75 / 75
後日譚
しおりを挟む
煌環の騎士は、浮遊城が再建されるまで、同盟連邦評議会の本部内に、仮住まいすることとなった。
そして騎士たちが再招集され、続々と集まっていた。
ミスティは、ラウンジで報告書に目を通していた。
隣ではクリスが、同じようにページをめくっている。
「はぁい、ミスティ、クリス」
明るい声とともに姿を現したのはダイアナだった。
「やあ、ダイアナ」
「久しぶりだな。あのときは、本当に世話になった」
クリスはそっけなく言っただけだったが、ミスティは素早く立ち上がった。
浮遊城最後の日、
ミスティを連れ出してくれたのは、他ならぬ彼女だった。
感謝の気持ちを込めて、ミスティはダイアナに短くハグを送る。
「あら、ずいぶん顔つきが変わったわね。前はお人形さんみたいだったのに」
ミスティに勧められて、ダイアナはクリスとの間に座る。
「ちらっと聞いたけど、あのあと、すごい活躍をしたんですって?」
「いや、僕はなにも。むしろ……きみに改めて謝りたくて、今日ここで話せてよかった」
「へえ? なにかしら」
「……あの時、浮遊城の最期と、クリスのことを教えてくれたろう。あの時の僕は……あまりに鈍かった。きみが僕のために怒ってくれたって、全然わからなかった」
ミスティのまさかの懺悔に、ダイアナは一瞬目を見開いた。
あの頃にはなかった "人間らしさ" が、明らかに彼の表情にあった。
「あなた、本当にいろいろ経験してきたのね」
「……ああ。正直、ひどい目に遭ったよ。人が残酷になった時ほど恐ろしいことはないって、身をもって知った。……僕はあの時、クリスがてっきり僕を "気晴らしに使ってる" んだと思ってたけど──全然、そんなんじゃなかったんだ」
ミスティの軽すぎる発言に、黙ってコーヒーを飲んでいたクリスは盛大に噴いた。
「ミスティ……よせ……!」
「ちょっと、それは聞き捨てならない話ね。クリスは、てっきりミスティを "気遣い" つつ口説きに行ったと思ってたけど」
「……えっ? ……ああ、そうか。あれは口説きだったのか?」
真顔で首をかしげるミスティに、クリスは泣きそうである。
しかし、なんらかの言い訳をしようにも、そこにはダイアナという "最強の壁" が立ちはだかっていた。
「ねえ、ミスティ。クリスはあなたに、なんて言ったの?」
「……ええと……改めて聞かれると話しにくいが……。最初は、シャワールームで突然キスをされて……。あのときは、僕もほんとに……ひどい対応をしたんだ。クリスにも謝らないといけない」
にこやかに話を促しているが、ダイアナの背後のクリスは悪寒を感じていた。
気づかないミスティは、続ける。
「でもまさか……シャワールームで、最後までされるとは思わなかったから……」
周囲に聞こえないように声は控えめになったが──。
聞こえるべき二人には、ちゃんと聞こえていた。
「……なるほど。そういう話なのね」
静かに立ち上がったダイアナは、報告書に隠れようとするクリスの襟首をがっしり掴んで引きずり出す。
「ダ……、ダイアナ……さん?」
「クリス、知ってる? それって世間一般には "強姦" って言うのよ」
言い終えるより早く、ダイアナの拳が炸裂した。
飛竜を扱い自由に空を飛ぶ飛竜騎士団の長は、拳に容赦がなかった。
クリスの体は、軽く後ろに吹っ飛ばされる。
「えっ、ちょっ……!? ダイアナ!?!?」
「いい? ミスティ。嫌なことは嫌って、ちゃんと断らなきゃダメなのよ」
「え……? 断る必要はないだろう?」
「あら、じゃあ合意だったの?」
「いや、僕はネクシオンだし。クリスの気晴らしに "使ってもらえる" なら構わないかと……」
その発言に、ダイアナの氷嵐が暴風雪へと進化した。
よろよろと立ち上がったクリスが、再び襟を掴まれる。
「うわっ!?」
「スヴェン……まさか、ずーっとミスティを "おもちゃ" にしてたの?」
「と、とんでもございません! 断じて! そのようなことは!」
「ほんと~うにぃ~?」
ダイアナの目が、鋭くミスティを捉える。
クリスは激しく首を横に振っていた。
「ええと……クリスは本当によくしてくれてるよ。きみが恋人だった頃のものを、いろいろ……その……使わせてもらったり……とか? してたけど。わざわざ僕のために、その……え……選んで? 揃えてくれたし……。問題ない」
「ちょ、ミスティ……それはむしろ爆弾……!」
クリスが悲鳴を上げる間もなく、襟がさらに締め上げられた。
だが、オロオロと取りなそうとするミスティの姿に、ダイアナの表情がふっと和らぐ。
「……まあ、いいわ。ミスティ。あなたが無事に戻ってきて、人の顔で笑ってるのを見られて、安心した」
「ありがとう。……本当に、全部クリスのおかげなんだ。……その、もう手を離してやってくれないか……?」
しぶしぶ、といった顔でクリスを見下ろすと、ダイアナはぽいっと彼を床に投げ捨てる。
クリスはようやく呼吸を取り戻し、床の上でゴホゴホと咳き込んだ。
「じゃあね。お幸せに、ミスティ」
ダイアナはミスティをぎゅっと抱きしめ、
その背中でミスティが見ていないのをいいことに──
クリスの向こう脛を思い切り蹴り飛ばして、颯爽と立ち去っていった。
終わり。
そして騎士たちが再招集され、続々と集まっていた。
ミスティは、ラウンジで報告書に目を通していた。
隣ではクリスが、同じようにページをめくっている。
「はぁい、ミスティ、クリス」
明るい声とともに姿を現したのはダイアナだった。
「やあ、ダイアナ」
「久しぶりだな。あのときは、本当に世話になった」
クリスはそっけなく言っただけだったが、ミスティは素早く立ち上がった。
浮遊城最後の日、
ミスティを連れ出してくれたのは、他ならぬ彼女だった。
感謝の気持ちを込めて、ミスティはダイアナに短くハグを送る。
「あら、ずいぶん顔つきが変わったわね。前はお人形さんみたいだったのに」
ミスティに勧められて、ダイアナはクリスとの間に座る。
「ちらっと聞いたけど、あのあと、すごい活躍をしたんですって?」
「いや、僕はなにも。むしろ……きみに改めて謝りたくて、今日ここで話せてよかった」
「へえ? なにかしら」
「……あの時、浮遊城の最期と、クリスのことを教えてくれたろう。あの時の僕は……あまりに鈍かった。きみが僕のために怒ってくれたって、全然わからなかった」
ミスティのまさかの懺悔に、ダイアナは一瞬目を見開いた。
あの頃にはなかった "人間らしさ" が、明らかに彼の表情にあった。
「あなた、本当にいろいろ経験してきたのね」
「……ああ。正直、ひどい目に遭ったよ。人が残酷になった時ほど恐ろしいことはないって、身をもって知った。……僕はあの時、クリスがてっきり僕を "気晴らしに使ってる" んだと思ってたけど──全然、そんなんじゃなかったんだ」
ミスティの軽すぎる発言に、黙ってコーヒーを飲んでいたクリスは盛大に噴いた。
「ミスティ……よせ……!」
「ちょっと、それは聞き捨てならない話ね。クリスは、てっきりミスティを "気遣い" つつ口説きに行ったと思ってたけど」
「……えっ? ……ああ、そうか。あれは口説きだったのか?」
真顔で首をかしげるミスティに、クリスは泣きそうである。
しかし、なんらかの言い訳をしようにも、そこにはダイアナという "最強の壁" が立ちはだかっていた。
「ねえ、ミスティ。クリスはあなたに、なんて言ったの?」
「……ええと……改めて聞かれると話しにくいが……。最初は、シャワールームで突然キスをされて……。あのときは、僕もほんとに……ひどい対応をしたんだ。クリスにも謝らないといけない」
にこやかに話を促しているが、ダイアナの背後のクリスは悪寒を感じていた。
気づかないミスティは、続ける。
「でもまさか……シャワールームで、最後までされるとは思わなかったから……」
周囲に聞こえないように声は控えめになったが──。
聞こえるべき二人には、ちゃんと聞こえていた。
「……なるほど。そういう話なのね」
静かに立ち上がったダイアナは、報告書に隠れようとするクリスの襟首をがっしり掴んで引きずり出す。
「ダ……、ダイアナ……さん?」
「クリス、知ってる? それって世間一般には "強姦" って言うのよ」
言い終えるより早く、ダイアナの拳が炸裂した。
飛竜を扱い自由に空を飛ぶ飛竜騎士団の長は、拳に容赦がなかった。
クリスの体は、軽く後ろに吹っ飛ばされる。
「えっ、ちょっ……!? ダイアナ!?!?」
「いい? ミスティ。嫌なことは嫌って、ちゃんと断らなきゃダメなのよ」
「え……? 断る必要はないだろう?」
「あら、じゃあ合意だったの?」
「いや、僕はネクシオンだし。クリスの気晴らしに "使ってもらえる" なら構わないかと……」
その発言に、ダイアナの氷嵐が暴風雪へと進化した。
よろよろと立ち上がったクリスが、再び襟を掴まれる。
「うわっ!?」
「スヴェン……まさか、ずーっとミスティを "おもちゃ" にしてたの?」
「と、とんでもございません! 断じて! そのようなことは!」
「ほんと~うにぃ~?」
ダイアナの目が、鋭くミスティを捉える。
クリスは激しく首を横に振っていた。
「ええと……クリスは本当によくしてくれてるよ。きみが恋人だった頃のものを、いろいろ……その……使わせてもらったり……とか? してたけど。わざわざ僕のために、その……え……選んで? 揃えてくれたし……。問題ない」
「ちょ、ミスティ……それはむしろ爆弾……!」
クリスが悲鳴を上げる間もなく、襟がさらに締め上げられた。
だが、オロオロと取りなそうとするミスティの姿に、ダイアナの表情がふっと和らぐ。
「……まあ、いいわ。ミスティ。あなたが無事に戻ってきて、人の顔で笑ってるのを見られて、安心した」
「ありがとう。……本当に、全部クリスのおかげなんだ。……その、もう手を離してやってくれないか……?」
しぶしぶ、といった顔でクリスを見下ろすと、ダイアナはぽいっと彼を床に投げ捨てる。
クリスはようやく呼吸を取り戻し、床の上でゴホゴホと咳き込んだ。
「じゃあね。お幸せに、ミスティ」
ダイアナはミスティをぎゅっと抱きしめ、
その背中でミスティが見ていないのをいいことに──
クリスの向こう脛を思い切り蹴り飛ばして、颯爽と立ち去っていった。
終わり。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる