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『元日*おまけ』side大和
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なんで、『プリッツ』とか言っちゃったんだ、俺。
こんなの普通にキスするより恥ずかしいじゃん。
一瞬で縮まってしまうはずの距離を、ゆっくりとその時間を味わうかのように確認し合いながらつめていく。目を閉じることも、口先で鳴る小さな音に耳をふさぐこともできない。自分から折ってしまえば終わるのに、それはそれで負けを認めるようで悔しくてできない。だけど、その薄い唇が近づくたびに感じる振動で、自分から動くこともできない。
咥えているプリッツの先が自分の唾液で溶けそうなくらい、顔が熱くなる。
「……、」
目の前の伊織は俺の視線を感じているはずなのに、動揺するそぶりも見せず、淡々と目に見える細い距離を消していく。合わない視線は、うつむきがちに揺れる長いまつげの先、少しだけ赤くなった頰に重なる。
ドクンッ……ドクンッ……
大きくなっていく自分の心臓の音と、増していく伊織の柔らかな香りに、息が止まりそうだった。
カリッ…………
規則正しく聞こえていた音が、不意に止まる。
伊織が小さく視線を上げ、その瞳に自分の姿を見つけられるほど近い距離で目があう。
「……や、まと?」
「!」
肌に触れた伊織の熱い息に、小さく開けた口の先から漏れた声に、俺は耐えきれず、唇に挟むように咥えていた先で「ポキンッ」と音を立てて顔を背けた。
口に残ったわずかなカケラを、喉を鳴らすようにして飲み込む。
「……」
「……限界?」
モゴモゴと口に残ったお菓子を飲み込みながら、伊織が小さく笑う。
いつのまにか肩に置かれていた伊織の手も、柔らかなソファが軋むほど近づいた距離も、からかうように笑う伊織のちょっと意地悪な表情も、その全部が俺の限界だった。
「もう無理だから、勘弁して……」
負けでも、情けなくても、もうどうでもいい。
自分でもわかる。まだエアコンの設定温度には届いていないだろう少し寒さの残る部屋の中で、異常なほど自分の体が熱くなっているのが。自分の心臓が顔を背けただけでは収まりきらないほど大きく速くなってしまっているのが。痛いくらいにわかってしまう。だから——
「ふ、ふふ、」
堪えるように小さく震える伊織の笑い声が、横に向けている自分の頬と熱を持ってしまった耳にぶつかる。
「……伊織、俺の負けでいいから、ちょっと離れて」
今のままじゃ、伊織の顔を見ることすらできない。
近すぎる距離に、吸い込んでしまうその香りに、小さな手から伝わる体温に、俺の頭は痺れそうなほど熱かった。
「……」
「……伊織?」
返ってこない言葉に、動きを止めたままの体に、俺は視線だけをそっと伊織の顔へと向けた。
——それが、いけなかった。
「!!」
俺の視線を待ち構えていた伊織は、目を合わせた瞬間にふわりと笑って肩に触れていた両手にグッと力を加えてきた。俺の耳に届いたのは「ヤダ」とささやくような伊織の声と体勢を変えた伊織の動きに合わせてソファが軋む音だった。
押し付けるように触れられた唇に、予想外にかかってきた体重に、俺の背中が柔らかなソファの背に沈む。
「……っ、」
呼吸さえままならないような熱が流れ込み、かろうじて体を支えている左腕が痺れた。とっさに空いている右手で伊織の肩を掴もうと伸ばしたが、それさえも伊織の手に捕まってしまう。絡まっていく指先の動きに、触れ合ってしまっている太腿の体温に、思考さえもままならなくなり、俺はついに左腕をゆっくりと滑らせ、自分の上に落ちてくる小さな背中を抱きしめた。
「「!!」」
倒れ込んだ二つの体を受け止めるように、ソファの軋む大きな音が静かな部屋の中に響いた。
こんなの普通にキスするより恥ずかしいじゃん。
一瞬で縮まってしまうはずの距離を、ゆっくりとその時間を味わうかのように確認し合いながらつめていく。目を閉じることも、口先で鳴る小さな音に耳をふさぐこともできない。自分から折ってしまえば終わるのに、それはそれで負けを認めるようで悔しくてできない。だけど、その薄い唇が近づくたびに感じる振動で、自分から動くこともできない。
咥えているプリッツの先が自分の唾液で溶けそうなくらい、顔が熱くなる。
「……、」
目の前の伊織は俺の視線を感じているはずなのに、動揺するそぶりも見せず、淡々と目に見える細い距離を消していく。合わない視線は、うつむきがちに揺れる長いまつげの先、少しだけ赤くなった頰に重なる。
ドクンッ……ドクンッ……
大きくなっていく自分の心臓の音と、増していく伊織の柔らかな香りに、息が止まりそうだった。
カリッ…………
規則正しく聞こえていた音が、不意に止まる。
伊織が小さく視線を上げ、その瞳に自分の姿を見つけられるほど近い距離で目があう。
「……や、まと?」
「!」
肌に触れた伊織の熱い息に、小さく開けた口の先から漏れた声に、俺は耐えきれず、唇に挟むように咥えていた先で「ポキンッ」と音を立てて顔を背けた。
口に残ったわずかなカケラを、喉を鳴らすようにして飲み込む。
「……」
「……限界?」
モゴモゴと口に残ったお菓子を飲み込みながら、伊織が小さく笑う。
いつのまにか肩に置かれていた伊織の手も、柔らかなソファが軋むほど近づいた距離も、からかうように笑う伊織のちょっと意地悪な表情も、その全部が俺の限界だった。
「もう無理だから、勘弁して……」
負けでも、情けなくても、もうどうでもいい。
自分でもわかる。まだエアコンの設定温度には届いていないだろう少し寒さの残る部屋の中で、異常なほど自分の体が熱くなっているのが。自分の心臓が顔を背けただけでは収まりきらないほど大きく速くなってしまっているのが。痛いくらいにわかってしまう。だから——
「ふ、ふふ、」
堪えるように小さく震える伊織の笑い声が、横に向けている自分の頬と熱を持ってしまった耳にぶつかる。
「……伊織、俺の負けでいいから、ちょっと離れて」
今のままじゃ、伊織の顔を見ることすらできない。
近すぎる距離に、吸い込んでしまうその香りに、小さな手から伝わる体温に、俺の頭は痺れそうなほど熱かった。
「……」
「……伊織?」
返ってこない言葉に、動きを止めたままの体に、俺は視線だけをそっと伊織の顔へと向けた。
——それが、いけなかった。
「!!」
俺の視線を待ち構えていた伊織は、目を合わせた瞬間にふわりと笑って肩に触れていた両手にグッと力を加えてきた。俺の耳に届いたのは「ヤダ」とささやくような伊織の声と体勢を変えた伊織の動きに合わせてソファが軋む音だった。
押し付けるように触れられた唇に、予想外にかかってきた体重に、俺の背中が柔らかなソファの背に沈む。
「……っ、」
呼吸さえままならないような熱が流れ込み、かろうじて体を支えている左腕が痺れた。とっさに空いている右手で伊織の肩を掴もうと伸ばしたが、それさえも伊織の手に捕まってしまう。絡まっていく指先の動きに、触れ合ってしまっている太腿の体温に、思考さえもままならなくなり、俺はついに左腕をゆっくりと滑らせ、自分の上に落ちてくる小さな背中を抱きしめた。
「「!!」」
倒れ込んだ二つの体を受け止めるように、ソファの軋む大きな音が静かな部屋の中に響いた。
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