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◎
目覚めたランスは、伸びをしようとして……またしても身動きができなくなっていた。
「なんだ……?」
がっちりと、寝袋の上からユーリイに抱きしめられている。
「おい。…………おいっ!」
最初はやんわりと。
二度目はかなり力を込めて、背後の相手に肘を打つ。
「ん…………、あっ! ランスッ!」
目覚めだユーリイは、腕を解くどころかより強く抱きしめてくる。
「は~な~せぇ~~~!」
「目覚めないかと思いましたよ!」
グリグリと頭を擦り付けてくるユーリイは、ランスの背中に涙と鼻水も擦り付けてきた。
「よせっ! 俺の背中を湿らすな! 毒は問題ないと言っただろう!」
「でも、心配じまじだぁ~~」
途中から、もう泣くのを隠しもしない。
ため息を吐き、ランスは動きの悪い手で寝袋の紐を解いて、それからユーリイの腕を振りほどいた。
「子供じゃないんだ、泣くな!」
ばすんばすんと、やや乱暴にユーリイの頭を叩くように撫でて、テントから外に出る。
そしてようやく伸びをすると、高熱で一晩寝ていただけあって、節々が悲鳴を上げてベキバキと不穏な音を出す。
「本当にもう、大丈夫なんですか?」
「言っただろう。コカトリスの毒で、一度死にかけたことがあるって。逆にもうアレの毒ではめったに死なん。それより、そんなんで、あの場で毒腺の処理をちゃんとしてるんだろうな?」
「処理……というか、毒腺は切り落とした首側なので、首だけ別に保存しました」
「よし。じゃあ、身を出せ」
川辺に移動し、ユーリイがバッグからコカトリスの死体を取り出す。
ランスは切り落とされた首の様子を見て、毒腺が綺麗に取り除かれているのを確認してから、羽毛をむしった。
首から上にある毒腺さえ破れていなければ、コカトリスの肉は食用に出来る。
川で血抜きをし、表面の残った羽毛を炎の魔法で焼いて処理する。
小麦粉を水で溶き、フライパンで薄く焼く。
そこに少し辛味のある薬草の根、爽やかな香草、蔓になっていたサヤ入りの豆の若芽などと共に、コカトリスの腿肉を焚き火で炙ったものを巻き込む。
「ほい、朝飯」
「ありがとうございます」
熱々にかぶりつけば、腿肉の脂が口内に広がり、香草の香りと薬草の辛味が彩りを添える。
「おいしいです」
「そら、良かった」
コカトリスの解体も、野営地の後片付けも、ユーリイが食事をしてゆっくりと薬草茶のコーヒーを飲んでいる間に終わっていた。
ランス自身は、食事の支度をしながら適当に朝食を済ませていて、体調もさほどどうという様子もみせない。
「じゃあ、村に戻って討伐を報告して。それから辺境伯領に戻るか」
「そうですね」
村には、夕方までにたどり着いた。
◎
領都で冒険者ギルドに寄り、討伐報告をすると、ユーリイは辺境伯に呼び出された。
報奨が出るのだろう。
討伐報告をすれば、ランスの "指名依頼" も同時に終了する。
──やれやれ、なんとか無事に終わったな。
辺境伯領のギルドで報酬を受け取り、ランスは騎竜をギルドに預けて、自分は王都へ向かう乗り合い竜車のチケットを買った。
騎竜のほうが早いのは分かっているが、乗り合い竜車であれば眠っていられるし、そもそも騎竜を調達したのはユーリイであるから、乗っていっていいかどうかもわからなかったからだ。
行きは四日の行程は、帰りは一週間掛かった。
それでも王都の城門をくぐった時に、ランスの顔は晴れ晴れとしていた。
途中で盗賊が出ることもなく、竜車の旅は至って気楽だったからだ。
──今日はクエスト完了の報告だけして、食いっぱぐれたうさぎのシチューを食いに行こう。
馴染みの冒険者ギルドの建物が見えてきたところで、足取りも軽くなる。
だが、ギルドの扉を開いたランスは、次の瞬間、みぞおちに鋭い衝撃を感じていた。
「ぐはっ!」
「ランスさん! 僕を置いて先に帰っちゃうとか、ひどいじゃないですかっ!」
床に尻もちを付いたランスの上に、ユーリイが乗ってわんわん泣いている。
「よう、おかえり、ランス」
ユーリイの向こうに、げんなりした顔のジョナサンが立っていた。
◎
聞けば、ユーリイは四日前からこのギルドに踏ん張り、ランスの帰りを待っていた……という。
誰がどんなになだめすかそうと、絶対に動こうとしないユーリイにほとほと手を焼き、ジョナサンは体重が五キロも減ったとか。
「ちゅーわけで、こちらの一級冒険者様のご指名で、おまえはもうウチのギルド所属じゃなくなったから」
ギルド長の部屋に、ユーリイと二人、ほとんど "運び込まれ" たところで、ジョナサンが言った。
「はあっ? なんだそれ?」
「なんだもなにも、おまえは三日前からその一級冒険者様のパーティメンバーになってっから」
「本人の意志は?」
その問いに、ジョナサンは明後日の方へと目を逸らす。
隣のユーリイは、ニコニコしながらうんうん頷くだけだ。
「今回のクエスト、最高のコンビネーションだったじゃないですか。次は隣国でワイバーンの討伐指名依頼が来ています。あ、今回のコカトリス討伐で、辺境伯様からランスにも報奨とコカトリスハンターの称号が贈られました」
「ハンターの称号獲得で、おまえも二級に進級だ。良かったな」
「良くねえええええっ!」
ランスの叫びは、誰にも聞き入れてはもらえなかった。
終わり。
目覚めたランスは、伸びをしようとして……またしても身動きができなくなっていた。
「なんだ……?」
がっちりと、寝袋の上からユーリイに抱きしめられている。
「おい。…………おいっ!」
最初はやんわりと。
二度目はかなり力を込めて、背後の相手に肘を打つ。
「ん…………、あっ! ランスッ!」
目覚めだユーリイは、腕を解くどころかより強く抱きしめてくる。
「は~な~せぇ~~~!」
「目覚めないかと思いましたよ!」
グリグリと頭を擦り付けてくるユーリイは、ランスの背中に涙と鼻水も擦り付けてきた。
「よせっ! 俺の背中を湿らすな! 毒は問題ないと言っただろう!」
「でも、心配じまじだぁ~~」
途中から、もう泣くのを隠しもしない。
ため息を吐き、ランスは動きの悪い手で寝袋の紐を解いて、それからユーリイの腕を振りほどいた。
「子供じゃないんだ、泣くな!」
ばすんばすんと、やや乱暴にユーリイの頭を叩くように撫でて、テントから外に出る。
そしてようやく伸びをすると、高熱で一晩寝ていただけあって、節々が悲鳴を上げてベキバキと不穏な音を出す。
「本当にもう、大丈夫なんですか?」
「言っただろう。コカトリスの毒で、一度死にかけたことがあるって。逆にもうアレの毒ではめったに死なん。それより、そんなんで、あの場で毒腺の処理をちゃんとしてるんだろうな?」
「処理……というか、毒腺は切り落とした首側なので、首だけ別に保存しました」
「よし。じゃあ、身を出せ」
川辺に移動し、ユーリイがバッグからコカトリスの死体を取り出す。
ランスは切り落とされた首の様子を見て、毒腺が綺麗に取り除かれているのを確認してから、羽毛をむしった。
首から上にある毒腺さえ破れていなければ、コカトリスの肉は食用に出来る。
川で血抜きをし、表面の残った羽毛を炎の魔法で焼いて処理する。
小麦粉を水で溶き、フライパンで薄く焼く。
そこに少し辛味のある薬草の根、爽やかな香草、蔓になっていたサヤ入りの豆の若芽などと共に、コカトリスの腿肉を焚き火で炙ったものを巻き込む。
「ほい、朝飯」
「ありがとうございます」
熱々にかぶりつけば、腿肉の脂が口内に広がり、香草の香りと薬草の辛味が彩りを添える。
「おいしいです」
「そら、良かった」
コカトリスの解体も、野営地の後片付けも、ユーリイが食事をしてゆっくりと薬草茶のコーヒーを飲んでいる間に終わっていた。
ランス自身は、食事の支度をしながら適当に朝食を済ませていて、体調もさほどどうという様子もみせない。
「じゃあ、村に戻って討伐を報告して。それから辺境伯領に戻るか」
「そうですね」
村には、夕方までにたどり着いた。
◎
領都で冒険者ギルドに寄り、討伐報告をすると、ユーリイは辺境伯に呼び出された。
報奨が出るのだろう。
討伐報告をすれば、ランスの "指名依頼" も同時に終了する。
──やれやれ、なんとか無事に終わったな。
辺境伯領のギルドで報酬を受け取り、ランスは騎竜をギルドに預けて、自分は王都へ向かう乗り合い竜車のチケットを買った。
騎竜のほうが早いのは分かっているが、乗り合い竜車であれば眠っていられるし、そもそも騎竜を調達したのはユーリイであるから、乗っていっていいかどうかもわからなかったからだ。
行きは四日の行程は、帰りは一週間掛かった。
それでも王都の城門をくぐった時に、ランスの顔は晴れ晴れとしていた。
途中で盗賊が出ることもなく、竜車の旅は至って気楽だったからだ。
──今日はクエスト完了の報告だけして、食いっぱぐれたうさぎのシチューを食いに行こう。
馴染みの冒険者ギルドの建物が見えてきたところで、足取りも軽くなる。
だが、ギルドの扉を開いたランスは、次の瞬間、みぞおちに鋭い衝撃を感じていた。
「ぐはっ!」
「ランスさん! 僕を置いて先に帰っちゃうとか、ひどいじゃないですかっ!」
床に尻もちを付いたランスの上に、ユーリイが乗ってわんわん泣いている。
「よう、おかえり、ランス」
ユーリイの向こうに、げんなりした顔のジョナサンが立っていた。
◎
聞けば、ユーリイは四日前からこのギルドに踏ん張り、ランスの帰りを待っていた……という。
誰がどんなになだめすかそうと、絶対に動こうとしないユーリイにほとほと手を焼き、ジョナサンは体重が五キロも減ったとか。
「ちゅーわけで、こちらの一級冒険者様のご指名で、おまえはもうウチのギルド所属じゃなくなったから」
ギルド長の部屋に、ユーリイと二人、ほとんど "運び込まれ" たところで、ジョナサンが言った。
「はあっ? なんだそれ?」
「なんだもなにも、おまえは三日前からその一級冒険者様のパーティメンバーになってっから」
「本人の意志は?」
その問いに、ジョナサンは明後日の方へと目を逸らす。
隣のユーリイは、ニコニコしながらうんうん頷くだけだ。
「今回のクエスト、最高のコンビネーションだったじゃないですか。次は隣国でワイバーンの討伐指名依頼が来ています。あ、今回のコカトリス討伐で、辺境伯様からランスにも報奨とコカトリスハンターの称号が贈られました」
「ハンターの称号獲得で、おまえも二級に進級だ。良かったな」
「良くねえええええっ!」
ランスの叫びは、誰にも聞き入れてはもらえなかった。
終わり。
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