勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ

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国家安泰後の日常編

冒険者に向かない性格 その4

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「ミィィ、ミイイィィ」
「サミーちゃん、かわいそお」
「サミー、大丈夫?」

 いや、ほんと、俺、そんなに悪いことしたか?
 そりゃ予備知識もなくいきなりこんなことしたのは悪いと思ったけどよ。
 でもそんなに泣くとは思わねぇじゃん。
 だって、今まで何度集団戦した?
 そこで怪我した回数、どんくらいだよ?
 集団戦なら、不意打ちとか何度も食らってんじゃねぇの?

「うぅ……」

 と、いきなり誰かのうめき声が、俺の後ろから聞こえてきた。

「スート、どうしたの?」

 今度はこっちかよ。
 何なんだよ。
 今日は厄日か?

「だって……」

 ホーリーに慰められてぼそぼそと呟き始めた。

「実戦で、これ、使えないから、役立たずって言われて、んで、今、こうして……」

 俯いたスートが、目から直接地面に涙を落とす。
 呟きは、最後まで言葉にならない。
 だが言わんとするところは分かる。
 その力を発揮したら発揮したで責められるような気持ちになってんだろう。
 能力を活かしても失敗しても責められるなら、そりゃいたたまれなくなるってもんだ。

 だが収穫は得た。
 糸の力の強さは、相対的でなく絶対的に強いってことだ。
 長さの確認はしてないが、まぁ工夫次第で何とかなるだろ。
 はがき1枚にハサミを入れて輪っかを作って、人の体をくぐらせることだってできるくらいだしな。

「で、こんな時に何だが……集団戦の相手、してくれ……るのか?」
「こんだけ待ってたんだ。中止ってんなら……アラタ……お前、サミーの代わりやれよな?」

 え?
 待て待て待て待て。

「ちょ、ちょっ」

 いくらなんでもそりゃおかしいだろ。

「サミーに痛い目を合わせた罰だ」
「そうだそうだ!」

 いや、集団戦じゃ痛い目合わせることも数多くねぇか?
 って、怪我して戻ってきた仲間の姿は見たことはねぇけど。
 つか、腕の立つ冒険者じゃダメージ与えられなくて、油断してたとは言え、こんな子供にダメージを食らうって……。
 本職としちゃ立つ瀬もねぇんじゃねえの?
 いいのか? それで。

 だが、その糸は目に見えるか見えないかくらい細い。
 確かに冒険者業でその能力を活かすと言うなら、、使いこなせるようになったとしても、おそらく他の冒険者とは連携は取りづらいだろうな。

 待てよ?
 もし糸の操作を誤って、仲間に巻き付けてしまったとしたら……。
 大事故なんて生易しいもんじゃねぇ。
 裏切り行為とも見なされかねない。
 そこまで見越したわけじゃねぇだろうが、冒険者業からドロップアウトさせた養成所の判断は、決して間違っちゃいない、ような気がしてきた。

「あー、わ、悪かったって。とにかく、予定通り集団戦に出発してくれ。サミーもそんなに拗ねるなよ。痛かっただろうが、今までそんな怪我とかしてなかったろ? 手当てするから機嫌直せよ」

 って、手当の仕方が分からん。
 あ、おにぎりがあるか。
 ……おにぎりで何とかなるか?

「全くアラタってば! しょうがないわねっ! ほら、サミー。怪我自体はひどくないから、痛み止めしたげるから」
「す、すまん、コーティ……」

 コーティ、ありがとおっ。

「お、お前もグジグジすんなよ。って……」

 言葉だけの慰めを言っても、こいつの気の休まるわけはない。
 気を許せる相手もいなかったはず。
 そんな中で何を言われたって心に響くはずもなし。
 なぜ断定できるかってば、そんなこと、俺がすでに体験済みだからな。
 いや。
 同じ年の頃を思い出しても、俺には命の危険を実感した経験はない。
 こいつの心のよりどころになるつもりはない。
 が、こいつをこのままほっとくってのはない。

「……とりあえず、何か思いつくまで、お前もここでバイトしてな。手伝ってくれりゃ見合った手当ては出す。……ってそれはさっきも言ったよな? ホーリーさんとやらだって仕事はあって、こいつに四六時中べったりすることも難しかろ?」
「それは……まぁ……」
「宿代は受け持つ。あんただって、自分の仕事とこいつの完璧な世話の両立は難しいんだろ? だからこんな田舎に来てまで相談を持ち込んだ。……こいつも、今までのことがあった上、見知らぬ土地にいきなり連れてこられて、挙句嫌な記憶を呼び起こしかねない格好をした見知らぬ大人達に責め立てられて」

 そうしちまったのは俺だが。

「不安で怖くて仕方がねぇだろうし、俺は彼女みたいに信頼できねぇだろうが、ここで手伝ってる間なら宿くらいの世話ならしてやるぜ? この村に入ってすぐに、ドーセンの宿あったろ? そこで寝泊まりすりゃいい。宿代なら俺が出す」
「え?!」

 と驚く声に驚いちまった。
 ホーリーの声だった。

「あ、す、すいません。宿代……って……。何泊するかも決まってない……ですよね?」
「ん? そりゃ当たり前だろ。何日までって決めたって、その時までこいつの仕事が決まんなきゃ野宿になっちまうだろ」
「え?!」

 今度はヨウミが驚いている。
 そんなに驚くようなことか?

「アラタ……何か悪い物でも食べた?!」
「……何だよ。変なもんなんざ食っちゃいねぇよ」
「だって……」

 何をそんなに驚くことがあるのか。

「アラタが初対面の人のために、自分の得にならないことを自分からしようとするなんて……」
「うんうん」
「まったくです」
「アラタ、ドシタノ?」

 お前らなぁ……。
 俺を何だと思ってるんだ。

「宿泊費がどんだけかかるか分かんねぇけど、おけらになるほどの費用はかからねぇだろ。ただし三度の飯は宿で食え。ここに手伝いに来る子供らも、俺らとは別に飯を食ってるからな」
「そ、そう、ですね。……あの、食事代は……」

 細けぇこと気にする奴だな。
 まぁ立場を弁えてるって意味では好感は持てるが。

「飯代も出すよ。つか、費用のことは気にすんな。着るもんとかが足りなくなったら、それは手当てから何とかしろ。村にある店で適当に買っとけ」
「アラタ……あんたホントにどうしたの?」

 みんなからのこんな反応……。
 この子供より、仲間の方が信頼されてないってことでいいのか?
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