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8:アスピドケロン
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その日、夕方になってもブリーは戻ってこなかった。
「どうしたんだ……?」
不安のあまり、思わず独り言まで呟く。
が、慌てて頭を振った。
──相手は一級だ。……それに、もし戻れないような事態になっていたとして、四級の俺に出来ることはない。
ジークは冷静に考えた。
助けを呼びに行くにしろ、ブリーの様子を見に行くにしろ、日が暮れてしまった今は動きようもない。
──アスピドケロンの生息地までに出現モンスターは、カエルと食人植物、あ、あとミズスマシに似たデッカイ昆虫型のがいたっけか……?
そこまで考えて、ジークはため息を吐いた。
──考えたところで、対処が出来るもんでもないな……。
眠れないまま、夜が明ける。
──モンスター避けの香と、虎の子のサンダーストーンを持って……。
ジークは装備を再確認した。
サンダーストーンは、敵に向かって握ることで、雷魔法を放つ魔道具だ。
一回限りの使い切りな上、単価もかなり高額の商品だが、水棲モンスターへの効果は高い。
──よし、行くぞ。
アスピドケロンの甲羅取りは、一級冒険者のブリーにしてみればさほどの案件ではなさそうだったが。
それでも、不測の事態があった可能性は捨てきれない。
──様子見に行くよりは、助けを呼びに行く方が正解なんだろうが……。
しかし、応援を呼ぶとなったらギルドに〝応援要請〟をしなければならない。
往復六日の時間を考えたら、様子を見に行こうが行くまいが、結果は同じだ。
──俺が微力でも力になれれば、むしろ助けになる可能性がある。
とはいえ、おっかなびっくりのへっぴり腰で、少しの水音や風にビクビク怯えながらの進軍だ。
──少ない魔力を使って気配察知をしちゃあいるが、これって水の中までわかんねぇんだよな……。
幸いにして、途中で出会ったのはヌマガエルのみだった。
そうして半日以上掛けて、ジークはアスピドケロンの生息域に入ったのだが──。
「な……、なんだこりゃあ……」
水面に、ぷかあ……と浮かぶ、アスピドケロンが──目に入っただけでも三体いた。
「おいっ! なにしてんだっ!」
死んでいるのか、眠っているのかわからないが、そこで水面にぷかぷか浮かんでいるアスピドケロンを避けつつ進むと、奥にブリーがいた。
ほぼ無心に、固い黒パンと干し肉を、顎の力に任せて噛みちぎりながら、黙々と食べている。
「ごはん……、不味い……」
「あほか! 黒パンはともかく、干し肉ってのはナイフで薄く切ってから食うもんだろ!」
「ん~、なんでジークがこんなトコいるの? 今は危なくないけど、フツーは危ないよ?」
「おまえさんが帰ってこないから、様子見に来たんじゃねぇか」
ブリーは、こてんと小首を傾げた。
「いっぱい獲れすぎて、どうやって持って帰ろうか悩んでた」
「はっ?」
言葉数の少ないブリーを問いただし、ジークが理解した内容は──。
アスピドケロンは雷魔法で即死に出来たが、ほぼなにも考えずに放った魔法で予定数を遥かに超えた数を仕留めてしまった。
素手で持ち帰ることが可能な数はせいぜい三個、それも解体して甲羅のみにした場合に限ると言う。
「どー見ても、十はくだらないだろ、これ……」
「でもせっかく獲ったのに、置いてくのなんかヤダ」
ジークは頭を掻きむしる。
「あたま、かゆいの?」
「おまえさんの突飛すぎる行動に、頭が痛いのっ!」
「ジーク、あたま痛い? ヒールする?」
「そーいうんじゃないから……」
脱力感がひどい。
ため息を吐き、やけくそ気味にアスピドケロンを掴むと、端からぽいぽいとアイテムボックスにつっこんだ。
「すごい! あんな数、フツーは入らない!」
キャッキャとブリーがはしゃいでいる。
──このコ、かなりやべえな……。
いや、ブリーが〝ヤバい〟のは、最初から分かっていた。
が、そのヤバさは、彼女の……一級冒険者としての桁外れな戦闘力やら、コミュ障やらだったが。
ジークは今、改めてブリーの──常識の無さに危機感を覚えていた。
§
野営地に戻ったところで、ジークは干し肉と野菜を煮込んだスープを作る。
「それ、レイドで食べたやつ?」
「あんな沼地の真ん中で一晩過ごして、体冷えたんじゃないのか?」
「ん~、冬じゃないから」
「オンナノコは、体冷やしちゃ駄目だぞ」
「なんで?」
「男に比べて、女の体は冷えやすいんだ。体調崩しやすくなるからな。ほら、食え」
器によそったスープを差し出すと、ブリーは嬉しそうに食べ始めた。
「干し肉、美味しい」
「あんな食い方したら、なんだって不味いだろ」
自分の分もよそって、ジークは食事を始める。
「おまえさん、どうしてソロなんだ?」
「ん~、めんどくさい?」
返された答えは、なんとなく予想は出来ていた。
「その……、友達のキリィってのは、組んでくれないのか?」
「キリィも、一人のほうが楽って言ってた」
「なるほど。……飯は、黒パンと干し肉だけか?」
「うん」
「参考までに聞くけど、出先で水飲む時、煮沸してる?」
「しゃ……ふつ?」
「例えばこの沼の水、いきなり飲んだりとか……?」
「してる。今朝も、ごはん食べてる時、飲んだ」
「腹こわさねぇのかよ?」
「ん~、状態異常無効があるから?」
──一級様のチートぉぉぉ!
叫びそうになったが、ギリギリで堪えた。
「きみさぁ、クエスト受注の時に、ちゃんと内容チェックしたりとか。報酬の計算とかしてる?」
「ハーゲンが、俺に必ず話通せって、前に言われた」
──ああ、もう既に、詐欺られた過去がある……と。
言葉もない。
だが、返事に詰まったジークをよそに、ブリーはニコニコしながら器を差し出した。
「おかわり」
「あー、そうね。一杯で足りるわきゃないね」
ジークはスープをよそい、ブリーに渡した。
「どうしたんだ……?」
不安のあまり、思わず独り言まで呟く。
が、慌てて頭を振った。
──相手は一級だ。……それに、もし戻れないような事態になっていたとして、四級の俺に出来ることはない。
ジークは冷静に考えた。
助けを呼びに行くにしろ、ブリーの様子を見に行くにしろ、日が暮れてしまった今は動きようもない。
──アスピドケロンの生息地までに出現モンスターは、カエルと食人植物、あ、あとミズスマシに似たデッカイ昆虫型のがいたっけか……?
そこまで考えて、ジークはため息を吐いた。
──考えたところで、対処が出来るもんでもないな……。
眠れないまま、夜が明ける。
──モンスター避けの香と、虎の子のサンダーストーンを持って……。
ジークは装備を再確認した。
サンダーストーンは、敵に向かって握ることで、雷魔法を放つ魔道具だ。
一回限りの使い切りな上、単価もかなり高額の商品だが、水棲モンスターへの効果は高い。
──よし、行くぞ。
アスピドケロンの甲羅取りは、一級冒険者のブリーにしてみればさほどの案件ではなさそうだったが。
それでも、不測の事態があった可能性は捨てきれない。
──様子見に行くよりは、助けを呼びに行く方が正解なんだろうが……。
しかし、応援を呼ぶとなったらギルドに〝応援要請〟をしなければならない。
往復六日の時間を考えたら、様子を見に行こうが行くまいが、結果は同じだ。
──俺が微力でも力になれれば、むしろ助けになる可能性がある。
とはいえ、おっかなびっくりのへっぴり腰で、少しの水音や風にビクビク怯えながらの進軍だ。
──少ない魔力を使って気配察知をしちゃあいるが、これって水の中までわかんねぇんだよな……。
幸いにして、途中で出会ったのはヌマガエルのみだった。
そうして半日以上掛けて、ジークはアスピドケロンの生息域に入ったのだが──。
「な……、なんだこりゃあ……」
水面に、ぷかあ……と浮かぶ、アスピドケロンが──目に入っただけでも三体いた。
「おいっ! なにしてんだっ!」
死んでいるのか、眠っているのかわからないが、そこで水面にぷかぷか浮かんでいるアスピドケロンを避けつつ進むと、奥にブリーがいた。
ほぼ無心に、固い黒パンと干し肉を、顎の力に任せて噛みちぎりながら、黙々と食べている。
「ごはん……、不味い……」
「あほか! 黒パンはともかく、干し肉ってのはナイフで薄く切ってから食うもんだろ!」
「ん~、なんでジークがこんなトコいるの? 今は危なくないけど、フツーは危ないよ?」
「おまえさんが帰ってこないから、様子見に来たんじゃねぇか」
ブリーは、こてんと小首を傾げた。
「いっぱい獲れすぎて、どうやって持って帰ろうか悩んでた」
「はっ?」
言葉数の少ないブリーを問いただし、ジークが理解した内容は──。
アスピドケロンは雷魔法で即死に出来たが、ほぼなにも考えずに放った魔法で予定数を遥かに超えた数を仕留めてしまった。
素手で持ち帰ることが可能な数はせいぜい三個、それも解体して甲羅のみにした場合に限ると言う。
「どー見ても、十はくだらないだろ、これ……」
「でもせっかく獲ったのに、置いてくのなんかヤダ」
ジークは頭を掻きむしる。
「あたま、かゆいの?」
「おまえさんの突飛すぎる行動に、頭が痛いのっ!」
「ジーク、あたま痛い? ヒールする?」
「そーいうんじゃないから……」
脱力感がひどい。
ため息を吐き、やけくそ気味にアスピドケロンを掴むと、端からぽいぽいとアイテムボックスにつっこんだ。
「すごい! あんな数、フツーは入らない!」
キャッキャとブリーがはしゃいでいる。
──このコ、かなりやべえな……。
いや、ブリーが〝ヤバい〟のは、最初から分かっていた。
が、そのヤバさは、彼女の……一級冒険者としての桁外れな戦闘力やら、コミュ障やらだったが。
ジークは今、改めてブリーの──常識の無さに危機感を覚えていた。
§
野営地に戻ったところで、ジークは干し肉と野菜を煮込んだスープを作る。
「それ、レイドで食べたやつ?」
「あんな沼地の真ん中で一晩過ごして、体冷えたんじゃないのか?」
「ん~、冬じゃないから」
「オンナノコは、体冷やしちゃ駄目だぞ」
「なんで?」
「男に比べて、女の体は冷えやすいんだ。体調崩しやすくなるからな。ほら、食え」
器によそったスープを差し出すと、ブリーは嬉しそうに食べ始めた。
「干し肉、美味しい」
「あんな食い方したら、なんだって不味いだろ」
自分の分もよそって、ジークは食事を始める。
「おまえさん、どうしてソロなんだ?」
「ん~、めんどくさい?」
返された答えは、なんとなく予想は出来ていた。
「その……、友達のキリィってのは、組んでくれないのか?」
「キリィも、一人のほうが楽って言ってた」
「なるほど。……飯は、黒パンと干し肉だけか?」
「うん」
「参考までに聞くけど、出先で水飲む時、煮沸してる?」
「しゃ……ふつ?」
「例えばこの沼の水、いきなり飲んだりとか……?」
「してる。今朝も、ごはん食べてる時、飲んだ」
「腹こわさねぇのかよ?」
「ん~、状態異常無効があるから?」
──一級様のチートぉぉぉ!
叫びそうになったが、ギリギリで堪えた。
「きみさぁ、クエスト受注の時に、ちゃんと内容チェックしたりとか。報酬の計算とかしてる?」
「ハーゲンが、俺に必ず話通せって、前に言われた」
──ああ、もう既に、詐欺られた過去がある……と。
言葉もない。
だが、返事に詰まったジークをよそに、ブリーはニコニコしながら器を差し出した。
「おかわり」
「あー、そうね。一杯で足りるわきゃないね」
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