あれや、これや、ファンタジーや

長井のぼりざか

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新人冒険者たちの自己紹介

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 ある冒険者ギルドの応接室に若者が数人集められている。やや緊張した面持ちの少年や堂々と構えている筋骨隆々の青年、寛ぎすぎて前髪をくるくる指先で弄っている少女等々。皆、厳しい審査に合格してギルドに登録された新人冒険者である。そんな彼らが待っている部屋のドアがノックされた。

「入りますよ~」

 小脇に折り畳み式バインダーを挟んだ眼鏡の女性―ギルドの受付嬢が入室してきた。居住まいを正して彼女が対面に置かれている椅子に座るのを静かに観ている新人冒険者たち。受付嬢は彼らの顔を一通り見渡してからバインダーを開いて言った。

「皆さん、この度はギルドへの登録おめでとうございます。本日集まってもらったのは同期となる皆さんの顔合わせと自己紹介を兼ねているオリエンテーションのためです。これから私が書類を元に指名した人から職業とお名前を紹介してもらいます。いいですね?」

 受付嬢の念押しに頷く新人たちである。それを観てから受付嬢は一枚目の履歴書を元に一人目を指した。

「ではまず、貴方からお願いします」
「あっ、はい」

 見るからに緊張している少年から自己紹介の火蓋は切って落とされた。

「剣士のタケルです。よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。緊張されてますか?」
「は、はい」
「ふふ、大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね。では次は、貴女ですね。お願いします」
「はーい」

 表情が強張っているタケルに優しく微笑んでから次の新人を指す。やや間延びした返事をして立ったのは、鮮やかな赤い髪をくるくる弄っていた少女である。

「魔法使いのリサでーす。よろしくお願いしまーす」
「はい、よろしくお願いします。あら、すごくリラックスされてますね」
「別に~?これが普通だし。というか戦う時以外で張りつめていたら疲れちゃうでしょ?」
「うっ……」

 リサの一言でタケルが小さく体を震わせたのを観て受付嬢は苦笑した。 

「まあまあ。タケルさんも慣れてきたらそこまで緊張しなくなりますよ。では、次に貴方お願いします」
「はい」

 続けて三人目の自己紹介に入った。筋骨隆々とした寡黙な印象を与える青年である。見た目に違わず静かで力強さのある野太い声で短く返事をしてから立ち上がった。

「格闘家のモヤシだ。よろしく頼む」
「なんというか、名前が筋肉に負けているような気がしますね~」

 見た目に反して細いものを連想させる名前を聞いて受付嬢は淡々と感想を述べた。尚、それまでゆったりと構えていたリサは見た目と名前のギャップに驚いたのか瞼をパチクリさせてモヤシを見ていた。

「では、次の方どうぞ~」
「はい」

 次に立ち上がったのは落ち着いた雰囲気を纏った褐色肌の女性である。

「踊り子のフランです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。得意な踊りは何ですか?」
「はい、盆踊りです」
「ある意味でモンスターたちの意表を衝けそうですね~」

 人は見かけによらない意外な特技を持っている。フランの得意な踊りはまさにその一例と言える。

「ボンオドリってなに?」
「僕も知らないです……」
「なかなか興味深いな」

 小声で盆踊りへの疑問を話し合うリサとタケルの横でモヤシは知的好奇心を刺激されたのか顎を擦りながら呟いていた。

「では、次の方どうぞ~」
「はいっ」

 次に立ち上がったのは金髪というより黄色いと言った方がいい髪色をした少年である。

「流れ星のツケモノです」
「もはや天体じゃないですか。最後の方どうぞ~」

 軽くあしらいながら受付嬢は最後の一人である長髪の青年を指した。

「はい。独唱者のノーオンテイです」
「歌唱力に不安を感じさせるお名前ですけど、具体的にどんなことをするんですか?」
「はい、私はこの特別製のマイクで歌い、様々なモンスターが引き寄せられる音を発生させます」
「なるほど~。集めたモンスターはどうするのでしょうか。操るんですか?」
「いいえ、集まってきたところをこのマイクで殴り倒していきます」
「マイクは鈍器じゃないですよ?」

 またもやトンチキな人がいたとタケルとリサは顔合わせた。モヤシはノーオンテイの戦い方を聞いて「その手があったか」と言わんばかりの表情を浮かべていた。

「では、皆さんの自己紹介も済んだので本日のオリエンテーションは以上になります。お疲れさまでした」

 続けて受付嬢は翌日の予定についても連絡を行った。

「明日は更に詳しい手続きやモンスターについてのレクチャーも行います。集合時間は今日と変わりませんが、なるべく遅刻しないようにしてくださいね~。だからといって急ぎすぎるのも危険の素になりますので時間に余裕をもって来てください」
「はーい!」
「ただしツケモノさん、貴方はダメですよ~」
「……」

 最後の最後に妙なやり取りを残してオリエンテーションは幕を閉じた。
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