勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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新、非勇者編

それから春へ 春になったら湧き出る者が

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 豪雪の冬が終わって、ようやく暖かくなってきた。
 あの時以来、身の回りには泉現象も雪崩現象も起きず、ダンジョンの中も魔物の異常発生は起きず、平穏に過ごせていた。
 ススキモドキも寒さで枯れるから、収穫にも出かけなくていいし、米のストックは、冬の間中も全支店に行き渡るほどの量がある。
 寒いのさえ我慢すれば、理想な生活ができてる。
 まぁ買いに来る連中は普段の三分の一以下くらいまで下がるのは致し方ない。
 その生活が有り難いと思うなら、経済的に厳しい現実は受け入れるべきだろう。

 そんな冬の生活を振り返れば、あいつらはホントによく遊ぶ。
 テンちゃんは、羽根にどこまで雪を積もらせて飛べるか、なんて訳分からんことをしてるし、ライムは新雪の上を転がって自ら雪だるまになろうとしてた。
 クリマーも擬態ができるので、真似して雪の上をコロコロ転がってたし、サミーは雪の中を突進してトンネル作り。
 他の連中もそれに混ざって、それはそれはとても賑やかなことこの上ない。

「俺も混ざろうかな」
「馬鹿言うな! 俺らは雪の中を進む訓練にしに来たんだろうが!」

 それでも来てくれる冒険者らも、この厳しい冬でも鍛錬の場にする。
 そんな連中まで、その楽し気なあいつらに混ざろうとするんだから、実にほのぼのだ。
 俺はまっぴらごめんだが。
 ちなみにヨウミも雪遊びに混ざってた。

 そして、シアンとあのお嬢様一行は、あれ以来姿も見せず、連絡も来ることはなかった。
 心穏やかに過ごせはしたのだが、シアンのことをふと思い出すと、なぜかその度に無性に腹が立ったのは覚えてる。

 そんな腹立たしさも和らぐほどの暖かさ。
 春が来た。
 雪が解けて、新たな植物の芽も芽吹く時。

「……そしてまた米の採集に行ってこにゃ……」

 のんびりできた日々よ、さようなら。
 理想の生活スタイルよ、さようなら。

「何ぶつくさ言ってんのよ。冬は乗り越えたけど、これからのストックはもうないのよ? とっとと米の採集に行かないと、他のお店が困るでしょ!」

 ヨウミにケツを蹴飛ばされた。
 同じ能力を持つ者がいないとは、なんて孤独な俺なのか。

「はいはい。分かった分かった。行ってくるよ」

 冬季の間は休ませていたバイトを連れて、また例年通りの仕事を始める。
 テンちゃん達も、いつものように集団戦の申し合いを再開。
 見慣れた光景がまた日常にやってきた。

 ※※※※※※ ※※※※※

「いつも思うんだが、雪の風景って、白黒なんだよなぁ」

 春のうららかな気温と、夕食時だというのに明るくなっていくこの穏やかな気候のせいで、つい口が緩んでしまった。
 いきなり何を言い出したのか、とみんなが俺の方を見る。

「どうしたの? 急に」
「いや、春になるといろんな色の花が咲き始めるだろ?」
「マァ、ソウダネ」
「暖かさもそうなんだが、その色合いっつーか、お前らも、ここに来る冒険者もバイトの連中も、ちょっと浮かれた感じだよな?」
「まあ、そおだなあ」
「雪が積もると、木々の枝にも雪が積もる。そこに影ができる。雪の白と雪の影の黒ばかりになるんだよなぁ」
「あぁ、何となく分かります、それ」

 白黒の世界が、あっという間にいろんな色に彩られた世界に変わる。
 おまけに、土や木々の香りも漂い始める。

 こんな時間がずーっと続けばいい、と思っていたんだが。

「……何じょした? アラタ。急に暗げな顔しおってよ」

 ミアーノに言われるまでもなく、みんな俺の表情が暗くなったのは分かってたようだった。
 暗くもならぁな。

 二度と顔を見せる必要のない連中が、ここに向かってやって来そうだったから。
 しかも怒り心頭で。

 逃げよっかなぁ……。

「まさか、また雪崩現象?!」
「ちょっと……いくらなんでも、現象多すぎじゃないですか?」

 早とちりすんなよ。
 やれやれ……。
 言わない限り、事実として認めてないってこともある。
 だから現実逃避するには黙っとくのが第一手だと思ったんだが……。
 また後で文句言われちゃうからなぁ……。

「……あのお嬢様ご一行がやってきた。まだ村の外だが、間違いなくこっちに近づいてる」
「……迎撃しましょうか」

 クリマーもちょっと過激になってきてないか?!

「オシツブソウ」

 ライムもっ!

「クリマーもライムも、そんなことしちゃだめだよ」

 おぉ!
 意外とテンちゃんがまともな事言ってる!

「あたしのお腹で、みんなお眠にさせちゃいましょう!」

 おい……。

「それ、名案じゃない! それでいこっ! テンちゃん!」

 ヨウミまでっ!
 ……みんなも乗り気だ。
 よし、実行するか!

「よーし、んじゃまず」
「……あの……アラタさん……」

 不安げにクリマーが俺に話しかけてきた。
 何か問題があるのか?

「えっと……冗談のつもりなんですが」

 泣いていいか?
 泣いていいよな?
 俺の味方、誰一人としていやしないのか?!

 おまけに……。
 奴らの足音に怒りを込めてそうな気配が、もうそこに迫って来ていた。

「アラタアァァァ! ミナミアラタアァァァ! 陛下を……あの人をどこに隠したあああああ!」

 怒声が怖えぇ!
 十何人かの足音が揃って近づいてるのも怖えけど、その言ってる内容も怖すぎる!
 泣く子はいねがじゃねぇだろうが!
 ストーカーか何かが言う言葉だろそれ!
 シアンの奴、あいつから逃げ回ってんのか?!

「ここにいたか、アラタ! ……あの人を……エイシアンムをどこにやった!」

 満面の笑みって言葉はあるのは知ってるが
 満面の怒りって言葉があるなら、まさに今のあいつの顔がそれだ。
 しかもドレスとか履いてるくせにガニ股で、しかも上体は前傾姿勢。
 おまけに顔はこっちに突き出してるし……貴族のお嬢様の欠片すらない。

「に、逃げられたのか? お……」
「お嬢様を愚弄するか!」

 親衛隊が一斉に武器を抜いた。
 ここまで殺気を飛ばされたのは……この世界に来て初めてじゃねぇか?
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