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三波新、放浪編
こだわりがない毎日のその先 その9
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実はこの村に来て、何か違和感を感じたんだ。
まず、この村に入る道は直進になっていて、おそらくこの村を囲っている山脈の麓まで続き、行き止まりになってるんだと思う。
村の入り口に立ってその道路の左側に、石造りの丈夫なでかい建物。その反対には宿屋。
石造りの建物の後ろと左側、つまり村の中の方向に、田んぼが広がっている。さらにその奥、つまり村の中の方向には果樹園。さらにもっと奥には何かの動物が放牧されてる。
まぁそれはごく普通の風景なんだが、問題はこの道路の右側。
道路を境にして対称的に田んぼ、果樹園、放牧地があるのだが、その作物の実り具合の気配が左右で違いが明らかに分かる。
宿屋側の方の稲の実り具合は不規則だ。
だがイメージとしては、自由で伸び伸びとしている感じ。
石造りの建物の方の稲は、きちんと整えられて丹精に育てられている稲。
今まで訪ね歩いてきた村や町の中にある田んぼの稲よりはかなり発育がいい。
そしてその違いは、その宿屋で頼んだ晩飯の時に、マッキーが引き起こした騒ぎで確信した。
俺は宿の部屋は使用するつもりはないが、飯は流石にな。
で、モーナー、四人の少年少女冒険者、ヨウミとマッキー、そして俺で一つのテーブルを囲んだ。
「……ねぇ、アラタ、このご飯、美味しくない」
マッキーが普通の声でそう言い切ったもんだから、宿の親父が怒りだした。
「だったら食うな!」
まぁ当然だわな。
これはマッキーが悪い。
が、さらに追撃。
「だって、アラタの作るおにぎりの方が美味しいんだもん。具のない奴だって、いくらでも食べられるよ? あ、野菜とかお肉とかは普通に食べられるけど」
ここの晩飯の料理に「美味しい」とは言わなかった。
いくら料金払ったとは言え、どんなことを言っても許されるわけじゃないだろうに。
「あのさ、マッキー」
「何? アラタ」
「一々そんなこと言わなくてもいいだろうに。作ってもらってるんだぞ? いいか? 作ってもらってるんだぞ? しかもこっちが頼んで。立場とか考えろよ、お前は」
人間社会、いや、エルフ社会の常識、良識を弁えてないからだろう。
その躾をしてなかった俺が悪い……のかなぁ。
「だって……なんか、違うもん」
「いいから黙れ」
「なぁ、ダークエルフのお嬢さんよぉ。一体どういうつもりなんだ? そりゃここは宿屋がメインだし、酒場はついでにやってるだけだが、作る料理はそれなりに気をつけながら作ってるんだぜ? 聞き捨てならねぇな」
「じゃあアラタのおにぎりと食べ比べてみてくれ。絶対に違うから」
こっちに火の粉を飛ばすんじゃねえぇ!
つか、俺にだって分からねぇよ!
「……そっちの方が話が早ぇわな。買うから一個くんねぇか?」
……俺は、この料理に何の文句もないんだからな?
ないんだからなっ!
そういうことで、荷車から人数分のおにぎり二個セットを持ってきた。
そして試食。
……試食でいいよな? うん。
「ほら、違うでしょ? アラタのおにぎりの方が美味しいじゃん!」
「……いや、あんまり変わんない。つか、ここの料理の方が出来立ての分美味しいかな」
ヨウミは反論。
出来立ては確かに美味しい。
「変わんねぇじゃねぇか。作った本人はどうよ」
「……ヨウミと同意見」
親父に促された俺の素直な感想だ。
本人が、自作の方が劣ってると思っちゃったんだからしょうがない。
「宿屋の親父さんの方が美味しいな」
「うん。僕もそう思う」
冒険者四人も参加。
だが……。
「味はね、親父さんの方がいいのよ。もちろん料理も美味しいんだけど……。なんか……アラタさんのおにぎりの方が……」
「味じゃないよね。何だろうね」
シームとデイリーは、上手く説明ができず困惑している。
「飯は美味しいよぉ? けどなぁ。このおにぎり、ここ向きじゃねぇんだなぁ」
いきなりこの大男は何を言ってるんだ?
ここ向き?
まぁそりゃ、冒険者達が仕事をしている最中に食うための物だからな。
「親父さん、その農場で採れた米を炊いたご飯、なんだよな?」
「あぁ、そうだ」
「それは、こっち側の田んぼの……」
「いや、向こうの田んぼから採れた米だ。一応ここで出す料理も商売だからな。商売用の米が向こう側。こっち側は俺達、この村の住民の食料用だ。だいたい人様に食わせる米だぞ? ぞんざいに扱い育てた稲から採れる米を出せるわけがねぇだろう。精魂込めて育てた、サキワ農場で採れた米がまずいわけがねぇ!」
その郷土愛は素晴らしいと思う、うん。
それは置いといてだな。
いろいろ思い返したところで気が付いた。
今まで作ったおにぎりは、田んぼの稲から採れた米で作られた物じゃない。
すべて、そこら辺に生い茂っているススキから採れた米で作られた物だ。
マッキー達が感じた俺のおにぎりとここのご飯の違いの理由はそこにある。
そこで、この村の農場を見て気付いた違和感がそれと繋がった。
※
荷車の番もする、と言ってくれたマッキーの気持ちは有り難い。
だが俺に必要な情報収集も兼ねるとなると、合流してから日が浅い彼女の仕事には、おそらく俺は不満を感じるだろうし、何より少しでもヨウミと交流する時間も必要だろう。
晩飯の時間は、その論争はうやむやのまま、まぁ美味しいという結論でそれなりに悪くない時間を過ごした。
親父さんの機嫌を一時的でも損ねたのは申し訳なかったが。
駐車場とは呼べない、宿屋の隣の空き地。
そこに野ざらしで停めている荷車。
そこからぼんやりと眺める夜空は満天の星。
いつかこんな空を見たことがあったような気がする。
今までこんな風に眺めることができなかったのは、やっぱり背の高いススキに邪魔されてたからか。
宿屋の部屋の灯りも消えた。
みんな寝静まった頃を見計らって、夜の散歩としゃれこんだ。
が。
「やぁっぱり泥棒にきたのかぁ?」
モーナーが俺のそばに近づいてきた。
「……宿屋に背を向けて、何を盗めるってんだ」
本気なのか冗談なのか、よく分からない表情だ。
まぁ真面目な性格であることは間違いない。
しかも、宿屋の親父さんからはノロマとは呼ばれていたが、泥棒と早合点して俺をふんじばるようなせっかちでも頑固でもなさそうだ。
「それもそおかあ。あ、でも、米とか野菜とかはあちこちにあるぞお?」
「人の物を盗むほど生活に苦しくないし、仕事もある。……村の右と左の違いを探しにな」
「違いぃ?」
「あぁ。建物の種類は違う。それと民家の位置は違う。けどそうじゃなく、こう……。まあ、散歩がてらにな」
「夜は危ないぞお? 日中はダメだったのかぁ?」
「まさか顔見知りに会うとは思わなかったからな。そんな昔の知り合いってんじゃないが、連れのお喋りのせいで時間が無くなった。それに……結局優劣をつける羽目になりかねないからさ。親父さんに悪いだろ」
「ふーん。んじゃ俺が案内してやろおかあ? 夜は魔物達が危ない時間だからなあ」
それは確かに心強い。
だが魔物か……。
村の中に魔物が出現なんて、危なっかしくてしょうがない。
それでも行商の人達は来るし、品物も宿屋の親父だって誇りにしている物だろ?
魔物が襲ってきそうなもんじゃないか?
「どこから現れるんだ? 魔物が出そうな場所じゃないよな……」
そこまで言って気が付いた。
魔物の気配がどこにもない。
もちろん巨人族の血を引くこいつからも、完全に人間の種族に染まってるような感じがしなくもない。
「うん。地下にあるからなあ」
「地下?」
「結構歩くぞお? 疲れたら担いでやるから遠慮なく言えよお?」
それは……うん、有り難い。
まず、この村に入る道は直進になっていて、おそらくこの村を囲っている山脈の麓まで続き、行き止まりになってるんだと思う。
村の入り口に立ってその道路の左側に、石造りの丈夫なでかい建物。その反対には宿屋。
石造りの建物の後ろと左側、つまり村の中の方向に、田んぼが広がっている。さらにその奥、つまり村の中の方向には果樹園。さらにもっと奥には何かの動物が放牧されてる。
まぁそれはごく普通の風景なんだが、問題はこの道路の右側。
道路を境にして対称的に田んぼ、果樹園、放牧地があるのだが、その作物の実り具合の気配が左右で違いが明らかに分かる。
宿屋側の方の稲の実り具合は不規則だ。
だがイメージとしては、自由で伸び伸びとしている感じ。
石造りの建物の方の稲は、きちんと整えられて丹精に育てられている稲。
今まで訪ね歩いてきた村や町の中にある田んぼの稲よりはかなり発育がいい。
そしてその違いは、その宿屋で頼んだ晩飯の時に、マッキーが引き起こした騒ぎで確信した。
俺は宿の部屋は使用するつもりはないが、飯は流石にな。
で、モーナー、四人の少年少女冒険者、ヨウミとマッキー、そして俺で一つのテーブルを囲んだ。
「……ねぇ、アラタ、このご飯、美味しくない」
マッキーが普通の声でそう言い切ったもんだから、宿の親父が怒りだした。
「だったら食うな!」
まぁ当然だわな。
これはマッキーが悪い。
が、さらに追撃。
「だって、アラタの作るおにぎりの方が美味しいんだもん。具のない奴だって、いくらでも食べられるよ? あ、野菜とかお肉とかは普通に食べられるけど」
ここの晩飯の料理に「美味しい」とは言わなかった。
いくら料金払ったとは言え、どんなことを言っても許されるわけじゃないだろうに。
「あのさ、マッキー」
「何? アラタ」
「一々そんなこと言わなくてもいいだろうに。作ってもらってるんだぞ? いいか? 作ってもらってるんだぞ? しかもこっちが頼んで。立場とか考えろよ、お前は」
人間社会、いや、エルフ社会の常識、良識を弁えてないからだろう。
その躾をしてなかった俺が悪い……のかなぁ。
「だって……なんか、違うもん」
「いいから黙れ」
「なぁ、ダークエルフのお嬢さんよぉ。一体どういうつもりなんだ? そりゃここは宿屋がメインだし、酒場はついでにやってるだけだが、作る料理はそれなりに気をつけながら作ってるんだぜ? 聞き捨てならねぇな」
「じゃあアラタのおにぎりと食べ比べてみてくれ。絶対に違うから」
こっちに火の粉を飛ばすんじゃねえぇ!
つか、俺にだって分からねぇよ!
「……そっちの方が話が早ぇわな。買うから一個くんねぇか?」
……俺は、この料理に何の文句もないんだからな?
ないんだからなっ!
そういうことで、荷車から人数分のおにぎり二個セットを持ってきた。
そして試食。
……試食でいいよな? うん。
「ほら、違うでしょ? アラタのおにぎりの方が美味しいじゃん!」
「……いや、あんまり変わんない。つか、ここの料理の方が出来立ての分美味しいかな」
ヨウミは反論。
出来立ては確かに美味しい。
「変わんねぇじゃねぇか。作った本人はどうよ」
「……ヨウミと同意見」
親父に促された俺の素直な感想だ。
本人が、自作の方が劣ってると思っちゃったんだからしょうがない。
「宿屋の親父さんの方が美味しいな」
「うん。僕もそう思う」
冒険者四人も参加。
だが……。
「味はね、親父さんの方がいいのよ。もちろん料理も美味しいんだけど……。なんか……アラタさんのおにぎりの方が……」
「味じゃないよね。何だろうね」
シームとデイリーは、上手く説明ができず困惑している。
「飯は美味しいよぉ? けどなぁ。このおにぎり、ここ向きじゃねぇんだなぁ」
いきなりこの大男は何を言ってるんだ?
ここ向き?
まぁそりゃ、冒険者達が仕事をしている最中に食うための物だからな。
「親父さん、その農場で採れた米を炊いたご飯、なんだよな?」
「あぁ、そうだ」
「それは、こっち側の田んぼの……」
「いや、向こうの田んぼから採れた米だ。一応ここで出す料理も商売だからな。商売用の米が向こう側。こっち側は俺達、この村の住民の食料用だ。だいたい人様に食わせる米だぞ? ぞんざいに扱い育てた稲から採れる米を出せるわけがねぇだろう。精魂込めて育てた、サキワ農場で採れた米がまずいわけがねぇ!」
その郷土愛は素晴らしいと思う、うん。
それは置いといてだな。
いろいろ思い返したところで気が付いた。
今まで作ったおにぎりは、田んぼの稲から採れた米で作られた物じゃない。
すべて、そこら辺に生い茂っているススキから採れた米で作られた物だ。
マッキー達が感じた俺のおにぎりとここのご飯の違いの理由はそこにある。
そこで、この村の農場を見て気付いた違和感がそれと繋がった。
※
荷車の番もする、と言ってくれたマッキーの気持ちは有り難い。
だが俺に必要な情報収集も兼ねるとなると、合流してから日が浅い彼女の仕事には、おそらく俺は不満を感じるだろうし、何より少しでもヨウミと交流する時間も必要だろう。
晩飯の時間は、その論争はうやむやのまま、まぁ美味しいという結論でそれなりに悪くない時間を過ごした。
親父さんの機嫌を一時的でも損ねたのは申し訳なかったが。
駐車場とは呼べない、宿屋の隣の空き地。
そこに野ざらしで停めている荷車。
そこからぼんやりと眺める夜空は満天の星。
いつかこんな空を見たことがあったような気がする。
今までこんな風に眺めることができなかったのは、やっぱり背の高いススキに邪魔されてたからか。
宿屋の部屋の灯りも消えた。
みんな寝静まった頃を見計らって、夜の散歩としゃれこんだ。
が。
「やぁっぱり泥棒にきたのかぁ?」
モーナーが俺のそばに近づいてきた。
「……宿屋に背を向けて、何を盗めるってんだ」
本気なのか冗談なのか、よく分からない表情だ。
まぁ真面目な性格であることは間違いない。
しかも、宿屋の親父さんからはノロマとは呼ばれていたが、泥棒と早合点して俺をふんじばるようなせっかちでも頑固でもなさそうだ。
「それもそおかあ。あ、でも、米とか野菜とかはあちこちにあるぞお?」
「人の物を盗むほど生活に苦しくないし、仕事もある。……村の右と左の違いを探しにな」
「違いぃ?」
「あぁ。建物の種類は違う。それと民家の位置は違う。けどそうじゃなく、こう……。まあ、散歩がてらにな」
「夜は危ないぞお? 日中はダメだったのかぁ?」
「まさか顔見知りに会うとは思わなかったからな。そんな昔の知り合いってんじゃないが、連れのお喋りのせいで時間が無くなった。それに……結局優劣をつける羽目になりかねないからさ。親父さんに悪いだろ」
「ふーん。んじゃ俺が案内してやろおかあ? 夜は魔物達が危ない時間だからなあ」
それは確かに心強い。
だが魔物か……。
村の中に魔物が出現なんて、危なっかしくてしょうがない。
それでも行商の人達は来るし、品物も宿屋の親父だって誇りにしている物だろ?
魔物が襲ってきそうなもんじゃないか?
「どこから現れるんだ? 魔物が出そうな場所じゃないよな……」
そこまで言って気が付いた。
魔物の気配がどこにもない。
もちろん巨人族の血を引くこいつからも、完全に人間の種族に染まってるような感じがしなくもない。
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