勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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新、非勇者編

退場すべきもの・登場すべきもの その4

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 マッキーとモーナーとクリマーにもおにぎりを相当な数を置いて、ヨウミとライムとサミーは俺と一緒にテンちゃんの背に乗る。
 目指すは王宮の、一番高い塔。
 距離感覚が鈍い方だから、地上何メートルなんて目算はできない。
 まぁ百メートル以上はあるだろうな。
 地面に寝かせて先端まで走ったら、百メートル走どころじゃなさそうだから。

「で、どうやって中に入るの?」

 テンちゃんがこっちを向きながら聞いてきた。
 わき見運転は怖いんだがな。
 進行方向見ながら会話してもらいたいもんだ。

「多分塔の内部は螺旋階段になってんじゃないか? 階段を壊さずに壁だけを壊して侵入。それしかない」
「……それ、どうやれば分かるの?」

 だから前を見ろって。

「知らん」
「ちょっ!」
「ミッ!」

 ヨウミもライムも、何をそんなに驚いているのか。
 サミーも、俺らの言葉も理解できるようになったか、釣られてでかい声で鳴く。
 俺の感じとれる気配は、生命と何かしらの力。
 ただの物体には何の反応も出ない。
 そんな物が目に見えないところに存在して、それがどこにあるか、なんて分かるわけもない。
 俺になら分かって当然、なんて思ってたんじゃねぇだろうな?
 世の中、そうそう自分の都合よく回っちゃくれねぇんだよ。

「デモ、チッチャイアナガ、チョコチョコアルヨ? ソコカラナカヲミレルンジャナイ?」
「のぞき窓かな。テンちゃん、注意しろよ? そこから一斉に、弓矢が飛んでくるかも分からんぞ?」
「えええぇぇぇ?!」

 テンちゃんも、思いの外でかい声を上げる。
 おかしいな。
 初対面の頃は、もっとふてぶてしい感じじゃなかったか?
 いや、テンちゃんだけじゃない。
 余り正確に変化が見られないライムとサミー以外のみんなも、随分キャラが変わっちまった。
 まぁンーゴとミアーノはほとんど変わらんか。

「ンジャ、ソノアナ、テンチャンモトオレルクライオオキクシタラ、モンダイナイヨネ?」

 そりゃ問題ないとは思うが……。

「ンジャライムガ、ソノアナノマワリトカシテ、オオキクスルネ」

 溶かすって……。
 あぁ、ライムならできるのか。

「でもライム、穴大きくしすぎて塔自体壊れない?」

 ヨウミの心配ももっともだ。
 テンちゃんに俺らが乗ったことで潜り抜けられる穴はでかくなる、ということはない。
 が、塔の構造なんぞが分からない以上、壊れる心配も拭えない。

「ライムガナントカスルヨ。アラタタチがデテクルマデタエテレバイインダヨネ?」

 簡単に言ってくれるな。
 重量がどんだけあるか分かってんのか?

「耐えきれなかったら、みんな終わり。それどころか、下にいる連中が落下物で押しつぶされるぞ? そうなったら、間違いなく俺らはお尋ね者だ」

 今までは不可抗力だったり、あるいは悪意なき行為が誤解されたりでそうなった。
 だがこれは流石に否定しきれない。

「ウエノマドナラ、オモサハヘルンジャナイカナ? ソレニ、カイダンノイチバンウエヨリモウエダッタラ、カイダンガコワレルシンパイモナイヨ」

 なるほど。
 階段は一番上の部屋よりも上には続かない。
 そこに穴を空けてもらって突入すれば、ライムの負担も減る。
 守り手じゃピカ一のライムが離脱ってのは、ちょっと心細い。
 だがまだサミーがいてくれるから問題ないか。
 それにライムとの距離はそんなに離れてはいない。
 何とかなる、か。

「んじゃ一番上ののぞき窓まで飛べばいいんだね?」
「あぁ。早いとこ頼む」
「そうね。上空、こんなに寒いとは思わなかった」

 まったくもって同感だ。
 って、ヨウミ、今までテンちゃんに乗ったことなかったっけ?
 あ、でもこんなに高くまで飛んだことはないか。
 俺もないしな。

「にしても……なんだありゃ?」

 高いところは怖いが、思わず下を見てしまった。
 すると、城外でやたら金色の点っぽいのがたくさんあるのが見えた。

「ありゃ……マッキーか? 何? あの金色の数々」
「さあ? あたしは見たことないな」
「シュウダンセンデモ、ミタコトナイネ」
「ミーッ」

 サミーの鳴き声は、俺ら人間には理解できんわ。
 テンちゃんとライムによれば、サミーも見たことがない、とのこと。
 そして骨どもがバタバタと倒れる様子も、何となく分かる。
 門の上で弓を構えている兵達も、何やら落ち着かない様子。
 まぁここまで高く飛んでりゃ、あいつらの弓も届くまいから安心できるが……。

「ンジャ、アソコニトビツクネ」

 窓、というか穴に目星をつけたライムが、塔の一部に飛びつこうとする。
 落下しても平気なんかな?

「ライム、大丈夫? 流石にこんな高さから落ちたら、大怪我するんじゃない?」
「そう言えば、ライムが怪我をしたとこって見たことないなー」

 へぇ。
 そうなんだ。
 火傷とかもしないのかな。

「シタマデオチタラ、ココマデノボルノガタイヘンダカラ、キヲツケナイトネ」

 心配するとこ、そこかよ!

「ジャ、イッテクルネ」
「おい、その前に、穴は横に広げすぎるなよ! 塔が輪切りになっちまって、そのまま下に落下するからな!」
「リョーカーイッ!」

 穴から矢が飛んでくる、なんてことはなく、ライムは無事に党の壁にへばりついた。
 穴がでかくなって中に入ることができたら、いよいよシアンのお父っつぁんとの再会か。
 なんて感慨深い感傷に浸る暇なんてねぇな。
 行方不明と思われるシアンの現状と、現象が人為的に引き起こされたものってことを報告せにゃ。
 その事態を何とかできる奴らってば、王族以外にいやしねぇんだから。
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