勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新、放浪編

こだわりがない毎日のその先 その1

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 彷徨う行商から旅をする行商にジョブチェンジした。
 別にステータスアップとか、運命が変わったとか、そういう話じゃない。
 経営方針を転換しただけの話だ。

「荷車に感情持ってなくてつくづく助かったと思う」
「何よいきなり」

 荷車を新しく購入することにした。
 宿屋の布団ほどじゃないが、それでもふかふかの布団を敷くこともできるくらいに広い荷台。
 万年床にしたら床板が腐りやすくなる。
 換気もできる窓に天窓もついている。
 もちろん開閉可能だし、カーテン? シャッター? それに似た物もついている。
 ちょっとした貯蔵庫もついている。
 もちろん収納した物が劣化することのない魔力効果付き。

「たくさん作り置きしても平気なのね」
「数多くは入れられないが、それでも負担は減るはずだ」
「ふーん……二人にはうれしい限りでしょうけど、あたし達にはあまり変わったところはないわね。見た目が新しくなったから新鮮な気分になれるけど。ね? ライム」

 だが実際布団を使うことはほとんどないと思われる。
 正直言うと、布団よりもテンちゃんのお腹を枕にして、翼を掛布団にすると眠りにつきやすい。
 だから……。

「荷車の下から板をスライドさせるようにカスタマイズしてもらうからそれで我慢してくれ。岩のごつごつとか草の葉っぱで皮膚切ったりとか、そういうの考えると、地べたで寝てもらうのも流石に気にかかってたからな」

 そんな体勢で寝るとしたら、俺達も外で眠ることになるからな。
 寝るたびに寝間着が土で汚れるのは避けたい。

「まぁ気にしないけどね。でもそうなるだけでも楽と言えば楽かなー」

 楽と言えば、履帯、すなわちキャタピラーもつけられる車輪にしてもらった。
 車輪は左右に三つずつ。
 しかも幅も太くなっており、荷車の重心も低くなってるため安定性がいい。
 テンちゃんもライムも、決して便利な道具じゃない。
 つまり荷車に関しては、ぬかるみや凸凹道にハマったので助けてくれなどと頼むつもりはない。
 あくまでも自力で何とかできるように、という知恵だ。
 このベルトを着け外しできるような仕組みにしてもらい、且つ俺でも引っ張り歩けるくらいに軽くしてもらえるように魔力をつけてもらった。
 ちなみに屋根の上にも上がることはできるが、さすがにテンちゃんを乗せるのは無理だった。

「あたしも屋根の上で気持ちいい風を感じながら寝てみたかったぁ……」
「でもお前は飛べるよな?」
「ぶー」

 ツバ飛ばすんじゃねぇ!
 そんなこんなで、気分一新で出発!

「で……どこに向かうんだっけ?」
「サキワ村。ここから歩いて一週間くらいかかるかな」

 距離じゃなくておおよその期間で位置を知らせて来たか。

「普通はどれくらい離れてるって言わないか?」
「言っても無駄でしょ? いまだに地図買おうとしないんだもん」

 あー……。
 それは必要だな。
 この世界の住人になるって決めたようなもんだから。
 今まではそれでもよかったかもしれないが、これからはこの世界の世話になる。
 なら、この世界に関心を向けなきゃなぁ。

「お、おう。とりあえずサキワ村だな? 方向は? 東? 東方向に一週間と」
「でも奇妙なのよね。『ここでの冒険者達の仕事は終わらないから』だって。そこの出身の冒険者の人がそんなこと言ってた」

 終わらない仕事ってのも変な話だ。
 穴を掘っても進まないとか?
 永遠に続くループめいた仕事?
 まぁここでそんなことを考えても意味がない。
 それに俺達の仕事は、その仕事じゃない。
 その仕事に取り掛かる人達への補給だ。

「でも一週間歩き詰めじゃないんでしょ?」

 何それ。

「そうよね。途中で魔物が湧いて出る所に出くわすことがあるかもしれないもんね」

 あぁ、そうか。
 サキワ村までの距離が、徒歩で一週間かかるのであって、一週間で村に行けって話じゃない。
 そしてそこでの仕事は終わらないというのだから、どれだけ期間が空いても問題ないってことだ。
 しかもその約束でその村に向かうという話でもない。

「となると、おにぎりの具になるものをこの町で仕入れてから出発してもいいわけだ」
「うん。保存がきく貯蔵庫もあるしね」

 でも買い出しに行ってる間、テンちゃんとライムはどうしよう?
 一緒に町中を歩くとなると……灰色の天馬は全国的に縁起が悪いと見なされてるから……。
 石でも投げつけられるものなら、俺にも損害を受けることもある。
 それに、魔物を引き連れて町中を歩く人達もいるが、はっきり言えばテンちゃんは大型だ。
 ライムは大きめに見立てても中型。
 だけどライムは荷車の中に入れることができるからまだ平気なんだよな。
 今までも町の中に入ったことはあったが、それはあくまでも宿屋で休むため。
 買い出しはいつもヨウミに任せてたからな。
 となりゃ……。

「いつも通り、ヨウミに買い出し任せるか。俺達は町の入り口で待ってるよ」
「アラタ。あなたもヨウミについていったら?」
「え?」

 まぁ普通の動物とは違ってどっかに逃げたり、興味の向くまま本能の向くままにどっかに行っちゃうことはないだろうが……。

「荷車はあたしとライムで見張ってるからさ。それに、この世界の住人になるってんなら、この世界の人達の生活ぶりを見て回るのも、アラタのこれからの生活に役立つことも出てくるんじゃない?」

 まぁ……それもそうか。
 テンちゃんとライムを同時にのして荷車を奪うような連中がいたら、それくらいの力があればこの町をすぐに乗っ取ることもできるだろうし、そんな輩はそうそう現れやしないだろう。

「じゃあお言葉に甘えるか。となりゃひょっとしたら生活用品の買い物も済ませる方がいいな。とりあえず町の入り口まで移動してからだな」

 あれ?
 となると、俺、この世界に来て初めて買い物にお出かけってことになるのか?
 なんか……新鮮だな……。
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