勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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王宮動乱編

王宮異変 その9

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 王宮の門の前の広場で狼狽える兵士達。
 魔物の泉現象から現れる、黒い影の魔物を初めて見たせいらしい。
 俺らにとっちゃ幸いだが、魔物は俺達、つまり町の方面に近づこうとはせず、兵士達に近づきあちこちで戦闘が始まった。
 太刀打ちできなそうではないが、ダメージを与えているようにも見えない。
 腰が引けてるのが、こういうことが素人の俺でも丸わかりだ。
 そんなときに上から何かがやってくる気配。
 と同時に。

「う、うるせぇ! 何の音だ?!」

 ビービーというような高い音が上から聞こえてきた。
 思わず耳を塞ぐ。

「に、逃げろ!」
「ひ、ひいいっ!」

 泉現象の魔物共に完全に背を向けて、兵士達は王宮内に誰もが逃げ込もうとしてた。
 一体何があるってんだ?
 ミシャーレは既にこの場にいない。
 おそらく、とっくに王宮に逃げ込んだんだろう。
 そう言えばあいつ、自分のことをやたらと「要職に就いている」とか言ってたよな。
 となりゃ、我が身を守ってくれる人も多いはず。
 羨ましい限り。
 って、あれ?
 だったらあの馬鹿王子のほうが、守ってくれる人がもっとたくさんいてもいいはずなのにな。
 どういうことだ?
 って……今はそれどころじゃねぇな。
 真上から何かが来る。

「おい、アラタ。ボケっとすんな! 少し下がるぞ!」
「急げ! かなりの範囲だからな!」
「何がよ? っておい! 引っ張んな! つか、王宮から遠ざかることになるだろ!」
「いいからさがれ! この音は警報だ!」

 警報?
 何の警報だ?
 どこでこの音を鳴らしてんだ?
 聞きたいことは山ほどあるが、直近にある危険は魔物じゃなく上から来る何かだってこたぁ分かる。
 質問は後だ。
 今は言うことを聞いてとにかく下がるっ!
 だが得体のしれない気配は、その気配を発しているモノと共に近づいてるのが分かる。
 それは上からやってくる。

「一体何が上から来る……いや、落ちて、くる?」

 圧迫感めいたものも感じる。
 が、それにだけ気を取られてるわけにもいかない。
 目の前にある黒いもやから、次から次へと魔物が湧いて出る。
 押さえ込む兵士たちは、既に門の中。

「……やべぇ。魔物共がこっちを向き始めたぜ?」
「アラタだけは守らねぇとな。なんせ俺達が頭を下げてまで連れて来た一般人だからな」

 そう言ってくれるのは有り難ぇんだが、それが当たり前と言えば当たり前じゃね?
 いや、そうでもないか。
 こいつらは王子の親衛隊であって、国民の命を守る軍でも兵でもねぇ。
 そういう意味では……信頼できるかどうかは未知数だよな。
 って、のんびり考えてる場合じゃねぇ!
 前から、そして上から危険が迫っている。

「ってぇよお! 上から何が来る……う? ありゃあ……」
「来たか」
「ようやく見え始めたな」

 ありゃあ……船?
 海を渡る船が、上から落ちてくる?
 空に浮く船。
 まさか……まさか、あいつが?!

「もっと下がれ!」
「衝撃波、まともに喰らっちまうぞ!」

 衝撃波っつーか、落下した勢いで飛んでくる岩とかの礫も危ねぇだろうが!
 そっちの注意も促せよ!
 うわあっ!

「うおおっ!」
「ぐあっ!」

 鍛錬を積んだ親衛隊ですら、その衝撃に耐えられない。
 ましてや一般人の俺は……。

「うわあああっ! ぶはっ」
「ぐおっ!」
「ぶわっ!」

 吹っ飛ばされてクリットとインカーにぶつかった。
 つか、守ってもらったっつった方が正しいか?
 船の下部は地面にめり込んでいる。
 そしてその中腹には、黒いもやがかかっている。
 泉現象のもや目がけて船が落ちてきたかたちだ。
 船に潰された魔物は多数。
 しかし免れた魔物はいるし、もや自体は潰されていない。
 むしろ健在のまま。
 だが、少なくとも船のおかげで俺達の命は何とか延びた。

「魔物、減ったな」
「これくらいなら、俺ら二人でも何とかなるか?」

 こいつらの脳味噌、筋肉でできてるのか?

「無理に決まってんだろ」
「え?」
「アラタ……なぜだ?」
「もやからまだ魔物は出てくるぜ? 生き残った魔物だけなら何とかなるかもしんねぇけど、まだ魔物は増え続けそう……う?」

 またも上から何かの気配。
 まさか……。

「どうした? アラタ」
「また上から……別の何かが……いや、こりゃあ」
「何かくるのか?」

 間違いない。
 今度は、落ちてきた船よりも……。

「もう一回、これよりもでかい船が落ちてくる! もっと下がれ!」
「え? どこにだ?」
「手前に来るのか? なら……全力で退避だ!」

 いや、手前にじゃねぇ。
 まさか……嘘だろ?!
 だが、退避するのは正解だ。
 急げ!

「下がれ下がれ! だが落下地点はその船の手前じゃねぇ!」
「手前じゃなかったらどこよ?」

 手前でも奥でもねぇ!
 落下地点は……落下した船だ!
 いや、ちと違うか。
 落下した船は、黒いもやを狙ったに違いない。
 となりゃ、また上から落ちてくる船の目的地は……その黒いもやか?!
 その黒いもやからは、今までよりも激しい勢いで魔物が出現している。
 つまりそこに……。

「来るぞーっ! ぐわっ!」
「な、何とっ!」
「飛んでくる物体に気を……うわっ!」

 轟音と振動。
 そして衝撃波と共に飛んでくる、雑多な礫。
 落ちてきたのは、落ちてきた一隻目よりも一回り大きい船。
 泉現象から出現した魔物のほとんどが、一隻目の船と共にぺしゃんこだ。
 だが、やはり黒いもやはその船の中腹にかかったまま。

「もや自体は潰せねぇのか。泉現象ってなぁ、ほんとに現象なんだな」

 こんな長時間、泉現象を目にしたことはなかったよな。
 しかしもやからは、時間が経てば経つほど、魔物の出現する勢いが増していく。

「止めらんねぇな」
「しかも俺らは下がってばかりだから、王宮からも遠ざかってる。兵達も……負傷者はいるっぽそうだが……戦力が削られてるわけじゃねぇ。こっちはジリ貧だわ」

 魔物はその船の中にもいるっぽい。
 状況はますます悪化してるってことか。
 って……。

「上からまた来るぞ! さらに下がれ!」
「嘘だろ?! アラタ!」
「しょーがねぇ! インカー、アラタ、下がるぞ!」

 門より向こうにいる兵の安否なんか考えてる余裕がねぇ。
 魔物はこれまでの三倍、四倍くらいの勢いでもやから生み出されてる。
 だがそのほとんどは船の中に出現してるから、外に出てくるまで時間はかかりそうだ。
 その船よりもでかい気配が上空からやってくるのが分かる。

「もっと下がれ! もっと、もっ……うわあっ!」
「ぐはっ!」
「ぶわあっ!」

 今度は俺だけじゃなく、クリットもインカーも、体が宙に浮いて飛ばされた。
 落下してきた二隻目の船も、完全に埋もれるくらいのでかい船が落下してきた。

「ぐぅ……、ん? もやが……消えかけてる?」
「マジか?! 魔物はどうだ?!」
「魔物もほとんど潰されてるが、生き残った魔物も何体かいる。二十はいない」
「しかし……この船……相変わらずだな」

 相変わらず?
 クリットもインカーも、この船の事知ってんのか?
 って言うか……。

「くあーっ! これであとは、残った魔物退治でここらは制圧完了ってかあ?」

 落ちてきた船の三隻目。
 その甲板から出てきたのは……。

「紅丸! やはりお前だったか!」
「おーう、久しぶりだのお、アラタあ」

 ってこたぁ、落下してきたこの三隻の船は……やっぱりまるまる商会のものだったか。
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