勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

村のために みんなのために その3

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 木登りの上り下り競争をしたらどうだろうか?
 上り切ったと思ったら、すぐに下りなきゃならなくなる。
 上で何かをしたとしても、競争真っ最中なら誰だってそう思いこんでくれるに違いない。

 つまりあたしが誰も見ることのない木のてっぺんで倒木を砕いたとしても、何もする暇もない、とみんなから証言してもらえるに違いない。

 もちろんあたしも、それに甘えて時間がかかるようなことはしちゃいけない。

「木登りしたいけど、誰か競争しない?」
「え? 木登り?」
「俺、やってみようかなー」
「競争は面白そう」
「あたしは弓かなー」
「俺は虫取りがいいなー」

 みんなが木登り競争に参加したいと言ってきたら、それはそれで困ることになったかもしれなかった。
 矢を射るところを目撃される可能性が高くなってただろうから。
 やりたいことがばらついて、ある意味助かった。

「じゃあ木登りしたい子、集まれー」

 七人ほど集まった。
 人数も多すぎず少なすぎず。
 いい感じになってきた。

 ※※※※※ ※※※※※

「でもさー。高さってどれも違うよね」

 言われてみれば。
 あたしが選んだ木が低かったら……見られちゃうかもしれない。

「んじゃ好きなのみんなで選んで、まずそれに上って下りて、それで順位決めて、そしたら他の子が選んだ木を上って下りて、また順位を決めて、全体的に早く上り下りできた子が一番、てのはどう?」

 他の子がそんな提案をしてきた。
 これはありがたい。
 一本目を上って、他の木が高かったら、一番高い木を確認する。
 次に別の木を選んで、今度は倒木の現場を確認する。
 三本目以降に一番高い木を選んでてっぺんに上って、倒木を砕く。

 ……その木を選ぶのは、遅ければ遅いほどいいな。
 突かれててっぺんまで上るのに時間がかかった、という言い訳もできる。
 異様に早く下りることになったら、途中で降りた、と疑われる。
 つまり、時間に余裕が生まれるかもしれない、ということだ。

「待った。途中で下りるかもしれないインチキを防止するために、リボンを結んで下りる決まりにするのはどう?」

 これは……。
 さらにあたしに都合のいい案が出てきてくれた。

「あー、それ、いいね。次に上った子がそのリボンを確認できるしね」

 結ぶ手間がかかった言い訳をすれば、ある程度矢を射るまでの時間を長くとれる。

「七人だから、七回木登りすることになるよね。リボンはしっかり結ばないと解けるかもしれないから、しっかり結ぼう。ちょっと疲れそうだけど、その決まりでやろうよ」

 と、真っ先に賛成。
 そして競争が始まった。

 一本目。
 計画通り、一番高い木を確認しながらリボンを結ぶ。
 そして下りたあたしは三番目の早さだった。

 二本目は、一本目に選んだ子が結んだリボンを確認。
 そして、倒木の位置を確認。
 それからリボンを結んで下りる。
 下りて地面に到着したのは二番目だった。

 あまり早く下りると、急に遅くなった時に怪しまれる。
 三本目は四番目に下りた。

 途中で競争をやめよう、という子が出てくるかもしれない。
 けど順位が極端に下がるのも避けたい。
 五番目に一番高い木を選ぶことにして、四本目の木も四番目に下りた。

「はぁ……はぁ…‥はぁ……。これって、結構疲れるね」

 なんてことも言ってみる。

「マッキーが一番早かったの、一本目だっけ?」
「うん。高さもそこそこあったね」
「四番目に上った木、一番低い木だったよね? 頑張れる?」
「うん、何とか……頑張るっ」

 あたし、結構芝居、上手いかも。

 そして五番目。
 地上で別のことをして遊んでいる子が見上げても、あたしは多分見えない。
 ただでさえ高い木だ。
 枝葉がなかったとしても、遠く離れることになるから、どこにいるか分からなくなるに違いない。

 上り切ってリボンを結ぶ。
 これで往復した証拠ができた。
 急いで小さい光の弓を出し、大量の短い、小さい光の矢をつがえる。

「方向、よし。あとめいっぱいの力を入れて……飛んでけっ!」

 手元から小さい光がたくさん飛んで行った。
 倒木が、そのまま崩れていく様子を見てすぐに下りる。
 そして……。

「はぁ……はぁ……。あたし、ちょっと疲れちゃった~休んでいい? まさか五回も、急いで行ったり来たりするとは思わなかったからさあ……。リボンは結んできたけどね……」
「んじゃマッキーちゃん、六番目と七番目は七位でいい? そうすれば、競争が最後までできるから」
「あー、うん、それでいいよー。あたしここで休んでる。……あ、でも次の競争は誰かあたしが今上った木を選んでくれる? あたしのリボン確認してもらわないと……」
「あ、それもそうだな。俺まだその木、上ってないから俺行ってこよっと」

 あたしはこうして目的を遂げた。
 誰も丘のふもとの倒木の変化に気付くどころか、倒木があったことすら知らなかったようだった。

 ちなみに競争の順位は、あたしは最下位になった。
 あたしが穫れなかった一位を、みんな一度は取っていた。
 そして七位を二つ以上取ったのはあたしだけ、ということで。

 こうしてこの日のお出かけは終わった。
 誰にもバレず、誰の目から見てもあたしが変に思われるようなこともなく、全てが上出来のまま、この日一日も終わった。

 けれども、数日後、ちょっとした騒ぎになってしまった。
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