勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
321 / 493
米からの騒動編

例のブツが行方不明 その3

しおりを挟む
「……と、まあそんな感じでな。槍衾用意したその相手の魔物がこの村に来るとしたら、おそらくこっちから入ってくるんじゃねぇかと」
「タオルウッテルヒトダヨナ?」
「息子さんはドーセンさんのお店で手伝ってるとか。ゴーアから聞きました」

 互いに引き合わせて紹介しなきゃならんか? とも思ったが、こいつらが全員揃うのは朝と晩の飯時くらいなもんだ。
 昼時は、集団戦の区切りがつき次第飯を食う、って感じだからな。
 童子の顔合わせがちと難しいタイミングだし、時間帯はばらばらだがみんなも温泉を利用するようになったもんだから、それぞれが母親とは既に顔見知りってこともあったし、だから、特別紹介の機会を持つまでもないけどいいよな。

「で、ガンジュウ、だっけ? あたしは見たことも聞いたこともないけど……みんな、あるの?」
「知らねし、聞いたこたぁねえし」
「ライムモ、ナイヨ」
「今日は干し草だけじゃ物足りないなぁ……。あ、マッキー、なんか言った?」
「テンちゃんってば……」

 テンちゃん……お前なぁ……。

「あ? ガンジュウ? 知らないよ? って言うか……みんな知らないでしょ。あたしとかライムとかマッキーみたいに、亜種が有名な種族なら聞いたことあるかもしんないし、ましてや悪評がついて回ってたんだからあたしらの種類は耳にしたことはあると思うよ? でもガンジュウって名前初めて聞いたし亜種がいるって話も聞いたことないもん。聞くだけ無駄じゃん?」

 む……まぁテンちゃんの言うことにも一理あるんだが。

「あたしは聞いたことはあるわよ? ただ、種族名までは聞いたことないけど」
「ホント? コーティ」
「みんなは今までどうかは知らないけどさ、あたしは別に、選んで人里離れた場所で生活してたってわけじゃないからね。七百年くらい生きてりゃ、いろんな種族からいろんな噂は耳に入るわよ」
「はぁ?!」

 七百年?!
 そんなに生きてたっだっけ?
 みんなが驚くのも無理はない……のか?

「あ、あたしらの種族での年数の数え方だからね? 人の年に数えたら……もっと行くかな?」
「……コーティの次に長生きしてそうなのは……ンーゴかな? ンーゴは何才?」
「サア? ホトンドツチノナカデセイカツシテタカラナ。オヒサンノウゴキナンカ、アラタトイッショニナルマデハキョウミナカッタ」

 それもそれですげえよ。
 ともあれ、だ。

「で、さっきも言った通り、伝聞だけど亀に似た姿で、甲羅が岩っぽい感じ。ツルツルした石じゃなくて、ゴツゴツ感たっぷりな感じらしい。草食の魔物らしいが、被害を食い止めるのはあくまでお前らを含めた人命だからな? 並びに温泉。あそこは温泉の体裁にはしてるが、堤防代わりにもなってるはずだからそこが壊されたら村がお湯で埋もれちまうからな」
「畑とか田んぼとかはどうすんのさ」
「村の連中が対策立ててるから、俺らが気にする必要はないな」
「ススキモドキが食い荒らされたら?」
「食い荒らされたって、食い尽くされるわけじゃねぇ。底に被害が出たって俺らにとっちゃ痛くも何ともねぇよ。村の外にだってたくさん生えてる。心配ない」

 情報通りだと、村や店に害を与えなきゃ生きていけない魔物じゃなさそうだ。
 が、放置する訳にゃいかねぇしな。
 それに、冒険者達の言う通りなら、親と思い込んでるリースナー母子を探し回っているってことだ。
 目的もはっきりしてる上、なんつーか、人道上、会わせてやらねぇと、なんとなく夢見が悪ぃっつーか。

「でも、そういうことになると……いつここに来るか分かりませんよね? いや、ここに来れるかどうかも分かりませんよね? 集団戦、無期限のお休みってことになるんですか?」

 確かにここに来るとは限らない。
 けど他のところで捕獲されたりしたんなら注意報も解除されるはずだろうから、いつまでも気にかけなきゃいけないってこたぁねぇんじゃねぇか?

「市町村を荒らしてる魔物が希少種ってことが分かってんなら、冒険者らなら黙ってらんねぇんじゃねぇか? その職業以外にも、売れば高値になるってんなら捕獲目的で動く連中もいるだろうし。そんなに長い間にならねぇと思うぞ?」
「……でも、もしリースナーさんを探してるってんなら……そんな結末にはなってほしくはないよねぇ……」

 ヨウミの言うことももっともだ。
 だがそればかりはターゲットの行動次第だからなぁ。

「でも、集団戦の訓練は中止にまでしなくていいんじゃない?」

 ほ?

「どうして? マッキー」
「こっちの人数何人まで、っていう条件つけたらいいんじゃない? もちろん全員が警戒してれば、それだけ被害は抑えられるだろうけど」

 ふむ。
 申し込みした連中も、中止とか延期とかがっくりするよりは……まぁ継続してくれてうれしいとは思ってくれるか。

「するんならあ、四人までかなあ」
「でも一チームにつき三人までってのが定番になったわよね。こっちが三人でも、いい勝負になったって結果出したチーム、未だにないもの。一日こっちは三人限定、でいいんじゃない?」

 となると、延べ人数六人で、午前午後の二回ということで。

「出番がない奴が三人出るが、そいつは警戒担当、ということで……」
「サンセーイ」
「分かりました」
「ミッ」

 特別重要な話題じゃないし、通話機があるからいつでも呼び出せるから特にあげなきゃならない話題でもないが、隠し事とか報告や相談なしで痛い目に遭ったことは数えきれんかったからな。
 意思伝達は必要だろ。

 ※※※※※ ※※※※※

 予想に反して、その時は意外と早くやってきてくれた。
 そして、村にやってきた魔物も、俺らの予想を裏切ってくれた。
 どうすんだよこれ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...