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『元日*おまけ』side伊織
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指を絡めたのは自分だった。
とっさに引き離そうと伸びてきた大和の手を捕まえ、そのまま流れ込む体温を味わうように指を重ねた。だから、自分の左手から伝わる熱には、耐えられる。でも、背中に触れている大きな手には、その熱には、どうしようもなく震えてしまう。
「「!!」」
大きく軋んだソファの上、バランスを崩した先、俺を優しく受け止めてくれる大和の体がふわりと浮いてから沈んだ。
「!」
とっさに顔を上げ、離したはずの唇が一瞬にして戻される。背中にあったはずの大和の手がいつのまにか俺の頭を後ろから押さえていた。
「……っ、やま、」
ほんの少しの隙間すら許されないくらいに、繋いでいた大和の手に力が込められる。髪に触れている手にはそこまで強い力は感じられないのに、引き寄せられるように抵抗力を奪われていく。
「……」
ドクンッ……ドクンッ……
高まっていく体温に押されるように鼓動が激しくなっていく。二つの体の間に挟まれるようにして弾む心臓は、もうどちらのものかわからない。
呼吸も香りも体温も、そしてその揺れさえも、混ざり合って溶けていく。
「……伊織」
「……!」
俺の名前を呼ぶ大和の声が、俺の中の熱を一気に高め、思考を奪っていく。こわいくらいに何も考えられなくなって、頭がぼーっとしていくのに、こわばっていた体からは力が抜けていく。
大和の大きな手がゆっくりと俺の体をなぞるように動いていき、首の後ろ、背中へと流れていく。
「……ん、」
俺よりも少しだけ冷たい大和の指先が、服の隙間から直に素肌に触れ、思わず声が漏れる。
「伊織、」
ビクリと小さく震えた俺に、そっと薄く目を開けた大和が俺の名前を呼ぶ。
あまりにも近い距離で結んでしまった視線に、初めて見る大和の表情に、俺は吐き出した息に混ぜるようにその名前を呼んだ。
「……大和」
もう、このまま……
ピンポーン。
「「!」」
静かな部屋に響き渡った大きな音に、俺も大和も動きを止めた。
閉じかけた瞼を戻し、再び重ねた視線からは、お互いの思考がまだ追いついていないことが伝わってくる。
ピンポーン。
再び響いたチャイムに、先に反応したのは俺だった。
「あ、宅急便?とか……?」
「……あ、そっか」
わずかに遅れて大和がそう言葉をこぼし、繋いでいた手から力を抜いた。
「で、出るね」
「あ、う、うん」
いたるところに大和の体温や感触が残っていて、離れがたくなってしまった自分の体を無理やり引き離し、俺はソファを下りるとインターフォンの受話器を手に取る。
そして、表示された画面に映る光景が信じられず、言葉を失った。
「……」
「伊織?」
固まってしまった俺を不思議に思ったのか、立ち上がった大和が俺の後ろから画面を覗き込む。そして、驚いたように声を漏らした。
「……え?」
リビングからは誰も見ていないであろうお正月番組をBGMに、楽しそうな大人たちの笑い声が聞こえる。すっかり温まった部屋の中、キッチンに立つ俺の足元にもゆるまった暖気が流れ込む。
「あーあ、あれ完全に酔っ払ってるな」
電子レンジからタッパーを取り出す大和のぼやく声が背中から聞こえ、首だけを振り返らせた俺は「まぁまぁ、おじさん大したことなくてよかったじゃん」と小さく笑ってやる。
二日に帰ると言っていた母さんがとにかく頑張って仕事を終わらせた結果、今日の便で帰ってくることができた。そして、大和のお父さんの腰が思ったよりも回復したため、おばさんと一緒に一日遅れでこちらに帰ってきた。特に示し合わせてはいなかったらしいが、空港から帰る電車の中で会ったので、息子たちの元へと一緒に行くことになった、というのがさっき俺の母さんと大和の母さんから聞いた話だ。
「そうだけどさぁ……」
ため息に混ぜられた、言葉にしなかった大和の気持ちが、合わせてしまった視線から流れてくる。俺はそっと目を細め、声を小さくする。
「……また今度、な」
「!」
一瞬にして顔を赤らめた大和に、思わず笑ってしまいそうになって、俺はとっさに自分の手元へと視線を戻す。フライパンを揺らすと油の弾ける音が響く。
「ていうか、あの時、ピンポン鳴らなかったらやばかったよね」
「あー、それな。うん、本当にな」
少し照れたような、困った声で大和が笑う。
「今回ばかりは母さんのおっちょこちょいに感謝だな」
「鍵、事務所にあったって?」
「うん。もう確認済み」
火を止め、フライパンを持ち上げると、ふわりとニンニクの香りが舞う。大きめの皿へとオリーブオイルで炒められたタコやイカなどの魚介類を移し、大和に声をかける。
「それ、ここにかけちゃって」
「あ、うん」
大和がタッパーのフタを外すと一気にトマトの香りと湯気が広がり、食欲が刺激される。それは大和も同じだったらしく、トマトソースをかけながら「めっちゃいいニオイ」と小さく笑った。
「!」
見慣れているはずの大和のその表情に、一瞬、俺の胸はぎゅっと震えた。
「じゃあ、俺、これ持っていくな」
出来上がった料理をリビングへと運ぼうとした大和の腕を、俺はとっさに掴む。
「?」
振り返った大和に、「パセリ載せるから、ちょっと待って」と言って皿から手を放させ、俺はとっさに冷蔵庫の隣の棚の前にしゃがみこむ。
「あれ?パセリって、確か、こっちじゃなかったっけ?」
そう呟きながら、俺の頭の上にある引き出しへと手を伸ばした大和を見上げるように俺は顔を振り返らせる。
「……」
「……」
エアコンの稼働音、テレビの音、三人の大人の笑い声、漂うお酒の甘い香りと、食欲を誘うニンニクの匂い。
合わせた視線は一瞬。
触れ合った唇の熱も、一瞬。
「ふ、」
「ふは、」
離された熱の先、俺と大和は小さく笑う。その声は、きっとこの狭いキッチンの中だけに響いている。
「……大和、パセリ、取ってくれる?」
「やっぱ、こっちだよな?」
「うん」
——今はまだ、この緩やかな空気の中、二人だけで笑っていたい。
とっさに引き離そうと伸びてきた大和の手を捕まえ、そのまま流れ込む体温を味わうように指を重ねた。だから、自分の左手から伝わる熱には、耐えられる。でも、背中に触れている大きな手には、その熱には、どうしようもなく震えてしまう。
「「!!」」
大きく軋んだソファの上、バランスを崩した先、俺を優しく受け止めてくれる大和の体がふわりと浮いてから沈んだ。
「!」
とっさに顔を上げ、離したはずの唇が一瞬にして戻される。背中にあったはずの大和の手がいつのまにか俺の頭を後ろから押さえていた。
「……っ、やま、」
ほんの少しの隙間すら許されないくらいに、繋いでいた大和の手に力が込められる。髪に触れている手にはそこまで強い力は感じられないのに、引き寄せられるように抵抗力を奪われていく。
「……」
ドクンッ……ドクンッ……
高まっていく体温に押されるように鼓動が激しくなっていく。二つの体の間に挟まれるようにして弾む心臓は、もうどちらのものかわからない。
呼吸も香りも体温も、そしてその揺れさえも、混ざり合って溶けていく。
「……伊織」
「……!」
俺の名前を呼ぶ大和の声が、俺の中の熱を一気に高め、思考を奪っていく。こわいくらいに何も考えられなくなって、頭がぼーっとしていくのに、こわばっていた体からは力が抜けていく。
大和の大きな手がゆっくりと俺の体をなぞるように動いていき、首の後ろ、背中へと流れていく。
「……ん、」
俺よりも少しだけ冷たい大和の指先が、服の隙間から直に素肌に触れ、思わず声が漏れる。
「伊織、」
ビクリと小さく震えた俺に、そっと薄く目を開けた大和が俺の名前を呼ぶ。
あまりにも近い距離で結んでしまった視線に、初めて見る大和の表情に、俺は吐き出した息に混ぜるようにその名前を呼んだ。
「……大和」
もう、このまま……
ピンポーン。
「「!」」
静かな部屋に響き渡った大きな音に、俺も大和も動きを止めた。
閉じかけた瞼を戻し、再び重ねた視線からは、お互いの思考がまだ追いついていないことが伝わってくる。
ピンポーン。
再び響いたチャイムに、先に反応したのは俺だった。
「あ、宅急便?とか……?」
「……あ、そっか」
わずかに遅れて大和がそう言葉をこぼし、繋いでいた手から力を抜いた。
「で、出るね」
「あ、う、うん」
いたるところに大和の体温や感触が残っていて、離れがたくなってしまった自分の体を無理やり引き離し、俺はソファを下りるとインターフォンの受話器を手に取る。
そして、表示された画面に映る光景が信じられず、言葉を失った。
「……」
「伊織?」
固まってしまった俺を不思議に思ったのか、立ち上がった大和が俺の後ろから画面を覗き込む。そして、驚いたように声を漏らした。
「……え?」
リビングからは誰も見ていないであろうお正月番組をBGMに、楽しそうな大人たちの笑い声が聞こえる。すっかり温まった部屋の中、キッチンに立つ俺の足元にもゆるまった暖気が流れ込む。
「あーあ、あれ完全に酔っ払ってるな」
電子レンジからタッパーを取り出す大和のぼやく声が背中から聞こえ、首だけを振り返らせた俺は「まぁまぁ、おじさん大したことなくてよかったじゃん」と小さく笑ってやる。
二日に帰ると言っていた母さんがとにかく頑張って仕事を終わらせた結果、今日の便で帰ってくることができた。そして、大和のお父さんの腰が思ったよりも回復したため、おばさんと一緒に一日遅れでこちらに帰ってきた。特に示し合わせてはいなかったらしいが、空港から帰る電車の中で会ったので、息子たちの元へと一緒に行くことになった、というのがさっき俺の母さんと大和の母さんから聞いた話だ。
「そうだけどさぁ……」
ため息に混ぜられた、言葉にしなかった大和の気持ちが、合わせてしまった視線から流れてくる。俺はそっと目を細め、声を小さくする。
「……また今度、な」
「!」
一瞬にして顔を赤らめた大和に、思わず笑ってしまいそうになって、俺はとっさに自分の手元へと視線を戻す。フライパンを揺らすと油の弾ける音が響く。
「ていうか、あの時、ピンポン鳴らなかったらやばかったよね」
「あー、それな。うん、本当にな」
少し照れたような、困った声で大和が笑う。
「今回ばかりは母さんのおっちょこちょいに感謝だな」
「鍵、事務所にあったって?」
「うん。もう確認済み」
火を止め、フライパンを持ち上げると、ふわりとニンニクの香りが舞う。大きめの皿へとオリーブオイルで炒められたタコやイカなどの魚介類を移し、大和に声をかける。
「それ、ここにかけちゃって」
「あ、うん」
大和がタッパーのフタを外すと一気にトマトの香りと湯気が広がり、食欲が刺激される。それは大和も同じだったらしく、トマトソースをかけながら「めっちゃいいニオイ」と小さく笑った。
「!」
見慣れているはずの大和のその表情に、一瞬、俺の胸はぎゅっと震えた。
「じゃあ、俺、これ持っていくな」
出来上がった料理をリビングへと運ぼうとした大和の腕を、俺はとっさに掴む。
「?」
振り返った大和に、「パセリ載せるから、ちょっと待って」と言って皿から手を放させ、俺はとっさに冷蔵庫の隣の棚の前にしゃがみこむ。
「あれ?パセリって、確か、こっちじゃなかったっけ?」
そう呟きながら、俺の頭の上にある引き出しへと手を伸ばした大和を見上げるように俺は顔を振り返らせる。
「……」
「……」
エアコンの稼働音、テレビの音、三人の大人の笑い声、漂うお酒の甘い香りと、食欲を誘うニンニクの匂い。
合わせた視線は一瞬。
触れ合った唇の熱も、一瞬。
「ふ、」
「ふは、」
離された熱の先、俺と大和は小さく笑う。その声は、きっとこの狭いキッチンの中だけに響いている。
「……大和、パセリ、取ってくれる?」
「やっぱ、こっちだよな?」
「うん」
——今はまだ、この緩やかな空気の中、二人だけで笑っていたい。
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