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第11話
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「…思いの外、イイ感じかもしんない」
前あわせのジッパーを胸の手前まで引き上げて、柊一はそのままフローリングにあぐらをかいた。
「で、アンタこんなモン、どこで調達してきたの? つーか、これ買ってるアンタって、ちょっと想像出来ねェな」
「秘書クンが出かける時にちょっと頼んだだけで、私が買いに出た訳じゃない」
クローゼットの前でネクタイを緩めつつ答えると、柊一はさも驚いた風に顔を上げた。
「秘書?」
「…どうしたんだ?」
着替えを済ませた後、中師は柊一が好奇心に任せて開いた包みの残骸を拾い集める。
「アンタ、秘書なんかいるのかよっ!」
「いてはいけなかったか?」
「…アンタって、やっぱワケわかんねェ…」
身を捩って振り返っている柊一は、ジッパーの上げ方が緩かったせいか肩が剥き出しになっていた。
「そんなに、おかしいかい? 私に秘書がいる事が」
柊一の隣に腰を降ろし、中師は襟を正してやる。
「う…ん…。つーか、別にヘンじゃねェンだけど……。だって、…だからさぁ…」
考えが上手くまとまらないという風に柊一は頭を掻きむしり、口をへの字に曲げてジッと中師の顔を見つめた。
「アンタと最初に会った時だったらさぁ、全然フツーに秘書がいるのかって思えたんだけど。でもアンタってこんなトコ住んでたりして、全然ハイソじゃないじゃんか」
「一応これでも、社長なんだがね」
「……うぇ?」
中師の自己紹介に、柊一は本当に子供のように床に倒れ込むと手足をジタバタと動かして見せる。
「やっぱ、ワケわかんねー! アンタって全然わかんねェよ!」
ガバッと飛び起きた時には、またしても上着は半ば脱げ掛けていた。
両手を床に付き、ペタペタと四つんばいのまま戻ってきた柊一は、しげしげと中師の顔を眺める。
そうして側に寄られると、柊一の身体から立ち上る微かな体温と甘やかな体臭に中師は妙に落ち着かない気分にさせられた。
「なぁ、アンタなんだってこんなトコに住んでんの? 俺、フツーは相手の生活なんて全然気になんないけど、アンタはナゾ過ぎてスッゲ気になるぜ?」
「別に謎なんて何一つ無い。ただ、少しばかり怠け者で通勤時間を短縮して少しばかり余裕の出勤がしたいだけさ」
「なんか、スッゲェ嘘くせェよ、それ」
不信感丸出しの顔で、柊一は中師の顔を間近に眺め続けている。
はだけた肩と、それに続くスウェットに包まれた腰から足にかけてのラインが、ひどく艶めかしい。
己の身体が醸す色香になにも気付いていないらしい柊一は、なおも顔を寄せて中師の「ウソ」を見破る事の方に夢中だった。
「近くで見たからって、嘘か本当か判るのか?」
「え、だって、こうやってジッと見られると嘘吐いているヤツってソワソワするじゃん」
素直な答えに、中師は思わず苦笑する。
例え嘘を吐いていようがいまいが、これではソワソワしない人間の方が少ないだろう。
中師は手を伸ばすと、柊一の腕を取って強く引き寄せた。
「うわっ!」
四つんばいになって腕で身体を支えていた柊一は、不意にバランスを崩されてあっけなく中師の腕の中に倒れ込む。
「キミはどうも、自分というものが分かっていないらしいな」
「なんの事だよ?」
強引にひっくり返された事が不満そうに、柊一は口唇を尖らせる。
「つまり、自分が身体を代金に食事をさせて貰っていると言う事は、相手はキミの身体に欲情する衝動を持っているという単純な事が、判っていないと言う事だよ」
はだけた肩口から手を差し込んで、素肌をサラリと撫で上げる。
柊一は飛び上がると、慌てて中師から身体を離して、スウェットのジッパーを一番上まで引き上げた。
「アンタが俺に飯食わしてるのは、週末まで俺がココにいなきゃならないような用事を作ったからなんだから! 代金払う義理無いぞっ!」
あまりの慌てぶりに、中師は思わず声を上げて笑ってしまった。
「申し訳ないが、迫られてもつき合える程の体力が、私には無いと言わせて貰うよ」
からかわれた事に気付き、柊一の顔が朱に染まる。
「アンタってホンットに性格悪っ!」
吐き捨てるように言って、柊一はプイッと顔を背けた。
前あわせのジッパーを胸の手前まで引き上げて、柊一はそのままフローリングにあぐらをかいた。
「で、アンタこんなモン、どこで調達してきたの? つーか、これ買ってるアンタって、ちょっと想像出来ねェな」
「秘書クンが出かける時にちょっと頼んだだけで、私が買いに出た訳じゃない」
クローゼットの前でネクタイを緩めつつ答えると、柊一はさも驚いた風に顔を上げた。
「秘書?」
「…どうしたんだ?」
着替えを済ませた後、中師は柊一が好奇心に任せて開いた包みの残骸を拾い集める。
「アンタ、秘書なんかいるのかよっ!」
「いてはいけなかったか?」
「…アンタって、やっぱワケわかんねェ…」
身を捩って振り返っている柊一は、ジッパーの上げ方が緩かったせいか肩が剥き出しになっていた。
「そんなに、おかしいかい? 私に秘書がいる事が」
柊一の隣に腰を降ろし、中師は襟を正してやる。
「う…ん…。つーか、別にヘンじゃねェンだけど……。だって、…だからさぁ…」
考えが上手くまとまらないという風に柊一は頭を掻きむしり、口をへの字に曲げてジッと中師の顔を見つめた。
「アンタと最初に会った時だったらさぁ、全然フツーに秘書がいるのかって思えたんだけど。でもアンタってこんなトコ住んでたりして、全然ハイソじゃないじゃんか」
「一応これでも、社長なんだがね」
「……うぇ?」
中師の自己紹介に、柊一は本当に子供のように床に倒れ込むと手足をジタバタと動かして見せる。
「やっぱ、ワケわかんねー! アンタって全然わかんねェよ!」
ガバッと飛び起きた時には、またしても上着は半ば脱げ掛けていた。
両手を床に付き、ペタペタと四つんばいのまま戻ってきた柊一は、しげしげと中師の顔を眺める。
そうして側に寄られると、柊一の身体から立ち上る微かな体温と甘やかな体臭に中師は妙に落ち着かない気分にさせられた。
「なぁ、アンタなんだってこんなトコに住んでんの? 俺、フツーは相手の生活なんて全然気になんないけど、アンタはナゾ過ぎてスッゲ気になるぜ?」
「別に謎なんて何一つ無い。ただ、少しばかり怠け者で通勤時間を短縮して少しばかり余裕の出勤がしたいだけさ」
「なんか、スッゲェ嘘くせェよ、それ」
不信感丸出しの顔で、柊一は中師の顔を間近に眺め続けている。
はだけた肩と、それに続くスウェットに包まれた腰から足にかけてのラインが、ひどく艶めかしい。
己の身体が醸す色香になにも気付いていないらしい柊一は、なおも顔を寄せて中師の「ウソ」を見破る事の方に夢中だった。
「近くで見たからって、嘘か本当か判るのか?」
「え、だって、こうやってジッと見られると嘘吐いているヤツってソワソワするじゃん」
素直な答えに、中師は思わず苦笑する。
例え嘘を吐いていようがいまいが、これではソワソワしない人間の方が少ないだろう。
中師は手を伸ばすと、柊一の腕を取って強く引き寄せた。
「うわっ!」
四つんばいになって腕で身体を支えていた柊一は、不意にバランスを崩されてあっけなく中師の腕の中に倒れ込む。
「キミはどうも、自分というものが分かっていないらしいな」
「なんの事だよ?」
強引にひっくり返された事が不満そうに、柊一は口唇を尖らせる。
「つまり、自分が身体を代金に食事をさせて貰っていると言う事は、相手はキミの身体に欲情する衝動を持っているという単純な事が、判っていないと言う事だよ」
はだけた肩口から手を差し込んで、素肌をサラリと撫で上げる。
柊一は飛び上がると、慌てて中師から身体を離して、スウェットのジッパーを一番上まで引き上げた。
「アンタが俺に飯食わしてるのは、週末まで俺がココにいなきゃならないような用事を作ったからなんだから! 代金払う義理無いぞっ!」
あまりの慌てぶりに、中師は思わず声を上げて笑ってしまった。
「申し訳ないが、迫られてもつき合える程の体力が、私には無いと言わせて貰うよ」
からかわれた事に気付き、柊一の顔が朱に染まる。
「アンタってホンットに性格悪っ!」
吐き捨てるように言って、柊一はプイッと顔を背けた。
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