勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

文字の大きさ
332 / 493
深夜の孤軍奮闘編

奴らは寝苦しい夜にやってくる 暑い夜が続く限り、奴らの襲来は止まらない

しおりを挟む
 そして翌朝の飯の時間。
 みんなで揃ってご飯を食べる。
 一日の始まりの時間でもあるからして、ミーティングも欠かさないんだが、まぁ一日の中での回数が少なくなった語らいの時間帯。
 ……はっきり言えば、雑談の時間というべきかね。

「久々に、夜中に彼の羽音聞かされてなぁ」
「へー。あたしはあんまりきにしないけどねー」

 羽根、羽毛でコーティングされてるテンちゃんには、確かに皮膚まで潜り込むにはかなり苦労しそうだよな。あんなちっぽけな体だし。
 皮膚に到着できたとしても、刺して体液を吸えるかどうか。
 人の血液なら吸うだろうが、蚊の栄養になるかどうかも不明だしな。

「あたしは、近寄ったら電撃で必殺よね」

 コーティなら……オーバーキルどころか、部屋……店を壊しちまうんじゃねぇの?

「私もあまり聞いたことがありません。マッキーは?」
「あたしも。ヨウミは気にしそうよね。アラタと同じ人間だし」
「あたしは時々うなされるよ? 耳元で、近寄ったり遠ざかったりするあの羽音、うっとおしいもん。けど、ここしばらくは聞いたことないなー」

 血液型によって、近寄ってきやすいとか何とかって話は聞いたことがあるが……どうなんだろうな。

「でえ、どやってその蚊とやらを退治したんだぃや? 話だけ聞いてりゃ、やたら厄介な相手そうだってなあ分かるんがな?」
「水の魔球でな。あぁ、二個使った。蚊を溺死させるためと、羽根に水分吸わせて重くするためにな」
「へえぇ。水分吸うと、羽根が重くなるの? 初めて聞いた」

 そりゃテンちゃんの羽根は、確かに水分吸いそうだ。
 だがそれで飛べなくなるとはとても思えん。

「テンちゃんって、飛べなくなることあるの?」
「そりゃ羽根のとこ怪我したら飛べなくなるよ? あと凍っても飛べなくなるねー」
「寒くなったらかじかんで飛べなくなることは?」
「分かんない。寒いとこ好きじゃないし、飛べなくなるほど寒いとこには行きたくないし」

 こいつを布団代わりにして寝てたこともあったしな。
 それ程温かい奴が冷える場所って相当寒いとこだぞ?
 北極とか南極とか。
 こっちの世界にあるかどうかは分からんが。

「サミーはどうなんだろうね。凍ったら飛べないだろうけど」
「羽ばたきっポイのはあんまり見ないよね。ひれの先だけちょこちょこ動かしてるのは見るけど」
「凍っても飛べるの? サミー」

 サミーは体をひねる。
 というか、体の先端をひねってる。
 というか、顔の付近。
 首がないから、首をひねってるつもりなんだろうな。
 両腕はピクリとも動かないから、本人にも分かんないってことなんだろ。
 寒冷地に行ったことがないから、それもそうだよな。

「デ、ソノカトヤラヲコロシタッテハナシダッタナ。タイグンダッタノカ?」

 蚊の大群がいたら、俺の方が逃げ出すわ。
 気味悪いったらねぇよ。

「三匹だった。一匹なら意地でも叩き潰すとこだったが、薄暗がりでもそんなことをするのが難しい相手が三匹だからな」
「三匹い? たったあ、三匹なのかあ?」
「ん? あぁ、そうだが、どうかしたか?」

 モーナーばかりじゃなく、みんなから、何やら冷たい視線が。
 物理的に冷たい視線だったら、暑い季節なら心地よかろうが……。
 でもそんな目で見られる覚えはねぇぞ?

「たった、三匹で、ねぇ……」
「オコシテクレレバ、タイジシテアゲラレタノニ」

 何だよ。
 俺が何かしたってのか?

「アラタ……気付いてないの?」
「何がよ、ヨウミ」
「水の魔球二個。一個は正規品、一個は廉価版だったはずよ?」

 そうだっけ?
 よく覚えてねぇけど……。

「それが?」
「正規品、五万円くらいじゃなかった? 廉価版は一万円だったはず」
「……え?」

 あ……。

「正規品の価格は覚えてないけど、一万じゃ買えないってのは知ってるよ? 百万、五十万はしないはずだったから十万。もっともシアン達が作った物だから、価値だけを考えれば百を越えてもおかしくないけどね。蚊を三匹退治するのに、六万以上」

 う……。

「一晩我慢して殺虫剤買いに行ったら、千円あったらお釣りくるよね。そんな費用を、まさか六桁超えるかもしれない金額の……。まぁ、いいけどさ」
「私達は、お給料に響かなければ特に問題、ありませんから……」
「カモ、マホウトカツカッタノカナ? ヤコウセイハソッチホウメンデキケンダカラネ」

 蚊が魔法を使うなんて聞いたことねぇし。
 つか……何で、俺……。

「……補充は必須よね? アラタ自身のためにも」

 わーってるよ、マッキー……。

「そういうの、なんて言うか知ってるよ。贅沢って言うんだよねっ」

 いや、もう……。
 テンちゃん、黙っててくんないかな。

「さ、みんな、今日もしっかり働きましょうねー」

 そんな冷たい言い方は、それはそれで堪えるんだが……。
 ……それにしても、だ。
 気配を察知できても位置まで把握させない蚊が、俺にとって一番の天敵かもしれん。
 被害総額五万円以上……どうしてこうなった……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

処理中です...