勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
226 / 493
店の日常編

王族の欲 王子の告白 その4

しおりを挟む
「法律が存在する以上、私の一族……直系から王が選ばれる。直系の誰もが高い能力を有しているから、誰の目から見ても何の問題もない。だがこんな条件が揃ったらどうなると思う?」

 条件?

「まず、その国家権力に執着すること。そして、自分の立場を危うくすると思わしめる存在が現れること。さらに、自分が王に選ばれた根拠を自ら疑うこと」

 一番は、国家に限らなければ、誰もがいい思いをしたいと思うだろうからそう思う人はいるだろうな、とは思う。
 だから一つ目の条件は大多数に当てはまるだろうな。
 三番目も、自分に自信を持てなきゃそう思うことになるだろう。
 俺も……まあそんなこともあった。
 問題は二番目。
 ややこしい言い方するよな。
 自分の立場を危うくする存在が現れる、とするなら、たとえば王が単身で、周囲に現象の魔物の群衆に囲まれたら、立場どころじゃねぇよな。
 まぁ立場も含むとすれば、この例は当てはまる。
 だが、危うくすると思わしめる存在、ってなぁ……思わされるってことだよな。
 例えば俺にとっての元職場……思い出したくもねぇが、芦名の場合だ。
 当時、俺の先輩に当たる。
 が、立場で俺とあいつを見れば、どちらも平社員。
 上司になったら、おそらく俺を使い潰すだろう。
 しかし当時の上司が昇進しない限り、その席は空くことはない。
 席が空いても芦名がその地位に就くとは限らない。
 そして、その上司の上の席もしばらく空きそうにない。
 だからあいつが近々昇進するという話はない。
 ということは、間もなくあいつが俺の上司になるということはない。
 なのに俺が、あいつは間もなく昇進するだろう、と勝手に思い込むことに似てるってことか。
 つまり……。

「王の立場は揺るぎがないのに、いつ王の座から追い出されるか分からない、と思いこませる存在がいたってことか」
「うん。そういうことだ」

 あ。
 つい口に出ちまったか。
 まぁいいや。
 と言うことは……。

「国民は現象の魔物達の出現と暴虐に苦しめられていた。王も勇者の一人となった時代、世代は、ほかの勇者と共に讃えられた。だが王は勇者ばかりやってるわけにはいかない。内政外交経済生産治水その他諸々の仕事や役割がある」
「国王は勇者でなければいけないってわけじゃない、か」
「勇者の一人は国王でなければならない、と言うことも当てはまる。そして、国王の働きぶりを目の当たりにできるのは、国民の生活に近い場所でしかない」

 読めてきた。
 勇者をしていた王は、国民の目に触れやすい。
 だから国民から讃えられやすかった。
 しかし国民から選抜された勇者ばかりのチームになると、国民は国王の執務の奮闘ぶりが見えにくくなる。
 ただ能力が高いってことだけじゃ意味がない。
 その能力を発揮し、その効果が現れる。
 その二点を国民に見てもらう機会がなければ……。

「国王は何の仕事をしてるんだ? と怪しむ国民も現れる、か」
「勇者の活躍は、昔から国民の生活の場に近い。だが王の仕事は、もちろん国民の生活の視察なんかもあるが、王宮の公務室でなければできないこともある」

 そこに来て、自分の立場に自信を持てなければ……。
 己に、そして国民に対して疑心暗鬼にもなるか?

「……本来、勇者の資質は国民においては後天的なものだ。先天性がある国王、あるいは王族に敵う道理はない。どの世代においてもな」
「あれ? さっき、王は足元を掬われかけたって言わなかったか? それって……まさか……」
「……今まで何度かあったらしい。勇者達と彼らを支援する者達によるクーデター未遂がな」

 グダグダじゃねぇか。
 国民はいつ魔物に襲われるか分からない不安な毎日を送りながら、討伐に期待を寄せる。
 その討伐する側が下剋上を狙ってたら……。
 そりゃまあ討伐に成功したら、世論の後押しってのも出てくるわな。
 それに権力欲は、一番上の地位にいる者しか持てねぇもんじゃねぇ。
 自分はこの国のトップよりも上だ、と思い込む奴の中には、それを証明してその地位に上がろうとする奴がいてもおかしくねぇ。
 その下克上を狙えることを励みにすれば、討伐の成功率も上がるんじゃねぇか?
 そんなふうに権力欲、支配欲が強ぇ者が勇者の中にいて、その代の王が同じ思いを持ちつつ自分の資質に疑いを持ったら……。
 持ったら……。
 あれ?
 持ったら?
 どうなる?

「待て。クーデター未遂ってことは、何とか王の地位を保てたってことだよな。それが王の性根とどう繋がる? ここまでの話、正直お前の親父程ひどい奴ってのは想像できねぇんだけど?」
「召喚魔法の開発に取り組んだのは、その時代から。今の王族の七、八代目辺りからその研究が始まり約七十代にわたる。今から約十代前に開発完了し、成功した。開発目的は……」

 なるほどな。

「泉、雪崩現象から発生する魔群の討伐ではない。クーデター防止。そして、難易度の高い魔術開発による功績を国民にアピールし、王の地位の安定を図り、安泰なものとするため、か」
「……本来ならば、国民の安心と安全のためにするのが、リーダーに選ばれた者として果たすべき仕事で義務だろう?! それが、己の、保身をっ……第一にっ……」

 喉の奥から振り絞るような声。
 苦悩と罪に苛まれる者の声か。
 誰の罪かは分からんが。
 それに……。

「……シアン。お前の苦悩はよく分かった。けど、それが俺と何の関係がある?」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...