そんなって、どんな?

hamapito

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先輩視点①

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 一瞬でも期待した自分がバカだった。
 お見舞いに行きます、と連絡をもらったのが三日前。ふたりで行きます、と知らされたのが前日。
「やっぱり付き合ってんのかな」
 そう思いつつも「もしかしたら」という期待は捨てられなかった。
「先輩?」
 最初に顔を覗かせた彼女の普段とは違う髪型に心臓が小さく跳ねる。けれどそのあとすぐに響いたもうひとつの声にギュッと縮まる。
「うわ、マジでギプスしてる」
「ちょっと」
 声を尖らせた彼女に
「いや事実じゃん」
 と眉を寄せる後輩。
「お見舞いに来てるってわかってる?」
「わかってないとでも?」
 ムムム、と睨み合うふたりを見上げて「えっと部活どう?」と話を振る。見慣れたふたりのやりとりに骨折した足よりも胸の奥が痛くなる。
「みんな頑張ってますけど、でも、先輩がいないとやっぱりちょっと引き締まらないんですよね」
 パイプ椅子に座った彼女が同じ目線で困ったように笑う。彼女の動きに合わせて揺れる髪が新鮮で、ふわりと浮かぶ香りにくすぐったくなる。
「そーそー。だから先輩、早く治してくださいね。じゃないと俺がレギュラーとっちゃいますよ」
 カタン、と音を立ててパイプ椅子が並ぶ。
「いや、無理でしょ」
「無理ってなんだよ」
「先輩にはまだ敵うわけないって言ってるの」
「なんだと」
 再び始まった睨み合いに、ツンと鼻の奥が痛みだす。いつもと同じように見えるけれど、いつもとはどこか違う。目を離すとすぐに口論を始めるふたりはサッカー部の中では見慣れた光景だったけれど、こうして別の場所で目の当たりにすると心臓が強張る。どこにいても変わらないからこそ、どこにも隙間などないのだと思い知らされる。
 彼女がいつもと違う髪型をしているのもきっと僕のためではないのだろう。
「そんなことないよ」
 ため息に本音を隠して笑ってやる。
「僕には敵わないこともあるから」
 何を言っているんですか、と怒ったように反論する彼女の隣、後輩は何かを飲み込むようにそっと口を閉じた。
 ああ、やっぱり。
 見えた表情に確信する。自分に向けられる想いには気づかなかったくせに。呆れるくらい鈍感だったくせに。僕の気持ちには気づいていたのだろう。僕だけでなく今はもう彼女の想いにも気づいてしまったから、だから、そんな表情をするのだろう。
 ――嫌な後輩だな。
 すっと息を吸い込む。肺で膨らんだ空気でチリチリと弾けていた痛みを押し潰す。
「ところでふたりはこのあとどうするの?」
「え」
「もうお見舞いは十分だからさ、デートでもして帰ったらどうかなって」
「デ……」
 声を詰まらせた後輩にニヤリと笑ってやる。意識させられてちょっとは気まずくなればいい。
 まあ、こんな可愛い彼女を見られたことには感謝するけど。
 否定の言葉ひとつ出せずに固まる彼女の頬は赤く、結われていない髪は窓からの風に揺れていた。
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