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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編
村のために みんなのために その1
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五才に満たない子供が一人で、大人が何人束になっても敵わないドラゴンを倒した。
人間の大人が何人も束になって、ようやく倒せるかどうか、というドラゴンを、エルフの子供が一人で倒した。
そんな事実を、その子供が大人達に告げるとどうなるか。
これまでの常識がひっくり返ってしまう。
これまで蓄積されてきた価値観が壊れ、高い価値と思われていた物がガラクタになるような混乱が起きる。
価値のある財産が、そのせいで無一文も同然となってしまっては、安定した生活が根底から覆されてしまう。
その責任者となる覚悟も自信もあるわけがない。
五才に満たない子供が、そんな志をもてるはずがない。
でも、あたしには、あの光の矢を放った感触は覚えていた。
どうやって光の弓を出したのか。
どうやって光の矢を出したのか。
どうやって矢の形を変えたのか。
覚えているから、再現もできる。
その確信も得ていた。
けれど、友達や家族、村の人達に知られちゃいけない。
威力が大きくなければ、ほんの数秒でもあの弓矢を射出する練習はできた。
それどころか……。
「マッキーちゃん、最近弓矢の扱い、上手くなったよね」
「距離も伸びたし、力強さも出てきたね」
弓矢に魔力を込めて打つ。
すると、力任せに矢を放つよりも、周りの子が言うように命中率も破壊力も上回り、練習するたびにどんどん増強されていく。
もちろんその魔力の放出は、他の人に感じ取られることはなかった。
ちなみに、あの一件の後、あたしの弓矢が森の中に落ちてたのを、父さんが見つけてくれた。
怒られはしなかったけど、叱られた。とほほ。
なお、はぐれて森に迷い込んだドラゴンは一体だけ、と確認されていたから、行動の制限は、翌日から解除された。
※※※※※ ※※※※※
年月は更に経ち、年齢は十二才。
知恵もつき、頭も回るようになってきた。
誰にも知られないようにさらに工夫して、光の弓矢の練習をする時間をさらに増やしていった。
けどまだ子供。
大人同士の会話で、軽い願望を口にしているのを聞くと、そうするのがいいのかと思い込むことも多い。
「西の森の方はさ、山の向こうは人間の集落があったろ?」
「そりゃあるが……あの山越えて何かする気か?」
「違う違う。北の方はドラゴンがいるよな。それを考えると、西の方の崖にさ、どでかい穴作って、飲み水が湧いたら、あそこを狩り場の休憩所作れねぇかなって」
「そんな穴開けるのにどんだけ苦労すると思ってんだ。その体力と気力を狩りに向けた方が効率は高いだろ。飲み水なんて、湧くかどうかまでは分かるわきゃねぇしな」
「それもそうだけどよ、妄想するくらいならタダだろうが」
「妄想も大概にしろよ? 現実を見たらがっくりして、気力は萎えること間違いなしだからな」
村の青年の立ち話でそんな会話が耳に入った。
村の人達の役に立てたら、みんなこの力を喜んで歓迎してくれる。
そんな風に思うようになった。
一緒に遊ぶ子達の中で、あたしよりも年下の子も増えてきた。
ある程度の範囲と、短時間なら、一人で森の中を移動することもできるようになった。
西の森で遊ぶことになったとき、周りの子達に気付かれないように、一人で山の方に近づいた。
「洞窟っぽいのが欲しいって言ってたわよね。じゃあ、岩を溶かすような高温付きの、大木で作った杭の先を大きくした矢じりで狙ってみたらどうなるかな?」
高熱、寒冷、電撃。
そんな効果を付属させた光の矢を生み出すのは、もうお手のものだった。
けどなぜか、魔法はからきしだった。
「この大きさなら十分よね。狙いを定めて……えいっ!」
住まいではなくて休憩所、と言っていた。
なら、そんなに奥深くまで掘る必要はない。
湧き水までは流石に難しい。
洪水が起こっても困るから。
「よしっ。今日も成功。じゃ、急いでみんなのところに戻るか」
この日も、あたしが一人でこんなことをしてるのを誰からもバレず、その後はいつものようにみんなと楽しく遊んで、何事もなく家に戻った。
しかし村に騒ぎが起きたのは、次の日だった。
※※※※※ ※※※※※
「お前だろ? あの洞穴作ったの」
「違うよ。俺はただ、あんな穴があったらいいなって思っただけだ。それに本気でそんな場所を作るとしたら、湧き水だって掘ってたさ」
「まぁでも、あんな場所ができたってんなら利用しない手はないだろ? 何か被害が起きるわけでもなし」
「これから起きるかもしれないだろ!」
「地盤は固いし、洞穴の内部も相当丈夫だった。地震が起きたり崖崩れが起きるようなことはないと思うぞ?」
「けど誰が作ったんだよ」
「昨日、誰か、穴ができる前のあの場所見たか?」
「一昨日なら見た。普通に崖だった。そりゃ触るようなもの好きじゃないから、普通の崖かどうかまでは……まぁでもあんな穴を塞いでたら、どっか変なところがあるって気付くはずだしな」
「一昨日か……昨日は?」
「誰も見てない……か?」
「あ、うちの子が昨日、西の森に遊びに行ったっつってたな」
「一人でか?!」
「まさか。仲良しの子供達同士……十二、三人くらいで、らしい」
「子供の記憶じゃあいまいなところあるだろうが……聞いて見て無駄なことはないとは思うが……」
一緒に遊びに行った子供達は家族から聞かれた。
その結果、あたしも含めたみんなが、崖の方に行った子はいなかった、という答えで一致した。
けれどその中の三人くらいが「ちょっとした間なら、そこに行ける子はいたんじゃないかな? でもみんないつも一緒になって遊んでた気がする」と答えたらしい。
「そう言えば、ドラゴンの首落とし。マッキーちゃんとリーモちゃんの二人だけだったわよね」
「今回はリーモちゃん、行かなかったらしいわよ?」
「ダークエルフ……なんだよな、あの子」
仲良しの子達は、その後も相変わらず一緒になって遊んでた。
けど、あたしのことをよく知らない大人達からは、ますます敬遠の態度が目につくようになっていった。
人間の大人が何人も束になって、ようやく倒せるかどうか、というドラゴンを、エルフの子供が一人で倒した。
そんな事実を、その子供が大人達に告げるとどうなるか。
これまでの常識がひっくり返ってしまう。
これまで蓄積されてきた価値観が壊れ、高い価値と思われていた物がガラクタになるような混乱が起きる。
価値のある財産が、そのせいで無一文も同然となってしまっては、安定した生活が根底から覆されてしまう。
その責任者となる覚悟も自信もあるわけがない。
五才に満たない子供が、そんな志をもてるはずがない。
でも、あたしには、あの光の矢を放った感触は覚えていた。
どうやって光の弓を出したのか。
どうやって光の矢を出したのか。
どうやって矢の形を変えたのか。
覚えているから、再現もできる。
その確信も得ていた。
けれど、友達や家族、村の人達に知られちゃいけない。
威力が大きくなければ、ほんの数秒でもあの弓矢を射出する練習はできた。
それどころか……。
「マッキーちゃん、最近弓矢の扱い、上手くなったよね」
「距離も伸びたし、力強さも出てきたね」
弓矢に魔力を込めて打つ。
すると、力任せに矢を放つよりも、周りの子が言うように命中率も破壊力も上回り、練習するたびにどんどん増強されていく。
もちろんその魔力の放出は、他の人に感じ取られることはなかった。
ちなみに、あの一件の後、あたしの弓矢が森の中に落ちてたのを、父さんが見つけてくれた。
怒られはしなかったけど、叱られた。とほほ。
なお、はぐれて森に迷い込んだドラゴンは一体だけ、と確認されていたから、行動の制限は、翌日から解除された。
※※※※※ ※※※※※
年月は更に経ち、年齢は十二才。
知恵もつき、頭も回るようになってきた。
誰にも知られないようにさらに工夫して、光の弓矢の練習をする時間をさらに増やしていった。
けどまだ子供。
大人同士の会話で、軽い願望を口にしているのを聞くと、そうするのがいいのかと思い込むことも多い。
「西の森の方はさ、山の向こうは人間の集落があったろ?」
「そりゃあるが……あの山越えて何かする気か?」
「違う違う。北の方はドラゴンがいるよな。それを考えると、西の方の崖にさ、どでかい穴作って、飲み水が湧いたら、あそこを狩り場の休憩所作れねぇかなって」
「そんな穴開けるのにどんだけ苦労すると思ってんだ。その体力と気力を狩りに向けた方が効率は高いだろ。飲み水なんて、湧くかどうかまでは分かるわきゃねぇしな」
「それもそうだけどよ、妄想するくらいならタダだろうが」
「妄想も大概にしろよ? 現実を見たらがっくりして、気力は萎えること間違いなしだからな」
村の青年の立ち話でそんな会話が耳に入った。
村の人達の役に立てたら、みんなこの力を喜んで歓迎してくれる。
そんな風に思うようになった。
一緒に遊ぶ子達の中で、あたしよりも年下の子も増えてきた。
ある程度の範囲と、短時間なら、一人で森の中を移動することもできるようになった。
西の森で遊ぶことになったとき、周りの子達に気付かれないように、一人で山の方に近づいた。
「洞窟っぽいのが欲しいって言ってたわよね。じゃあ、岩を溶かすような高温付きの、大木で作った杭の先を大きくした矢じりで狙ってみたらどうなるかな?」
高熱、寒冷、電撃。
そんな効果を付属させた光の矢を生み出すのは、もうお手のものだった。
けどなぜか、魔法はからきしだった。
「この大きさなら十分よね。狙いを定めて……えいっ!」
住まいではなくて休憩所、と言っていた。
なら、そんなに奥深くまで掘る必要はない。
湧き水までは流石に難しい。
洪水が起こっても困るから。
「よしっ。今日も成功。じゃ、急いでみんなのところに戻るか」
この日も、あたしが一人でこんなことをしてるのを誰からもバレず、その後はいつものようにみんなと楽しく遊んで、何事もなく家に戻った。
しかし村に騒ぎが起きたのは、次の日だった。
※※※※※ ※※※※※
「お前だろ? あの洞穴作ったの」
「違うよ。俺はただ、あんな穴があったらいいなって思っただけだ。それに本気でそんな場所を作るとしたら、湧き水だって掘ってたさ」
「まぁでも、あんな場所ができたってんなら利用しない手はないだろ? 何か被害が起きるわけでもなし」
「これから起きるかもしれないだろ!」
「地盤は固いし、洞穴の内部も相当丈夫だった。地震が起きたり崖崩れが起きるようなことはないと思うぞ?」
「けど誰が作ったんだよ」
「昨日、誰か、穴ができる前のあの場所見たか?」
「一昨日なら見た。普通に崖だった。そりゃ触るようなもの好きじゃないから、普通の崖かどうかまでは……まぁでもあんな穴を塞いでたら、どっか変なところがあるって気付くはずだしな」
「一昨日か……昨日は?」
「誰も見てない……か?」
「あ、うちの子が昨日、西の森に遊びに行ったっつってたな」
「一人でか?!」
「まさか。仲良しの子供達同士……十二、三人くらいで、らしい」
「子供の記憶じゃあいまいなところあるだろうが……聞いて見て無駄なことはないとは思うが……」
一緒に遊びに行った子供達は家族から聞かれた。
その結果、あたしも含めたみんなが、崖の方に行った子はいなかった、という答えで一致した。
けれどその中の三人くらいが「ちょっとした間なら、そこに行ける子はいたんじゃないかな? でもみんないつも一緒になって遊んでた気がする」と答えたらしい。
「そう言えば、ドラゴンの首落とし。マッキーちゃんとリーモちゃんの二人だけだったわよね」
「今回はリーモちゃん、行かなかったらしいわよ?」
「ダークエルフ……なんだよな、あの子」
仲良しの子達は、その後も相変わらず一緒になって遊んでた。
けど、あたしのことをよく知らない大人達からは、ますます敬遠の態度が目につくようになっていった。
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○○○
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