1 / 1
新人冒険者たちの自己紹介
しおりを挟む
ある冒険者ギルドの応接室に若者が数人集められている。やや緊張した面持ちの少年や堂々と構えている筋骨隆々の青年、寛ぎすぎて前髪をくるくる指先で弄っている少女等々。皆、厳しい審査に合格してギルドに登録された新人冒険者である。そんな彼らが待っている部屋のドアがノックされた。
「入りますよ~」
小脇に折り畳み式バインダーを挟んだ眼鏡の女性―ギルドの受付嬢が入室してきた。居住まいを正して彼女が対面に置かれている椅子に座るのを静かに観ている新人冒険者たち。受付嬢は彼らの顔を一通り見渡してからバインダーを開いて言った。
「皆さん、この度はギルドへの登録おめでとうございます。本日集まってもらったのは同期となる皆さんの顔合わせと自己紹介を兼ねているオリエンテーションのためです。これから私が書類を元に指名した人から職業とお名前を紹介してもらいます。いいですね?」
受付嬢の念押しに頷く新人たちである。それを観てから受付嬢は一枚目の履歴書を元に一人目を指した。
「ではまず、貴方からお願いします」
「あっ、はい」
見るからに緊張している少年から自己紹介の火蓋は切って落とされた。
「剣士のタケルです。よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。緊張されてますか?」
「は、はい」
「ふふ、大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね。では次は、貴女ですね。お願いします」
「はーい」
表情が強張っているタケルに優しく微笑んでから次の新人を指す。やや間延びした返事をして立ったのは、鮮やかな赤い髪をくるくる弄っていた少女である。
「魔法使いのリサでーす。よろしくお願いしまーす」
「はい、よろしくお願いします。あら、すごくリラックスされてますね」
「別に~?これが普通だし。というか戦う時以外で張りつめていたら疲れちゃうでしょ?」
「うっ……」
リサの一言でタケルが小さく体を震わせたのを観て受付嬢は苦笑した。
「まあまあ。タケルさんも慣れてきたらそこまで緊張しなくなりますよ。では、次に貴方お願いします」
「はい」
続けて三人目の自己紹介に入った。筋骨隆々とした寡黙な印象を与える青年である。見た目に違わず静かで力強さのある野太い声で短く返事をしてから立ち上がった。
「格闘家のモヤシだ。よろしく頼む」
「なんというか、名前が筋肉に負けているような気がしますね~」
見た目に反して細いものを連想させる名前を聞いて受付嬢は淡々と感想を述べた。尚、それまでゆったりと構えていたリサは見た目と名前のギャップに驚いたのか瞼をパチクリさせてモヤシを見ていた。
「では、次の方どうぞ~」
「はい」
次に立ち上がったのは落ち着いた雰囲気を纏った褐色肌の女性である。
「踊り子のフランです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。得意な踊りは何ですか?」
「はい、盆踊りです」
「ある意味でモンスターたちの意表を衝けそうですね~」
人は見かけによらない意外な特技を持っている。フランの得意な踊りはまさにその一例と言える。
「ボンオドリってなに?」
「僕も知らないです……」
「なかなか興味深いな」
小声で盆踊りへの疑問を話し合うリサとタケルの横でモヤシは知的好奇心を刺激されたのか顎を擦りながら呟いていた。
「では、次の方どうぞ~」
「はいっ」
次に立ち上がったのは金髪というより黄色いと言った方がいい髪色をした少年である。
「流れ星のツケモノです」
「もはや天体じゃないですか。最後の方どうぞ~」
軽くあしらいながら受付嬢は最後の一人である長髪の青年を指した。
「はい。独唱者のノーオンテイです」
「歌唱力に不安を感じさせるお名前ですけど、具体的にどんなことをするんですか?」
「はい、私はこの特別製のマイクで歌い、様々なモンスターが引き寄せられる音を発生させます」
「なるほど~。集めたモンスターはどうするのでしょうか。操るんですか?」
「いいえ、集まってきたところをこのマイクで殴り倒していきます」
「マイクは鈍器じゃないですよ?」
またもやトンチキな人がいたとタケルとリサは顔合わせた。モヤシはノーオンテイの戦い方を聞いて「その手があったか」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「では、皆さんの自己紹介も済んだので本日のオリエンテーションは以上になります。お疲れさまでした」
続けて受付嬢は翌日の予定についても連絡を行った。
「明日は更に詳しい手続きやモンスターについてのレクチャーも行います。集合時間は今日と変わりませんが、なるべく遅刻しないようにしてくださいね~。だからといって急ぎすぎるのも危険の素になりますので時間に余裕をもって来てください」
「はーい!」
「ただしツケモノさん、貴方はダメですよ~」
「……」
最後の最後に妙なやり取りを残してオリエンテーションは幕を閉じた。
「入りますよ~」
小脇に折り畳み式バインダーを挟んだ眼鏡の女性―ギルドの受付嬢が入室してきた。居住まいを正して彼女が対面に置かれている椅子に座るのを静かに観ている新人冒険者たち。受付嬢は彼らの顔を一通り見渡してからバインダーを開いて言った。
「皆さん、この度はギルドへの登録おめでとうございます。本日集まってもらったのは同期となる皆さんの顔合わせと自己紹介を兼ねているオリエンテーションのためです。これから私が書類を元に指名した人から職業とお名前を紹介してもらいます。いいですね?」
受付嬢の念押しに頷く新人たちである。それを観てから受付嬢は一枚目の履歴書を元に一人目を指した。
「ではまず、貴方からお願いします」
「あっ、はい」
見るからに緊張している少年から自己紹介の火蓋は切って落とされた。
「剣士のタケルです。よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。緊張されてますか?」
「は、はい」
「ふふ、大丈夫ですよ。リラックスしてくださいね。では次は、貴女ですね。お願いします」
「はーい」
表情が強張っているタケルに優しく微笑んでから次の新人を指す。やや間延びした返事をして立ったのは、鮮やかな赤い髪をくるくる弄っていた少女である。
「魔法使いのリサでーす。よろしくお願いしまーす」
「はい、よろしくお願いします。あら、すごくリラックスされてますね」
「別に~?これが普通だし。というか戦う時以外で張りつめていたら疲れちゃうでしょ?」
「うっ……」
リサの一言でタケルが小さく体を震わせたのを観て受付嬢は苦笑した。
「まあまあ。タケルさんも慣れてきたらそこまで緊張しなくなりますよ。では、次に貴方お願いします」
「はい」
続けて三人目の自己紹介に入った。筋骨隆々とした寡黙な印象を与える青年である。見た目に違わず静かで力強さのある野太い声で短く返事をしてから立ち上がった。
「格闘家のモヤシだ。よろしく頼む」
「なんというか、名前が筋肉に負けているような気がしますね~」
見た目に反して細いものを連想させる名前を聞いて受付嬢は淡々と感想を述べた。尚、それまでゆったりと構えていたリサは見た目と名前のギャップに驚いたのか瞼をパチクリさせてモヤシを見ていた。
「では、次の方どうぞ~」
「はい」
次に立ち上がったのは落ち着いた雰囲気を纏った褐色肌の女性である。
「踊り子のフランです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。得意な踊りは何ですか?」
「はい、盆踊りです」
「ある意味でモンスターたちの意表を衝けそうですね~」
人は見かけによらない意外な特技を持っている。フランの得意な踊りはまさにその一例と言える。
「ボンオドリってなに?」
「僕も知らないです……」
「なかなか興味深いな」
小声で盆踊りへの疑問を話し合うリサとタケルの横でモヤシは知的好奇心を刺激されたのか顎を擦りながら呟いていた。
「では、次の方どうぞ~」
「はいっ」
次に立ち上がったのは金髪というより黄色いと言った方がいい髪色をした少年である。
「流れ星のツケモノです」
「もはや天体じゃないですか。最後の方どうぞ~」
軽くあしらいながら受付嬢は最後の一人である長髪の青年を指した。
「はい。独唱者のノーオンテイです」
「歌唱力に不安を感じさせるお名前ですけど、具体的にどんなことをするんですか?」
「はい、私はこの特別製のマイクで歌い、様々なモンスターが引き寄せられる音を発生させます」
「なるほど~。集めたモンスターはどうするのでしょうか。操るんですか?」
「いいえ、集まってきたところをこのマイクで殴り倒していきます」
「マイクは鈍器じゃないですよ?」
またもやトンチキな人がいたとタケルとリサは顔合わせた。モヤシはノーオンテイの戦い方を聞いて「その手があったか」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「では、皆さんの自己紹介も済んだので本日のオリエンテーションは以上になります。お疲れさまでした」
続けて受付嬢は翌日の予定についても連絡を行った。
「明日は更に詳しい手続きやモンスターについてのレクチャーも行います。集合時間は今日と変わりませんが、なるべく遅刻しないようにしてくださいね~。だからといって急ぎすぎるのも危険の素になりますので時間に余裕をもって来てください」
「はーい!」
「ただしツケモノさん、貴方はダメですよ~」
「……」
最後の最後に妙なやり取りを残してオリエンテーションは幕を閉じた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
【完結】慈愛の聖女様は、告げました。
BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう?
2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は?
3.私は誓い、祈りましょう。
ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。
しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。
後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる