勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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店の日常編

村の防衛もこいつらにかかりゃ、戦争ごっこかなぁ その1

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 農作物泥棒を、五人まとめて捕まえた。
 サーマルに言わせれば、テンちゃんのお手柄だという。
 けれども泥棒一味はこれで全員とは限らないという見解。
 俺ももちろん同意した。
 農作物なら、この日本大王国では一番の品質、収穫量、多種を誇る村。
 畜産業も上質の物が多いんだと。
 だが、ここは端っこの田舎だ。
 それにそれくらいの人数で盗まれる量に被害額も高が知れてる。
 盗品を売りさばく額だって、決して高額じゃない。
 盗品と分かって買う者達にとっては、その金額と同価値と見るはず。
 だから当然上限はある。
 高値の物なら、警備だって厚くなる。
 捕まる危険度が低い物を狙うならそれ、と決めたとしてだ。
 その人数だけでは、犯人たちにとって利益は薄いんじゃないだろうか。
 けれど大人数なら、不審人物が集団でいたら目立つだろうし、どこから情報が洩れるか分からないんじゃないか?
 となれば……。
 俺の考えでは、二十人はいないだろう。
 全員で十人くらいか、あるいは捕まった五人は偵察の役目だけ、という限定なら、ほかに十人くらいが限度じゃないか?

「……と俺は考えた」
「アラタの兄ちゃんよお、つまり、一斉に仕返ししに来る人数は、多く見積もっても十人くらい、と見てるんだな?」
「と思う。全国股に掛けた窃盗団とかなら、映写機でのニュースで騒がれてるだろ」
「映写機? ニュースってば、受映機だよね? 何その映写機って」

 人間社会についてよく知らないマッキーから突っ込みが入るとは。

「まぁそれはともかく、確かにそう考えれば、一度にたくさんの人数が押し寄せるってことはないと思いますけど」
「三十人もお、仕返しに来られたらあ、軍隊とかみたいだよなあ」
「報復ねぇ。こんな田舎に盗みに入るような奴らに、報復に来るようなプライドあるのかしらねっ」

 俺ばかりじゃなく盗人どもにも辛らつだな、コーティは。

「デモ、ムラノイリグチカラコナイナラ、ココラカラクルシカナイ」
「どうして? ンーゴ」
「テンチャンモシッテルハズ。ヤマガワニハ、リュウゾクトカノ、アブナイシュゾク、タクサンイル」
「あー……そっから来るなら魔族達の餌になるのが先だもんね。だから隣のラーマス村からこの村までの最短距離を来るってことか」
「ヨウミノイウトオリネ」

 それにしても。
 その報復で、例えば火なんかつけられたら……。
 盗まれた被害総額は分からない。
 だがその被害を防いだ結果、村の焼き討ちなんてことがあったら……。
 村人たちの間でそんな議論が出てきたら、そのまま放置しても良かったんじゃないか? って結論が出てたりしなかっただろうか。
 そうなると、テンちゃんの行為は藪蛇だったかも分からん。
 けど、手間暇かけて育てた作物が、その労苦の価値を知らない者に盗られるのは癪だろうなぁ。
 ま、来なきゃ来ないでいいさ。
 来たらこっちの被害の方がでかいんだ。
 居住区外でけりをつけさせてもらおうか。

「具体的にはどうすんだあ? どこを通るかなんてえ、誰にも分らないだろお?」
「そこは目的地を決めさせる。まあこっちから仕掛けて誘導して、目的地に行かせるって感じだがな」
「目的地なんて、村に決まってるでしょ? あたしを馬鹿天馬呼ばわりする割に、アラタもあんまり知恵働かせてないね」

 うむ。
 テンちゃんは最後まで話聞こうな?

「目的地は、一網打尽にできる場所にしてやるんだよ。その場所づくりはミアーノとンーゴに任せる」
「場所づくりを任せるぅ? 場所は俺らが決めるんじゃねぇような言い方だなぁ」
「うん、ミアーノの言う通りだ。まず先に方針と計画から決めよう。まずあまり地形を変えないこと。具体的に言えば、森林の樹木を燃やしたり倒したりしないこと」
「ナルホドナ。テンチャン、チエヨリキヲクバッテルゾ、アラタハ」
「へ?」

 へ? じゃねぇよ、まったく。

「木々の本数が減ることで、魔物達が村に接近しやすくなるからだ。村の危機は盗人どもだけとは限らねぇってことだ」
「なるほど」

 一同納得。

「アラタにしちゃいい考えじゃないのよ」

 コーティ……一言多いんだよ。

「続けるぞ。とっ捕まえた後は保安官達に引き渡せるように、生け捕りにすること。でないと一味全員捕まえた証明ができなくなっちまうからな」
「トカシチャ、ダメ?」
「ダメですっ!」

 ライムもしれっと怖いこと言うよな。

「ダメナノカ……」

 ンーゴ、お前もか!

「一口でもだめ?」

 ミアーノ……お前まで……。

「やっつけるだけなら簡単だけど、引き渡すとなると、途端に難易度高くなるよね。もっともあたしとアラタにはそんな力はないけど……」

 つか、普通の人間なら難しいわな。
 まぁ俺だって気配を感じ取れるっつっても、誰かに力を加えるようなものじゃないし。

「無傷って訳にはいかないよ? ま、怪我しても治癒魔法なりで回復できるだろうし」
「治るような傷なら問題ないだろ。だからといってマッキー、自分のテリトリーつっても油断すんなよ? しなくていい怪我すんじゃねぇぞ?」
「アラタよりは丈夫だから安心してっ」

 むぐ……。
 まぁ……自重するけどさ。

「……で、俺が考えてることは、泥に足を突っ込ませることだ。身動き取れないと、そこから出ようともがきたくなるもんだしな」
「へぇ。そりゃ名案だわな。確かに俺とンーゴなら、そんな場所作れなくはねぇもんよお」
「ムズカシイ」
「え?」

 ンーゴ、難しいっつった?
 なんで?

「ススキトカノザッソウ、ハエルクライノツチハアル。ケド……」
「岩盤があるからだなあ」
「ウン」

 そうだった。
 モーナー、地面を耕すのを頼まれたけど、岩盤があるから諦めたみたいな話聞いたことがある。

「じゃあ林の中ってことですよね。でもあまり深くすると……」
「ネッコカラ、タオレルネ」

 ライムにも分かったか。
 参ったな。
 これは流石の俺も盲点だった。

「でも倒れなきゃいいんだろうよ。だったら何とかするさね。なぁ、ンーゴ?」
「バランスヨク、スコシシズムテイドカナ」
「うん、なるべく地形崩さなければいいさ」
「ナラナントカデキルナ」

 実に心強い二人だ。
 そして、みんなで俺を前線に立たせないようにするもんだから、俺のそばには……。

「んと、あたし、ライムと出ようと思うんだけど、いい?」
「出る?」

 マッキーとライムがコンビを組むってこと?

「その泥沼に嵌めるように誘導すればいいんでしょ? ちょっと試したいことがあんのよ」
「危険なことはすんなよ?」
「大丈夫大丈夫。でもその分アラタの守りが薄くなるのよね。そっちがちょっと心配」
「じゃああ、俺があ、アラタとヨウミ守るよお」
「モーナー、フタリヲタノムネ」

 村を無傷で守る。
 そのための戦力は他から頼れない。
 なのに、何でこいつら……。
 みんな、楽しそうに話し合いしてるんだ?
 なんかこう……趣味が悪いっつーか。
 そうでなきゃ……ホントに武闘派って感じがするんだが。
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