勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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米からの騒動編

例のブツが行方不明 その5

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 斯くして、魔物と俺達との接触の時間が来た。

『アラタ。ミアーノだ。感知した。ひっくり返しゃあいいんだよな』
「あぁ。店にいる冒険者達も混ざるとよ。お前らの行動に合わせるように伝えといた。冒険者の動きは気にせずに、好きに動いて構わねぇ。よろしく頼む」
『了解』

 地中のトラップのプロが二人。
 安心できるコンビ……のはずだった。
 亀なんだから、ひっくり返ったらこっちのもん……のはずだった。
 あとは寄ってたかって、攻撃力の高い冒険者達が仕留めて終わり……のはずだった。
 ガンジュウの動きの速さは、常にこっちの想像を上回るかもしれないってことも頭に叩き込んでたはずだったし、あの二人だってそのつもりだったろう。
 しばらくして通話機の着信音が鳴った。

『あかんっ! どないしよ!』

 おいおい。

「あかんて……何があった」

 まさか冒険者達がくたばってんじゃねぇだろうな?
 ま、それは有り得ねぇか。
 なんか泡くってるようだが、全員無事なのは分かってる。

『魔物、ぬかるみに足を取られる思うとったが、足取られる前に抜かれちまっとる!』
「……ひっくり返せないってことか?」
『あぁ。速度はいくらか抑えられるが、止められんわ!』

 プロからどないしよなんてこと言われても、素人が、ましてや戦闘だってど素人の俺がどんな指示出せるってんだ!
 最悪じゃねーか。
 ただ、槍衾はサキワ村の内部の要所を覆うように配置されていた。
 そしてうろうろしながらこっちに来るということは、あちらこちらに存在していた槍衾は、目標には効果があったということだ。
 ということは、幸いなことにその効果は十分発揮されている、と考えていいはずだ。
 それでも念のため。

「最悪でも、村の中心地に向かわせんじゃねぇ」
『ほしたら、そっちに行くんやねぇの? ええんか?』
「水路や温泉が破壊されたらまずい。だが、岩盤も丈夫だったって話もしてなかったか?」

 確かそんな話を聞いた気がする。

『あ、あぁ。じゃが、岩盤は流石に手が出んわ。岩盤の上歩かれたら、こっからじゃ無理だわ』
「……水路が破壊されそうになったら、川底を深くして水量を増やせば洪水は防ぐことは」
『あ? あ、あぁ、そりゃ何とかできらぁが……』
「お前ら二人に頼めることは、村に向かわせないことと、洪水の断固阻止。地中からそいつを仕留めろだなんてわがままは言わねぇよ」
『す、すまねぇ』
「気にすんな。後は頼んだ」

 いつも飄々としたミアーノが、あんな殊勝な口を利く。
 自体はかなりやばいかもしれん。
 だが狙いはリースナー母子だとするなら、そこだけ守ってりゃいい話……のはずだ。
 念のため、ドーセンとこで働いてた子供を呼び寄せといて良かった。
 万が一槍衾を抜かれたら、子供の命はまずなかろうよ。
 ついでに村がどうなるか……。
 もっとも、あの魔物の目的が分からん以上、どこに向かっているのかは予想でしか言えない。
 ……リースナーに向かって移動している……つか、移動している先がリースナーってことなんだろうが……。
 感情は分かっても思考までは読めないからなぁ。
 そして俺らが、その変化に対応するには……。
 このまま、タオルを販売している温泉の脱衣所の建物の前で陣取ることだけ。

 ※※※※※ ※※※※※

 気配を察知する能力で、何度も窮地から逃れることができた。
 けど、気配を察知できずに何度か窮地に追い込まれたこともあった。
 何かに集中すると、多方面に気が回らないから。
 なんて自己分析をしてみる。
 例を挙げると、米の性質を見分ける作業をしている間はそれに集中するあまり、それどころじゃない事態が起きても直前まで気が付かない。
 魔物の襲来に気を付けていたら、自然災害が起きてることに気付けなかった。そんな感じ。
 ということは、だ。
 能力の高性能が、性格とか思考の性質によって閉ざされてしまうってこった。
 なんちゅー勿体ないことだろうか……。
 ……なんて考えてる余裕、本当はねぇんだよなぁ……。

「どうしたの? アラタ。顔、青いわよ?」

 うん……報告、連絡、相談は大切だってこと、俺だって知ってるよ?
 けどな。
 事案の存在に気付かなきゃ、それすらできないわけでな。
 気付いた時、気付いた後にそれらはできる。

「……もう一体、魔物が接近中……」
「え?!」

 いや、みんな……。
 俺のせいじゃねぇよ?!
 俺が呼び込んだんじゃねぇんだよ?!
 魔物が悪いんだからなっ!
 だから、そんな目で見るんじゃねぇよ!
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