勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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三波新、定住編

ある日森の中卵に出会った その6

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「うわあぁぁ!」

 俺の絶叫が、そのトンネル全てに響き渡ったに違いない。
 ミアーノの顔つなぎがなかったら、間違いなく小便は漏らしていただろう。
 たとえライムが傍につきっきりでいたとしても。
 直径は約一メートルくらいあるんじゃないか?
 目も鼻も見当たらない。
 あるのは口のみ。

「こいつがンーゴだ。俺の相棒な」
「オマエ、オニギリ、ンマカッタ」
「あ……あぁ……。どうも……って、おにぎり?」
「ライム、オニギリ、クワセタ。イイヨネ?」
「お、おぉ、そうか……」
「ライムノ、オニギリ、オワリ」

 自分のを食わせたらしい。
 そのおにぎりの味は、この巨体を満足させたというわけだ。

「俺の分はあるだろ? ライムの分にしてもいいぞ」
「オレ、モット、クイタイ」

 うん?
 まぁ、量は間違いなく物足りないだろうな。
 けど、おにぎりの味で満足できる普段の食生活って……。
 いや、今はそれどころじゃない。

「俺の住んでる村、店に行けばたくさん作れるが……」
「イキタイ!」

 待て待て待て待て。
 このまま連れてったらいろいろ問題が起きるだろうが!
 それよりこの卵を巣に戻したいんだがなっ。

「この卵を戻す手伝いをしてくれるって聞いたんだが……。あ、俺はミナミ・アラタだ。アラタって呼んでくれ。この卵は」
「ソレ、キタイデキナイ。オトリノタマゴ。デモ、ズット、オニギリクエルナラ、アンナイスル」

 無理だろ。
 こんなでかい体した奴が満腹になるまで食うおにぎりの数だぞ? 想像したくない。

「勘弁してくれ。一日中おにぎりを作って生活してるわけじゃない。ましてやそれを売り物にして生活してるんだぞ? 二百個食ってもまだ物足りないだろ」
「ロッコデイイ」

 ロッコ?
 何だそれは。
 そんな具の名前聞いたことがないぞ?

「何だ? ロッコって」
「六個。おにぎりの数だろ。俺も食わせてもらったが、美味しかったぜ? 俺は四個で十分だな」
「あー……待て待て。何の話だ?」
「人間って確か一日三食だべ? それに合わせて、このおにぎりだら一食につき四個。ンーゴは六個欲しいっつってんだよ。あぁ、今回の道案内ばかりじゃねぇ。そぇで、これから困ったことがあったら力になるっつー話だ。どーよ?」

 取引としちゃ、俺にかなり有利な話だ。
 が、安請け合いしちゃまずい。
 おにぎり希望者は、絶対なのはテンちゃん、モーナー。
 できれば希望すると言ってる者は、ライム、マッキー、クリマー。
 これに、絶対希望がミアーノとンーゴで、個数が十個確定。
 おにぎりだけが給料ってのは勘弁なのがヨウミ。
 そしておにぎり作りがほぼできるようになったのはヨウミ。
 休み時間を維持しても、商品の分とこいつらの分を作る数は……まず問題ないな。
 保存が利く貯蔵庫もある。

「……加えてもう一つ条件つけていいか? それでその要望を飲もう」
「条件?」
「あぁ。底なし沼で心配してるテンちゃんとマッキー二人と合流して、巣の方に行きたい。灰色の天馬とダークエルフだ」
「ぶっ! 珍しい種族の名前聞いたぞおい。おまけに噴き出した俺もだし、ンーゴもだわ。何なんだあ? この集まりはよぉ。まぁいいや。俺が連れてくるか。ンーゴ、おめぇはライムンとアラタン体の中に入れて地上に出りゃいいんじゃね? 真上に向かって突き進みゃすぐ出られんだろ」
「オウ、マカセロ」
「体の中に入れる?」
「心配すんなや。居心地、割といいぞお?」

 危険が目の前に迫ったと思ったら、助けてもらったその恩人が力になるって、つくづく幸運に恵まれてる。
 傍にライムがいてくれたのがでかかった。
 が、これは幸運じゃない。
 マッキーの機転だ。
 もっとも、そんな連中が仲間になりたがり、なってくれたのも幸運かも分からんが。

 ※※※※※ ※※※※※

 底なし沼にハマった時は、ここで俺の人生は終わったと思った。
 まさかまだ空気を吸えるとは思わなかった。
 とんでもない詐欺にあったがな。

「ライムは……平気っぽいな」
「ヘイキ、ヘイキ」

 ミアーノは、ンーゴの体内は居心地がいい、と言っていた。
 どういうことか分からなかったが、腹の下に穴があり、その中に獲物を収納できるようにしてるんだそうだ。
 地中で餌を見つけたら、その場で食べることはしない。
 食べてる最中に、別の魔物などのエサになることもあるんだと。
 弱肉強食の世界だな。
 だから安全地帯に獲物を運び込む必要がある。
 ミアーノ曰く、そこの居心地がいい、とのこと。
 どこがだよ。
 その中、ぬめぬめして、そんな粘膜っぽいのが体に纏わりついて気持ち悪いったらありゃしねぇ。
 地上に向かって最短距離を進んでくれたようだが、それでもそこから出たくて出たくて、地上に出るまでの時間の長いこと長いこと。
 まぁ命の恩人ってことには違いないけどさ。
 でもそれとこれとは話は別だよな?

「ネバネバ、トッタヨ」
「おう……ありがとな……。って……地上で見たこいつ……ほんとにミミズだな」
「ミミズ? ナンダソレ」
「えっと、土の中にいる、目のない両生類、だったかな」
「ヨク、ワカラン」

 あっそ。
 まぁずっと地中にいて、そんな知識がある方が珍しい。
 つーか、よく日本語理解できるな。

「オニギリノヤクソク、ワスレルナ」
「用意はできるさ。心配すんな。けど受け取り方、つーか、引き取り方? それがちょっと厄介かな?」
「ナンデダ?」
「ンーゴの姿を見慣れないうちは、みんな怖がるんじゃないかと思ってな。いい方法が……」
「アラターーっ! いたーーーっ!」
「ライムもーっ! 無事でよかったー! ……って……何、そいつ!」

 ようやくテンちゃんとマッキーの二人と合流。
 で、無事だと分かったら安心する。
 安心したら目に入るのは間違いなく……。
 まぁ分かってたけどさ。

「一応説明はしといたけどさ、やっぱ実物見りゃ、また別だろうなぁ」
「多分……ワーム種、だと思うけど」
「ワーム? ナンダソレハ」
「喋った!」
「会話できるの?! って言うか、アラタって珍しい種族とよく友達になれるねっ!」

 知らねぇよ。
 大体仲間に入りたがる奴ら、選り好みしたことねぇぞ?
 寄ってくる連中がそういう奴らばかりってこったよ。
 お前ら含めて。

「人の事言えねぇだろうよ。まぁ俺もなぁ、三度の飯をおにぎり四個ずつ、ンーゴは六個ずつってことで仲間になるんだわ。よろしくなぁ?」
「こっちはこっちでモグラの獣人族。そっちはワーム。どっちもレアよね」
「モグラあ? 初めて聞くな。つか、家族から独立してからぁ、そゆことは特に知ろうと思わなかったけどなぁ」

 モグラ……。
 土竜……。
 漢字で書くと、これも竜だが……。
 間違いなく竜じゃなく、動物。
 その亜人ってことだよな。

「そ、それより卵は」
「無事って聞いたけど」
「ライム、持って……るな、よしよし。傷もないな」
「ライム、ダイジニシテタ」
「うんうん。ライム、卵もアラタも、よく守ってくれたね」
「アラタ? 今回は、特にライムにご褒美上げなきゃダメだぞ?」

 と言われてもな。
 意外と欲はないんだよな、こいつ。

「いくら俺らの領域内っつっても、俺らを食おうとする魔物だっているんだで? とっとと用事済ませて退散してぇんだけどよ」
「ムダカモシレン。ケド、タマゴノス、コッチ」

 こいつ、確か卵食おうとしたってミアーノ言ってなかったっけ?
 卵食うことに固執してるのか?
 だとしたら、卵くれって言うよな?
 だがそんなことを言わないで、おにぎり六個を要求してきた。
 産んだ卵の一個を捨て石にするような話は何度も聞いた。
 親が巣から離れている隙に、卵を巣に戻す。
 そんなやり方を選んででも、親元に返してやりたいんだが……。
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