252 / 493
店の日常編
千里を走るのは、悪事だけじゃない その15
しおりを挟む
百人を超える冒険者達と一緒に、俺とヨウミ以外の仲間達もドラゴン退治に出発した。
殺虫剤振りかけてそれで終わる害虫退治とはわけが違うくらいは知ってる。
ドラゴンに限らず、魔物退治ってのぁ、必ずその対象と戦闘になるもんだ。
戦闘になるもんだから、当然怪我をする。
油断して命を落とす冒険者もいるんだそうだ。
そんな危険な場所で怪我をするのはごく当たり前のことだし、怪我をしないようにするには、日常生活の中以上に気を遣い、神経を遣わにゃならんはずだ。
けど、テンちゃんが、よりにもよって飛べなくなるほどの怪我をした?
それに、ほかの奴らは?
「お……お前はどうなんだ? 他のみんなは無事か?!」
『え? えっと、今はあたし達じゃなくてテンちゃん……』
「テンちゃんだけが狙われたってのか? あいつら、そんな作戦立ててたんか?!」
『さ、作戦? って、作戦実行どころか、準備もまだなんだけど……』
「は?」
マッキーの声には、戦闘が始まったりその最中っていうような緊張感がない。
それに彼女の話も理解できん。
「襲われてんじゃないのか?」
『襲われるも何も、えっと……みんな香草の辺りにいて、何と言うか……』
待て。
戦闘状態じゃなくて大怪我した?
てことは、まだ俺にとっては必ずしも危険地帯にはなってない。
「お前ら、まだそこにいるんだな?」
『え? うん、みんないるよ』
この場合の「みんな」は、おそらく冒険者達も含めてってことだろうが、あいつらがしばらくそこから動かないなら……。
「一旦切るぞ」
『え?』
通話機を切った。
やることっつったら、もうこれしかねぇ。
「ヨウミ、ちょっと様子見てくる」
「え? 何よいきなり。つか、あたしらがそこに行ったら邪魔になるって……」
いちいち返事してられるか!
財布はあるな。
中身も……うん、十分にある。
「んじゃ行ってくら」
「ちょっとアラ……ぶはっ!」
シアンからもらった魔球の一つ、疾風を使う。
もちろん俺の背中から押してもらうためだ。
素早く移動するのに体力いらずだろ。
風圧がハンパねぇのは、ちょっと閉口するがな。
※※※※※ ※※※※※
冒険者全員がいたのは、もう一つの店を通過した先の、崖の曲がり角。
その集団のど真ん中を突っ切って到着。
風圧食らうと、結構体力削られるもんなんだな。
「うおっ!」
「何だ?!」
「あぶねぇっ!」
冒険者達が驚きながら道を開けてくれた。
なんか偉い人の立場になった気分。
って、それどころじゃねぇんだよっ。
「おいっ! お前ら……」
「アラタ! 来ちゃったの?!」
来ちゃったの、はねぇだろうよ!
心配させるような連絡をしてきたのはそっちだろうが!
「それよりテンちゃんは!」
「あ、アラタ……心配かけてごめんね……。知らないうちにマッキーが、アラタに連絡したって言ってて」
テンちゃんはその集団の中の先の方で横たわり、クリマー達から看護を受けていた。
傷口はでかく出血はひどい。
「アラタ! すまんっ」
冒険者達の何人かからそんな言葉をかけられるが、まずは様態の確認が先だ。
気配からして、羽ばたけなくなったわけではなさそうだ。
筋肉の造りとか腱とかはよくは分からんが、その損傷はなさそうで、傷口が塞がり出血が止まり、痛みも消えれば元に戻れそうだ。
確か治癒の魔球もあったはず。
ま、腱が切れててもこいつにかかりゃ完治すること間違いなし。
だがこれで、疾風と共に、この種類の魔球は一個ずつ。
「アラタ、それって……」
「テンちゃん、気にするな」
「でもそれって、もうタダでもらえないんだよね? お金、高いんだよね?」
「こいつは俺の物だ。俺がどう使おうと俺の勝手だ。周りからどうこう言われようが、そいつらから文句言われる筋合いはねぇ。……たちどころに治るってわけでもなさそうだな。痛みが消えるまでは絶対安静にしとけ。……で、何があった?」
明らかに、誰かから斬られた傷ってのは分かる。
自分でコケてどこかにぶつかってついた傷じゃねぇ。
「それが、この先にいる人が……」
「この先?」
クリマーが指をさすその方向は、ハーブ群の手前。
冒険者の人だかりで、そこに何があるのかは見えない。
「それに、人?」
「えぇ。そこの店の人に行く手を止められて」
店の人……あのならず者共か。
「それで?」
「ドラゴンを討伐して村の安全を守るって言ったら、そのドラゴンは俺達の物だって」
「飼ってたってことか?」
「自分達が仕留めるんだって言い張ってたみたいです」
五人程度でできるわきゃねぇだろ。
人を雇うとしても、人件費払えるわけがない。
ドラゴンを仕留め損なったらどうする気だ。
「この人数でも、全員無傷のままでドラゴンを倒せるかどうか分からない。ど素人が数える程度の人数で何ができるって冒険者達の誰かが言ったら、じゃあそこにいる魔物を仕留めて、そいつを売っぱらってそれを元手にする、とか言って」
……聞きたくない。
聞きたくないが、聞かなきゃならねぇよな?
「……そこにいる魔物、って」
「……テンちゃん」
「チョッ! アラタッ」
「アラタあ! 止まれえ」
止まれるか!
あの野郎どもがああぁぁ!
殺虫剤振りかけてそれで終わる害虫退治とはわけが違うくらいは知ってる。
ドラゴンに限らず、魔物退治ってのぁ、必ずその対象と戦闘になるもんだ。
戦闘になるもんだから、当然怪我をする。
油断して命を落とす冒険者もいるんだそうだ。
そんな危険な場所で怪我をするのはごく当たり前のことだし、怪我をしないようにするには、日常生活の中以上に気を遣い、神経を遣わにゃならんはずだ。
けど、テンちゃんが、よりにもよって飛べなくなるほどの怪我をした?
それに、ほかの奴らは?
「お……お前はどうなんだ? 他のみんなは無事か?!」
『え? えっと、今はあたし達じゃなくてテンちゃん……』
「テンちゃんだけが狙われたってのか? あいつら、そんな作戦立ててたんか?!」
『さ、作戦? って、作戦実行どころか、準備もまだなんだけど……』
「は?」
マッキーの声には、戦闘が始まったりその最中っていうような緊張感がない。
それに彼女の話も理解できん。
「襲われてんじゃないのか?」
『襲われるも何も、えっと……みんな香草の辺りにいて、何と言うか……』
待て。
戦闘状態じゃなくて大怪我した?
てことは、まだ俺にとっては必ずしも危険地帯にはなってない。
「お前ら、まだそこにいるんだな?」
『え? うん、みんないるよ』
この場合の「みんな」は、おそらく冒険者達も含めてってことだろうが、あいつらがしばらくそこから動かないなら……。
「一旦切るぞ」
『え?』
通話機を切った。
やることっつったら、もうこれしかねぇ。
「ヨウミ、ちょっと様子見てくる」
「え? 何よいきなり。つか、あたしらがそこに行ったら邪魔になるって……」
いちいち返事してられるか!
財布はあるな。
中身も……うん、十分にある。
「んじゃ行ってくら」
「ちょっとアラ……ぶはっ!」
シアンからもらった魔球の一つ、疾風を使う。
もちろん俺の背中から押してもらうためだ。
素早く移動するのに体力いらずだろ。
風圧がハンパねぇのは、ちょっと閉口するがな。
※※※※※ ※※※※※
冒険者全員がいたのは、もう一つの店を通過した先の、崖の曲がり角。
その集団のど真ん中を突っ切って到着。
風圧食らうと、結構体力削られるもんなんだな。
「うおっ!」
「何だ?!」
「あぶねぇっ!」
冒険者達が驚きながら道を開けてくれた。
なんか偉い人の立場になった気分。
って、それどころじゃねぇんだよっ。
「おいっ! お前ら……」
「アラタ! 来ちゃったの?!」
来ちゃったの、はねぇだろうよ!
心配させるような連絡をしてきたのはそっちだろうが!
「それよりテンちゃんは!」
「あ、アラタ……心配かけてごめんね……。知らないうちにマッキーが、アラタに連絡したって言ってて」
テンちゃんはその集団の中の先の方で横たわり、クリマー達から看護を受けていた。
傷口はでかく出血はひどい。
「アラタ! すまんっ」
冒険者達の何人かからそんな言葉をかけられるが、まずは様態の確認が先だ。
気配からして、羽ばたけなくなったわけではなさそうだ。
筋肉の造りとか腱とかはよくは分からんが、その損傷はなさそうで、傷口が塞がり出血が止まり、痛みも消えれば元に戻れそうだ。
確か治癒の魔球もあったはず。
ま、腱が切れててもこいつにかかりゃ完治すること間違いなし。
だがこれで、疾風と共に、この種類の魔球は一個ずつ。
「アラタ、それって……」
「テンちゃん、気にするな」
「でもそれって、もうタダでもらえないんだよね? お金、高いんだよね?」
「こいつは俺の物だ。俺がどう使おうと俺の勝手だ。周りからどうこう言われようが、そいつらから文句言われる筋合いはねぇ。……たちどころに治るってわけでもなさそうだな。痛みが消えるまでは絶対安静にしとけ。……で、何があった?」
明らかに、誰かから斬られた傷ってのは分かる。
自分でコケてどこかにぶつかってついた傷じゃねぇ。
「それが、この先にいる人が……」
「この先?」
クリマーが指をさすその方向は、ハーブ群の手前。
冒険者の人だかりで、そこに何があるのかは見えない。
「それに、人?」
「えぇ。そこの店の人に行く手を止められて」
店の人……あのならず者共か。
「それで?」
「ドラゴンを討伐して村の安全を守るって言ったら、そのドラゴンは俺達の物だって」
「飼ってたってことか?」
「自分達が仕留めるんだって言い張ってたみたいです」
五人程度でできるわきゃねぇだろ。
人を雇うとしても、人件費払えるわけがない。
ドラゴンを仕留め損なったらどうする気だ。
「この人数でも、全員無傷のままでドラゴンを倒せるかどうか分からない。ど素人が数える程度の人数で何ができるって冒険者達の誰かが言ったら、じゃあそこにいる魔物を仕留めて、そいつを売っぱらってそれを元手にする、とか言って」
……聞きたくない。
聞きたくないが、聞かなきゃならねぇよな?
「……そこにいる魔物、って」
「……テンちゃん」
「チョッ! アラタッ」
「アラタあ! 止まれえ」
止まれるか!
あの野郎どもがああぁぁ!
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる