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第18話
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「痛…てェ! 放せっ! ちくしょうっ!」
もがく柊一に、男は無言でのしかかる。
そのまま抵抗も出来ずに殴られるのかと思っていた柊一は、予想外の男の行動に咄嗟の対処が出来なかった。
「おとなしくしてれば、可愛がってやるって言ってんだろ」
股間に手をあてがわれて、全身に鳥肌が立つ。
「イヤ…ダッ!」
思わず上げた悲鳴は、あまりの情けなさに涙も出ないような、か細く女々しい声だった。
「シノさんに触るなって言ってんだろっ!」
起きあがった多聞が猛烈なタックルを送って、男の身体をはじき飛ばす。
身体が解放された後も、柊一は身が竦んでいてロクに動く事も出来なかった。
犯されかかった恐怖故か、右足を打ち掛かられた痛み故か、もう己にも判断できない。
ようやくの思いで身体を起こした柊一の目の前で、多聞が殴り飛ばされた。
他人との殴り合いなどした事がない多聞は、ただ闇雲に相手に向かって行くだけで、自身が繰り出す攻撃は何一つ効を為さずに空振りに終わっている。
そして、男の容赦のない拳を顔面に叩き付られて、酷い顔になっていた。
それでも、多聞は決して諦める事も怯む事もせずに、男に挑み掛かる。
多聞がのされてしまっては、柊一の身に危険が及ぶ事が判っているから。
「テメェは、うるせェんだよっ!」
襟を掴み、多聞の顔面を何度も殴りつける男に、柊一は多聞の生命の危険を感じた。
「やめろってっ!」
立ち上がった瞬間、蹌踉めく程の痛みが右足に走ったが、柊一は構わずに男に掴み掛かる。
無理に腕を抑え込み、多聞の襟を掴んでいた手をもぎ取ると、突き放された多聞はそのまま扉の方へと身体を傾き掛けて、側の柱にようやくの思いで縋り付き、何とか倒れ込まずに踏みとどまった。
「…くっ…!」
足元のふらつく柊一では、それ以上男を抑え込む事も出来ず、振り払われて壁に叩き付けられる。
男はチラリと柊一を見遣ってから、目線を多聞の方へと向けた。
柱に縋り付き、鼻から滴り落ちる血を手で押さえていた多聞は、いきなり男に突き飛ばされて廊下に倒れ込む。
痛みに呻く多聞の襟を再び掴み、強引に立ち上がらせると男は無言で顔面にパンチを見舞った。
蹌踉めいた多聞は廊下へ倒れ込み、柊一の視界から見えなくなる。
その多聞を追って、男の姿も見えなくなった。
「多聞ッ!」
身体を起こし、柊一は慌てて扉に向かう。
全身の痛みと、特に右足の痛みで速やかに移動が出来なくなっている柊一が部屋から出た時、既に二人は踊り場にいた。
多聞は既に反撃する余力も残っていないらしく、サンドバックさながらにただ無抵抗に殴られている。
しかし、それを止める為に男の背中に掴み掛かった柊一も、大した抵抗にならず、あっさりと振り解かれてしまった。
「多聞ッ! オマエさっさと逃げろよっ!」
行く手を遮る事も、真っ向から相手にする事も出来ないと悟った柊一は、男の右腕に縋り付き、ただその動きだけをくい止める。
男は左手で柊一の身体を乱暴に押し戻そうとしたが、柊一は意地になってその腕に噛じりついていた。
自分の行動を束縛する柊一に焦れて、男はとうとう柊一を殴ろうと拳を振りかぶる。
「シノさん、危ないッ!」
多聞は、何も考えずに男の左手に飛びついた。
反動で身体が傾き、男の身体が柊一の身体の上にのしかかる。
思いも寄らぬ格好に傾かれて、柊一は思わず男の腕から手を離していた。
柊一の身体を軸に、男が重心を失って倒れ込む。
男と柊一が争っていたのは、踊り場の階段の側だった。
身体を一回転させた男は、頭から階段を転げ落ちる。
「多聞ッ?」
辺りを見回し、階下へ目線を送った柊一は、思わず悲鳴染みた声を上げた。
「多聞!」
男を止めようと腕を掴んでいた多聞は、一緒に階下へ転げ落ちていたのだ。
「多聞ッ! 多聞ッ!」
今までの争いで身体中を打ち付けられ、松葉杖も手元にない柊一は、階段を降りる事が出来ない。
しかし、どんなに呼びかけても、多聞は疎か男の方もピクとも動かなかった。
「嘘だろっ! 多聞ッ!!」
焦りと混乱で狼狽え、柊一は無闇と辺りを見回してしまう。
「人…誰か、…誰か呼ばないとっ!」
力の入らない足では立ち上がる事も出来ず、柊一は両手で床を這いずって部屋に戻った。
しかし、電話はモジュール線を切断されていて、使い物にならない。
「多聞の…多聞の携帯は…?」
焦りつつも辺りを探し回り、ようやく見つけだした小さな電話機を取り上げると、柊一は何も考えずに119をプッシュしていた。
「もしもしっ! もしもしっ! 早く、早く医者っ! 医者を寄越してくれよっ! 多聞が死ンじまうっ!」
もがく柊一に、男は無言でのしかかる。
そのまま抵抗も出来ずに殴られるのかと思っていた柊一は、予想外の男の行動に咄嗟の対処が出来なかった。
「おとなしくしてれば、可愛がってやるって言ってんだろ」
股間に手をあてがわれて、全身に鳥肌が立つ。
「イヤ…ダッ!」
思わず上げた悲鳴は、あまりの情けなさに涙も出ないような、か細く女々しい声だった。
「シノさんに触るなって言ってんだろっ!」
起きあがった多聞が猛烈なタックルを送って、男の身体をはじき飛ばす。
身体が解放された後も、柊一は身が竦んでいてロクに動く事も出来なかった。
犯されかかった恐怖故か、右足を打ち掛かられた痛み故か、もう己にも判断できない。
ようやくの思いで身体を起こした柊一の目の前で、多聞が殴り飛ばされた。
他人との殴り合いなどした事がない多聞は、ただ闇雲に相手に向かって行くだけで、自身が繰り出す攻撃は何一つ効を為さずに空振りに終わっている。
そして、男の容赦のない拳を顔面に叩き付られて、酷い顔になっていた。
それでも、多聞は決して諦める事も怯む事もせずに、男に挑み掛かる。
多聞がのされてしまっては、柊一の身に危険が及ぶ事が判っているから。
「テメェは、うるせェんだよっ!」
襟を掴み、多聞の顔面を何度も殴りつける男に、柊一は多聞の生命の危険を感じた。
「やめろってっ!」
立ち上がった瞬間、蹌踉めく程の痛みが右足に走ったが、柊一は構わずに男に掴み掛かる。
無理に腕を抑え込み、多聞の襟を掴んでいた手をもぎ取ると、突き放された多聞はそのまま扉の方へと身体を傾き掛けて、側の柱にようやくの思いで縋り付き、何とか倒れ込まずに踏みとどまった。
「…くっ…!」
足元のふらつく柊一では、それ以上男を抑え込む事も出来ず、振り払われて壁に叩き付けられる。
男はチラリと柊一を見遣ってから、目線を多聞の方へと向けた。
柱に縋り付き、鼻から滴り落ちる血を手で押さえていた多聞は、いきなり男に突き飛ばされて廊下に倒れ込む。
痛みに呻く多聞の襟を再び掴み、強引に立ち上がらせると男は無言で顔面にパンチを見舞った。
蹌踉めいた多聞は廊下へ倒れ込み、柊一の視界から見えなくなる。
その多聞を追って、男の姿も見えなくなった。
「多聞ッ!」
身体を起こし、柊一は慌てて扉に向かう。
全身の痛みと、特に右足の痛みで速やかに移動が出来なくなっている柊一が部屋から出た時、既に二人は踊り場にいた。
多聞は既に反撃する余力も残っていないらしく、サンドバックさながらにただ無抵抗に殴られている。
しかし、それを止める為に男の背中に掴み掛かった柊一も、大した抵抗にならず、あっさりと振り解かれてしまった。
「多聞ッ! オマエさっさと逃げろよっ!」
行く手を遮る事も、真っ向から相手にする事も出来ないと悟った柊一は、男の右腕に縋り付き、ただその動きだけをくい止める。
男は左手で柊一の身体を乱暴に押し戻そうとしたが、柊一は意地になってその腕に噛じりついていた。
自分の行動を束縛する柊一に焦れて、男はとうとう柊一を殴ろうと拳を振りかぶる。
「シノさん、危ないッ!」
多聞は、何も考えずに男の左手に飛びついた。
反動で身体が傾き、男の身体が柊一の身体の上にのしかかる。
思いも寄らぬ格好に傾かれて、柊一は思わず男の腕から手を離していた。
柊一の身体を軸に、男が重心を失って倒れ込む。
男と柊一が争っていたのは、踊り場の階段の側だった。
身体を一回転させた男は、頭から階段を転げ落ちる。
「多聞ッ?」
辺りを見回し、階下へ目線を送った柊一は、思わず悲鳴染みた声を上げた。
「多聞!」
男を止めようと腕を掴んでいた多聞は、一緒に階下へ転げ落ちていたのだ。
「多聞ッ! 多聞ッ!」
今までの争いで身体中を打ち付けられ、松葉杖も手元にない柊一は、階段を降りる事が出来ない。
しかし、どんなに呼びかけても、多聞は疎か男の方もピクとも動かなかった。
「嘘だろっ! 多聞ッ!!」
焦りと混乱で狼狽え、柊一は無闇と辺りを見回してしまう。
「人…誰か、…誰か呼ばないとっ!」
力の入らない足では立ち上がる事も出来ず、柊一は両手で床を這いずって部屋に戻った。
しかし、電話はモジュール線を切断されていて、使い物にならない。
「多聞の…多聞の携帯は…?」
焦りつつも辺りを探し回り、ようやく見つけだした小さな電話機を取り上げると、柊一は何も考えずに119をプッシュしていた。
「もしもしっ! もしもしっ! 早く、早く医者っ! 医者を寄越してくれよっ! 多聞が死ンじまうっ!」
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