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7:アルファの我儘・オメガの矜持
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風呂でさっぱりしたブリーは、ジークが用意した朝のカリーを駆けつけ三杯平らげた。
「昨日の、レイドの時と味違ったけど、今朝もまた違う。なんで?」
「使ってるハーブは同じだが、具が違うからだろ。てか、こんな勢いでカリーばっかり食ってると、太るぞ?」
「太るのやだ」
「三杯も食ったら討伐したって、腹ごなしにもならないんじゃないのか?」
「むううう~」
──つっても、干し肉とハーブのサラサラえせカレーだから、それほどでもないけどな。
頬を膨らませながら、ブリーは皿をスッと差し出した。
「なんだよ?」
「おかわり」
「だから、食いすぎだっちゅーんだよ! てか、アスピドケロンの索敵するだけで、戦闘になるかどーかもワカランのだろうが!」
「むむむむむ~~~!」
ますます頬を膨らませて、ブリーは皿を引っ込める。
「じゃあ、行ってくる。ジークは危ないから、ここで待ってて」
「ああ。毒には気をつけろよ」
「僕、毒は効かないよ?」
「そうなの?」
「うん。状態異常無効、持ってる」
「あーあー、はいはい、一級様のチートの話はいいから」
「ちいと?」
ジークは手をパタパタと振った。
「じゃあ、ヌマガエルを捕まえる余裕があったら、獲ってきてくれ」
「カエル、食べるの?」
「食べたいのかよ?」
「キリィが、カエル美味しいって言ってた。でも、僕は自分でごはん作れないから、食べたことない」
「わかった。ほんとは毒腺がほしかっただけだが、獲ってきたら夕飯に焼いてやる」
「やった!」
ブリーは、スキップしながら野営地を出ていった。
§
夕刻、ブリーが再びスキップしながら帰ってきた。
が、出かけに持っていなかった、なにか大きなものを持っている。
「それ、なんだ?」
「ツボスイレン」
いや、返事が来る前から、それは分かっていた。
問題は、ツボスイレンがウツボカズラに似た袋状の茎を持った、巨大な食人植物であることだ。
「どうしたの、それ?」
「カエル持ってくるのに、袋欲しかった」
ジークは、眉間を抑えた。
ブリーがツボスイレンを逆さにすると、中からどっさり……小山になるほどのヌマガエルが出てくる。
「ツボスイレンって……、三級指定のモンスターだろ……?」
「ぶちってすれば、すぐおとなしくなるよ?」
「あ~、そうなの? おじさん、わかんないな」
思わず〝HAHAHA〟と肩を竦めたあとに、しゃがみ込む。
──この量のカエルを、解体すんのか、俺……。
中には、まだ辛うじて息のあるのもいるらしく、もぞもぞ動いている。
──とはいえ、こいつの食欲考えたら、食っちまうかもな……。
はあっと大きくため息を吐き、ジークはヌマガエルとツボスイレンを、とにかくアイテムボックスに放り込んだ。
§
結局、その二百は下らないカエルを、ジークは捌いて捌いて捌きまくった。
最初のうち「うわあ……」と思っていた感覚は、途中から完全に〝無〟だったが。
それでも食用部分である足だけに集中することで、夕食に塩を振った炙り焼きを提供することが出来た。
「バターでソテーしたほうが美味いらしいが、そんなもん持ってきてないしな」
「ジーク、アイテムボックスおっきいのに?」
「アイテムボックスがデカくても、バター買えるほど稼ぎがないの!」
もも肉にかぶりつき、脂でテカテカになった唇をペロペロ舐めながら、ブリーが首を傾げる。
「すっごいパーティーも、ジークに応援頼むって聞いた」
「でも単発バイトだから、恒久的な収入にゃならん。いざって時のために、金は大事にするにこしたこたぁねぇ」
「僕、バターで焼いたの食べたい」
「だから、バターはねぇちゅーの」
「街に帰ったら、焼いて?」
「街では宿に泊まるだろ? てか、じゃあ全部焼かなくていいのか?」
「うー、ジークに焼いて欲しい」
「勝手なコト言うなよ。俺はお試しの一ヶ月が終わったら、お別れ確定してるからな」
「なんでぇ!」
ブリーが叫んだ。
ジークは呆れた顔で、振り返る。
「昨日の夜みたいな事故を、いつ何時やらかされるかワカランのに、危なくて付き合いきれんわ!」
「ヤダヤダヤダ! ジークのごはん、食べる!」
「三歳児みたいなゴネかた、するんじゃねぇちゅーの!」
ブリーはジークの肩を掴むと、ガクガク揺する。
「もうしない! もうしないから! ごはん作って!」
「揺するな! 吐く!」
ブリーはギュウっと、ジークに抱きつく。
「ジーク……、いなくなっちゃやだぁ……」
「泣くなよ! てか、泣くフリしながら、バンダナの中に鼻突っ込むな!」
「ジーク、いいにおい……」
「だあああっ!」
ジークは座っていた岩からガッツと立ち上がって、ブリーを振りほどく。
「だからアルファと組むのは嫌だったんだよ! こっちゃクソ不味い抑制剤飲んで、オメガ性隠して、フツーに仕事して独り立ちしたいの!」
「僕と番になれば、お薬飲まなくて済むよ? 噛んじゃう?」
「噛まないの! 話聞けぇ!」
「だって、ウィンウィンでいいことづくめだよ? ジークはお薬飲まなくて済むし、僕はごはんが食べられる」
「俺は女みたいに抱かれるのは嫌だちゅーの!」
「でも、らめぇって言ってた。らめぇってゆーのは、気持ちいー時って、キリィが言ってたよ?」
「気持ちよくても、されんのはヤなの!」
「むううう~、ジークの言ってるコト、むつかしくてわかんない!」
ブリーはふくれっ面のまま、元の場所に腰を下ろすと、まるでヤケ食いのようにカエルの足を掴むと、むしゃむしゃ食べ始めた。
§
微妙な空気のまま、二人は二日目の夜を過ごした。
ジークは念の為、保険として就寝前に、自分が持っていたオメガ用の抑制剤をブリーに飲ませ、一応、平和な夜を過ごすことが出来た。
「行ってきます」
会話がない状態で出された朝食を、ブリーはペロリと平らげて出かけて行く。
──参ったな……。
ブリーが出かけたあと、ジークは座り込んでため息を吐いた。
どう考えても、被害者はこちらで、言ってるコトもこちらのほうが正しい。
だが、あそこまでブリーが拒絶を示しては、ハーゲンを挟んだ魔法契約を結んでいたとしても、パーティー解消ができるかどうか不安しかなかった。
──俺がオメガってことは、ハーゲンにも言ってない……。
それは絶対の秘密で、一昨日の事故でブリーが知っている他は、教会の神父だけが知っている〝秘匿案件〟だ。
──だが、そこを言わなきゃ、俺がどうしてもパーティーを解消したり理由は通じないだろうし……。
──そもそも、あそこまで高位の強者が番たいと言ってるって話になったら、周りはむしろめっちゃ勧めてくるよなぁ……。
頭が痛すぎる。
──カエル、解体しよ……。
あまりに面倒過ぎて、脳が処理を放棄した。
ヌマガエルの毒腺は、錬金術の素材として高値で取引される。
アイテムボックスの容量が〝小さい〟と偽っているジークが、体長が二十センチ超えのカエルの本体を二百匹も持って帰ったら疑われてしまう。
──可食部の脚は、残しておくか……。
アイテムボックスは鮮度が保たれる。
ならば、ブリーが食べたい時に出して調理をしてやれば……と考えて、ジークはハッとなった。
──なんで、あいつに次回食わせること考えてんだよ!
ふるふると頭を振って、再び作業に集中しようと仕掛けた──。
その時。
ドオオオオオンッ!
と轟音が鳴り響き、地面が揺れた。
それは立っていられないほどの振動ではなかったが、確かに揺れを感じる程度に大きなものだ。
「なんだっ?」
キョロキョロと辺りを見回すが、そのあとは静かなもので、特になんの変化もない。
「な……なんだったんだ?」
驚きに、ジークは思わず自分の胸を抑え、深く息を吐いた。
「昨日の、レイドの時と味違ったけど、今朝もまた違う。なんで?」
「使ってるハーブは同じだが、具が違うからだろ。てか、こんな勢いでカリーばっかり食ってると、太るぞ?」
「太るのやだ」
「三杯も食ったら討伐したって、腹ごなしにもならないんじゃないのか?」
「むううう~」
──つっても、干し肉とハーブのサラサラえせカレーだから、それほどでもないけどな。
頬を膨らませながら、ブリーは皿をスッと差し出した。
「なんだよ?」
「おかわり」
「だから、食いすぎだっちゅーんだよ! てか、アスピドケロンの索敵するだけで、戦闘になるかどーかもワカランのだろうが!」
「むむむむむ~~~!」
ますます頬を膨らませて、ブリーは皿を引っ込める。
「じゃあ、行ってくる。ジークは危ないから、ここで待ってて」
「ああ。毒には気をつけろよ」
「僕、毒は効かないよ?」
「そうなの?」
「うん。状態異常無効、持ってる」
「あーあー、はいはい、一級様のチートの話はいいから」
「ちいと?」
ジークは手をパタパタと振った。
「じゃあ、ヌマガエルを捕まえる余裕があったら、獲ってきてくれ」
「カエル、食べるの?」
「食べたいのかよ?」
「キリィが、カエル美味しいって言ってた。でも、僕は自分でごはん作れないから、食べたことない」
「わかった。ほんとは毒腺がほしかっただけだが、獲ってきたら夕飯に焼いてやる」
「やった!」
ブリーは、スキップしながら野営地を出ていった。
§
夕刻、ブリーが再びスキップしながら帰ってきた。
が、出かけに持っていなかった、なにか大きなものを持っている。
「それ、なんだ?」
「ツボスイレン」
いや、返事が来る前から、それは分かっていた。
問題は、ツボスイレンがウツボカズラに似た袋状の茎を持った、巨大な食人植物であることだ。
「どうしたの、それ?」
「カエル持ってくるのに、袋欲しかった」
ジークは、眉間を抑えた。
ブリーがツボスイレンを逆さにすると、中からどっさり……小山になるほどのヌマガエルが出てくる。
「ツボスイレンって……、三級指定のモンスターだろ……?」
「ぶちってすれば、すぐおとなしくなるよ?」
「あ~、そうなの? おじさん、わかんないな」
思わず〝HAHAHA〟と肩を竦めたあとに、しゃがみ込む。
──この量のカエルを、解体すんのか、俺……。
中には、まだ辛うじて息のあるのもいるらしく、もぞもぞ動いている。
──とはいえ、こいつの食欲考えたら、食っちまうかもな……。
はあっと大きくため息を吐き、ジークはヌマガエルとツボスイレンを、とにかくアイテムボックスに放り込んだ。
§
結局、その二百は下らないカエルを、ジークは捌いて捌いて捌きまくった。
最初のうち「うわあ……」と思っていた感覚は、途中から完全に〝無〟だったが。
それでも食用部分である足だけに集中することで、夕食に塩を振った炙り焼きを提供することが出来た。
「バターでソテーしたほうが美味いらしいが、そんなもん持ってきてないしな」
「ジーク、アイテムボックスおっきいのに?」
「アイテムボックスがデカくても、バター買えるほど稼ぎがないの!」
もも肉にかぶりつき、脂でテカテカになった唇をペロペロ舐めながら、ブリーが首を傾げる。
「すっごいパーティーも、ジークに応援頼むって聞いた」
「でも単発バイトだから、恒久的な収入にゃならん。いざって時のために、金は大事にするにこしたこたぁねぇ」
「僕、バターで焼いたの食べたい」
「だから、バターはねぇちゅーの」
「街に帰ったら、焼いて?」
「街では宿に泊まるだろ? てか、じゃあ全部焼かなくていいのか?」
「うー、ジークに焼いて欲しい」
「勝手なコト言うなよ。俺はお試しの一ヶ月が終わったら、お別れ確定してるからな」
「なんでぇ!」
ブリーが叫んだ。
ジークは呆れた顔で、振り返る。
「昨日の夜みたいな事故を、いつ何時やらかされるかワカランのに、危なくて付き合いきれんわ!」
「ヤダヤダヤダ! ジークのごはん、食べる!」
「三歳児みたいなゴネかた、するんじゃねぇちゅーの!」
ブリーはジークの肩を掴むと、ガクガク揺する。
「もうしない! もうしないから! ごはん作って!」
「揺するな! 吐く!」
ブリーはギュウっと、ジークに抱きつく。
「ジーク……、いなくなっちゃやだぁ……」
「泣くなよ! てか、泣くフリしながら、バンダナの中に鼻突っ込むな!」
「ジーク、いいにおい……」
「だあああっ!」
ジークは座っていた岩からガッツと立ち上がって、ブリーを振りほどく。
「だからアルファと組むのは嫌だったんだよ! こっちゃクソ不味い抑制剤飲んで、オメガ性隠して、フツーに仕事して独り立ちしたいの!」
「僕と番になれば、お薬飲まなくて済むよ? 噛んじゃう?」
「噛まないの! 話聞けぇ!」
「だって、ウィンウィンでいいことづくめだよ? ジークはお薬飲まなくて済むし、僕はごはんが食べられる」
「俺は女みたいに抱かれるのは嫌だちゅーの!」
「でも、らめぇって言ってた。らめぇってゆーのは、気持ちいー時って、キリィが言ってたよ?」
「気持ちよくても、されんのはヤなの!」
「むううう~、ジークの言ってるコト、むつかしくてわかんない!」
ブリーはふくれっ面のまま、元の場所に腰を下ろすと、まるでヤケ食いのようにカエルの足を掴むと、むしゃむしゃ食べ始めた。
§
微妙な空気のまま、二人は二日目の夜を過ごした。
ジークは念の為、保険として就寝前に、自分が持っていたオメガ用の抑制剤をブリーに飲ませ、一応、平和な夜を過ごすことが出来た。
「行ってきます」
会話がない状態で出された朝食を、ブリーはペロリと平らげて出かけて行く。
──参ったな……。
ブリーが出かけたあと、ジークは座り込んでため息を吐いた。
どう考えても、被害者はこちらで、言ってるコトもこちらのほうが正しい。
だが、あそこまでブリーが拒絶を示しては、ハーゲンを挟んだ魔法契約を結んでいたとしても、パーティー解消ができるかどうか不安しかなかった。
──俺がオメガってことは、ハーゲンにも言ってない……。
それは絶対の秘密で、一昨日の事故でブリーが知っている他は、教会の神父だけが知っている〝秘匿案件〟だ。
──だが、そこを言わなきゃ、俺がどうしてもパーティーを解消したり理由は通じないだろうし……。
──そもそも、あそこまで高位の強者が番たいと言ってるって話になったら、周りはむしろめっちゃ勧めてくるよなぁ……。
頭が痛すぎる。
──カエル、解体しよ……。
あまりに面倒過ぎて、脳が処理を放棄した。
ヌマガエルの毒腺は、錬金術の素材として高値で取引される。
アイテムボックスの容量が〝小さい〟と偽っているジークが、体長が二十センチ超えのカエルの本体を二百匹も持って帰ったら疑われてしまう。
──可食部の脚は、残しておくか……。
アイテムボックスは鮮度が保たれる。
ならば、ブリーが食べたい時に出して調理をしてやれば……と考えて、ジークはハッとなった。
──なんで、あいつに次回食わせること考えてんだよ!
ふるふると頭を振って、再び作業に集中しようと仕掛けた──。
その時。
ドオオオオオンッ!
と轟音が鳴り響き、地面が揺れた。
それは立っていられないほどの振動ではなかったが、確かに揺れを感じる程度に大きなものだ。
「なんだっ?」
キョロキョロと辺りを見回すが、そのあとは静かなもので、特になんの変化もない。
「な……なんだったんだ?」
驚きに、ジークは思わず自分の胸を抑え、深く息を吐いた。
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