37 / 43
番外トーマ編
02 俺が王太子の側近になった件
その日の内に俺はソフィーナにベリアへと連れ去られる。
あまりにも急な話だが、半日で着く距離ならばそんな大袈裟に別れを告げることもない。
俺は「カッコいいですわ…!」と借りてきた猫になったソフィーナと一緒にベリア領の邸へと向かった。
まだ国王の住まいである王宮というには質素だが、それなりにしようと諸々改築中のようだ。
「誰???」
久しぶりに会ったクリストの第一声がそれだ。
薄情だなと顔を歪めるが、別に忘れたわけではなかったらしい。
「本当にトーマなのか?」と詰め寄られる。
「ちょっと変わり過ぎじゃないか?その眼鏡はどうした」
「ユーリにも『馬子にも衣装』とか言われたよ。この眼鏡はニノから」
「ぐっ…私とキャラが被るじゃないか…!」
どうやら不満らしい。
クリストの前では控えようと眼鏡を外して胸ポケットへ仕舞う。
クリストに促され、俺は次にルーファスの執務室へと挨拶に連れて来られる。
「来たか。…誰だ?」
「父上、トーマ・カブラギです」
ここでも誰とか言われる。
そんなに別人か、俺。
「話は聞いている。どうしてもソフィーナと結婚したいと言うならば、行動で示してみたまえ」
「うぇ?…あ、はい」
その聞いている話は俺の聞いている話と同じだろうか。
思わず声が裏返り、コホンと咳払いした。
「まずはクリストの側近として働いてみろ。どうせ貴族の教育もまともに受けてこなかっただろうから家庭教師も用意した。一年間で成果を上げると息巻いているらしいが、そんなに甘くない世界だということを教えてやる」
誰が『一年間で成果を上げると息巻いている』んだ???
チラとソフィーナを横目で見るが、明後日の方向を見て惚けている。
これは確信犯か。
「おい、何処を見ている。イチャつくんじゃない、私はまだ許していないぞ」
退路を断たれている気がするようなしないような。
いや、やると自分で決めたんだ。
やるしかない。
俺は胸ポケットに仕舞ったニノの眼鏡を取り出し、装着した。
「ルーファス国王陛下」
思ったよりも低い声が出て空気がピリッと緊張する。
「それとも義父上と呼んだ方がいいのか」
「…っ、今はまだ陛下と呼べ」
「では陛下」
慣れない眼鏡がずり下がり、俺は指でクイと持ち上げる。
「目にモノを見せてやりましょう」
それがかなりの挑発的な態度だったと気付いたのは、クリストの執務室に戻った後のことだった。
無闇に大口を叩くなと説教され、おかしいなと首を捻る。
何故だ、期待に応えるよう努力すると返事したつもりだったのに。
「ではまず簡単な仕事から頼もうか」
こちらの資料をと手渡され、見ると公共工事の見積もり案だった。
「内容が問題ないかチェックしてくれ」
「過去の見積書や今年の予算案を見せて貰っても?」
「…」
クリストが驚いたように黙り込み、俺は首を傾げた。
「何だ?」
「いや、直でその言葉が返ってくるとは思わなかったから」
「必要だろ。俺は何もわかんねぇんだから」
「資料ならそちらの棚にあるから勝手に見てくれ」
そちらのと示された棚にはファイルがグチャグチャに詰め込まれた惨状があった。
「…」
「すまん、忙しくて整理出来てなくて」
「わかった」
まずはここからだな、と整理整頓から始めることにする。
ファイルを整理整頓し、見積もり案をチェックし、問題点を書き出してからクリストのデスクへと提出する。
「…早いな」
「簡単な仕事なんだろ?」
「それはそうだが」
「俺が馬鹿やってたからって普通のことで高評価するのやめてくれ」
そういうのは望んでないと苦笑する。
クリストは書類をチェックする手を止め、俺の顔をじっと見つめた。
「馬鹿を演じてたのか?」
「まぁな」
「何の為に?」
「俺は男爵令息だから」
その方がらしいだろと肩を竦めてみせる。
納得したのかしないのか、クリストは「そうか」と頷いた。
「もう少しデカい仕事を任せてみるか」
「早いな」
「優秀な者はこき使うだろ」
文句言うなと書類を突き出される。
受け取り目を通すと、それは橋の老朽化についての要望書だった。
「橋を架けなおすのか」
「もしくは別の場所に移すか」
「壊している間は通れなくなるから、別の場所に移した方が混乱は少ない」
「そうなるとメインストリートの交通量が変動する。そこの通りにある店からは苦情が殺到するだろう」
「…」
なるほどと顎に手をやる。
これは中々に難しい問題だ。
「判断は任せる。予算内にどうにか対処してくれ」
「ズルしてもいいのか?」
「ズルとは?」
「俺の人脈、使っていいのかってこと」
後で文句を言われないようにと思って訊いたのだが「それのどこがズルなんだ?」と訊き返されてしまった。
その言葉、忘れるなよ?
あまりにも急な話だが、半日で着く距離ならばそんな大袈裟に別れを告げることもない。
俺は「カッコいいですわ…!」と借りてきた猫になったソフィーナと一緒にベリア領の邸へと向かった。
まだ国王の住まいである王宮というには質素だが、それなりにしようと諸々改築中のようだ。
「誰???」
久しぶりに会ったクリストの第一声がそれだ。
薄情だなと顔を歪めるが、別に忘れたわけではなかったらしい。
「本当にトーマなのか?」と詰め寄られる。
「ちょっと変わり過ぎじゃないか?その眼鏡はどうした」
「ユーリにも『馬子にも衣装』とか言われたよ。この眼鏡はニノから」
「ぐっ…私とキャラが被るじゃないか…!」
どうやら不満らしい。
クリストの前では控えようと眼鏡を外して胸ポケットへ仕舞う。
クリストに促され、俺は次にルーファスの執務室へと挨拶に連れて来られる。
「来たか。…誰だ?」
「父上、トーマ・カブラギです」
ここでも誰とか言われる。
そんなに別人か、俺。
「話は聞いている。どうしてもソフィーナと結婚したいと言うならば、行動で示してみたまえ」
「うぇ?…あ、はい」
その聞いている話は俺の聞いている話と同じだろうか。
思わず声が裏返り、コホンと咳払いした。
「まずはクリストの側近として働いてみろ。どうせ貴族の教育もまともに受けてこなかっただろうから家庭教師も用意した。一年間で成果を上げると息巻いているらしいが、そんなに甘くない世界だということを教えてやる」
誰が『一年間で成果を上げると息巻いている』んだ???
チラとソフィーナを横目で見るが、明後日の方向を見て惚けている。
これは確信犯か。
「おい、何処を見ている。イチャつくんじゃない、私はまだ許していないぞ」
退路を断たれている気がするようなしないような。
いや、やると自分で決めたんだ。
やるしかない。
俺は胸ポケットに仕舞ったニノの眼鏡を取り出し、装着した。
「ルーファス国王陛下」
思ったよりも低い声が出て空気がピリッと緊張する。
「それとも義父上と呼んだ方がいいのか」
「…っ、今はまだ陛下と呼べ」
「では陛下」
慣れない眼鏡がずり下がり、俺は指でクイと持ち上げる。
「目にモノを見せてやりましょう」
それがかなりの挑発的な態度だったと気付いたのは、クリストの執務室に戻った後のことだった。
無闇に大口を叩くなと説教され、おかしいなと首を捻る。
何故だ、期待に応えるよう努力すると返事したつもりだったのに。
「ではまず簡単な仕事から頼もうか」
こちらの資料をと手渡され、見ると公共工事の見積もり案だった。
「内容が問題ないかチェックしてくれ」
「過去の見積書や今年の予算案を見せて貰っても?」
「…」
クリストが驚いたように黙り込み、俺は首を傾げた。
「何だ?」
「いや、直でその言葉が返ってくるとは思わなかったから」
「必要だろ。俺は何もわかんねぇんだから」
「資料ならそちらの棚にあるから勝手に見てくれ」
そちらのと示された棚にはファイルがグチャグチャに詰め込まれた惨状があった。
「…」
「すまん、忙しくて整理出来てなくて」
「わかった」
まずはここからだな、と整理整頓から始めることにする。
ファイルを整理整頓し、見積もり案をチェックし、問題点を書き出してからクリストのデスクへと提出する。
「…早いな」
「簡単な仕事なんだろ?」
「それはそうだが」
「俺が馬鹿やってたからって普通のことで高評価するのやめてくれ」
そういうのは望んでないと苦笑する。
クリストは書類をチェックする手を止め、俺の顔をじっと見つめた。
「馬鹿を演じてたのか?」
「まぁな」
「何の為に?」
「俺は男爵令息だから」
その方がらしいだろと肩を竦めてみせる。
納得したのかしないのか、クリストは「そうか」と頷いた。
「もう少しデカい仕事を任せてみるか」
「早いな」
「優秀な者はこき使うだろ」
文句言うなと書類を突き出される。
受け取り目を通すと、それは橋の老朽化についての要望書だった。
「橋を架けなおすのか」
「もしくは別の場所に移すか」
「壊している間は通れなくなるから、別の場所に移した方が混乱は少ない」
「そうなるとメインストリートの交通量が変動する。そこの通りにある店からは苦情が殺到するだろう」
「…」
なるほどと顎に手をやる。
これは中々に難しい問題だ。
「判断は任せる。予算内にどうにか対処してくれ」
「ズルしてもいいのか?」
「ズルとは?」
「俺の人脈、使っていいのかってこと」
後で文句を言われないようにと思って訊いたのだが「それのどこがズルなんだ?」と訊き返されてしまった。
その言葉、忘れるなよ?
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~
ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。
絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。
彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。
営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。
「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」
転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。
だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。
ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。
周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。
「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」
戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。
現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。
「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」
これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。