勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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番外編 この世界で唯一前世の記憶を持つダークエルフ編

宿とこの街にて その4

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 あたしに声をかけてきた五人の冒険者パーティは、星の頂点、という名前なんだそうだ。
 その名前で、この「安ら木荘」に連泊しているんだとか。

「俺は、この武器しか使えないってことで、ウォードルって冒険者名にしてる」

 あたしをお嬢さんと呼んでくれた戦士の男がそう言った。
 うん。
 確かに仲間から、そんな名前で呼ばれてたね。

「あたしはしろがね。装備も武器も銀色が多いでしょ? だから」
「そりゃただの素材の色ってことだけだろ。銀色に染めたわけじゃねぇんだし」
「うっさい! 黙れ! カスミビ!」

 まぁ確かに金属には、くろがねとしろがねってあるけど、そこまで気にする事かなぁ?
 拘りとかあるのかな。

「あー、で、俺はカスミビ。罠の解除とか偵察とか……あ、もちろん俺だって魔物に攻撃することはあるぜ? けど、そんな鉄火場よりも、そういう裏方っぽいのが専門つか、担当っつーか」

 道理で軽装備なはずだ。
 重装備で偵察なんかしたら、バレて追いかけられたらすぐに捕まる。

「俺はタテビト。ご覧の通り、盾になる役目だからな。よろしくな」

 大柄な重装備の男は、確かにその呼び名に相応しい体格。
 守られる人なら誰でも、頼り甲斐がありそうに見える。

「あたしはメーイ。四代元素の魔法と回復と補助魔法担当。あ、回復は解毒とかもあるから。よろしくね」

 名前とパーティの簡単な役割の説明を聞いた。
 ほかには、この五人は同じ村出身で、子供の頃から仲がいいという話とか、この業界では中堅の域に入ってきてるが、もっとこの名前を広めるために多少手こずってもいいから、より凶悪な魔物退治に力を入れたいというような話を聞いた。

「まぁでも、いくつものパーティが集まらないと倒せない飛竜の討伐は、流石に無理はあるけどな」
「二百五十万円は魅力的だけどね」
「一人頭五万円って話らしいよね」
「でかいのを仕留めても、パーティ数が十を超えてちゃ、名を挙げようにもなぁ」

 一人で倒せましたが、何か?
 けど、光の弓矢は秘密にしとこう。
 あたしだけが負担を強いられ、その功績は六等分じゃ割に合わない。

「でもあの飛竜討伐って、国からの公募らしいからあんなに集まったんだよな」
「一個人じゃ無理だろうが、一パーティでの報酬最高額っつったら…‥百万くらいか?」
「百三十万円ね。一パーティでメンバーは四人」
「一人三十万ちょっとか」
「こっちは六人だから……一人頭五十万つったら……」
「三百万の依頼ってことね。無理ね。標的はあの飛竜より強い奴ってことになるから」

 あの飛竜を倒すだけなら、まだ余裕はあったのよね。
 光の弓矢を使えば、敵の強さがどうあれ、気を失うことには変わりないから。

「一人メンバーが加わっても、焼け石に水か」
「敵によっちゃ、火に油だ」
「タテビトもなかなか上手い事言うわね」
「……ねぇ、百五十万ってのがあるみたいよ? パーティがいくつか引き受けてるけど……」

 しろがねが体をねじって、後ろの掲示板の依頼を一つ一つ見ていたようで、そのうちの一つを読み上げた。

「地下のダンジョン。スライムで種族は不明……か」
「シーナ領域の外だね。防具の材料になる鉱石の掘削地点かぁ」
「てことは、鍛冶職人組合からの依頼、じゃね?」
「ウォードル、正解。流石ね」

 シーナ領域の外、か。
 このパーティに所属していれば、通行料は免除してもらえる……かな?

「引き受けたパーティ数は、今のところ八。……他の依頼は五十万以下か……」
「スライムで種族が不明ってのもなぁ」
「おまけに日の光が当たらない暗い場所。だからこんな高額なのかもね」

 確か、討伐依頼の仕事の場合は、倒した後にその魔物が持っているアイテムを持ち帰ることで、討伐の証明になるって誰かが言ってたわよね。
 スライムって、どんなアイテム所有してるのかな……。

「どうしたの? マッキー」
「あ、えっと、スライムって高熱とか火が弱点よね? もしスライムを燃やし尽くしたらどうなるのかなって……」

 五人は顔を見合わせた。
 何か変なこと聞いてしまったかな?

「魔物討伐の依頼を受けるのは……初めて……かな?」
「えっと……退治したことは何度かあるけど、仕事として、というのは……初めて、だな、うん」

 あぁ、というような顔をする。
 どうやら納得してくれたみたい。

「魔物討伐は経験済みで、依頼は初仕事ってことか。なるほどね」
「魔物が持ってるアイテムをここに届ける。それも達成した証明になるが、他にも証明する方法はある」

 それは聞いたことがないな。

「例えばこの依頼だが、その魔物を倒さない限り、周りの物を手にすることはできない。というのは理屈で分かるよな?」
「うん。いつ魔物が襲ってくるか分からないものね」

 ウォードルがうんうんと頷いている。

「つまり、魔物がいなくなってようやく手にすることができる物とか、その先に通路があるなら、その通路の先で手に入れられる希少な物を持ち帰ることで、その魔物を討伐できたという証になるんだ」

 なるほどね。
 討伐した証明の方法は、討伐した魔物の一部を手にするばかりじゃないんだ。

「じゃあこの依頼、受けていいかな? これの準備してる間に達成の報告が来たら空回りになっちゃうけど、他の依頼の準備にもなるだろうし」
「……この依頼、十日くらい前から出てまだ未達成か。現場まで歩いて二日くらいかかると思う。往復で四日。これだけのパーティが取り組んでも、まだ達成されてないってことは……」
「空回りはないかもね」
「じゃあ俺申し込んで来るわ」
「あぁ、頼む。カスミビ」

 カスミビが酒場のカウンターに向かった。
 依頼の受け付けも請け負ってるらしい。

「じゃあ、明日の午前は準備を整えて、お昼食べたら出発ね」
「現場までは馬車で行こう。地下七層って書いてるから……お、早かったな、カスミビ」
「……ずみ、打倒組、希望の泉、打倒組……」

 カスミビが何やらぶつぶつ呟きながら、あたし達のテーブルを通り過ぎた。
 そして掲示板の前に立つ。

「えっと、希望の泉と、打倒組っつってたな」
「どうした? カスミビ」
「こいつと……こいつ、か。いや、この依頼受けてたパーティ二組が依頼断念したってよ。消してきてくれって言われてな。……まったく、酒場のマスター、横着すんなっての」

 依頼の下に書かれている、引き受けたパーティの名前の数々。
 そのうちの二つが脱落。
 残った六つの名前。
 消された二つの名前のところに、カスミビが星の頂点の名前を書き加えた。

「よーし。じゃ細かい打ち合わせしようか」

 本格的な、魔物討伐の依頼の初挑戦。
 五人は盛り上がりながらも真剣な顔で話し合いを始めた。

 百五十万円の報酬額。
 六等分して二十五万円。
 街門の通行料の埋め合わせに、宿代一泊分。
 これは助かる。
 何事もなく依頼達成したら、この町での生活が楽に始められる。

 この街に入った時は、どうなることかと思ってた。
 しかも周りの環境が目まぐるしく変わるし、この先どうなるんだろうっていう不安もある中で、この人達のと出会いは、実に幸先がいい。

 激動の一日は終わり、明日から冒険者としての生活が始まるってわけだ。
 光の弓矢の存在を隠し続けることに気を付けないとね。
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