧いて出る所に出くわすことがあるかもしれないもんね」
あぁ、そうか。
サキワ村までの距離が、徒歩で一週間かかるのであって、一週間で村に行けって話じゃない。
そしてそこでの仕事は終わらないというのだから、どれだけ期間が空いても問題ないってことだ。
しかもその約束でその村に向かうという話でもない。
「となると、おにぎりの具になるものをこの町で仕入れてから出発してもいいわけだ」
「うん。保存がきく貯蔵庫もあるしね」
でも買い出しに行ってる間、テンちゃんとライムはどうしよう?
一緒に町中を歩くとなると……灰色の天馬は全国的に縁起が悪いと見なされてるから……。
石でも投げつけられるものなら、俺にも損害を受けることもある。
それに、魔物を引き連れて町中を歩く人達もいるが、はっきり言えばテンちゃんは大型だ。
ライムは大きめに見立てても中型。
だけどライムは荷車の中に入れることができるからまだ平気なんだよな。
今までも町の中に入ったことはあったが、それはあくまでも宿屋で休むため。
買い出しはいつもヨウミに任せてたからな。
となりゃ……。
「いつも通り、ヨウミに買い出し任せるか。俺達は町の入り口で待ってるよ」
「アラタ。あなたもヨウミについていったら?」
「え?」
まぁ普通の動物とは違ってどっかに逃げたり、興味の向くまま本能の向くままにどっかに行っちゃうことはないだろうが……。
「荷車はあたしとライムで見張ってるからさ。それに、この世界の住人になるってんなら、この世界の人達の生活ぶりを見て回るのも、アラタのこれからの生活に役立つことも出てくるんじゃない?」
まぁ……それもそうか。
テンちゃんとライムを同時にのして荷車を奪うような連中がいたら、それくらいの力があればこの町をすぐに乗っ取ることもできるだろうし、そんな輩はそうそう現れやしないだろう。
「じゃあお言葉に甘えるか。となりゃひょっとしたら生活用品の買い物も済ませる方がいいな。とりあえず町の入り口まで移動してからだな」
あれ?
となると、俺、この世界に来て初めて買い物にお出かけってことになるのか?
なんか……新鮮だな……。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる