33 / 34
『元日*おまけ』side大和
しおりを挟む
なんで、『プリッツ』とか言っちゃったんだ、俺。
こんなの普通にキスするより恥ずかしいじゃん。
一瞬で縮まってしまうはずの距離を、ゆっくりとその時間を味わうかのように確認し合いながらつめていく。目を閉じることも、口先で鳴る小さな音に耳をふさぐこともできない。自分から折ってしまえば終わるのに、それはそれで負けを認めるようで悔しくてできない。だけど、その薄い唇が近づくたびに感じる振動で、自分から動くこともできない。
咥えているプリッツの先が自分の唾液で溶けそうなくらい、顔が熱くなる。
「……、」
目の前の伊織は俺の視線を感じているはずなのに、動揺するそぶりも見せず、淡々と目に見える細い距離を消していく。合わない視線は、うつむきがちに揺れる長いまつげの先、少しだけ赤くなった頰に重なる。
ドクンッ……ドクンッ……
大きくなっていく自分の心臓の音と、増していく伊織の柔らかな香りに、息が止まりそうだった。
カリッ…………
規則正しく聞こえていた音が、不意に止まる。
伊織が小さく視線を上げ、その瞳に自分の姿を見つけられるほど近い距離で目があう。
「……や、まと?」
「!」
肌に触れた伊織の熱い息に、小さく開けた口の先から漏れた声に、俺は耐えきれず、唇に挟むように咥えていた先で「ポキンッ」と音を立てて顔を背けた。
口に残ったわずかなカケラを、喉を鳴らすようにして飲み込む。
「……」
「……限界?」
モゴモゴと口に残ったお菓子を飲み込みながら、伊織が小さく笑う。
いつのまにか肩に置かれていた伊織の手も、柔らかなソファが軋むほど近づいた距離も、からかうように笑う伊織のちょっと意地悪な表情も、その全部が俺の限界だった。
「もう無理だから、勘弁して……」
負けでも、情けなくても、もうどうでもいい。
自分でもわかる。まだエアコンの設定温度には届いていないだろう少し寒さの残る部屋の中で、異常なほど自分の体が熱くなっているのが。自分の心臓が顔を背けただけでは収まりきらないほど大きく速くなってしまっているのが。痛いくらいにわかってしまう。だから——
「ふ、ふふ、」
堪えるように小さく震える伊織の笑い声が、横に向けている自分の頬と熱を持ってしまった耳にぶつかる。
「……伊織、俺の負けでいいから、ちょっと離れて」
今のままじゃ、伊織の顔を見ることすらできない。
近すぎる距離に、吸い込んでしまうその香りに、小さな手から伝わる体温に、俺の頭は痺れそうなほど熱かった。
「……」
「……伊織?」
返ってこない言葉に、動きを止めたままの体に、俺は視線だけをそっと伊織の顔へと向けた。
——それが、いけなかった。
「!!」
俺の視線を待ち構えていた伊織は、目を合わせた瞬間にふわりと笑って肩に触れていた両手にグッと力を加えてきた。俺の耳に届いたのは「ヤダ」とささやくような伊織の声と体勢を変えた伊織の動きに合わせてソファが軋む音だった。
押し付けるように触れられた唇に、予想外にかかってきた体重に、俺の背中が柔らかなソファの背に沈む。
「……っ、」
呼吸さえままならないような熱が流れ込み、かろうじて体を支えている左腕が痺れた。とっさに空いている右手で伊織の肩を掴もうと伸ばしたが、それさえも伊織の手に捕まってしまう。絡まっていく指先の動きに、触れ合ってしまっている太腿の体温に、思考さえもままならなくなり、俺はついに左腕をゆっくりと滑らせ、自分の上に落ちてくる小さな背中を抱きしめた。
「「!!」」
倒れ込んだ二つの体を受け止めるように、ソファの軋む大きな音が静かな部屋の中に響いた。
こんなの普通にキスするより恥ずかしいじゃん。
一瞬で縮まってしまうはずの距離を、ゆっくりとその時間を味わうかのように確認し合いながらつめていく。目を閉じることも、口先で鳴る小さな音に耳をふさぐこともできない。自分から折ってしまえば終わるのに、それはそれで負けを認めるようで悔しくてできない。だけど、その薄い唇が近づくたびに感じる振動で、自分から動くこともできない。
咥えているプリッツの先が自分の唾液で溶けそうなくらい、顔が熱くなる。
「……、」
目の前の伊織は俺の視線を感じているはずなのに、動揺するそぶりも見せず、淡々と目に見える細い距離を消していく。合わない視線は、うつむきがちに揺れる長いまつげの先、少しだけ赤くなった頰に重なる。
ドクンッ……ドクンッ……
大きくなっていく自分の心臓の音と、増していく伊織の柔らかな香りに、息が止まりそうだった。
カリッ…………
規則正しく聞こえていた音が、不意に止まる。
伊織が小さく視線を上げ、その瞳に自分の姿を見つけられるほど近い距離で目があう。
「……や、まと?」
「!」
肌に触れた伊織の熱い息に、小さく開けた口の先から漏れた声に、俺は耐えきれず、唇に挟むように咥えていた先で「ポキンッ」と音を立てて顔を背けた。
口に残ったわずかなカケラを、喉を鳴らすようにして飲み込む。
「……」
「……限界?」
モゴモゴと口に残ったお菓子を飲み込みながら、伊織が小さく笑う。
いつのまにか肩に置かれていた伊織の手も、柔らかなソファが軋むほど近づいた距離も、からかうように笑う伊織のちょっと意地悪な表情も、その全部が俺の限界だった。
「もう無理だから、勘弁して……」
負けでも、情けなくても、もうどうでもいい。
自分でもわかる。まだエアコンの設定温度には届いていないだろう少し寒さの残る部屋の中で、異常なほど自分の体が熱くなっているのが。自分の心臓が顔を背けただけでは収まりきらないほど大きく速くなってしまっているのが。痛いくらいにわかってしまう。だから——
「ふ、ふふ、」
堪えるように小さく震える伊織の笑い声が、横に向けている自分の頬と熱を持ってしまった耳にぶつかる。
「……伊織、俺の負けでいいから、ちょっと離れて」
今のままじゃ、伊織の顔を見ることすらできない。
近すぎる距離に、吸い込んでしまうその香りに、小さな手から伝わる体温に、俺の頭は痺れそうなほど熱かった。
「……」
「……伊織?」
返ってこない言葉に、動きを止めたままの体に、俺は視線だけをそっと伊織の顔へと向けた。
——それが、いけなかった。
「!!」
俺の視線を待ち構えていた伊織は、目を合わせた瞬間にふわりと笑って肩に触れていた両手にグッと力を加えてきた。俺の耳に届いたのは「ヤダ」とささやくような伊織の声と体勢を変えた伊織の動きに合わせてソファが軋む音だった。
押し付けるように触れられた唇に、予想外にかかってきた体重に、俺の背中が柔らかなソファの背に沈む。
「……っ、」
呼吸さえままならないような熱が流れ込み、かろうじて体を支えている左腕が痺れた。とっさに空いている右手で伊織の肩を掴もうと伸ばしたが、それさえも伊織の手に捕まってしまう。絡まっていく指先の動きに、触れ合ってしまっている太腿の体温に、思考さえもままならなくなり、俺はついに左腕をゆっくりと滑らせ、自分の上に落ちてくる小さな背中を抱きしめた。
「「!!」」
倒れ込んだ二つの体を受け止めるように、ソファの軋む大きな音が静かな部屋の中に響いた。
20
あなたにおすすめの小説
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん
315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。
が、案の定…
対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。
そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…
三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる