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新、非勇者編
退場すべきもの・登場すべきもの その1
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「待て……その鎧といい、兜といい……最近設えた物のように見えるぞ?」
フレイミーの護衛長が、その子供の後ろに居並ぶ連中の様子を見てそんなことを言う。
破損は激しいが、防具自体は確かに新しめのように見える。
古傷と思われるような傷がどこにも見当たらない。
古傷がついた部分が欠損した可能性はなくもないだろうが……。
「それに、そいつら全員の体にある穴も、最近できた傷のようだ。こいつらは一体……」
一人一人の穴の位置は違うが体を貫通している穴は一か所だけ。
連中の体のあちこちに血の跡はあるが、その穴には血の跡は見られない。
一体どういう傷なんだ?
いや、俺にとって一番の問題は、ゾンビどもじゃない。
小柄な緑の塊だ。
子供……確かに見た目は子供だ。
だが顔は口以外見えてない。
それだけに、気配からその正体を見極めやすいのはありがたい。
顔が見えてたら、その顔が童顔なら、その顔に騙されてしまってたかもしれないから。
そして、その顔を見ずに感じた気配からは……。
「……人間じゃない……」
「は?」
思わず口から出た言葉は、周りには聞こえたようだ。
フレイミーが俺の言葉を疑うような声を出した。
「何を言ってる? お前……」
自分で言った言葉が自分の耳に入る。
その聞こえた言葉が、さらに思考を混乱させる。
自分で自分を混乱させてどうする。
だが、感じた気配は間違っちゃいない。
人間じゃなかったら、何者なのか?
魔物……。
いや、そんなもんじゃない。
魔物というなら、テンちゃん、ライムらもそうだ。
だが、みんなから感じる気配と同じじゃない。
それらとはかけ離れた……異質なもの。
こいつはまずい!
「あはは。うん。この穴は刻印だよ」
「刻印だと?!」
「そ。僕が体に穴を空けることで、僕の手駒になるんだ。人間はもちろん、魔物もそう。とりあえず」
神経を全集中!
四つの防具に気合を込めろ!
「最近手駒にしたこいつらを連れてきた。で、アラ」
光より速く!
この山の奥にいるドラゴンだって吹っ飛ぶくらいの!
源力不明の同時四発!
これで効かなかったら、俺達は全滅だ!
「っでりゃあ!!!!!」
四発を発した瞬間に目標に着弾。
それだけの威力だ。
その反動だってゼロなわけがない。
が。
「ぐはあっ!!」
後ろにいたンーゴの体に衝突。
遥か彼方に飛ばされなかっただけマシ……ゲホッ!
「ちょっとアラタ! あんた何やってんのよ! 誰か回復魔法、手伝って!」
コーティの声が聞こえる。
駆け寄ってきてくれたのはクリマーとマッキーか。
一瞬ですべての痛みが消えたのは流石だ。
「お……おい……これは……」
「あの子供は……」
フレイミーの護衛の部下らの狼狽する声が聞こえてきた。
「……あなた、まさに危険人物ね。連行するわ!」
まだ立てない俺の前に立ちはだかったフレイミーは、腕組みをしで俺を見下ろしていた。
その後ろには怒りの眼差しで俺を見るお付きの護衛らと、俺を心配している仲間らが。
「アラタ……ドウシチャッタノ?……」
「あんな子供……まぁ普通じゃなさそうだったけど、そうまでする必要あった?」
マッキーが指をさす方には、小さい子供の靴が、小さい子供と思われる足の一部が入ったまま落ちていた。
そしてあの子供はどこにもいない。
気配もない。
そしてあの子供の後ろに控えていた兵……屍鬼とやらは、全員その場に横たわっている。
もちろんそいつらも、微動だにしないし動く気配もゼロ。
「あんな子供に手をかけて……貴方……もはや放っとけないわ」
フレイミーのしゃべる声は冷静さを取り戻したようだが、怒り……激怒の感情は俺にむき出しのままだ。
鈍さって、時々罪だよな。
言い訳できる猶予はありそうだから、言っとくべきことは言っとくか。
「……ただの子供じゃねぇよ。外見に誤魔化されんなよ」
「あの子供の言うことを信じれば、死体を操る力がある、とは言える。だが跡形なく吹き飛ばすような」
「跡形なく吹き飛ばさなきゃ、俺らは全滅してたぜ」
「何を言っている! お前は」
「人間を、魔物を、この世界で生活しているすべての命をあっさりと踏みにじろうとしてた奴の、どこがただの子供だよ!」
「な……口から出まかせを!」
「うぐっ」
またも嘔吐感がっ。
あの恐怖から逃れられた安心感。
と同時に、改めて感じるあの恐怖が頭の中に甦ってしまった。
「ちょっとアラタ、ほんとにあなた、大丈夫?」
ヨウミが心配して駆け寄ってくれるが、俺の容態の心配だけであって、事の本質の心配まではできてないだろう。
「団長! ちょっと思ったのですが……」
フレイミーの護衛の一人がリーダーに声をかけた。
ひそひそ話ではなく、何も考えずに思いついたことを伝えたかっただけのようだったが……。
「操った、などと言っておりましたが……これだけの死体、どこでできたんでしょう?」
何とか吐き気は収まった。
だが体を起こすのはちょっと怖い。
上体は地面に向けたまま、目線だけをその声の方に向けてみる。
リーダーはどう反応する?
「そりゃあお前……む? 確かに……」
部下から尋ねられたリーダーは、眉間に深い縦皺を刻んだ。
「これだけの死体……それぞれ別の場所で、というと、被害に遭った部隊数は相当なもののはず。となれば、被害を受けた現場は一か所とか。となれば……出血の量だって……」
「現場が他国との戦場ってのは有り得ないですし……あるとしたら……」
「魔物の泉現象と雪崩現象……」
ちょっと待て。
現象には専門家が当たるんじゃないのか?
「どういうことだ? この国……世界には、現象から出現する魔物を退治できるやつは少ないから、俺みたいに別の世界から召喚してたんだろ? その召喚術をやめて、自分の世界のことは自分の世界の人間で解決する、みたいなこと、俺に言ってたぞ?」
覚えている。
シアンはそう明言してた。
なのにこんな大勢の兵を、魔物討伐に向かわせていた?
「そんな魔物の討伐隊の専門家なんて、早々簡単に見つけられるわけがないじゃないか! 今まで通り、異世界から勇者を召喚した方が遥かに簡単だったのに! 陛下が召喚術を封印されたのは貴様のせいか!」
護衛の一人から罵声浴びせられた。
だが、俺をどうこう言ってる場合じゃないだろうに。
「大体、あんな子供をいとも簡単に」
「まだ分かんねぇのか!」
ようやく体調が戻ってきたようだ。
ついでにイラつきに任せて勢いよく立ち上がって啖呵を切ってみた。
大体単なる思いつきでとった行動じゃない。
言われっぱなしのまま黙ってられるか!
「あんな大勢の人の体に、大小問わず貫通する穴を空けて、それを刻印にして操るような奴がまともか?! 魔力だって半端じゃねぇだろうし、生きてる奴の体に穴を空けるなんざ、まともな神経してねぇだろうが!」
「それだけでまともじゃないって判断できるあなたの方こそまともじゃないわよ!」
フレイミーが言い返してきた。
俺が感じた気配を他人に説明したって、信じる気がなきゃ信じてもらえない。
だが、それでも。
「けど、これだけの人数がやってきたんだ。足音とか気配とかで少しは分からんか?!」
気配を察知する力がある俺ですら、こんなに急にやってくるとは想像もしなかった。
「それに、現象の魔物相手にこれだけの兵を差し向けたっつってたな? てことは、これだけの兵の体に穴を空けた。あるいはその死体に穴を空けた。魔物が現れる現象に、何らかの形でかかわってる奴ってことじゃねぇのか?」
現象自体、いつどこで起きるか分からないって話だった。
自然現象、いや、それよりもはるかに予測がつかない現象のはず。
その予想がつかないかぎり、防衛する側はその現象に振り回されることになる。
その防衛する連中が犠牲者となるなら、その連中を狙ったあの緑のガキだって、こいつらに振り回されることになる。
「ということは……現象は……自然現象ではなく……誰かの細工によって引き起こされてるってことか?」
「そんな馬鹿な!」
自然現象の一つである、と信じたい気持ちは分かる。
俺だって、そうであってほしいと思うさ。
だが、あのガキは、こいつらの後を追って仕留めたことには何一つ言及していなかった。
この兵達がどこからどこに向かうか、なんてこと、現象がいつどこで起きるか分からない限り知る由もない。
つまり、分かってたこと前提でペラペラしゃべってたってことだ。
「待ってください! 団長! もしこの兵達が現象の魔物退治に出向いてたのなら……最高責任者である陛下は……」
護衛の一人が口にする。
それを聞いたフレイミーが、一瞬にして青ざめる。
「まさか……そんな……嘘って……嘘って言いなさいよ! ア、アラタ! 言い逃れするにしてもそんなひどいことを……!」
「あの子供から、もう少し情報を得ていれば……」
おいおい、馬鹿言うな!
「お前らはどうかは知らん。だが俺は、あのガキの操り人形になんかなりたくねぇわ!」
というか、死体にもなりたくない。
それに、こいつらだって生きていた頃には家族とかいただろうに。
それが今では、名の知れぬ兵士の一人、としか言い表せない。
……家族、か……。
「コホン。お嬢様」
護衛のリーダーがフレイミーに話しかけた。
俺を責め立ててた時とは違い、随分落ち着いた口調だ。
「な……何……?」
「直接王宮に出向きましょう。いろいろと確認すべき、と思います」
「でも、この者達を……」
「彼らはこの国ではもはや有名人です。どこに逃げようとも、すぐに見つけられますよ」
有名人?
そんな評価をされてるとは思わなかった。
だが今はそれに突っ込むところじゃない。
それに、俺らも王宮に行くべきだろう。
現象が絡んで、しかもこの死体が国軍兵であれば、尚更王宮にいる奴らの耳に届ける必要がある。
「ヨウミ、みんな。俺らも出向いてみるか」
「え? あたし達も?」
フレイミー達に聞こえないような小声でみんなに告げてみる。
「何で連中がここに来たか、ってことも気になる。ここに来て何の得がある? あるとしたら……」
「アラタ、よね。だってシアンと懇意の間柄……じゃなくて、シアンが懇意にしたい一人、だから……」
自惚れるつもりはない。
だが、国内有数の広い農地を持つ村とは言え、へき地。
そんな場所に足を運んで、何をするというのか。
目標はこの場所ではなく、ヨウミの言う通り、俺に会いに来た、と思うのが普通だろう。
フレイミー達は既にここから立ち去った。
動くと決めたらその行動力は高いんだろう。
「……だが王宮だってどうなってるか分からん。俺ですら奴を察知するのは、目と鼻の先に現われてからだからな」
「デモヨ、アラタ」
ンーゴが俺を呼び止めた。
何か気付いたことがあったか?
「コノシタイ、ドウスル?」
「あ……」
放置したままだと腐乱するんじゃねぇか?
ここで埋葬するにも……。
「オレノオナカノナカナラ、イクラカホゾンデキルトオモウゾ?」
いくらか保存って……。
「少しぐれぇ長く保存できるっつーこったろ?」
いやいや、待て待て、ミアーノ。
「こんな大人数、全員ンーゴの中に入るってのか? 流石にこの大人数は……」
「なら、ここで冷却してこのまま放置でもいいんじゃない? 冷却魔法だってそれなりにできるし」
そりゃまぁ、コーティなら……。
「残ったあの子供の足も、完全焼却してお終いにしとこっか。残った体の一部から復活するかもしれないし」
「え? マジ?」
と聞き返すや否や、残ったその両足を即焼却。
「安心なさい。悪霊になったって、その霊すら燃やす業火よ。範囲は狭くても、効果抜群だから」
コーティのそっち方面には安心感があるな。
「ンジャ、チチュウニモグッテ、オウキュウマデチョッコウスルゾ」
空を飛ぶ方が早い。
が、テンちゃん一人じゃ全員を乗せられないし、どこかからか弓矢で攻撃されたら一たまりもない。
「あぁ。頼むわ。ンーゴ」
まずはシアンの消息の確認。
そして現象が自然のものではなく、何者かが作り出したものであることを通達する。
それさえできりゃ、あとは自分の身を自分で守ることに専念するだけ。
改めて防具の魔力を充填し、その他の準備を全て済ませて、全員ンーゴの体の中に入っていった。
フレイミーの護衛長が、その子供の後ろに居並ぶ連中の様子を見てそんなことを言う。
破損は激しいが、防具自体は確かに新しめのように見える。
古傷と思われるような傷がどこにも見当たらない。
古傷がついた部分が欠損した可能性はなくもないだろうが……。
「それに、そいつら全員の体にある穴も、最近できた傷のようだ。こいつらは一体……」
一人一人の穴の位置は違うが体を貫通している穴は一か所だけ。
連中の体のあちこちに血の跡はあるが、その穴には血の跡は見られない。
一体どういう傷なんだ?
いや、俺にとって一番の問題は、ゾンビどもじゃない。
小柄な緑の塊だ。
子供……確かに見た目は子供だ。
だが顔は口以外見えてない。
それだけに、気配からその正体を見極めやすいのはありがたい。
顔が見えてたら、その顔が童顔なら、その顔に騙されてしまってたかもしれないから。
そして、その顔を見ずに感じた気配からは……。
「……人間じゃない……」
「は?」
思わず口から出た言葉は、周りには聞こえたようだ。
フレイミーが俺の言葉を疑うような声を出した。
「何を言ってる? お前……」
自分で言った言葉が自分の耳に入る。
その聞こえた言葉が、さらに思考を混乱させる。
自分で自分を混乱させてどうする。
だが、感じた気配は間違っちゃいない。
人間じゃなかったら、何者なのか?
魔物……。
いや、そんなもんじゃない。
魔物というなら、テンちゃん、ライムらもそうだ。
だが、みんなから感じる気配と同じじゃない。
それらとはかけ離れた……異質なもの。
こいつはまずい!
「あはは。うん。この穴は刻印だよ」
「刻印だと?!」
「そ。僕が体に穴を空けることで、僕の手駒になるんだ。人間はもちろん、魔物もそう。とりあえず」
神経を全集中!
四つの防具に気合を込めろ!
「最近手駒にしたこいつらを連れてきた。で、アラ」
光より速く!
この山の奥にいるドラゴンだって吹っ飛ぶくらいの!
源力不明の同時四発!
これで効かなかったら、俺達は全滅だ!
「っでりゃあ!!!!!」
四発を発した瞬間に目標に着弾。
それだけの威力だ。
その反動だってゼロなわけがない。
が。
「ぐはあっ!!」
後ろにいたンーゴの体に衝突。
遥か彼方に飛ばされなかっただけマシ……ゲホッ!
「ちょっとアラタ! あんた何やってんのよ! 誰か回復魔法、手伝って!」
コーティの声が聞こえる。
駆け寄ってきてくれたのはクリマーとマッキーか。
一瞬ですべての痛みが消えたのは流石だ。
「お……おい……これは……」
「あの子供は……」
フレイミーの護衛の部下らの狼狽する声が聞こえてきた。
「……あなた、まさに危険人物ね。連行するわ!」
まだ立てない俺の前に立ちはだかったフレイミーは、腕組みをしで俺を見下ろしていた。
その後ろには怒りの眼差しで俺を見るお付きの護衛らと、俺を心配している仲間らが。
「アラタ……ドウシチャッタノ?……」
「あんな子供……まぁ普通じゃなさそうだったけど、そうまでする必要あった?」
マッキーが指をさす方には、小さい子供の靴が、小さい子供と思われる足の一部が入ったまま落ちていた。
そしてあの子供はどこにもいない。
気配もない。
そしてあの子供の後ろに控えていた兵……屍鬼とやらは、全員その場に横たわっている。
もちろんそいつらも、微動だにしないし動く気配もゼロ。
「あんな子供に手をかけて……貴方……もはや放っとけないわ」
フレイミーのしゃべる声は冷静さを取り戻したようだが、怒り……激怒の感情は俺にむき出しのままだ。
鈍さって、時々罪だよな。
言い訳できる猶予はありそうだから、言っとくべきことは言っとくか。
「……ただの子供じゃねぇよ。外見に誤魔化されんなよ」
「あの子供の言うことを信じれば、死体を操る力がある、とは言える。だが跡形なく吹き飛ばすような」
「跡形なく吹き飛ばさなきゃ、俺らは全滅してたぜ」
「何を言っている! お前は」
「人間を、魔物を、この世界で生活しているすべての命をあっさりと踏みにじろうとしてた奴の、どこがただの子供だよ!」
「な……口から出まかせを!」
「うぐっ」
またも嘔吐感がっ。
あの恐怖から逃れられた安心感。
と同時に、改めて感じるあの恐怖が頭の中に甦ってしまった。
「ちょっとアラタ、ほんとにあなた、大丈夫?」
ヨウミが心配して駆け寄ってくれるが、俺の容態の心配だけであって、事の本質の心配まではできてないだろう。
「団長! ちょっと思ったのですが……」
フレイミーの護衛の一人がリーダーに声をかけた。
ひそひそ話ではなく、何も考えずに思いついたことを伝えたかっただけのようだったが……。
「操った、などと言っておりましたが……これだけの死体、どこでできたんでしょう?」
何とか吐き気は収まった。
だが体を起こすのはちょっと怖い。
上体は地面に向けたまま、目線だけをその声の方に向けてみる。
リーダーはどう反応する?
「そりゃあお前……む? 確かに……」
部下から尋ねられたリーダーは、眉間に深い縦皺を刻んだ。
「これだけの死体……それぞれ別の場所で、というと、被害に遭った部隊数は相当なもののはず。となれば、被害を受けた現場は一か所とか。となれば……出血の量だって……」
「現場が他国との戦場ってのは有り得ないですし……あるとしたら……」
「魔物の泉現象と雪崩現象……」
ちょっと待て。
現象には専門家が当たるんじゃないのか?
「どういうことだ? この国……世界には、現象から出現する魔物を退治できるやつは少ないから、俺みたいに別の世界から召喚してたんだろ? その召喚術をやめて、自分の世界のことは自分の世界の人間で解決する、みたいなこと、俺に言ってたぞ?」
覚えている。
シアンはそう明言してた。
なのにこんな大勢の兵を、魔物討伐に向かわせていた?
「そんな魔物の討伐隊の専門家なんて、早々簡単に見つけられるわけがないじゃないか! 今まで通り、異世界から勇者を召喚した方が遥かに簡単だったのに! 陛下が召喚術を封印されたのは貴様のせいか!」
護衛の一人から罵声浴びせられた。
だが、俺をどうこう言ってる場合じゃないだろうに。
「大体、あんな子供をいとも簡単に」
「まだ分かんねぇのか!」
ようやく体調が戻ってきたようだ。
ついでにイラつきに任せて勢いよく立ち上がって啖呵を切ってみた。
大体単なる思いつきでとった行動じゃない。
言われっぱなしのまま黙ってられるか!
「あんな大勢の人の体に、大小問わず貫通する穴を空けて、それを刻印にして操るような奴がまともか?! 魔力だって半端じゃねぇだろうし、生きてる奴の体に穴を空けるなんざ、まともな神経してねぇだろうが!」
「それだけでまともじゃないって判断できるあなたの方こそまともじゃないわよ!」
フレイミーが言い返してきた。
俺が感じた気配を他人に説明したって、信じる気がなきゃ信じてもらえない。
だが、それでも。
「けど、これだけの人数がやってきたんだ。足音とか気配とかで少しは分からんか?!」
気配を察知する力がある俺ですら、こんなに急にやってくるとは想像もしなかった。
「それに、現象の魔物相手にこれだけの兵を差し向けたっつってたな? てことは、これだけの兵の体に穴を空けた。あるいはその死体に穴を空けた。魔物が現れる現象に、何らかの形でかかわってる奴ってことじゃねぇのか?」
現象自体、いつどこで起きるか分からないって話だった。
自然現象、いや、それよりもはるかに予測がつかない現象のはず。
その予想がつかないかぎり、防衛する側はその現象に振り回されることになる。
その防衛する連中が犠牲者となるなら、その連中を狙ったあの緑のガキだって、こいつらに振り回されることになる。
「ということは……現象は……自然現象ではなく……誰かの細工によって引き起こされてるってことか?」
「そんな馬鹿な!」
自然現象の一つである、と信じたい気持ちは分かる。
俺だって、そうであってほしいと思うさ。
だが、あのガキは、こいつらの後を追って仕留めたことには何一つ言及していなかった。
この兵達がどこからどこに向かうか、なんてこと、現象がいつどこで起きるか分からない限り知る由もない。
つまり、分かってたこと前提でペラペラしゃべってたってことだ。
「待ってください! 団長! もしこの兵達が現象の魔物退治に出向いてたのなら……最高責任者である陛下は……」
護衛の一人が口にする。
それを聞いたフレイミーが、一瞬にして青ざめる。
「まさか……そんな……嘘って……嘘って言いなさいよ! ア、アラタ! 言い逃れするにしてもそんなひどいことを……!」
「あの子供から、もう少し情報を得ていれば……」
おいおい、馬鹿言うな!
「お前らはどうかは知らん。だが俺は、あのガキの操り人形になんかなりたくねぇわ!」
というか、死体にもなりたくない。
それに、こいつらだって生きていた頃には家族とかいただろうに。
それが今では、名の知れぬ兵士の一人、としか言い表せない。
……家族、か……。
「コホン。お嬢様」
護衛のリーダーがフレイミーに話しかけた。
俺を責め立ててた時とは違い、随分落ち着いた口調だ。
「な……何……?」
「直接王宮に出向きましょう。いろいろと確認すべき、と思います」
「でも、この者達を……」
「彼らはこの国ではもはや有名人です。どこに逃げようとも、すぐに見つけられますよ」
有名人?
そんな評価をされてるとは思わなかった。
だが今はそれに突っ込むところじゃない。
それに、俺らも王宮に行くべきだろう。
現象が絡んで、しかもこの死体が国軍兵であれば、尚更王宮にいる奴らの耳に届ける必要がある。
「ヨウミ、みんな。俺らも出向いてみるか」
「え? あたし達も?」
フレイミー達に聞こえないような小声でみんなに告げてみる。
「何で連中がここに来たか、ってことも気になる。ここに来て何の得がある? あるとしたら……」
「アラタ、よね。だってシアンと懇意の間柄……じゃなくて、シアンが懇意にしたい一人、だから……」
自惚れるつもりはない。
だが、国内有数の広い農地を持つ村とは言え、へき地。
そんな場所に足を運んで、何をするというのか。
目標はこの場所ではなく、ヨウミの言う通り、俺に会いに来た、と思うのが普通だろう。
フレイミー達は既にここから立ち去った。
動くと決めたらその行動力は高いんだろう。
「……だが王宮だってどうなってるか分からん。俺ですら奴を察知するのは、目と鼻の先に現われてからだからな」
「デモヨ、アラタ」
ンーゴが俺を呼び止めた。
何か気付いたことがあったか?
「コノシタイ、ドウスル?」
「あ……」
放置したままだと腐乱するんじゃねぇか?
ここで埋葬するにも……。
「オレノオナカノナカナラ、イクラカホゾンデキルトオモウゾ?」
いくらか保存って……。
「少しぐれぇ長く保存できるっつーこったろ?」
いやいや、待て待て、ミアーノ。
「こんな大人数、全員ンーゴの中に入るってのか? 流石にこの大人数は……」
「なら、ここで冷却してこのまま放置でもいいんじゃない? 冷却魔法だってそれなりにできるし」
そりゃまぁ、コーティなら……。
「残ったあの子供の足も、完全焼却してお終いにしとこっか。残った体の一部から復活するかもしれないし」
「え? マジ?」
と聞き返すや否や、残ったその両足を即焼却。
「安心なさい。悪霊になったって、その霊すら燃やす業火よ。範囲は狭くても、効果抜群だから」
コーティのそっち方面には安心感があるな。
「ンジャ、チチュウニモグッテ、オウキュウマデチョッコウスルゾ」
空を飛ぶ方が早い。
が、テンちゃん一人じゃ全員を乗せられないし、どこかからか弓矢で攻撃されたら一たまりもない。
「あぁ。頼むわ。ンーゴ」
まずはシアンの消息の確認。
そして現象が自然のものではなく、何者かが作り出したものであることを通達する。
それさえできりゃ、あとは自分の身を自分で守ることに専念するだけ。
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意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
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旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
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