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第二章
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しおりを挟む「………マリーに……似る???お前みたいな女が???」
「……………ろ、ロベルト様…………」
「私の聞き間違いか???お前みたいな醜悪な女と………マリーが???」
ロベルトは”はははっ”と乾いた笑い声を浮かべた後、光のない瞳で私を見つめた。
「お前が心底憎いぞ、ミラ・アディソン。私が怒りを抑えられている間に………、さっさとここから出て行ってくれ」
………ポツリ………ポツリ……と小粒の雨が降り出した。
しかしロベルトはそれも気にしていないようで、その場から動こうとはしない。
そして私の方も一切見ようとはしなかった。
冷静な自分が言った。
”早くここから立ち去るべきだわ”と。
だけどここで諦めたなら、私はどうなるの?
またロベルトに会う機会はある?
いつまで父は私がチャンスを掴むのを待ってくれるかしら?
明日にも親子の縁を切られ、平民に落とされるかもしれないのよ………???
追い詰められた私はちっとも冷静ではいられなかった。
体は震え、今にも倒れ込みそうなほど気分が悪かった。
それでも耐えた。
今やるしかないから。
「っ!!! どうか………どうか………私を許してくださいロベルト様!!!私にはもう、貴方しかいないのですっ!!!」
私はロベルトの前に座り込み、彼の服の裾を掴んで縋った。
「なんでもしますっ!!!どうか私をお救いください、ロベルト様。このままでは私は両親に親子の縁を切られてしまうのです………!!!今一度婚約破棄の撤回について考え直していただけませんか………お願いです………」
雨足が強くなり、私だけではなくロベルトの髪や服も濡れてきた。
彼の美しい白い肌の上を水滴が伝う。
ロベルトは目を伏せて押し黙るだけで何も言わなかった。
「ロベルト様………マリーのことを思い続けていても構いません………彼女が他の男のものになった後も彼女を好いている貴方を丸ごと愛します………だから………私をお選びください…………!!!」
その言葉に突然ロベルトは私を睨みつけた。
先程とは比べものにならないくらい彼は怒っているようだった。
まるで尖った刃物のような視線に私は”ひっ”と声を漏らしてしまった。
「マリーが………他の男のものに………っ!?そんなの許せないっ、許せるわけがないだろう………!!!マリーは私のもので、私はマリーのものだ………」
「も、勿論です!!!だからミラは協力致しますわ!一緒にマリーを取り戻すのです!!」
勿論そんなつもりはない。
ロベルトが私を受け入れたなら、その場所は全部私のものだ。
彼がマリーを平民男から無理やり奪うことは難しいことではない。
結婚していたとしてもやりようはある。
だから私が近くで邪魔をしなくては。
バカなマリーが貴族の世界に戻ってこないように。
「………協力………???」
「はい!ミラがロベルト様をお手伝い致しますわ!!!きっとお役に立てることが沢山あるはずです!だから、その間だけでも……婚約を結び直していただけませんか………???」
「………」
「お願いです………ロベルト様………。お側におりたいのです………!!!」
私は彼の冷え切った手を握り、私の頰に当てた。
頰をすり寄せ、懇願する。
ロベルトはプライドの高い男だ。
こうやって下手に出られることに弱い。
そして好きだったマリーに相手にされていなかったからこういった行動にも慣れておらず、いつもすぐに顔を真っ赤にしていた。
………しかし顔を上げれば、ロベルトは心底不快そうな表情を浮かべていた。
彼は私の手を思いっきり振り払い、その勢いで私は床に倒れこむ。
私は床に倒れたまま、口元に不気味な笑みを浮かべているロベルトを見上げた。
その笑みに私の背に悪寒が走る。
「分かっているぞ、ミラ・アディソン。公爵家との繋がりを死守しろと父親に言われているのだろう………???」
「………っ!!」
「こんなにも無様な姿で懇願するくらいには追い込まれているのか………」
「……っ」
悔しさで何も言い返せなかった。
好きでもないロベルトにこれまで愛を囁いてきたのは、彼を利用してマリーを陥れ、私は更に良い相手を探すためだった。
私はロベルトより優位な状況で、ロベルトを支配してたから何の感情もなく愛を囁けた。
それが今、自身の身を守るのに精一杯な状況になって……、愛の言葉を一つ吐くだけで気持ちが苦しかった。
何でこんな男に下手にでなければならないのか悔しかった。
でも今は我慢することしか私にはできないんだ。
「ミラ・アディソン、私はもう二度とお前と婚約をするつもりはないぞ」
「…………っ」
ロベルトのその言葉に鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
………それじゃ……ダメなのよ………。
婚姻が結べないと………!!!
公爵家との繋がりを保たないと………!!!
「お願いです!!!!正妻が無理ならば………、側室にでもしてくださいませ!!!私は貴方だけに尽くします!!!貴方が私に愛をくれなくてもそれでも良いのです!!!」
私は上半身を起こし、ロベルトの袖口を掴んで必死に叫ぶように懇願した。
雨の音がうるさいため、自分の声はかき消され中の会場には全く聞こえていないだろう。
私は床に頭をつけた。
”頭を地面に擦り謝罪してでも、ロベルトを手に入れるんだ”
父の声が頭の中で響く。
床が濡れているなど、もう気にならないくらいには頭の先からびしょ濡れだった。
………惨めね。
自分の今の姿に、私は自嘲の笑みを浮かべた。
髪は私の顔や首筋に張り付き、濡れた服は冷たく私から体温を奪っていった。
寒さのせいで体は震えていて、手足の指はもう感覚も薄かった。
「………正妻じゃなくても、か………」
ロベルトは小さく呟いた。
その声に私は顔を上げる。
「………でも、お前は………側室にする価値もないな。」
「………そんなっ………」
「妾になる、と言うのなら考えてやろう。ミラ・アディソン。お前は自分が私の役に立つと言ったな???それなら、妾の地位で十分だ。」
「め、かけ………???」
そんなの貴族がなるものじゃない。
貴族に気に入られた平民がなるものだ。
私は唖然として、ロベルトを見つめた。
「なると言うのなら、伯爵家との繋がりは切らないようにと父に言っておこう。」
「………」
「どうした?ミラ。お前に選ぶ権利があるのか?」
ロベルトは私の髪を引っ張り、俯いた私の顔を無理やりあげた。
その痛みのせいか反射的に私の瞳から涙が溢れた。
だけどロベルトはその手を離さない。
………分かっている。
選ぶ権利など、ない。
今はこの目の前の男に従うことしかできないんだ。
………なら、やってやる。
この男の犬にでもなんでもなって、私は私の居場所を確立する。
そこで全てを私の思い通りにするために今は全部許してあげるわ………ロベルト。
私はにっこりと優しい笑みを浮かべた。
いきなり私が微笑んだことに驚いたのか、彼は怪訝とした表情になる。
………こうやってすぐに顔に出てわかりやすいところは変わらないわね???
私は手をロベルトの頰に添え、優しく撫でた。
「私は貴方様のものになりましょう、我が君」
頰に添えた手を段々と下ろし、彼の細い首筋をするりと撫でる。
ロベルトはしばらくされるがままだったが、私の手が鎖骨あたりまで来た時、我に帰ったように私から離れた。
その表情は余裕のないもので、私はクスリと少し笑う。
彼は慌てたように目線を逸らしていたので私のその表情は見えていなかった。
「どうぞ私を屋敷にお連れください。………今日は最後までゆっくりと致しましょう………?」
いつか王族と結婚するために彼との体の関係は最後まで進めていなかった。
でももうその必要はない。
私は微笑みを浮かべ、ロベルトの体にゆっくりと抱きついた。
………私の体の形を感じるように、密着して………。
彼の暖かい体温が伝わってくる。
そして彼の心臓が早鐘のように打っているのも感じて、安心した。
………可哀想なロベルト。貴方のことはもう私が離さないわ。
一生かけて、今日のことを後悔させてあげるから。
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