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紅丸編
行商人とのコンタクト その6
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次の休暇をとってるのはローテーションの最後、ミアーノとンーゴ、ライムだ。
この三人は、紅丸関連の店には特にこだわらずにいた。
もっともミアーノとンーゴは、休みをもらったからと言って何かするわけでもないようで、元々店で働いてもらう約束はしてなかった。
フィールドの警備と保安が二人の主な仕事。
けど、冒険者がやってこないんじゃ特にすることもない。
ライムはというと、普段から気になってた米研ぎの水場。
水路の底の汚れが気になるというんで、好きにさせてみた。
普段からきれいな川の水、そして水路に流れる水なんだが、米研ぎの場所は更にきれいになってた。
だからこの日の店の方では、誰も休まずに出勤というわけだ。
ということは、だ。
「マッキーちゃあん、こないだ休んだみたいだったけど、風邪とか? 大丈夫?」
「クリマーさん、何かあったの? 心配な事とかあったら、俺達が相談に乗るよ?」
「ヨウミちゃん、アラタさんに文句があるなら、代わりに言ってあげるからねっ」
なんだよこいつら。
ダンジョンに潜るためにおにぎりを買いに来たのかと思ったら、ヨウミ達に会いに来たってのか?
商売の邪魔だし、なんでお前ら、こいつらの代わりに俺に文句言うってんだ!
「文句ならあるぞ。ここはおにぎりを売る店で、お前らが油を売る店じゃねぇ!」
「横暴だー」
「独占するなー」
何だこのシュプレヒコール。
つーかお前ら……。
「お前ら……。仕事しなくていいのか? 収入ゼロの日でいいのか?」
「うっ……。ヨウミちゃん、ほんの少しのお別れだからね? 待っててね?」
「お、俺、ダンジョンから帰ってきたらマッキーちゃんとデートするんだっ」
「クリマーさん、あなたが気に入ってくれるアイテムをきっと手に入れて帰ってくるから、待っててくださいっ!」
次々とフラグを立ててダンジョンに向かって行くなぁ。
二十人くらいのそんな冒険者達がおにぎりを購入した数は、なんとゼロときたもんだ。
帰ってきたら、次に店に来たら一セットの値段を五セット分の値段で買いたくなる呪いをかけてやる。
「あ、あの、おにぎりのセット三つくださいっ」
「こっちには四つお願いしますっ!」
それに比べて、鍛錬目的に来る新人の可愛いこと。
しっかりと鍛錬積むんだぞ。
※※※※※ ※※※※※
「繁盛しているようで何よりだ。魔球は使ってくれているかな? アラタ」
「あ、皇太子様。いらっしゃい」
「うん、ヨウミ、それとみんなも元気そうで何より」
もうなにも驚かねぇし突っ込まねぇ。
随分前から気付いていたが、一々口に出すほど気にしなきゃならないもんでもない。
それにしても、魔球ってなんだよ。
消えるボールか何かの球種か?
「どんくらいの効果があるかは知らんが、バカスカ使うほどの切羽詰まった場面に好き好んで首を突っ込むほどひまじゃねぇよ」
「それもそうか。あははは」
あははじゃねぇよ、まったく……。
「それはそれとして、持っているんだろう? 常に持ち歩いていなければ、使ってもらいたいときに使えないのだからな」
「そりゃ、まぁな」
尻ポケットに入れている。
何でもはいる不思議な財布。
だからこそ、何を入れても財布はいつもぺったんこだ。
だから、尻ポケットには何も入ってないように見えるっぽい。
何もないと思われてるのだから、擦られる心配もない。
「でもヨウミ。私のことはエイシアンムと呼んでくれないか? 何かよそよそしく思えるのだが」
「なげぇよ。俺んとこじゃ天皇家の名前は一般人のものとは違うから、それに似たようなもんだと思ってたから別に違和感とかはねぇけど、覚えづらい」
思わず口にしてしまった。
でも覚えづらいのは確かだ。
せめて四文字くらいにならんか?
「私も……ちょっと覚えづらいです」
クリマーも同意見。
ライムも、誰の目にも止まらないようだが、体のてっぺんが、頷いて頭を上下するように動いている。
「エイ……はちょっと投げやりな感じがするし、エイシって何かなぁ……」
「アンム……うーん……」
まったく面倒くさい。
呼び名程度に時間かけ過ぎだ。
「シアンでいいや、もう。決まり」
「む……なんか、それも扱いが適当な気がするが……」
「しょーがねぇだろっ。何々と呼んでくれ、なんてことも言わねぇしよ」
「それはまぁ、そうだが……。学生時代も皇太子と呼ばれてたからな」
……コータ、の方がよかったかなぁ?
「学生時代があったんですか?! 皇太子様!」
今決めたばかりの呼び名がどっかに飛び去って行ったぞ、クリマー。
「そりゃあもちろんだ。だが今ではほとんど旧交を温めることもできなくなったな」
そりゃそうだろ。
見えない所から護衛の目が感じられる。
それほどまでの立場になったんだ。
自由は次第に利かなくなるのも当然だろうよ。
ということは。
「友達、少ないのか」
「アラタ、君ほどではない」
ちっ。
……っつーか、そんな口利くなよ。
俺がお前の悪友に思われちまうだろうがっ。
「そう言えば、アラタにも友達できたんですよー。ね、アラタ?」
「ただの知り合いだ。だいたいまだ二回しか会ってねぇんだから」
「ほう。いつも店にいるアラタがか? 珍しいな」
うるせえよ。
こっちは友達どころか、余計な人間関係増やしたくねぇんだよ。
「おかしいですよねー。こんな性格なのに人が寄ってくるんだから」
俺に寄ってきてるわけじゃねぇよ。
ダンジョンの中にあるアイテム、おにぎり、全部俺に関わってることに惹かれて寄ってくるんであって、俺自身に引き寄せられてるわけじゃねぇ。
「いや、珍しいというのはそうではなく、そんな活動をしなくても人との縁、魔物との縁が増えていく現象が珍しいな、とな。アラタと同じように、自分の役目に張り付いてばかりの私にはほとんどそんな縁はできないが、アラタはそんなことがない。不思議なものだ、とな。別にアラタを珍獣扱いしてるわけではない」
あーそーですかはいはい。
「そりゃ立場が立場だからねぇ。最近できた友達なんて、まるまる商会の紅丸……なんつったっけ?」
「何? まさか……紅丸=セイヤー、か?」
「知ってるの?!」
何でお前が知ってる。
そりゃ似たような年代と思うが。
「学生時代の同期……同級になったこともある」
おい。
「そんな偶然があったとは」
「彼自身とは仲がいいとは言えないな。同級生の一人、としか」
「ふーん。でもあの人だって商会の代表役員?」
「代表取締役、ではなかったかな? あそこの三代くらい前から私達王家とのつながりはあったはずだ」
「親類?」
「いや、商会の仕事上の、だな。その縁は次第に薄くなってきてるんだが」
シアンは何となく素っ気ない態度で淡泊な反応という気がする。
無理やりあいつの記憶を引っ張り出してる感じだ。
元同級生の立場は知ってても、現状の役割は分からなさそうだ。
「どのみち、皇太子とあんまり立場は変わらないですよね?」
「変わらないって? まぁ……こっちは一国の王の子。向こうは一企業のトップという立場で似てはいるが」
「んー……その立場のために、新しい友達作る機会が少なそう、という意味で」
「まぁ、そうかも分からんが……仕事上の付き合いの縁は数え切れんだろうがな」
「……シアン。あいつのこと、あんまり興味なさそうだな」
「コホン。……立場上、特定の誰かと損得の関係を持てば、癒着だ何だと誤解されてしまうからな」
いや、違う。
淡泊、とは違う。
ひょっとして……。
……だが、俺がそれを聞いてもいいのか?
できれば深く関わりたくないと思ってる相手の事情や心境を。
「紅丸って人、嫌いなの?」
ヨウミっ! おまっ!
いや、それは俺が今一番知りたかったことだったんだけどさっ!
「……まぁ、避けて通りたい話題ではあるし人物でもある。が、そうもいかない理由もある。……そういえばアラタは、気配を察知する能力がある、と言ってたな。ひょっとして、私の思いはすでに感づいてたかな?」
うぐっ……。
「ま、まぁ、な」
「……彼、商会は飛空船を所有していることを知ってるかな?」
「お店ばかりが並んでるあのアーケードの建物……建物? まぁ、あれ、空飛ぶ船だよね。あれのこと?」
「その船をたくさん収納している船、本船だよ。……見方によっては、空飛ぶ要塞とも言える」
要塞……。
攻撃、防衛拠点、に思える表現だ。
だが……。
「父……元国王のスキャンダルの話をしたことがあったね?」
「……覚えてる」
「まったくばかげた話だよ。世界征服だなんて。だが、それが現実味を帯びさせてくれるものがいくつかある」
「その一つが、それ、か」
その本船とやらはまだ見たことがない。
ヨウミに言われて思い当たった。
あれは確かにアーケード街。
そう呼ぶにはこじんまりしているが、同じ品物を扱う専門店が並ぶアーケードと思えば、確かにそれは当てはまる。
が、飛行、浮遊する物体と思うと、むしろでかい。
アニメに出てくる輸送機よりもはるかに。
それが何隻も収納されるとなると……。
着陸できる場所も確かに限られるし、地上に降り立つ際には、日影の範囲が馬鹿でかい。
日照権で、一度に一つか二つの自治体から訴えられそうだ。
「だが無用の長物というわけでもない」
「……世界平和を乱すものが役に……あ……」
世界平和、この国の平穏を乱す者ならいるじゃないか。
「そう。魔物の泉や雪崩現象から現れる魔物達だ。旗手でないと倒せない魔物達だが、サポートは多ければ多いほど彼らの負担も軽くなる」
待てよ?
それって……世界を征服できる、他国を脅かす存在は、魔物退治にも役に立つから堂々とそこに居続けることができる、と?
世界中の国々が征服されることを恐れて糾弾してくる。
それを御するためのお題目、か。
「国の軍隊もそこに配属している?」
「いや。そこまでベッタリじゃない。そうじゃないのが救いだが」
なら……遠距離砲でも持っているのか、あるいはサーチ能力が高いのか。
いや、今はそんな話をしたいんじゃない。
「けど、商売は」
「そう。国民の生活ためになる物品の製造販売をしている。その話題を抜きにすれば、この国に欠かせない企業の一つでもある」
軍需産業……ではないのか。
兵器になる、空に浮かぶ巨大な船。
だが……確かに他国との戦争って話は誰もしていない。
現実味がないとか、まぁ泉現象でそれどころじゃないってこともあるかもしれん。
まぁ政権が変わったからってこともあるだろうが……。
「私も話に聞いただけだが、商会の初代と、当時の王とは懇意の仲。そのときに、動力になる魔石か何かを受け取り、それを船に取り入れ、その時以来空を移動する船で商売を続け、成功するたびにその船も次第に大きくしていき、現状のような要塞とも噂される船となったんだそうだ。その全貌を見た者は、そこで働いている者達と代表取締役くらいじゃないか?」
こいつも見たことがないのか。
ますます謎だ。
まあ俺の仕事に障りがあるわけじゃなし。
こいつらも気分転換できて、仕事の手伝いもしてくれりゃ問題ないしな。
この三人は、紅丸関連の店には特にこだわらずにいた。
もっともミアーノとンーゴは、休みをもらったからと言って何かするわけでもないようで、元々店で働いてもらう約束はしてなかった。
フィールドの警備と保安が二人の主な仕事。
けど、冒険者がやってこないんじゃ特にすることもない。
ライムはというと、普段から気になってた米研ぎの水場。
水路の底の汚れが気になるというんで、好きにさせてみた。
普段からきれいな川の水、そして水路に流れる水なんだが、米研ぎの場所は更にきれいになってた。
だからこの日の店の方では、誰も休まずに出勤というわけだ。
ということは、だ。
「マッキーちゃあん、こないだ休んだみたいだったけど、風邪とか? 大丈夫?」
「クリマーさん、何かあったの? 心配な事とかあったら、俺達が相談に乗るよ?」
「ヨウミちゃん、アラタさんに文句があるなら、代わりに言ってあげるからねっ」
なんだよこいつら。
ダンジョンに潜るためにおにぎりを買いに来たのかと思ったら、ヨウミ達に会いに来たってのか?
商売の邪魔だし、なんでお前ら、こいつらの代わりに俺に文句言うってんだ!
「文句ならあるぞ。ここはおにぎりを売る店で、お前らが油を売る店じゃねぇ!」
「横暴だー」
「独占するなー」
何だこのシュプレヒコール。
つーかお前ら……。
「お前ら……。仕事しなくていいのか? 収入ゼロの日でいいのか?」
「うっ……。ヨウミちゃん、ほんの少しのお別れだからね? 待っててね?」
「お、俺、ダンジョンから帰ってきたらマッキーちゃんとデートするんだっ」
「クリマーさん、あなたが気に入ってくれるアイテムをきっと手に入れて帰ってくるから、待っててくださいっ!」
次々とフラグを立ててダンジョンに向かって行くなぁ。
二十人くらいのそんな冒険者達がおにぎりを購入した数は、なんとゼロときたもんだ。
帰ってきたら、次に店に来たら一セットの値段を五セット分の値段で買いたくなる呪いをかけてやる。
「あ、あの、おにぎりのセット三つくださいっ」
「こっちには四つお願いしますっ!」
それに比べて、鍛錬目的に来る新人の可愛いこと。
しっかりと鍛錬積むんだぞ。
※※※※※ ※※※※※
「繁盛しているようで何よりだ。魔球は使ってくれているかな? アラタ」
「あ、皇太子様。いらっしゃい」
「うん、ヨウミ、それとみんなも元気そうで何より」
もうなにも驚かねぇし突っ込まねぇ。
随分前から気付いていたが、一々口に出すほど気にしなきゃならないもんでもない。
それにしても、魔球ってなんだよ。
消えるボールか何かの球種か?
「どんくらいの効果があるかは知らんが、バカスカ使うほどの切羽詰まった場面に好き好んで首を突っ込むほどひまじゃねぇよ」
「それもそうか。あははは」
あははじゃねぇよ、まったく……。
「それはそれとして、持っているんだろう? 常に持ち歩いていなければ、使ってもらいたいときに使えないのだからな」
「そりゃ、まぁな」
尻ポケットに入れている。
何でもはいる不思議な財布。
だからこそ、何を入れても財布はいつもぺったんこだ。
だから、尻ポケットには何も入ってないように見えるっぽい。
何もないと思われてるのだから、擦られる心配もない。
「でもヨウミ。私のことはエイシアンムと呼んでくれないか? 何かよそよそしく思えるのだが」
「なげぇよ。俺んとこじゃ天皇家の名前は一般人のものとは違うから、それに似たようなもんだと思ってたから別に違和感とかはねぇけど、覚えづらい」
思わず口にしてしまった。
でも覚えづらいのは確かだ。
せめて四文字くらいにならんか?
「私も……ちょっと覚えづらいです」
クリマーも同意見。
ライムも、誰の目にも止まらないようだが、体のてっぺんが、頷いて頭を上下するように動いている。
「エイ……はちょっと投げやりな感じがするし、エイシって何かなぁ……」
「アンム……うーん……」
まったく面倒くさい。
呼び名程度に時間かけ過ぎだ。
「シアンでいいや、もう。決まり」
「む……なんか、それも扱いが適当な気がするが……」
「しょーがねぇだろっ。何々と呼んでくれ、なんてことも言わねぇしよ」
「それはまぁ、そうだが……。学生時代も皇太子と呼ばれてたからな」
……コータ、の方がよかったかなぁ?
「学生時代があったんですか?! 皇太子様!」
今決めたばかりの呼び名がどっかに飛び去って行ったぞ、クリマー。
「そりゃあもちろんだ。だが今ではほとんど旧交を温めることもできなくなったな」
そりゃそうだろ。
見えない所から護衛の目が感じられる。
それほどまでの立場になったんだ。
自由は次第に利かなくなるのも当然だろうよ。
ということは。
「友達、少ないのか」
「アラタ、君ほどではない」
ちっ。
……っつーか、そんな口利くなよ。
俺がお前の悪友に思われちまうだろうがっ。
「そう言えば、アラタにも友達できたんですよー。ね、アラタ?」
「ただの知り合いだ。だいたいまだ二回しか会ってねぇんだから」
「ほう。いつも店にいるアラタがか? 珍しいな」
うるせえよ。
こっちは友達どころか、余計な人間関係増やしたくねぇんだよ。
「おかしいですよねー。こんな性格なのに人が寄ってくるんだから」
俺に寄ってきてるわけじゃねぇよ。
ダンジョンの中にあるアイテム、おにぎり、全部俺に関わってることに惹かれて寄ってくるんであって、俺自身に引き寄せられてるわけじゃねぇ。
「いや、珍しいというのはそうではなく、そんな活動をしなくても人との縁、魔物との縁が増えていく現象が珍しいな、とな。アラタと同じように、自分の役目に張り付いてばかりの私にはほとんどそんな縁はできないが、アラタはそんなことがない。不思議なものだ、とな。別にアラタを珍獣扱いしてるわけではない」
あーそーですかはいはい。
「そりゃ立場が立場だからねぇ。最近できた友達なんて、まるまる商会の紅丸……なんつったっけ?」
「何? まさか……紅丸=セイヤー、か?」
「知ってるの?!」
何でお前が知ってる。
そりゃ似たような年代と思うが。
「学生時代の同期……同級になったこともある」
おい。
「そんな偶然があったとは」
「彼自身とは仲がいいとは言えないな。同級生の一人、としか」
「ふーん。でもあの人だって商会の代表役員?」
「代表取締役、ではなかったかな? あそこの三代くらい前から私達王家とのつながりはあったはずだ」
「親類?」
「いや、商会の仕事上の、だな。その縁は次第に薄くなってきてるんだが」
シアンは何となく素っ気ない態度で淡泊な反応という気がする。
無理やりあいつの記憶を引っ張り出してる感じだ。
元同級生の立場は知ってても、現状の役割は分からなさそうだ。
「どのみち、皇太子とあんまり立場は変わらないですよね?」
「変わらないって? まぁ……こっちは一国の王の子。向こうは一企業のトップという立場で似てはいるが」
「んー……その立場のために、新しい友達作る機会が少なそう、という意味で」
「まぁ、そうかも分からんが……仕事上の付き合いの縁は数え切れんだろうがな」
「……シアン。あいつのこと、あんまり興味なさそうだな」
「コホン。……立場上、特定の誰かと損得の関係を持てば、癒着だ何だと誤解されてしまうからな」
いや、違う。
淡泊、とは違う。
ひょっとして……。
……だが、俺がそれを聞いてもいいのか?
できれば深く関わりたくないと思ってる相手の事情や心境を。
「紅丸って人、嫌いなの?」
ヨウミっ! おまっ!
いや、それは俺が今一番知りたかったことだったんだけどさっ!
「……まぁ、避けて通りたい話題ではあるし人物でもある。が、そうもいかない理由もある。……そういえばアラタは、気配を察知する能力がある、と言ってたな。ひょっとして、私の思いはすでに感づいてたかな?」
うぐっ……。
「ま、まぁ、な」
「……彼、商会は飛空船を所有していることを知ってるかな?」
「お店ばかりが並んでるあのアーケードの建物……建物? まぁ、あれ、空飛ぶ船だよね。あれのこと?」
「その船をたくさん収納している船、本船だよ。……見方によっては、空飛ぶ要塞とも言える」
要塞……。
攻撃、防衛拠点、に思える表現だ。
だが……。
「父……元国王のスキャンダルの話をしたことがあったね?」
「……覚えてる」
「まったくばかげた話だよ。世界征服だなんて。だが、それが現実味を帯びさせてくれるものがいくつかある」
「その一つが、それ、か」
その本船とやらはまだ見たことがない。
ヨウミに言われて思い当たった。
あれは確かにアーケード街。
そう呼ぶにはこじんまりしているが、同じ品物を扱う専門店が並ぶアーケードと思えば、確かにそれは当てはまる。
が、飛行、浮遊する物体と思うと、むしろでかい。
アニメに出てくる輸送機よりもはるかに。
それが何隻も収納されるとなると……。
着陸できる場所も確かに限られるし、地上に降り立つ際には、日影の範囲が馬鹿でかい。
日照権で、一度に一つか二つの自治体から訴えられそうだ。
「だが無用の長物というわけでもない」
「……世界平和を乱すものが役に……あ……」
世界平和、この国の平穏を乱す者ならいるじゃないか。
「そう。魔物の泉や雪崩現象から現れる魔物達だ。旗手でないと倒せない魔物達だが、サポートは多ければ多いほど彼らの負担も軽くなる」
待てよ?
それって……世界を征服できる、他国を脅かす存在は、魔物退治にも役に立つから堂々とそこに居続けることができる、と?
世界中の国々が征服されることを恐れて糾弾してくる。
それを御するためのお題目、か。
「国の軍隊もそこに配属している?」
「いや。そこまでベッタリじゃない。そうじゃないのが救いだが」
なら……遠距離砲でも持っているのか、あるいはサーチ能力が高いのか。
いや、今はそんな話をしたいんじゃない。
「けど、商売は」
「そう。国民の生活ためになる物品の製造販売をしている。その話題を抜きにすれば、この国に欠かせない企業の一つでもある」
軍需産業……ではないのか。
兵器になる、空に浮かぶ巨大な船。
だが……確かに他国との戦争って話は誰もしていない。
現実味がないとか、まぁ泉現象でそれどころじゃないってこともあるかもしれん。
まぁ政権が変わったからってこともあるだろうが……。
「私も話に聞いただけだが、商会の初代と、当時の王とは懇意の仲。そのときに、動力になる魔石か何かを受け取り、それを船に取り入れ、その時以来空を移動する船で商売を続け、成功するたびにその船も次第に大きくしていき、現状のような要塞とも噂される船となったんだそうだ。その全貌を見た者は、そこで働いている者達と代表取締役くらいじゃないか?」
こいつも見たことがないのか。
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○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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