10 / 75
4.浮遊城の最期
しおりを挟む
その時、浮遊城に、クリス以外は一人も残っていなかった。
クリスは「反乱を鎮圧する」という大義を掲げて、自爆の魔法陣を起動させたのだ。
反乱を企てた者たちは、クリスが本当に自爆シークエンスを起動させたことに気付いた所で、浮遊城を退去した。
蒼穹の騎士──スヴェン・ダムノスは、自爆の魔法陣が設置されている大広間を封印し、自身は飛竜の竜舎に向かう。
もちろん、既に全ての飛竜は放たれ、そこにはミスティを "荷物" として持ち帰った偽棺筐しかない。
鳴り響く警報。
自動音声で流れるカウントダウン。
廊下の明かりは、警告灯の赤が忙しなく点滅している。
石板に魔力を流すと、扉はなんなく開いた。
中に入り、内側から石板を破壊する。
この石板は、決まった魔力パターン以外の者を通さないが、しかしこれからここに侵入を試みる者たちは、どんな革新技術を持っているか、計り知れない。
竜舎に設置されている魔導装置を起動して、舎内に外部からの侵入を許さない封印魔法を張り巡らせる。
そして、自分はミスティが収められていたクレイドルの傍に歩み寄った。
「考えてみれば、俺はネクシオンのきみしか知らんのだなぁ」
スヴェンはまるで、そこにミスティがいるかのように話しかけた。
「上層部がどう思っているのか知らんが、俺はきみが元の人格を取り戻せたのは、その真面目すぎる性格の所為だと思ってる」
死を忘れたルーファは、ミステリーナイトの称号を与えられ、あまりにも不利だった戦局をひっくり返すために、前線に投入された。
「たった一人で背負うには、重すぎる運命だよな……」
ルーファ・カルテムは、見習い騎士になるだけの魔力素養こそあったが、技術も経験も未熟な、まだ半人前の若者にすぎなかった。
本来、騎士への道のりは長く険しい。
兵士から見習い騎士になるには、十二歳までに全ての素養が基準を超えていなければならない。
だが、そこから騎士に昇格できるのは半数ほど。
さらに上級騎士になれる者は、その中の一割。
ラディアントに至っては──尋常ならざる才覚と努力をもってしても、手が届かぬ高みだ。
だがミスティには、それを選ぶ猶予すらなかった。
ただ "死なない" という一点だけで、試練の全てを受けることになったのだ。
七人の騎士たちはそれぞれ、自らの持つ技術と戦術のすべてを彼に教えた。
不死身は決して、無敵ではない。
いやむしろ、不死身であるからこそ、己の背後に守るべき命があることを、──騎士の矜持と意味を叩き込んだのだ。
ミスティはそれを乗り越えた。
ラディアントたちの協力もあったが、なにより生真面目なミスティの性格が、不可能を可能にするための努力を惜しまなかったのだ。
そんなミスティに、ラディアントたちは好感を抱き、もう一人のラディアントとして迎え入れた。
ラディアントたちは年齢も経歴も、出身国すらばらばらであった。
後方支援を担当している星影の騎士は、ミスティに一番年齡が近く21歳、紅一点のダイアナは27歳。
前線で最も活躍が期待される機動部隊のトップであるクリスは33歳だが、魔導騎士たちを束ねる黄昏の騎士は60代だ。
彼らを束ねる閃光の騎士を除けば、七人の煌環騎士団には上下の差がなく、その扱いは常に平等を目指していた。
故に儀礼や敬語にとらわれず、大広間で行われる円卓会議の場では、時に激しい論議が交わされることもしばしばあった。
見習いであったルーファも、最初こそはかしこまっていたが、いくつかの試練を乗り越える間に、口調は対等なものへと変わっていった。
だが……。
手ほどきを受けていた頃は、年相応の表情を見せていたミスティは、やがて心から笑わなくなった。
クリスはそれを、彼に騎士としてラディアントとしての自覚が芽生えたため……と思っていたが。
魔人との戦いのなかで、魔法で撃ち抜かれ、爆発に巻き込まれ、魔物の爪に引き裂かれても、彼は立ち上がった。
最初のうちは、それでもミスティが死に臆する部分はあったように思う。
反面、ミスティの真面目すぎる性格は、同じ大きさで責任感も抱え込むところがあり、彼は死に恐怖を感じながらも、率先して最も危険な任務に飛び込んでいった。
ある時、クリスは気づいた。
「僕が合図をしたら……」
と、ミスティは言った。
言われるままに合図を待ち、タイミングを逸さずに指示通りの行動を取る。
これは任務の中で、何度も繰り返された、一つのパターンだった。
ミスティの身を危険にさらす代償に、危機的状況をひっくり返し、任務は成功に終わる。
「きみにそそのかされて、俺は一体、何度きみを殺したんだ? ──もっとも……きみがそれを責めたことはないけどな……」
スヴェンは自嘲気味に、クレイドルに話しかけ続けた。
クリスタルナイトの称号は、ラディアントの序列2位であり、最前線の実働部隊を指揮する立場に有る。
不死身のミステリーナイトが、その指揮下に入って作戦に従事するのは当たり前の流れとなっていて、スヴェンはミスティの相棒のような存在になっていた。
「俺は……きみの瞳から熱が消えてゆくのが、怖かった。レティシアに言われて、自分の本当の気持ちに向き合って、ようやくそのことに気付いた。だけど……」
扉の外を、何かが蠢く気配がする。
「やつらが来たようだ。予定より、少し早いかな……」
スヴェンは、特に焦りは見せなかった。
竜舎の扉の前を、大勢の足音が過ってゆく。
まずは自爆シークエンスを止めるために、彼らはこの部屋を素通りしたに違いない。
スヴェンはクレイドルにもたれかかり、目を閉じた。
クリスは「反乱を鎮圧する」という大義を掲げて、自爆の魔法陣を起動させたのだ。
反乱を企てた者たちは、クリスが本当に自爆シークエンスを起動させたことに気付いた所で、浮遊城を退去した。
蒼穹の騎士──スヴェン・ダムノスは、自爆の魔法陣が設置されている大広間を封印し、自身は飛竜の竜舎に向かう。
もちろん、既に全ての飛竜は放たれ、そこにはミスティを "荷物" として持ち帰った偽棺筐しかない。
鳴り響く警報。
自動音声で流れるカウントダウン。
廊下の明かりは、警告灯の赤が忙しなく点滅している。
石板に魔力を流すと、扉はなんなく開いた。
中に入り、内側から石板を破壊する。
この石板は、決まった魔力パターン以外の者を通さないが、しかしこれからここに侵入を試みる者たちは、どんな革新技術を持っているか、計り知れない。
竜舎に設置されている魔導装置を起動して、舎内に外部からの侵入を許さない封印魔法を張り巡らせる。
そして、自分はミスティが収められていたクレイドルの傍に歩み寄った。
「考えてみれば、俺はネクシオンのきみしか知らんのだなぁ」
スヴェンはまるで、そこにミスティがいるかのように話しかけた。
「上層部がどう思っているのか知らんが、俺はきみが元の人格を取り戻せたのは、その真面目すぎる性格の所為だと思ってる」
死を忘れたルーファは、ミステリーナイトの称号を与えられ、あまりにも不利だった戦局をひっくり返すために、前線に投入された。
「たった一人で背負うには、重すぎる運命だよな……」
ルーファ・カルテムは、見習い騎士になるだけの魔力素養こそあったが、技術も経験も未熟な、まだ半人前の若者にすぎなかった。
本来、騎士への道のりは長く険しい。
兵士から見習い騎士になるには、十二歳までに全ての素養が基準を超えていなければならない。
だが、そこから騎士に昇格できるのは半数ほど。
さらに上級騎士になれる者は、その中の一割。
ラディアントに至っては──尋常ならざる才覚と努力をもってしても、手が届かぬ高みだ。
だがミスティには、それを選ぶ猶予すらなかった。
ただ "死なない" という一点だけで、試練の全てを受けることになったのだ。
七人の騎士たちはそれぞれ、自らの持つ技術と戦術のすべてを彼に教えた。
不死身は決して、無敵ではない。
いやむしろ、不死身であるからこそ、己の背後に守るべき命があることを、──騎士の矜持と意味を叩き込んだのだ。
ミスティはそれを乗り越えた。
ラディアントたちの協力もあったが、なにより生真面目なミスティの性格が、不可能を可能にするための努力を惜しまなかったのだ。
そんなミスティに、ラディアントたちは好感を抱き、もう一人のラディアントとして迎え入れた。
ラディアントたちは年齢も経歴も、出身国すらばらばらであった。
後方支援を担当している星影の騎士は、ミスティに一番年齡が近く21歳、紅一点のダイアナは27歳。
前線で最も活躍が期待される機動部隊のトップであるクリスは33歳だが、魔導騎士たちを束ねる黄昏の騎士は60代だ。
彼らを束ねる閃光の騎士を除けば、七人の煌環騎士団には上下の差がなく、その扱いは常に平等を目指していた。
故に儀礼や敬語にとらわれず、大広間で行われる円卓会議の場では、時に激しい論議が交わされることもしばしばあった。
見習いであったルーファも、最初こそはかしこまっていたが、いくつかの試練を乗り越える間に、口調は対等なものへと変わっていった。
だが……。
手ほどきを受けていた頃は、年相応の表情を見せていたミスティは、やがて心から笑わなくなった。
クリスはそれを、彼に騎士としてラディアントとしての自覚が芽生えたため……と思っていたが。
魔人との戦いのなかで、魔法で撃ち抜かれ、爆発に巻き込まれ、魔物の爪に引き裂かれても、彼は立ち上がった。
最初のうちは、それでもミスティが死に臆する部分はあったように思う。
反面、ミスティの真面目すぎる性格は、同じ大きさで責任感も抱え込むところがあり、彼は死に恐怖を感じながらも、率先して最も危険な任務に飛び込んでいった。
ある時、クリスは気づいた。
「僕が合図をしたら……」
と、ミスティは言った。
言われるままに合図を待ち、タイミングを逸さずに指示通りの行動を取る。
これは任務の中で、何度も繰り返された、一つのパターンだった。
ミスティの身を危険にさらす代償に、危機的状況をひっくり返し、任務は成功に終わる。
「きみにそそのかされて、俺は一体、何度きみを殺したんだ? ──もっとも……きみがそれを責めたことはないけどな……」
スヴェンは自嘲気味に、クレイドルに話しかけ続けた。
クリスタルナイトの称号は、ラディアントの序列2位であり、最前線の実働部隊を指揮する立場に有る。
不死身のミステリーナイトが、その指揮下に入って作戦に従事するのは当たり前の流れとなっていて、スヴェンはミスティの相棒のような存在になっていた。
「俺は……きみの瞳から熱が消えてゆくのが、怖かった。レティシアに言われて、自分の本当の気持ちに向き合って、ようやくそのことに気付いた。だけど……」
扉の外を、何かが蠢く気配がする。
「やつらが来たようだ。予定より、少し早いかな……」
スヴェンは、特に焦りは見せなかった。
竜舎の扉の前を、大勢の足音が過ってゆく。
まずは自爆シークエンスを止めるために、彼らはこの部屋を素通りしたに違いない。
スヴェンはクレイドルにもたれかかり、目を閉じた。
1
あなたにおすすめの小説
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる