はだかの勇者 ~転生者相手に、馬鹿には見えない鎧で全裸無双~

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はだかの勇者 ~転生者相手に、馬鹿には見えない鎧で全裸無双~

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 現代世界における西暦2026年。
 わずか十年で、異世界は転生者であふれかえった。

 当初こそ、彼らの多くは“異世界のため”と真面目に尽力していた。だが年月とともに転生者の質は低下し、いつしか徒党を組み、略奪し、殺し、犯し――悪逆非道の限りを尽くす者ばかりとなった。
 そんな転生者たちを束ねる最強の転生者がいる。転生者だけの国を打ち立て、世界の半分を手に入れた男、勇者王。

 異世界人は、畏怖と憎悪を込めて彼をこう呼ぶ。――魔王、と。

    ◆

 とある王国の大通り。
 露店の香辛料の匂いと、パンを焼く甘い匂い。馬の汗、石畳の埃。昼の活気。

 その中心で――空気だけが、冷えた。

 白昼堂々。若い少女の手首を無理やり掴み、馬車の中へ引きずり込もうとする太った大柄の男がいる。
 周囲の人々は、見ている。だが、見ないふりをしている。目を逸らし、歩幅を速め、息を殺す。

 ――転生者。
 それだけで、刃物より鋭い“沈黙”が街を縛る。

「や、やめてください! お願いします!!」

 少女の母親らしき女が、石畳に膝をついて縋りついた。
 髪は乱れ、手のひらは擦りむけ、声は裏返っているのに――それでも必死に言葉を紡ぐ。

「お願いです!! 娘は……まだ十代になって間もないんです!
 お相手なら、私が致します!! どんな辱めでも受け入れます! ですから娘だけは!!」

 しかし、誰も止められない。
 “止めた人間がどうなるか”を、この街は知っている。昨日見た。先週も見た。墓地が増えた。

「うるっせえババアだな!」

 バチン!!

 平手一発。
 母親は風船みたいに吹き飛び、石畳に叩きつけられて転がった。

「俺は“慣れた女”には興味ねえんだよ。こういう、まだ顔が青いのが一番いい。
 国まで持って帰って、たくさん使ってやるよ。な? 嬉しいだろ? 勇者様のおもちゃになれるんだからよ……」

 掴まれた手首が、ぎり、と締まる。
 少女の喉がひきつり、目が揺れた。視線の先には、倒れた母親。

「わか……りまし……た……。お願いだから……貴方の言うこと……聞くから……ママに乱暴しないで……」

 少女は、力なく膝をついた。
 唇が震えているのに、声は出ない。涙は出るのに、助けは来ない。

 男の顔に、いやらしい笑みが浮かぶ。

「なんだぁ? 聞こえねえなぁ。もっとデカい声で言ってみろ。
 ――“連れて行ってください”って。お前の口で言え」

 少女の目の光が、じわじわと削れていく。
 通りの誰もが、それを見ているのに、見ないふりをした。

 その時だった。

「そこまでだ! これ以上の狼藉は私が許さん!!」

 通りを裂く声。
 金色の影が疾走する。腰まで伸びた太い三つ編みが、尻尾のように風を引いた。
 重そうな鎧の音が、やけに軽い。

「私はこの国、タリズ王国騎士団副団長――フェイン!
 この国での狼藉は、天が許そうが私が許さん!」

 薄汚れた直剣を抜いたフェインは、殴り飛ばされた母と娘の間に立ち、男へ剣先を向けた。

 睨みつけるフェインに、男は面倒くさそうにため息をつく。

「……ったく。これで何度目だろうなぁ。お前みたいな“勘違い”をぶっ殺すのは」

 にやり。気持ちの悪い笑み。

「へえ……でも身体だけはいいな。俺は興味ねえが……おい! レイト!
 巨乳のツンデレ女騎士だぜ! お前好きだろ!」

「マジかよ!?」

 馬車の中から、細身で高身長の黒髪の男が飛び出してきた。
 舌なめずりしながら、フェインを足先から頭頂まで舐めるように眺める。

「……外道が」

 フェインの眼に、明確な殺意が芽生える。

 ドンッ!!

 その瞬間、フェインは地面を蹴った。
 狙いは女の首を掴んでいた太った男。武器も構えず、中二病じみた黒コートを羽織っているだけ――今なら、一撃で屠れる。そう計算した。

 カキン!!

 一撃目、右上から斜めの斬撃。
 だが、腕一本でガードされる。鉄を叩いたような重い音が響いた。

(……硬い。鎧を着ていないのに?)

 しかし狙いは、それだ。
 左手はガード中、右手は女を掴んでいる。胴は隙だらけ――フェインは剣を捨て、内側に潜り込む。

 内股に足を通し、体当たり。

 太った男は、でかい身体のまま――見事にすっ転んだ。

「キャッ!?」

「こっち!」

 フェインは転びかけた少女を腕の中へ引き込み、宙を舞う剣の柄を掴み取る。踏み込み一つで間合いを切り、二人まとめて後ろへ退いた。

「もう大丈夫。私がいる。……君は、お母さんのところへ」

「あ……ありがとう! 騎士様!!」

 涙でぐしゃぐしゃの顔なのに、笑った。
 少女は駆け出し、母親も這うように起き上がって抱き寄せる。――ひとまず、守れた。

 問題は。

 フェインの前には、二人の転生者。
 太った方は黄金に輝く二本の剣。背の高い方は巨大な鎌。

「……来い!!」

 啖呵を切った。
 だが、そこからは戦闘と呼べるものではなく、一方的な蹂躙だった。

 速い。重い。痛い。
 フェインの剣は届かない。身体能力の“格”が違う。
 斬られ、蹴られ、殴られ、転がされ――弄ぶように、二人はフェインの鎧を剥いでいく。

 金具が外れ、肩当てが落ち、胸当てが浮き、背中が露出する。
 周囲の視線が、怖い。

「クソ……もう見てられねえよ……」

 通りすがりの男が一歩出る。だが、足が止まる。
 恐怖と現実が、足首を掴む。

「やめろ……お前にも……家族がいるだろ。次、狙われるなら、そうなる……犠牲なんて……一人でいいんだ」

 地面に倒れるフェインは、それでも止めた。
 剣を石畳に突き刺し、それを支えに――ゆっくり、立ち上がる。

「なあレイト。次はどこ削る?」

「そろそろ、見せ場だろ。
 皆、そうだよな? 我関せずで見てるけどよ。どうせお前らも男だろ?
 ……良いぜ、見せてやるよ。でも、食うのは――俺だ」

 鎌男が、地面を蹴った。
 一瞬で距離が詰まる。フェインは反応できない。諦めるように片膝をついた。

 鎌が胸元へ迫る――その瞬間。

「いや俺、純愛過激派なんだよなあ」

 ガッキィィィイン!!

 鎌が止まった。
 豆粒を摘むみたいに、たった二本の指で。

「う、うわあああ!? な、ななな、なんだよこいつううう!?」

 そこにいたのは――変態だった。

 全裸の男。
 頭には嫌がらせとしか思えない、荘厳な装飾の施された王冠。

 まさに、その姿は――

「裸の……王様?」

「いやいやこらこら! 紳士って言ってくれよ!」

 フェインの零した言葉に、全裸王冠の男は即ツッコミ。
 次の瞬間、ぎろりと鎌男を睨む。

 鎌男の体が震えた。顔が青ざめ、鳥肌が立ち、反射的に後ろへ下がる。

「おい!? あいつ……まさか……」

 太った男も青ざめ、ポケットからくしゃくしゃの紙を引っ張り出す。
 手配書――“はだかの勇者”の特徴が書いてある。

「そうだ、そこの勇者……」

 二人の男が全裸を見る。

「いや、お前らじゃねえよ。本物の勇者、お前さ」

「わ、私……か?」

 フェインが疑うように尋ねると、全裸王冠は胸を張る。

「お前以外に誰がいる。悪漢を前に、少女を救うために、わが身を顧みず立ち向かった。
 この場で“勇者”と呼べるのは――お前だけだ」

 フェインの眼に光が宿る。
 いや、光を反射する。男の股間が発するまばゆい光を反射して。

「俺は真優(マヒロ)……真に優しき紳士と書いてマヒロだ」

 マヒロは片膝をつき、フェインへ手を差し伸べた。

 一瞬、フェインは手を伸ばしかけ――しかし自分を戒めるように首を振る。

「私は騎士だ……女では……」

 フェインは差し出された手を取れず、反射で引っ込めかける。
 しかし、その手首を――マヒロががっしり掴んだ。

「違う! 騎士として、共に戦う者としての握手だ!」

 ぐい、と引き上げる。力任せなのに妙に優しい手つきだ。

「さっきトイレで手を洗うのは忘れたけど、それは許してくれ!」

「最悪だなお前は!」

 ツッコミながらも、フェインの足が地面を捉える。すとん、と着地。
 立ち上がっても、なお目線は合わない。マヒロが――高すぎる。
 それでも、握られた手の熱だけは、対等だと錯覚させた。

「……できれば綺麗な手で握手はしたかったな……全裸の勇者!!」

 その瞬間――

 ガキン!!

 フェインの剣が火花を散らし、マヒロへの背後からの一撃を弾き返した。
 小太りの男が舌打ちする。黄金の剣を、もう一本構え直した。

「こっちには、もう一本、剣があるんだよ!!」

「マヒロ! 危ない!!」

 ガキン!!

 太った男の剣が、マヒロの背中を裂いた――ように見えた。
 だが、剣は途中で止まって動かない。

「お、おまえ、フザッケンナ、きたねえだろ!! これは聖剣だぞ!?」

「汚い? ケツで真剣白刃取りするのと、背後からの奇襲なら、若干ケツの方が綺麗だと思うが……」

 マヒロが真顔で言う。
 フェインが引く。

「いや、助けてもらった手前すまないが。流石に汚いと思うぞ……それは……」

 マヒロが力を抜くと、太った男は飛び退く。

(この女騎士でも倒せそうなのは……鎌持ってるノッポの方か)

「おい、女騎士!」

「フェインだ」

「なら、フェイン。あの大鎌の男は任せた。他全ては――俺がやる」

「他全て?」

 次の瞬間。
 馬車の中から一人、空から二人。中二病コートを羽織った男たちが増援として飛び出した。
 全員、荘厳な装飾の武器を構え、マヒロを睨む。

「我ら勇者軍! 貴様の狼藉は万死に値するぞ、裸の勇者!!」

「さあ、死にてえ野郎からかかってきな……あ、女の子は先に自己申告してね。めっちゃ手加減するから、そしたら連絡先とか……」

 刹那。

 ガシャアン!!

 二刀流の太った男が斬りかかるが、マヒロのデコピン一発で弾け飛ぶ。
 次の瞬間、マヒロの姿が消える。

「後ろだよ」

 振り返ろうとした瞬間、上段回し蹴りが顔面へ――
 太った男は吹き飛び、民家の壁を突き破った。

「な、なにをした!?」

「何って、めっちゃ急いで後ろに回って蹴り飛ばしただけだっての。ほら、お前の後ろにも……」

 大剣男が反射で後ろを見る。

 ドゴオ!!

「ばあか。戦ってる最中に後ろ見るとか、殴ってくださいって言ってるようなもんだからな」

 腹に拳が突き刺さり、男は白目を剥いて崩れ落ちた。

「めんどくせえ……纏めてかかって来いよ」

 勇者軍が一斉に襲う。
 だが、誰もマヒロの速度に追いつけない。背後を取られ、殴られ、武器ごと投げ飛ばされ――瞬く間に壊滅。

 そして最後の一人。

「クソ……クソォ!! この全裸の変態がああ!!」

「お! 女の子じゃん!!」

 杖から放たれる光弾を手で払うと、マヒロは音もなく一瞬で距離を詰めた。

「ひえ……いつ……のまに……」

「好きな男のタイプは……?」

「は?」

「好きな男のタイプは!?」

 女勇者は恐怖で固まる。杖が手から滑り落ちる。

「好きな男のぉおお! タイプはぁぁあああああああ?」

 理解できない恐怖で涙が滲んだ、その時。

 ドォォォォオオン!!

 空から巨大な影が落ち、砂埃が巻き上がる。
 煙が晴れると――漆黒の鎧に身を包み、禍々しい黒の大剣を担いだ美青年が立っていた。

「アリサちゃん、涙目じゃん。どしたん……話しきこか?」

「ソウマさま!!」

 アリサの眼が輝く。
 そしてマヒロを突き飛ばし距離を取る。

「あなた、終わりよ。こちらは我々勇者軍四天王の一人、漆黒の勇者ソウマ様!!
 かの魔王の左腕とも呼ばれるお方よ!!」

 ……グサッ。

「……へ?」

 アリサの胸を、剣が貫いた。
 後ろから――ソウマが。

「……どう……して?」

「雑魚は死ね。口だけ達者の雑魚が一番嫌いなんよ、僕。それに、お前ブスだし」

 シュッ、と剣を引き抜き、血を払うように振る。
 アリサは崩れ落ちた。

「おい……仲間なんだろ……」

 ブンッ。今度はマヒロに大剣が振り下ろされる。
 マヒロは身を沈め、踏み込み、殴る――だが、鎧が“勝手に”形を変えてガードした。

 そこからは攻防一体。
 剣が振られるたび、建物が砕け、石が飛び、人々が悲鳴を上げる。

 マヒロは守りながら戦うしかない。
 守るものが多すぎて、動きが鈍る。

「女騎士!!」

「フェインよ!!」

 血だらけのフェインが、鎌男を倒し終えて立っていた。

「すまねえ、回復ポーションは持ってるか? あそこでぶっ倒れてる女に使ってくれ。あのままだと死んじまう」

「……待って、あいつは敵」

「敵味方言ってられるか、人命優先。それが変態紳士の矜持ってもんだ」

「私は淑女であっても、変態ではないのだが……まあいい。その考えには賛同だ。しかし……」

 フェインの顔が歪む。
 倒壊した建物。怯える人々。血の匂い。

「任せろ」

 マヒロは小さく呟き――地面を蹴った。石畳が凹み、砂塵が舞う。

「来いよ、変態」

 キイィィィィィン!!

 マヒロの蹴りと、ソウマの大剣が正面衝突する。
 火花が散り、金属が噛み合うような音が響く。

 均衡。
 だが、その瞬間――

「テイク……オフ!!!」

 マヒロが叫んだ。
 黒い円形の影が広がり、収縮し、二人を包み込む。

 次の瞬間。
 世界は真っ暗な空間へと切り替わった。音も匂いも、遠い。

「……なにをした」

「テイクオフ……脱いだんだよ。この世界そのものを。
 これなら周りに被害を出さねえ。俺も、お前も存分に力を出せる」

 ソウマが小さく笑う。馬鹿にするように。

「……俺は勇者四天王。最強の破壊力を持つ。所詮、身体能力が高いだけのお前が勝てるわけないだろう。
 さっきのが俺の本気だと思ったか? あれは“手加減”してやってたんだよ。デザートを楽しむためにな!!」

「お前も女目当てかよ。どいつもこいつも、純愛イチャラブセ〇〇〇が至高だって、なんで分かんねえんだ」

 キュィィィイィン!!

 ソウマが大剣を掲げると、赤いオーラが渦を巻く。
 国ひとつ消せそうな魔力が、肌を刺した。

「なら逆に聞くが、何でお前は好き勝手にしない!
 この世界で僕たちは神に等しい!!」

 赤いオーラは天を貫くほどに肥大化する。

「決まってんだろ……」

 マヒロは仁王立ちし、目を閉じた。
 そして――ゆっくり腰を突き出す。

「モテたいんだ……正義の味方になって、モテて、モテて、モテまくって……」

 股間の光が強くなる。黄金に輝き、天へ伸びる“黄金の聖剣”。

「俺は! 俺による! 俺の為の! 俺だけの異世界ハーレムを築くんだ!!」

 熱で手が焼けるのに、マヒロは聖剣を握りしめる。

「そのために! 異世界を壊すお前らは絶対に許さない!
 そしてお前ら魔王軍のかわいい女の子は全員俺が貰う!!」

 視線がぶつかる。青と黒。

「レーヴァテイン!!」

 ソウマが大剣を振り下ろすと、赤い巨剣の嵐が降り落ちる。

「エクス……カリバアアアアアアアアア!!!!!」

 腰を振り下ろす刹那、黄金が天を裂き、赤と衝突。稲妻が弾け、衝撃で身体が吹き飛びそうになる。

 それでも――

「おい、ドシタン野郎! お前、彼女はいるのか!?」

「十三人!!」

「死ねやああああああ!!」

 黄金の聖剣がさらに肥大化し――

 ズガアアアン!!

 赤い巨剣すら叩き切った。
 黄金の光がソウマを包む。

「ぐ……があああああああ!!」

「イケメンは……死ねええええええ!!」

 絶叫が、無の空間に響く。
 ――これは単なる私怨である。

    ◆

 戦いは終わった。

 フェインが回復ポーションを使ったことで、アリサは一命を取り留めた。
 他の連中も怪我はすれど、命に別状はない。

 主犯格――ソウマとアリサ、そして何故だかマヒロまで。
 騎士団の取調室に拘置されていた。目の前には男の王国騎士。

「いや、なんで俺まで!? 俺、救いのヒーローだぞ!!」

「普通にわいせつ物陳列罪だ……」

「おかっしいだろ!! あの女騎士……えっと……フェインの野郎を呼べ!!」

「きさま副団長様を!?」

 騎士団員は怒鳴り、ソウマとアリサは黙り、マヒロだけが吠える。
 そんな最中、扉がガチャリと開いた。

「すまない、待たせた……っておい、何やってる!?」

 フェインが入るなり、マヒロの手枷を見て目を見開いた。

「え!? いやだって副団長、男一人と女一人に手枷をかけておけって……」

「……そうか……すまん。それは悪かった」

 フェインは鍵を奪い取り、マヒロの手枷を外す。

 そして床に座り込む――ソウマだった“美少女”を見た。

「……マヒロ。今の無礼は私から詫びよう、すまなかった。
 しかしそれはそれとして、どうしてあの男はあんな姿に? 元からあの姿だったのを幻術で変えていた、とかか?」

「あ~、あれか。あれはこれのせいだよ……グボア!?」

「バカモノ! そんなもの近づけるな!」

 マヒロが椅子の上に立って股間を近づけた瞬間、フェインが足を引く。
 マヒロは椅子から転がり落ち、後頭部を石畳に打ちつけた。

「す、すまん!? つい条件反射で……」

 マヒロは、駆け寄ってきたフェインを目だけで追い、見上げた。

(クソッ……パンツは見えねえか。まあスカートで戦う馬鹿なんて――)

 マヒロの目線が部屋隅のアリサへ向く。

(白か……黒い中二じみたコートとのコントラストが、まあ美し――)

 頬を掴まれ、強制的にフェインへ向けられた。
 そこにあるのは、ゴミを見る目。

「こいつは地下牢にぶち込んどけ」

「イエスマム!!」

「誤解だ!!!!!!!!」

 マヒロが叫ぶ。

「……で、早く説明しろ」

 フェインは椅子にどかっと座り、脚を組む。

「あれは、俺の必殺技――エクスカリバーだ。
 股間から伸びた剣で貫かれた相手は、どんな醜いおっさんでも激かわ美少女になる。
 ついでにギフトも剥がれる。転生者はただの美少女になる。……そのせいで、ああなった」

 ソウマがビクッとして視線を逸らす。
 逸らした目がアリサと合う。アリサが低く呟く。

「許さねえからなカス」

 ソウマの顔が青ざめ、俯いた。

(俺は知らん。少しは懲りろや、クソイケメン野郎)

 マヒロが鼻を鳴らす。

「ちなみにだが……その……貴殿のその恰好はなんとかならんのか?」

「別に元には戻れるぜ」

 マヒロが王冠を外すと、王冠が一瞬で形を変え、真っ白なブリーフになった。

 そして――

「ぎゃああああああ!!!!!」

 もちろん下半身の光も消える。

 ゴン!!

「うぎゅう……いや、理不尽……だ……ろ……」

 フェインの蹴りが股間に直撃。
 マヒロは倒れて気絶した。

    ◆

 気が付くと、知らない天井があった。
 木目の梁。白い布の天蓋。窓の隙間から差し込む月明かりが、薄く部屋を撫でている。

「……起きたか」

 声の方へ視線を向ける。
 机の前で椅子に座り、フェインが本を片手にこちらを見ていた。鎧は脱いでいるが、背筋だけは騎士のままだ。

「ここは……?」

「私の自室だ」

 身体を起こすと、ベッドが柔らかく沈んだ。
 視線を落とせば、服も着せられている。――最低限の“人権”は守られているらしい。

「何度もすまん……その……恥ずかしい話、慣れておらんのだ。男の体というのは……」

 フェインは深々と頭を下げた。
 真面目すぎて、こっちが困るタイプだ。

「いや、別にいいって。頭上げてくれ。俺、そういうののほうが苦手なんだよ」

 それでも頭は上がらない。

「私は王国騎士副団長。だというのに、国民を守れず、流れ者の貴殿に助けられた。
 あまつさえ助けられたというのに、こんな仕打ち……」

(あー……こういうの、面倒だな)

 マヒロは頭を掻き、ため息を吐いた。

「顔上げろ。そこまで謝るなら、救国の勇者として要求がある」

 フェインが、ゆっくり顔を上げる。頬が赤い。

「分かっている……男が望むことなど……これ……だろ?」

 フェインは胸元のボタンに指をかけ、ゆっくり外し始めた。

「こんな傷物では満足してもらえないだろうが……王国騎士副団長の初めてなら、少しは価値が――」

「いや、いやいやいや!!!!!! ちょおおおおおっと待てええええええ!!!!!」

「へ?」

 マヒロは顔を覆い、後ろを向いて腕を伸ばす。

「いや、そういうんじゃねえよ! 俺は純愛過激派だから!!」

 フェインがこてんと首をかしげる。

「純愛というなら……間違ってはいな……」

「違う違う! そういうのは結婚してからって決めてるの!! それが俺の純愛道なの!!」

 フェインが不貞腐れたように頬を膨らませる。

「貴殿……モテないだろう……」

「うるっせえ!!」

 振り返りかけて、マヒロは慌てて視線を逸らす。

「とりあえずボタン戻せ! ちゃんと要求はあるから!」

「……仕方のない奴だ」

 フェインが身支度を整えるのを確認し、マヒロはようやく向き直った。

「要求は一つ。例の魔王軍の連中は、騎士団で匿ってやってくれ。
 じゃなきゃ、あいつらどうせ殺されちまうんだろ?」

 フェインの目が鋭くなる。副団長の目だ。

「……約束しよう。騎士団副団長として」

 こくり。頷く。

「最後に、副団長じゃなくフェインに……」

 フェインが息を呑む。

「俺は、いちゃいちゃ純愛ハーレムを作りたいと思っている。だからこそ、お前もそのハーレムに――」

「はあ?」

 どすの効いた一言。
 殺気。鋭い目。

 マヒロ、固まる。

「貴殿……やはりクズだな……でも嫌いではない。
 ならば世界を救ってくれ。勇者王を名乗る魔王を打倒し、転生者に侵されるこの世界を救ってくれ。
 そしたら――お前のものになってやる」

 フェインが、ふっと笑って肩肘をつく。
 マヒロも笑った。

「言ったな。それじゃ待ってろ。自称・勇者王――ぶっとばしてやんよ」

 マヒロは木の窓を開ける。夜風が差し込み、月光が床に落ちた。
 地面は三階分、遠い。

「……もう、行ってしまうのか?」

「もちろん。この世界には救いの手を待つ野郎どもがたくさんいる」

「それは知っているが……今晩くらいは……」

「やだね。大事な初夜は、その時のために取っておかねえとな」

 フェインの笑みが柔らかくなる。

「最後に。どうして貴殿は……転生者だというのに、我々に味方するんだ?」

 窓枠に足をかけた時、最後に投げられた問いだった。
 純粋な疑問――そして、理解できないものへの恐怖。

「……俺は、勇者(ゆうしゃ)じゃないからだ」

 そう言って、マヒロは飛び降りた。
 街の闇の中へ、一瞬で姿を消す。

 フェインは窓枠に肘を置き、空を見上げた。
 月が綺麗だ。

「……行ってしまった。勇者ではないから……では貴殿は……そうだな」

 小さく呟く。

「……裸の勇者(ふしんしゃ)だな」
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【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

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