勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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薬師の依頼の謎編

その男は、雪が降り始めた日にやってきた その4

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 茎の太さは、大体一センチ。
 花を真上から見た直径は……十センチくらいか?
 花の部分の上下は十五センチくらい
 全体の丈は……四十五センチくらいか?
 そんな一株の花の鉢植えをみんなに見せた。

「雪月草、ねぇ」
「セツゲツソウ……」

 晩飯時。
 いつも通り輪になって座る俺達の中心に、例の花の鉢植えが一つ、ぽつんと置かれてある。

「聞いたことないしい、初めて見る花だなあ」
「あたしもモーナーに同じ……。みんなは?」

 ヨウミも、一応人間社会に馴染んでいるモーナーも知らないという。
 おそらくこの花の名前は、人間が付けたものだろう。
 人間が好き勝手につけた名前だ。
 魔物達にはもちろん馴染みはないはずだ。

「ミタコト、ナイナー」
「私も見たことはないです……」
「あちこちの森を渡り歩いたけど、あたしもないわね」

 そんな人間の都合でつけられた名前なんか、みんなも知るはずがない。
 ライムもクリマーもマッキーも、名前は当然ながら、見たこと自体ないという。
 レアな花というだけのことはある。
 テンちゃんもコーティも、もちろんサミーも見たことがない。

 ところが……。

「おりゃあ……うん、見たこたぁねぇな」
「ヒョットシテ……アレカナ?」
「んだよ、ンーゴ、おめぇ、知ってんのか?」

 ンーゴは知ってるらしい。

「タシカ、オナカノナカニシマッテタハズ……」

 あぁ。
 ンーゴは体内に収納できるんだったな。
 って、なんでまた、俺にとっちゃ都合いいように話が進むんだ?

「メズラシイモノハ、イチオウヒロットイテル。ソレメアテニヨッテクルヤツモオオイシ」

 たしかに物好きな奴とか、言ってることが真っ当なら今回来たダックルとやらのような、それを必要とする奴らとかなら、たくさん寄ってくるだろうな。
 ……寄って来たやつらをどうすんだ?
 想像するだけで、ちと怖い。

「メシニナルヤツラナラ、タクサンタベラレルカラ」

 飯になる奴らって……。
 あ、魔物も食ったりするのか。
 ……少なくとも今は、人を食ったりするようなことは……ないよな?
 でなきゃ集団戦で、有難がられたりクレームつけられたりすることはないだろうから。
 クレームが来る前に食っちまうほうが早いしな。
 ……って考える俺も、まともじゃないような気がするが……。

「コレナラ、イツツクライモッテル」

 ……俺が感じた気配、近くにあるようなないような、と思ってたら……ンーゴが持ってたのか。

「へえ」
「見せて―」

 見せて―ってテンちゃん……。
 実物は既に、そこに見本としてあるじゃねぇか。
 ンーゴが持ってるそれとは気配は同じだし、多分外見はほとんど変わんねぇぞ?

「ンート……コレデショ? ソレト……コレ……」

 体内に触手があるんだな。
 中に入ったことは何度かあったが、いずれもそんなのは見たことはなかった。

「コレデイツツ」
「おんなじだね」

 おんなじはいいんだけどよ。

「でも鉢植えじゃないわね」
「マッキーさん。、ンーゴさん、見つけたら収集したって言ってましたよね。鉢植えだったら、どこかの誰かの所有物を持ってきたってことになるでしょう?」
「それもそっか」

 見本の鉢よりも大きい土の塊から、一本の花が生えている。
 間違いなく、野生の花を、根っこが張ってる範囲ごと、ごっそり土ごと拾ってきた、って感じだ。

「……ンーゴ。これを二つ、俺に譲ってくれないか?」
「カマワナイ。ドレガイイ?」

 どれが……と言われても……興味はあまりないから、その違いが分からない男だ。
 気配は同じ。
 という事は、品質はどれも同じで、見本とほとんど見劣りはない。
 薬か何かの材料にする、というのであれば、どれを選んでも事足りるはず。

「んじゃ俺に近いその二つを」
「ハイ、ドウゾ」

 もらいたいところなんだがな。

「……対価は何がいい?」
「タイカ?」
「大火事のことよね」
「テンちゃん、うるさい」
「はぅ……。コーティ……優しくない……」

 当たり前だ。
 空気読め、この馬鹿天馬。

「ベツニイイヨ。コレヲサガシテアルイタワケテデモナシ。タマタマミツケテヒロッタモノダシ」
「そうは言うがな」
「ソノミホンミタイニ、ハチウエトカニシテナイシ、ソダテテルワケデモナイシ」

 これは困った。
 金で支払うにしても、その金の価値はンーゴには通用しないだろうし。
 集団戦での賃金は、ドーセンとこでの飯代にしてるくらいだから。

「んじゃよお、俺らが危ない目に遭いそうだったらよお、助けに来てくれるとかにしてくれりゃいいんでねぇの?」

 いや待て。
 なんてこと言うんだ。

「ミアーノ。お前らが危ない目に遭ったんなら、助けに行く俺はもっと危ない橋を渡ることになるだろうに。助けに行くはずが、お前らに助けられる羽目になるんじゃねぇか? 助けに行く気は満々だけどよ」
「いやいや、危険なば多くはなくなったんべ? その防具があるんだしよ」

 そりゃまぁそうだが。

「ウン、ソンナンデイイヨ。ソノフタツ、モッテイケ」

 ンーゴの善意が有り難い。
 これで、この件でのこちらの落ち度はなくなった。
 あとはシアンからの連絡を待つだけ。
 だったんだが……。

 ※※※※※ ※※※※※

 翌朝の連絡で、話は変な方向に進み始めることになった。
 俺の通話機に来た連絡は、シアンからではなかった。

「あー、もしもし」
『俺だ。国王親衛隊のアークスだ』

 シアンからの連絡待ちだったのに、親衛隊から連絡が来た。
 何か頼んだり頼まれたりしたっけか? と思ったら。

『国王は、親衛隊の何人かと一緒に泉現象の魔物討伐に出かけてな。代わりに連絡しといてくれっつーことでな』

 あぁ、そういうことか。

『アラタが調査の依頼したのは、東門近くの薬療所の所長の件だろ? ちと問題が起きてな』

 問題?
 何の問題があるってんだ。

「もったいぶらずに教えてくれ。場合によっちゃ国が……」
『一か月……いや、二か月か? 二か月くらい前から消息不明らしいんだ』

 へ?
 何それ?
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