平凡な僕の非凡な日常：恋愛相談ラッシュ

中学時代の思い出と人垂らし

中学時代、俺の隣に座っていた奈々美は、控えめで人見知りの強いタイプだった。彼女のメガネの奥にはいつも少し不安そうな目が隠れていて、クラスの中でも一隅を占める存在だった。彼女の相談が始まったのは、ある授業のあとだった。「蒼介君、この数学の問題、いつも難しすぎてわからないの...」と奈々美が静かに俺に助けを求めた。俺は彼女に数学が得意だったから、問題を一緒に解くことにした。それがきっかけで、奈々美は次第に他の科目の勉強でも助けを求めるようになった。彼女が「どうしたら綺麗になれるかな」と尋ねた日、俺は初めて彼女の他の悩みにも真剣に耳を傾けた。化粧やファッションについてはあまり詳しくないが、彼女の自信を少しでも後押しできたらと思って、「自信を持つことが一番大事だよ。君はもう充分素敵だから」と答えた。奈々美の変化は少しずつだったが、明らかに彼女は自信を持ち始め、クラスでの彼女の立ち位置も変わっていった。彼女が他の人とも積極的に話すようになり、クラス内での彼女の孤立が解消されていくのを見て、俺も嬉しかった。しかし、彼女の相談が増えるにつれて、他のクラスメイトからも相談を受けるようになった。勉強のことから始まり、次第に私生活や恋愛の悩みまで、幅広い相談が俺のもとに舞い込むようになる。この時点で、俺はクラスの公 unofficial的な相談役となっていた。「ヨオッ、人垂らし、歩く人垂らしと呼ばれてるぞ。」その日、健太が冗談めかしてそう言った時、俺は少し戸惑った。そんな風に周りから見られているとは思ってもみなかったからだ。健太は笑っていたが、俺はその言葉が心に引っかかった。それでも、「さすが、みんなに信頼されてるってことだろ？悪いことじゃないさ」と言われると、少しは救われた気がした。この「人垂らし」というレッテルは、俺が皆の悩みに真剣に耳を傾け、解決策を提供し続けた結果、生まれたものだった。それが認知されることは喜ばしいことだが、同時に、ただ普通の高校生として過ごしたいという俺の願望とは、少し矛盾しているように感じられた。内心、俺はこの立場に疲れを感じることもあった。「俺はただの凡庸な生徒だ。誰かのために力を尽くすことができるなら、それでいいのかもしれないけど、時々それが重荷に感じることもあるんだ」と、俺は心の中でつぶやいた。

中学時代から続いているこの役割は、高校になっても変わらず、むしろその重さは増すばかりだった。学業に加え、クラブ活動や友人との付き合い、さらには家庭の事情など、多くの責任と期待が俺の肩にのしかかっていた。

「人垂らし」と呼ばれることについて深く考えれば考えるほど、自分がただの聞き役であることに虚しさを感じることもあった。友人たちから信頼され、頼りにされることは確かに嬉しいが、その一方で、自分自身の問題や感情に目を向ける時間はどんどん奪われていくように思えた。

健太や他の友人たちには、この複雑な感情をなかなか理解してもらえない。外から見れば、俺は誰もが羨むような存在に見えるかもしれない。だが、実際には、相談に乗ることでしか人と繋がれない自分に、時々疑問を感じていた。

この立場に甘んじることなく、もっと自分自身のために時間を使いたいという思いは強かったが、それを口に出すことはなかなかできなかった。誰かの役に立つことでしか自己価値を感じられないこの状況は、時として重くのしかかる。

「もっと自分のために生きたい。でも、みんなが俺を頼ってくれるのも、嬉しいんだ」と、複雑な心境を抱えながら、俺は日々を過ごしていた。このバランスをどう保つか、それが今の俺の大きな課題だった。帰り道、俺は少し遠回りをして、地元のDVDレンタル店に立ち寄った。心に残るあの名言をもう一度聞きたかったし、何より仮面ライダーデッドの物語は、いつも俺にとっての慰めだった。

店内に入り、特撮のコーナーへ直行。その日、店の棚には仮面ライダーシリーズが並んでおり、中でも「仮面ライダーデッド」の最新作が目を引いた。このシリーズは、主人公が直面する困難と彼の成長が描かれていて、何度見ても新しい発見がある。特に俺が求めていたのは、その中の一つの名言で、主人公が仲間たちとの絆と自己犠牲の重要性について語るシーンだ。

手に取ったDVDのジャケットを見ながら、俺は少し心が軽くなるのを感じた。仮面ライダーデッドの物語は、困難な状況でも前に進む勇気をくれたし、主人公の言葉はいつも俺の心に響く。このシリーズを見るたび、俺自身も少しは成長しているのではないかと感じる瞬間がある。

レンタルの手続きを済ませ、DVDを手にした俺は、ふと外を見るともう夕暮れ時。店を出るとき、胸に秘めた疲れや悩みが少しは晴れたような気がして、足取りも軽くなった。仮面ライダーデッドの名言を胸に、今夜もまた自分の心と向き合う時間を持とうと思った。

家に帰るまでの道すがら、俺は自分自身に問いかけた。自分は他人の期待に応える道具ではなく、自分自身の人生を歩むべき人間だ。それを改めて認識し、このDVDを見ることで、もう一度自分を取り戻す勇気を持てるかもしれない。そんな希望を抱きながら、俺は家へと急いだ。その日、DVDレンタル店を出た直後、偶然にも美穂と彼氏のデート現場に遭遇した。遠目から二人が楽しそうに歩いているのを見て、俺は一安心した。彼女が幸せそうにしているのを見るのは、いつも心から嬉しいことだ。

しかし、よく見ると美穂の表情が浮かないものに見えた。彼女は笑ってはいるが、その笑顔には何かを抱えているような、ほんの少しの影があるように思えた。彼女との数々の相談が頭をよぎり、もしかして何か問題があるのではないかと心配になった。

「気のせいかな…」と自分に言い聞かせながら、俺は仮面ライダーデッドのDVDを抱えて帰路についた。美穂が本当に何か困っているのなら、またいつでも相談に乗るつもりだ。それが俺のできることだし、彼女が求めてくるなら、何度でも力になりたいと思っている。

歩きながら、仮面ライダーデッドのDVDから目が離せなかった。今夜はこのDVDを見て、ヒーローたちがどのように困難に立ち向かうのかを見て、自分自身にも問うつもりだ。他人を助けることの意味、そして自分自身を大切にすることのバランスをどう取るか、その答えを見つける手がかりが、この中にあるかもしれない。

美穂のことを思いながら、夜の街を歩く俺の心は、不安と希望で少しだけ揺れ動いていた。