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二人が出会うまで
赤面令嬢、フィーシア
しおりを挟むふむ、記憶の整理…次は周囲の人からかな。
私は名乗るまでも無いが、フィーシア・バーバジニ。
バーバジニ伯爵家の令嬢で、今までもなに不自由なく暮らせて居る身分だ。そして、乙女ゲームの王子ルート悪役でもある。
乙女ゲームの未来では処刑されてしまうと思われるが、そんなこと、王子を避ければ良いのである。幸いにも、前世を思い出してから精神的にも成長したので、じっくりゆっくり世渡りしていけば良い。
家族構成は、フィーシア、フィーシア父、母、そして未来で弟が産まれるはずだ。
弟は、ヒロインに攻略される攻略対象である。
このことは、産まれたら考えて行こう。
侍女ではファルが私付き唯一の侍女である。
彼女は赤みがかかった茶髪に金色の瞳の温和な性格の可憐な人だ。茶髪を後ろでキュッと纏め、淑やかな印象をもつ。
もう一人、私付きの護衛でマーカスという人が居るが、彼とはほとんど会っていない。
(家族と言えば、私の前世ではいたのだろうか?)
ふと脳裏によぎるが、最早分からずじまいだ。
あまりにも記憶が無くなっていて、世界も変わって。
前世の世界とあまりにも変化しているこの世界で、今度こそ中途半端で終わらない人生を過ごしたい。
そのためには。処刑エンドを回避するには。
私は、婚約者と歩む他ないのだ。
なぜなら私は悪役令嬢を捨てるのだから。
(…そうよ、負けるなフィーシア!きっとのんびりとした老後を迎えれる、はず!)
活を入れる為に頬を軽く叩くと、ペシッと音が部屋に響く。
すると、また扉が開きファルがやってきて心配される。
(これでは…全然駄目…まずは周りに心配させないように淑女にならなきゃ)
果たして婚約者は私を気に入ってくれるだろうか??
ベッドへ潜り込み、すぐに夢の中へと誘われた。
***
記憶が戻ってから3日後。
ついに未来の婚約者と会う日になった。
「フィーシアちゃん、相手様に粗相が無いようにね」
「はい!お母様、バッチリですわ!」
ドレスをフィーシア母に皺直しされながら、私は笑顔で応える。
フィーシア母は、フィーシアと同じ黒髪赤目である。
なんと顔の構造は違い、穏やかで優しそうに見えるのだ。
一方でフィーシア父はと言うと…
「相手は我が家の主力取り引き先でもある…気に入られると良いな」
物静かそうで、銀糸のような髪、スカイブルーの色の瞳、そしてキリリとしたお顔である。
(顔は父親似ということか、美男美女だ)
今日は五歳のフィーシアもバッチリおめかししての面会である。中々幼児にコルセットというのはキツいものがあるが、そこは根性で踏ん張る。
そう、フィーシア父が軽く言っていたが、フィーシアの家と相手の家は貴族業の他に山から鉱石を掘っていたりもする。
それをよく磨いて細工をすると、他の貴族相手に良い商売が出来るそうだ。
相手方が採掘を行い、こちらは加工、細工して価値を高める。ようは、商売パートナーの架け橋と私はなるのだ。
ちなみに相手方の山は天にそびえ立つのでは無いか、というぐらい大きな山なので、鉱石ザックザクという訳だそうだ。
さて、家の話はそこそこにして。
ガチャリと音がする方を向くと、護衛が扉を開けている。
スタスタと無駄のない動きで、体格の良い美丈夫とその後ろに幼いにしてはスラッとした美丈夫によく似た少年が一礼して入ってくる。
黒色の髪に蒼い瞳。暗雲から光が差したような顔の彼は、温和そうではなさそうな瞳からジッと私だけを見つめている。
(…怖い。怒ってるのか?とりあえず微笑むかな)
ニコッと私が笑うと、向こうはビクッとして顔を俯かせた。
(なに?今度はヘラヘラしては駄目なの??…もう)
そんな謎なやりとりが終わると父が口を開く。
「…本日は忙しい中、わざわざお越しくださってありがとうございます。ガトール伯、そして子息様。どうぞお座りください」
父が立ち上がっているままの親子を座るように促す。
「こちらこそ、縁談を受けて頂いて感謝する。まずはお互いに自己紹介と行こうではないか」
私の背中が母によってトンと押された。どうやら私と婚約者の彼同士の挨拶だそうだ。
「お初にお目にかかります。私は、フィーシア・バーバジニですわ。どうぞお見知りおきを」
「…オ、僕はカイン・ガトール。こちらこそよろしく…」
(ん?中々ぶっきらぼうなようだ)
細かいことを気にしてはつまらないので、そのまま笑顔で辞儀をする。
なんとか自己紹介を乗り切り、しばらく質問大会のような談話を行った。両親から二人で庭を散策しておいでと言われたのでカインに我が家の庭を案内することにした。
そうそう。質問大会で分かったが、彼は王子と同い年の七歳。趣味は特になく、最近は本で暇を潰しているという。
そして、この世界の未来である乙女ゲームでは闇を抱えた攻略対象となっていた。
勿論、美男子となって成長している。
***
我が家の庭の奥は、迷路のようにグルグルとしている。
その為、迷いやすい。
いや、迷った。
二人で花を見ながら歩いていたら、お目付け役のファルが道に迷ってしまった。ファルはたまにドジっ子である。
「…どうしようね」
彼は空色にも見える瞳を不機嫌そうに、空に向ける。
大木の下で二人で座りながら、誰かを待つ。
…誰も来ない。
(えぇー!なんで誰もいないんだ)
一人ぐらいすれ違って通っても、いつもならおかしくない場所だというのに、今日は手入れをすべて終わらせたのか、庭師が通らない。
ポツンと佇む私達。
私は何も言えずに、かすかに涙目になりつつただ黙り込んでしまう。
「…ねぇ、君はさ、この、庭の帰り道わかる?」
「ごめんなさい、わからないですわね…」
申し訳そうに言う私と違って、彼は私を見て何かに気がつく。
「そっか…あ!」
ひゃあっと若い声を私は出しながら、私は押し倒された。
一瞬の出来事だったので、頭が真っ白になる。
「あーぁ、ごめん、オレ…虫がついてたから取ろうとしたんだけど、押し倒した、ちゃったね」
彼は虫を逃すと、ほら、と右手を差し伸べる。
ドキドキした床ドンを味わいつつ、手を借りて立ち上がり、砂などを一緒に落として貰う。
砂をあらかた取り除くと、リンゴーンと時計の音が刻まれた。
「ん…時計の音?あら、そうでしたわ!我が家のこの庭は、入り口と出口が共通でして、そこに時計が立って居ますの」
(そうだった。時計を目指せば脱出出来るよね)
「じゃあ、いこうか」 「はい!」
よし!と二人で背伸びをしたら見える時計を目指しながら迷路をつき進む。
しばらく迷いながら進むと、ついに出口へと辿り着いた。
「やったぁですわ!ありがとうございます、カイン様!とても助かりましたわ」
「ううん、呼び捨てで呼んで、ね?それと……_______ 」
カインが私が両親の元へと行く前に、腕を引っ張り私の耳元で囁く。
その言葉を聞いた私は、流石に精神年齢でも間に合わず、しばらく赤面でわなわなとしていたのだった。
***
「お嬢様、お怪我はなさりませんでしたか?!すみません、私ってば迷ってしまって…」
後日、ファルが申し訳なさそうに私へ謝罪する。
「…別にいいわ。大丈夫よ、それに…」
思わず口から出そうとしてしまった言葉を思い出し、赤面する。
「それに…?やっぱり具合を確認した方がよろしいですわね?!」
ファルの心配性に一気に加速をかけてしまったようだ。
「いや、大丈夫ですから!もうっ湯浴みしますわ!」
駆け足で風呂場に行く。
私がその後、お湯に浸かりながら考えていたことは、
『オレはフィーシアを逃がさないから』
黒い顔で婚約者が放った一言であった。
(反則ッ反則です!!!)
また赤面になった。どうしてくれよう?
ねぇ、婚約者様。
応援ありがとうございます!
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