ド田舎男爵令嬢、実家に仕送りします

那珂川

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そもそもレティシアに生まれ変わった宇賀神あかりは二次元が好きだった。

 その中でもクールな印象のキャラが好物であった。

 戦隊物で言えばブルーや黒、後から出てくる銀色等、役柄で言えば参謀や宰相、副司令官等、主人公や熱いキャラの横に居る、常に落ち着いてる頭脳派キャラが好きだった。



 そしてジークフリードはと言うと、顔も中身も主人公キャラ寄りである。



 光をこれでもかと反射させる様な見事な金髪に、木漏れ日に透けた葉の様な美しい翠の瞳を持った美形ではあるが、凛々しく意思の強い印象を受ける顔で、背も高いし体格もガッシリしている所謂パワー型であった。



 そこら辺が王都に住むご令嬢達の目を惹き付けているのだが、宇賀神あかりの好みからは丸っきり外れていた。



 実際レティシアがジークフリードと初めて会った時も、レティシアはときめくことも無く、「お~美形の冒険者さんじゃん」みたいな感想だった。



 何度か一緒に冒険者ギルドで依頼を受け、魔物討伐をしたが、ジークフリードが前衛で盾役、レティシアが中衛兼後衛をすれば昔から組んでいた仲間の様にしっくりくるパートナーになって行くのがレティシアにも分かった。



 ジークフリードの態度も良かった。

 王子であることは全く感じさせず、気さくなお兄さんみたいな感じだったので、レティシアも全く気負うことなく気楽に接することが出来た。



 こんな二人を微笑ましく見る冒険者ギルドの職員も居る程に。



 勿論冒険者ギルドや常連の冒険者、王都の民は、冒険者の格好をしているジークが第一王子のジークフリードだと知っている。



 写真と言った物が無いので王都以外では知られてないのだが、王都では偶に催事があれば王子としてのジークフリードを見掛けることもあった。

 だからジークフリードが12歳の時に冒険者ギルドへ冒険者登録しに来た時、職員は大層ビビったのだ。



 直ぐさま別室へ連れて行かれ、ギルドマスターに片膝を付かれたジークフリードは言った。



「俺はいずれ国を治める立場になるだろう。その為に民の事を深く知りたいのだ。国民は国の宝だ。国民が居なければ国は成り立たない。手始めとして王都の民の事を学ばせてくれないか?」



 その言葉に感銘を受けたギルドマスターはギルド職員は勿論のこと、城下で働く主要人物に当たりをつけた。

 最初は恐れ多いとビクビクしていた城下の民も、ジークフリードの天真爛漫さに絆されていった。



 王子が民の為に冒険者を装うなら、皆で協力しよう!



 これが城下の民のスローガンになり、ありのままの城下の様子を見せ、民達もジークフリードとは別人の冒険者ジークとして接していった。



 心配であったギルドの依頼にしても、ジークは難なくこなしていくので、冒険者ジークとして違和感が無くなり、新しく王都に来た冒険者も高ランクの冒険者としてジークを認識している。



 登録してから五年、現在17歳である冒険者のジークのランクはBである。



 本当はAになってもおかしくない実力があるのだが、Aになると貴族からの指名依頼が入ったりするのでジークはAランクに上がる試験を受けていない。



 因みに冒険者ジークとしての格好は簡易な皮の防具、フード付きのマント、輝く金髪は割と大雑把にボサついていた。

 唯一剣だけはドワーフが親指立てて良い顔するぐらいの立派なミスリル製の剣だったが、装飾が控えめなので、他の冒険者の目には普通の剣に見えた。



 なので、レティシアもまさか王子だなどとは全く気付きもしなかった。



 そして社交界のパーティー会場でジークフリードに会うのだが、冒険者ジークの面影が無かった。

 顔はジークなのだが、髪は撫で付けたオールバックの輝く金髪で、何より着ている服が黒い軍服の様な物であった。



 元々社交界パーティーをあまり良く思っていないジークフリードは、仕事にかこつけて王宮騎士団の官舎に出向いていた。

 17歳にして国一番の剣の腕を持つジークフリードは偶に騎士達の訓練も見ている。

 勿論希望者と手合わせすることもある。

 その時に着る服が黒い騎士服だった。

 品の良い装飾が施されており、尚且つ動きやすく作られている一級品でもある。



 そのままパーティーが終わるまで官舎に居るつもりだったが、そこをメイド長に見つかった。

 このメイド長、見た目は50代に見えるのだが、実年齢は不詳である。

 国王も生まれた時からあの姿だったと言っており、王宮七不思議の1つでもあった。

 そしてこのメイド長にニッコリとパーティーに出るようにと言われると、ジークフリードは行くしかないのだ。



 それが騎士服のまま現れた理由であるが、背が高く、体格の良いジークフリードにはフリルが付いた華美な王子服より似合っていた。



 そしてもう1つ、宇賀神あかりがヨダレを垂らす程好きな物があった。

 軍服である。



 アニメや漫画に軍服姿のクールビューティーキャラが出て来ると、現実世界の疲れから逃れられる気がした。

 忙しない東京での生活における癒しだった。



 パーティーで会ったジークはクールビューティーでは無いが、いつも見るボサボサ髪は地球でもお目にかかれない程の黄金色のオールバックになっており、軍帽と鞭を付け加えたいぐらいの美丈夫になっていた。



 喋るとジークなのだが、既にレティシアの中ではジーク様になっており「軍服キタコレ」状態でウキウキとダンスをしたのだが、ジーク様の最後の言葉と笑顔に心臓が撃ち抜かれてしまった。



 宇賀神あかり+レティシアにとってはバズーカ砲並みの威力であったのだ。



 そういった経緯で、現在アイラの目の前には頭を抱えているレティシアが居る。



 アイラは悩んだ。

 この前の魔物討伐で途中参加したジークは、紛れも無くジークフリード殿下である。

 それはロックもマイルもマリーも気付いてしまったことなのだが、その時のアーサーの対応から空気を読み、冒険者ジークとして接した。



 そのジークのことでレティシアが悩んでいるのだが、アイラからは冒険者ジークはジークフリード殿下なのですわ、とは言えない。言ってはいけない。



 レティシアを崇拝しているアイラにとって、レティシアの結婚相手も重要な案件であった。



 自分が男ならハイ!と手を挙げて立候補するのだが、アイラは女である。

 なので生半可な考えを持った相手をレティシアに近付けない様に画策しようと試みた。

 だがアイラの考えとは裏腹に、膨大な魔力を持ち、教師となったレティシアに恋を抱く者は現在皆無であった。

 入学当初はレティシアの美少女ぶりに浮足立つ男子が大勢居たのだが、教師として行われる授業内容が少しずつ明らかになるとレティシアブームは一気に収まり、可憐な美少女から恐怖の対象に成り代わった。



 このことに関してはアイラも仕方ない状況であるのは理解したが、レティシアに卒業後も王都に残って貰いたいアイラは考える。

 性格も家柄も良い男子とレティシアを引き合せること。



 先ずアイラはロックにターゲットを置くが、マリーがクラスメイトになり呆気なく却下となった。



 次にマイルだが、彼はレティシアの魔力にしか興味が無い。

 それでは駄目だ。レティシアを愛し、大事にしてくれる相手でなければならない。

 もしマイルと結婚すれば、きっと彼はレティシアで何かしら実験するだろう。

 だから却下だ。



 そしてアーサーである。

 彼は第二王子なので、勿論家柄は申し分無いが、性格に難がある。

 腹黒いのだ。

 実はアイラもそのタイプなので見抜けたのだが、多分アイラとアイラの父親である宰相以外はその事に気付いてないと思われる。

 その腹黒さは王国にとってはプラスの方向を向いているので、アイラもアーサーを嫌ったりはしてないが、レティシアの相手としては却下しかない。

 寧ろこの前父親にアーサーとの婚約を匂わされ、まぁ妥当な線ですわ、と思うぐらいはあった。



 色々考えてる時にレティシアから相談されたのだが、それが恋の悩みであり、相手がジークフリード殿下であることはアイラにとって重畳であった。



 自分がアーサーと結婚し、レティシアがジークフリードと結婚すれば、二人は義姉妹である。

 死ぬまで仲良く王都で暮らせるのだ。



 問題は、ジークフリード殿下はレティシアに王子であることがバレないようにしていることで、レティシアはレティシアでこれは本当に恋なのかと悩んでいることだ。

 時折レティシアの口から軍服がーだの、オールバックに軍帽!鞭最高!と意味の分からない言葉が出てくるので、そもそもそれは恋愛相談なのかしら?とアイラは悩んでいる。



 執事であるセバスが小さなケーキを数種類と紅茶を持ってくるが、ここはアイラの家、デティール公爵家の御屋敷の東屋なので別に不思議でも何でもない。



 アイラは紅茶を一口飲むとレティシアに言った。



「レティちゃん、もう一度同じ格好したジーク様とお会いしては如何でしょうか?会えばジーク様に恋をしているのか、服に恋をしているのか分かると思いますの」

「でも……連絡先知らないし、この前は護衛の任務だって言ってたし」

「そこはわたくしにお任せ下さい。ジーク様は冒険者なのでしょう?だったら依頼を出せば良いのです」

「え?貴族からの指名依頼はAランクとSランク冒険者だけだからBランクのジークは受けれないんじゃ……」

「そうですの?…………あ、大丈夫ですわ。わたくしにお任せ下さい」



 そう言うと、アイラはセバスにコショコショと何かを告げ、それを聞いたセバスはニッコリと微笑み忍者の如く消え失せた。



 レティシアはそれを見て、もしやテレポート使い?とアイラに聞いたが、セバスは足が速いのですわとアイラは返事をした。



 ――――――――――



 王宮にて



 アイラの父親であるデティール宰相は、アーサーから渡された貴族達の不正の証拠に対してどういう落とし所を付けるか処理に忙しかった。



 アーサーが動かす影達の半数は宰相が用意した者達であるので、アーサーと宰相の連絡はスムーズであり、立証出来そうな証拠集めには苦労はしないのだが、その量が当初の予想より多かった。

 上位爵位である公爵、侯爵、辺境伯は自分も含め国への忠誠心が強い者ばかりなので、調べても不正は無かったのだが、伯爵家以下の貴族は少なからず問題が出てきた。

 多少のことには目を瞑るのだが、目に余る事柄も多いので、宰相は通常業務の他に多大な仕事量を引き受けることになったのだ。



 出来れば毎日屋敷に戻り、愛する妻と娘を愛でたいのだが、なかなか上手く時間が取れなかった。

 その埋め合わせをするのも執事であるセバスの役目だった。

 レティシアの様にテレポートが使える訳でも無いのに、セバスの移動は異常に早かった。

 今日も奥様とお嬢様の様子を報告し、彼女達からの言葉が綴られている本を多忙である宰相に渡す。

 それににやけながら宰相も妻と娘への愛情たっぷりの返事を書き記し、セバスに渡すのだ。

 所謂交換日記である。

 全て書き記してしまった交換日記帳は、デティール邸の蔵書の奥の隠し部屋にきちんと保存されている。



 その交換日記と一緒にセバスはアイラからのお願いを主人である宰相に報告した。



「王宮騎士団の訓練の見学か」



「左様にございます。それもジークフリード殿下が参加してることが前提でございますが」



「それをあのレティシア・ダークサイトと見学するのだな?」



「レティシア嬢を王都に留める為の策だそうで」



「よし、私から騎士団長に話を通しておこう」



「それではその様にお嬢様にはお伝え致します」



「あ、セバス、そろそろ妻の誕生日が近いのだが、今度のプレゼントは何が良いだろうか?」



「そうですね、奥様なら御主人様のお贈りになった物であれば喜んで下さるとは思いますが、最近東の国で発掘されたブラックオパールが見事だと聞きかじっております。もし手に入れば装飾品等にも使えるのではないかと思います」



「よし、手配してくれ」



「かしこまりました」



 セバスの気配が消えた後、宰相は机に積み上げられた書類を置いて執務室から出る。



 唸りながら背筋を伸ばし、自分も歳を取ったなぁと独り言ちた。



 アイラとアーサー殿下、レティシア・ダークサイトとジークフリード殿下、この国にとっては最強の布陣ではないか。



 宰相は顎を手で撫でながら騎士団の官舎に足を向けた。



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