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第二章
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「ロベルト様はお会いになりません。お帰りください、ミラ・アディソン様。」
公爵家の衛兵がもう何度目か分からないその言葉を放った。
宰相家の夜会から数日、私は何度もロベルトの実家であるセインズ公爵家の屋敷を訪れていた。
しかし、ロベルトは私が屋敷に入ることを決して許さなかった。
私は諦めずに毎日通った。
”話がしたい” ”謝罪をしたい” ”マリーの居場所について知っている”
私は衛兵にそう伝えるよう頼み、門の前でひたすら待つが返ってくる返事は決まって”ロベルト様はお会いになりません。お帰りください。”だった。
両親は私に失望し、同時に怒り狂っていた。
公爵家との縁談が台無しになった上に、私のせいで社交界の笑い者になっているらしいから当然といえばそうなのだろう。
馬車も出してもらえず、毎日ここまで歩いて通っている私の足は今ではボロボロだった。
痛む足を引きずりながら、帰路を辿る。
今日も母は私を打つのだろう。
そんなことを考えながら途方にくれた。
どうしてこんなことになってしまったの……………???
………マリーを追い出すまでは完璧だったのに。
そんなとき目の前から一人の男性が歩いて来た。
帽子を目深に被り、メガネをかけている。
服は庶民のものだが、隠しきれない美しい体のシルエットに目を引かれた。
口元にゆるりと笑みを浮かべていて、妖艶な雰囲気をまとっている彼は私の近くで歩くスピードを落とした。
「お久しぶりですね」
その声を聞いて顔が引きつった。
この目の前の男はあの二重人格王子だったのだ。
私は立ち止まり、キッと彼を睨みつけた。
しかしそんな私を前にしても、彼は余裕そうな笑みを顔面に貼り付けているだけだった。
「………ちっ………何の用よ!!!」
「………おや、あの夜会の日とは随分違う態度ですね??? ミラ・アディソン嬢」
「アンタこそ、気持ち悪い演技で私を騙したわね!!!」
「演技………??騙した………???」
「とぼけないでっ!!!」
私の半分叫ぶような声に、王子はまた”ふっ”と笑いをこぼした。
「まぁ、私も貴方には悪いと思っているのです。てっきり仲違いをしたいのかと思って、わざとロベルト殿を怒らせたのですが、こんな風に足繁く公爵邸を訪れて関係の修復に励んでいるとは………」
「………っ」
私は言葉を詰まらせた。
仲違いのためにロベルトを怒らせたですって………???
よくもまぁ、そんな嘘を口からペラペラと吐き出せるわね。
今ならちゃんと分かる。
この男は人を善意で助けるような男じゃない。
あの時だって私で遊んでいたのよ。
そういう腹黒い男なんだわ。
私は唇を噛み締め、また歩き出した。
これ以上彼と話していたくなかった。
……………悔しさのあまり涙がこぼれそうだったから。
しかし、彼はまだ私に話しかけて来た。
「ロベルトと会いたいですか???」
その言葉に私は足を止めた。
………会いたい???
そんな軽い気持ちじゃない。
どうしても会わなきゃいけないんだ。
彼に会って、どうにか話を聞いてもらって助けて貰わないと………私はマリーと同じように伯爵家を追われて平民に落ちてしまうのよ……………???
「今週彼は二つの夜会に出席します。その一つに貴方が参加できるように根回しをして差し上げましょう」
「…………そんなことをして、アンタにメリットが???」
私は彼を疑い深く見つめた。
彼が見せる優しさなんて全てが嘘だ。
ハリネズミのように警戒心が高くなっている私に対して、王子は余裕綽々に微笑んでいる。
「貴方がロベルトと一緒になることには私にもメリットがあります」
「そのメリットは何???」
「………婚姻を結びたい娘がロベルトの新しい婚約者候補、だと言えばわかってもらえますか?」
「……王子なら、そんなもの権力でどうにかできるでしょう???」
「まぁ、そうですね。ですがこっちの方が私にとって簡単で楽です。今、社交界で印象の悪い貴方をロベルトが正妻もしくは側室として迎えられれば、その娘との婚約話は一瞬で無くなるでしょう。」
「…………私をとことん利用しようって訳ね」
「利用なんて人聞きの悪い。………これは協力ですよ」
胡散臭い笑みにまた舌打ちをしそうになったが、私は我慢をした。
………悪い話ではなかった。
今のままロベルトと会えないことには私はどうすることもできないからだ。
そして今回は相手……王子の行動の理由も分かっているのだから、少しは信用できる。
「分かったわ。その夜会に私が行けるようにして」
私の言葉に王子はにっこりと笑った。
その端麗な顔に浮かべる冷たい笑顔に私は体を身震いさせた。
まるで悪魔と契約を結んでいるような……そんな気分だ。
「幸運をお祈り致します」
「アンタの祈りなんていらないわよ。逆に不幸になるわ」
私はさっさと王子から顔を背けた。
今まで誰だって私の思い通りに動かせたのに、それが通用しない王子とは長く話していたくなかった。
………言葉にできない気持ち悪さを感じる。
「ふふっ。………では私はこれで。追って連絡致します」
そう言って王子はブーツの靴音を響かせながら、歩き出した。
その後ろ姿をしばらく目で追う。
彼が通りの角を曲がり姿が見えなくなったところで私はようやく息を大きくはいた。
肩の力が抜け、気持ちが楽になる。
彼と一緒にいると”気持ち悪い”と感じた理由がわかった。
……………私は緊張をしていたのだ。
人を駆け引きするのが楽しくて仕方がなかったこの私が。
………………早くロベルトとの件を何とかして、二度とあの腹黒王子とは関わりたくない。
唇を噛み締め、私は王子が歩いて行った方向とは逆の方向を向き再び歩き出した。
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