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4.浮遊城の最期
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その時、浮遊城に、クリス以外は一人も残っていなかった。
クリスは「反乱を鎮圧する」という大義を掲げて、自爆の魔法陣を起動させたのだ。
反乱を企てた者たちは、クリスが本当に自爆シークエンスを起動させたことに気付いた所で、浮遊城を退去した。
蒼穹の騎士──スヴェン・ダムノスは、自爆の魔法陣が設置されている大広間を封印し、自身は飛竜の竜舎に向かう。
もちろん、既に全ての飛竜は放たれ、そこにはミスティを "荷物" として持ち帰った偽棺筐しかない。
鳴り響く警報。
自動音声で流れるカウントダウン。
廊下の明かりは、警告灯の赤が忙しなく点滅している。
石板に魔力を流すと、扉はなんなく開いた。
中に入り、内側から石板を破壊する。
この石板は、決まった魔力パターン以外の者を通さないが、しかしこれからここに侵入を試みる者たちは、どんな革新技術を持っているか、計り知れない。
竜舎に設置されている魔導装置を起動して、舎内に外部からの侵入を許さない封印魔法を張り巡らせる。
そして、自分はミスティが収められていたクレイドルの傍に歩み寄った。
「考えてみれば、俺はネクシオンのきみしか知らんのだなぁ」
スヴェンはまるで、そこにミスティがいるかのように話しかけた。
「上層部がどう思っているのか知らんが、俺はきみが元の人格を取り戻せたのは、その真面目すぎる性格の所為だと思ってる」
死を忘れたルーファは、ミステリーナイトの称号を与えられ、あまりにも不利だった戦局をひっくり返すために、前線に投入された。
「たった一人で背負うには、重すぎる運命だよな……」
ルーファ・カルテムは、見習い騎士になるだけの魔力素養こそあったが、技術も経験も未熟な、まだ半人前の若者にすぎなかった。
本来、騎士への道のりは長く険しい。
兵士から見習い騎士になるには、十二歳までに全ての素養が基準を超えていなければならない。
だが、そこから騎士に昇格できるのは半数ほど。
さらに上級騎士になれる者は、その中の一割。
ラディアントに至っては──尋常ならざる才覚と努力をもってしても、手が届かぬ高みだ。
だがミスティには、それを選ぶ猶予すらなかった。
ただ "死なない" という一点だけで、試練の全てを受けることになったのだ。
七人の騎士たちはそれぞれ、自らの持つ技術と戦術のすべてを彼に教えた。
不死身は決して、無敵ではない。
いやむしろ、不死身であるからこそ、己の背後に守るべき命があることを、──騎士の矜持と意味を叩き込んだのだ。
ミスティはそれを乗り越えた。
ラディアントたちの協力もあったが、なにより生真面目なミスティの性格が、不可能を可能にするための努力を惜しまなかったのだ。
そんなミスティに、ラディアントたちは好感を抱き、もう一人のラディアントとして迎え入れた。
ラディアントたちは年齢も経歴も、出身国すらばらばらであった。
後方支援を担当している星影の騎士は、ミスティに一番年齡が近く21歳、紅一点のダイアナは27歳。
前線で最も活躍が期待される機動部隊のトップであるクリスは33歳だが、魔導騎士たちを束ねる黄昏の騎士は60代だ。
彼らを束ねる閃光の騎士を除けば、七人の煌環騎士団には上下の差がなく、その扱いは常に平等を目指していた。
故に儀礼や敬語にとらわれず、大広間で行われる円卓会議の場では、時に激しい論議が交わされることもしばしばあった。
見習いであったルーファも、最初こそはかしこまっていたが、いくつかの試練を乗り越える間に、口調は対等なものへと変わっていった。
だが……。
手ほどきを受けていた頃は、年相応の表情を見せていたミスティは、やがて心から笑わなくなった。
クリスはそれを、彼に騎士としてラディアントとしての自覚が芽生えたため……と思っていたが。
魔人との戦いのなかで、魔法で撃ち抜かれ、爆発に巻き込まれ、魔物の爪に引き裂かれても、彼は立ち上がった。
最初のうちは、それでもミスティが死に臆する部分はあったように思う。
反面、ミスティの真面目すぎる性格は、同じ大きさで責任感も抱え込むところがあり、彼は死に恐怖を感じながらも、率先して最も危険な任務に飛び込んでいった。
ある時、クリスは気づいた。
「僕が合図をしたら……」
と、ミスティは言った。
言われるままに合図を待ち、タイミングを逸さずに指示通りの行動を取る。
これは任務の中で、何度も繰り返された、一つのパターンだった。
ミスティの身を危険にさらす代償に、危機的状況をひっくり返し、任務は成功に終わる。
「きみにそそのかされて、俺は一体、何度きみを殺したんだ? ──もっとも……きみがそれを責めたことはないけどな……」
スヴェンは自嘲気味に、クレイドルに話しかけ続けた。
クリスタルナイトの称号は、ラディアントの序列2位であり、最前線の実働部隊を指揮する立場に有る。
不死身のミステリーナイトが、その指揮下に入って作戦に従事するのは当たり前の流れとなっていて、スヴェンはミスティの相棒のような存在になっていた。
「俺は……きみの瞳から熱が消えてゆくのが、怖かった。レティシアに言われて、自分の本当の気持ちに向き合って、ようやくそのことに気付いた。だけど……」
扉の外を、何かが蠢く気配がする。
「やつらが来たようだ。予定より、少し早いかな……」
スヴェンは、特に焦りは見せなかった。
竜舎の扉の前を、大勢の足音が過ってゆく。
まずは自爆シークエンスを止めるために、彼らはこの部屋を素通りしたに違いない。
スヴェンはクレイドルにもたれかかり、目を閉じた。
クリスは「反乱を鎮圧する」という大義を掲げて、自爆の魔法陣を起動させたのだ。
反乱を企てた者たちは、クリスが本当に自爆シークエンスを起動させたことに気付いた所で、浮遊城を退去した。
蒼穹の騎士──スヴェン・ダムノスは、自爆の魔法陣が設置されている大広間を封印し、自身は飛竜の竜舎に向かう。
もちろん、既に全ての飛竜は放たれ、そこにはミスティを "荷物" として持ち帰った偽棺筐しかない。
鳴り響く警報。
自動音声で流れるカウントダウン。
廊下の明かりは、警告灯の赤が忙しなく点滅している。
石板に魔力を流すと、扉はなんなく開いた。
中に入り、内側から石板を破壊する。
この石板は、決まった魔力パターン以外の者を通さないが、しかしこれからここに侵入を試みる者たちは、どんな革新技術を持っているか、計り知れない。
竜舎に設置されている魔導装置を起動して、舎内に外部からの侵入を許さない封印魔法を張り巡らせる。
そして、自分はミスティが収められていたクレイドルの傍に歩み寄った。
「考えてみれば、俺はネクシオンのきみしか知らんのだなぁ」
スヴェンはまるで、そこにミスティがいるかのように話しかけた。
「上層部がどう思っているのか知らんが、俺はきみが元の人格を取り戻せたのは、その真面目すぎる性格の所為だと思ってる」
死を忘れたルーファは、ミステリーナイトの称号を与えられ、あまりにも不利だった戦局をひっくり返すために、前線に投入された。
「たった一人で背負うには、重すぎる運命だよな……」
ルーファ・カルテムは、見習い騎士になるだけの魔力素養こそあったが、技術も経験も未熟な、まだ半人前の若者にすぎなかった。
本来、騎士への道のりは長く険しい。
兵士から見習い騎士になるには、十二歳までに全ての素養が基準を超えていなければならない。
だが、そこから騎士に昇格できるのは半数ほど。
さらに上級騎士になれる者は、その中の一割。
ラディアントに至っては──尋常ならざる才覚と努力をもってしても、手が届かぬ高みだ。
だがミスティには、それを選ぶ猶予すらなかった。
ただ "死なない" という一点だけで、試練の全てを受けることになったのだ。
七人の騎士たちはそれぞれ、自らの持つ技術と戦術のすべてを彼に教えた。
不死身は決して、無敵ではない。
いやむしろ、不死身であるからこそ、己の背後に守るべき命があることを、──騎士の矜持と意味を叩き込んだのだ。
ミスティはそれを乗り越えた。
ラディアントたちの協力もあったが、なにより生真面目なミスティの性格が、不可能を可能にするための努力を惜しまなかったのだ。
そんなミスティに、ラディアントたちは好感を抱き、もう一人のラディアントとして迎え入れた。
ラディアントたちは年齢も経歴も、出身国すらばらばらであった。
後方支援を担当している星影の騎士は、ミスティに一番年齡が近く21歳、紅一点のダイアナは27歳。
前線で最も活躍が期待される機動部隊のトップであるクリスは33歳だが、魔導騎士たちを束ねる黄昏の騎士は60代だ。
彼らを束ねる閃光の騎士を除けば、七人の煌環騎士団には上下の差がなく、その扱いは常に平等を目指していた。
故に儀礼や敬語にとらわれず、大広間で行われる円卓会議の場では、時に激しい論議が交わされることもしばしばあった。
見習いであったルーファも、最初こそはかしこまっていたが、いくつかの試練を乗り越える間に、口調は対等なものへと変わっていった。
だが……。
手ほどきを受けていた頃は、年相応の表情を見せていたミスティは、やがて心から笑わなくなった。
クリスはそれを、彼に騎士としてラディアントとしての自覚が芽生えたため……と思っていたが。
魔人との戦いのなかで、魔法で撃ち抜かれ、爆発に巻き込まれ、魔物の爪に引き裂かれても、彼は立ち上がった。
最初のうちは、それでもミスティが死に臆する部分はあったように思う。
反面、ミスティの真面目すぎる性格は、同じ大きさで責任感も抱え込むところがあり、彼は死に恐怖を感じながらも、率先して最も危険な任務に飛び込んでいった。
ある時、クリスは気づいた。
「僕が合図をしたら……」
と、ミスティは言った。
言われるままに合図を待ち、タイミングを逸さずに指示通りの行動を取る。
これは任務の中で、何度も繰り返された、一つのパターンだった。
ミスティの身を危険にさらす代償に、危機的状況をひっくり返し、任務は成功に終わる。
「きみにそそのかされて、俺は一体、何度きみを殺したんだ? ──もっとも……きみがそれを責めたことはないけどな……」
スヴェンは自嘲気味に、クレイドルに話しかけ続けた。
クリスタルナイトの称号は、ラディアントの序列2位であり、最前線の実働部隊を指揮する立場に有る。
不死身のミステリーナイトが、その指揮下に入って作戦に従事するのは当たり前の流れとなっていて、スヴェンはミスティの相棒のような存在になっていた。
「俺は……きみの瞳から熱が消えてゆくのが、怖かった。レティシアに言われて、自分の本当の気持ちに向き合って、ようやくそのことに気付いた。だけど……」
扉の外を、何かが蠢く気配がする。
「やつらが来たようだ。予定より、少し早いかな……」
スヴェンは、特に焦りは見せなかった。
竜舎の扉の前を、大勢の足音が過ってゆく。
まずは自爆シークエンスを止めるために、彼らはこの部屋を素通りしたに違いない。
スヴェンはクレイドルにもたれかかり、目を閉じた。
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