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第19話
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「ハルカ」
打ち上げがお開きになったところで、予想通りに椿が俺に声をかけてきた。
宴席で椿はほとんどアルコールを摂取せず、しっかりした目つきと口調で俺に声を掛けたのだ。
オマケに妙にご機嫌な様子なのも、いつになく違和感をもたせる。
「なんですか?」
「オマエ、この後二次会行くの?」
「何故ですか?」
「ちょっと、顔貸して欲しいから」
俺が巧みに青山氏や広尾氏のバリゲードの向こう側に隠れている事に気付いたらしい椿は、それらのフォローが入らないタイミングをしっかり掴んできている。
「………いいですよ」
一瞬答えに迷ったフリをしてから、俺は椿の招きに応じた。
招かれるまま、ホテルの高層階にある椿の部屋までついて行く。
入り口のノブには、日中にベッドメイキングや清掃に入らないで欲しい旨を伝える提げ札がぶら下がっていた。
部屋に入ると室内灯は点けっぱなしになっていて、夜景の見えるロケーションはさすがスイートルームと言う感じがするが。
もっとも折角のスイートも、ここまで所狭しと物が散らかされてしまっては形無しといった感じだ。
豪華なソファセットのローテーブルの上には、雑多な物に紛れて最近雑貨店でよく見かけるアロマ用の香炉が置かれているが、そこで焚かれた物はどう見ても香と呼べるような物じゃなさそうだ。
「帰ったぜ」
椿は上着をソファの上に投げ出すと、部屋の奥まで進んでベッドサイドに歩み寄り、ベッドの上に向かって声をかける。
乱れたシーツの上には、両手をベッドサイドに拘束された姿の柊一が横たわっていた。
早々に予定通りの展開で、さすがに多聞氏は椿との付き合いが長いだけの事はあると、心の中で感心してしまった。
どうやら今日は頬を酷く叩かれたらしく、仰向けになった柊一の顔は腫れ上がっている。
俺に見せつけるようにして、椿は柊一の身体を覆っていた掛け布をめくり柊一の裸体をさらけ出させた。
多聞氏の話から大体の想像はしていたが、それにしても酷い陵辱の痕が白い肌に生々しい。
「なんだよ、驚かないのな?」
「いえ、驚いてますよ。すごく」
俺の様子に椿はつまらなそうに口唇を尖らせただけだったが、その場に椿以外の誰かがいるなんて想像もしていなかったに違いない柊一は、ギョッとしたようにこちらに顔を向けた。
そこに立っているのが俺だと解った瞬間の柊一の表情は、悲惨そのものというか…。
驚愕と困惑、それから羞恥。
なにかを言いかけて開いた口唇は、微かに震えただけで結局何も言わずに閉じられる。
そりゃそうだろう。
確かに俺は柊一と私的に特別な接触を図ってはいるが、それは基本的に「同意」の元に行われている訳ではない。
同意…という言い方をするなら、まぁ、最低限の同意は得ているのかもしれないし、柊一が俺を拒めない理由がそこにはある訳だけれど、前提として俺と柊一の関係は強請る者と強請られる者でしかない。
甘やかな恋人同士とか、互いに憎からず想い合っている仲…とかいうモノではないから、柊一の貞操に関して俺がなにかを言及する権利はないし、柊一もまたその事を俺に言い訳したりする必要もない訳だ。
しかし、時に俺との関係を忘れかけて、俺に好意を持ちかけていた柊一にとって、自分のそんな姿を曝される事は恥辱以外のなにものでもないだろう。
だから一瞬、柊一は俺に向かって言い訳めいた何かを言いかけたのだろうが。
言葉にしようとして、そこに存在する違和感に気付き、何も言えないまま黙った…と解釈するのが妥当な線だ。
もし俺が、多聞氏の忠告を受けていなかったら、ココで柊一に目配せの一つもしたかもしれないが。
先に警告をされていた俺は、そこで俺の様子をジッと見つめている椿の隙のない目線が、一瞬の目配せも見逃さない注意深さで向けられている事に気付いていた。
「オマエさぁ、シューイチのカレシなんだって?」
「そんなワケ無いでしょう?」
「なんだよ、違うの?」
「柊一サンにお聞きになったんじゃないんですか?」
椿はニイッと笑うとベッドサイドから離れて、広いソファに乱暴な仕種で腰を降ろした。
「オマエも座れば?」
「それじゃあ、失礼して」
「なんだよ、俺はてっきりハルカがアイツとデキてるんだと思ってたのに!」
「俺はお二人の秘密を偶然知ったので、ちょっとばかりワルイ火遊びがしたくなっただけです。東雲サンだって、そういう気分解るでしょう?」
テーブルの上に置かれた香炉に目線を投げると、椿はふうんと頷いてみせる。
「なぁんだ、残念だなぁ! おい、柊一! ハルカはオマエに気はねェとさ!」
「…だから……そうだと言っただろ…」
ベッドの上の柊一は、掠れた声で反論した。
「じゃあ、アレか? やっぱ中野に散々可愛がられた所為で、男無しにはいられない身体になったってか?」
ギャハハと下品に笑いながら、椿は揶揄するように柊一をなじったが。
柊一のあの様子では、声に出して返事をするのも既にかなり億劫に違いない。
案の定、返事はなかった。
「中野サンって、俺の前にいたサポートのヒトの?」
「面白いヤツだったよ。ただちょっと調子に乗りすぎたンだよな、アイツは」
「北沢サンのお相手を?」
「お相手っつーか。中野と俺が…オマエが言うところの火遊びをしていたら、部屋に入ってきたんだよ、柊一が。入ってくるなって、先に言ってあったのによ。もっとも柊一は元々躾のなってないヤツだから、言っても解ンねェんだけどな。だからって、そのまんまにしておいたら示しがつかねェじゃん? でも俺は折角イイ気分で飛んでる最中だったから、中野に言って代わりに躾をさせたのさ」
「セックスで躾してるんですか?」
俺の問いに、椿はさも可笑しいと言った顔で笑った。
「俺はしねェよ! 当たり前だろ? テメェと同じ顔したオトコ抱くほど困ってねェし、そこまでナルシストにゃなれねェぜ! オマケにアイツには、セックスの躾は向かねェよ。イヤだのなんだの言ったところで、結局最後は腰振って楽しんでるンだ。意味ねェな」
柊一に聞こえよがしに揶揄する辺り、椿の執着が見え隠れする。
「あげくに中野の莫迦は調子に乗って、寄越せとか言い出しやがってよ。よっぽど具合がイイらしいな、柊一のアソコは?」
「さぁ? セックスなんて所詮は嗜好ですからねェ。俺がヨクても東雲サンも気に入るとは限らないでしょ?」
「スカしたコト言うじゃんか。さすがに中野と違って、皆の評価が高いだけあるな、ハルカは」
「褒め言葉に受け取っておきますよ」
「ああ、褒めてンだよ。中野は俺を強請るような莫迦なマネしたからな。寄越さないなら柊一の存在を世間にばらす…とか、寝ぼけたコトまで言ってたぜ。もっとも世間に重大発表する前に、エスのやりすぎであの世にイッちまったけどさ。ワルイコトは出来ねェな! 天罰テキメンだ」
ニヤッと笑った悪魔的な表情の中に、怖ろしいまでの悪意を含んだ殺意が滲んでいる。
「俺みたいな小心者には、とんでもなくコワイ話ですねェ」
俺の答えに、椿は目を細めて不機嫌そうな顔をしてみせる。
打ち上げがお開きになったところで、予想通りに椿が俺に声をかけてきた。
宴席で椿はほとんどアルコールを摂取せず、しっかりした目つきと口調で俺に声を掛けたのだ。
オマケに妙にご機嫌な様子なのも、いつになく違和感をもたせる。
「なんですか?」
「オマエ、この後二次会行くの?」
「何故ですか?」
「ちょっと、顔貸して欲しいから」
俺が巧みに青山氏や広尾氏のバリゲードの向こう側に隠れている事に気付いたらしい椿は、それらのフォローが入らないタイミングをしっかり掴んできている。
「………いいですよ」
一瞬答えに迷ったフリをしてから、俺は椿の招きに応じた。
招かれるまま、ホテルの高層階にある椿の部屋までついて行く。
入り口のノブには、日中にベッドメイキングや清掃に入らないで欲しい旨を伝える提げ札がぶら下がっていた。
部屋に入ると室内灯は点けっぱなしになっていて、夜景の見えるロケーションはさすがスイートルームと言う感じがするが。
もっとも折角のスイートも、ここまで所狭しと物が散らかされてしまっては形無しといった感じだ。
豪華なソファセットのローテーブルの上には、雑多な物に紛れて最近雑貨店でよく見かけるアロマ用の香炉が置かれているが、そこで焚かれた物はどう見ても香と呼べるような物じゃなさそうだ。
「帰ったぜ」
椿は上着をソファの上に投げ出すと、部屋の奥まで進んでベッドサイドに歩み寄り、ベッドの上に向かって声をかける。
乱れたシーツの上には、両手をベッドサイドに拘束された姿の柊一が横たわっていた。
早々に予定通りの展開で、さすがに多聞氏は椿との付き合いが長いだけの事はあると、心の中で感心してしまった。
どうやら今日は頬を酷く叩かれたらしく、仰向けになった柊一の顔は腫れ上がっている。
俺に見せつけるようにして、椿は柊一の身体を覆っていた掛け布をめくり柊一の裸体をさらけ出させた。
多聞氏の話から大体の想像はしていたが、それにしても酷い陵辱の痕が白い肌に生々しい。
「なんだよ、驚かないのな?」
「いえ、驚いてますよ。すごく」
俺の様子に椿はつまらなそうに口唇を尖らせただけだったが、その場に椿以外の誰かがいるなんて想像もしていなかったに違いない柊一は、ギョッとしたようにこちらに顔を向けた。
そこに立っているのが俺だと解った瞬間の柊一の表情は、悲惨そのものというか…。
驚愕と困惑、それから羞恥。
なにかを言いかけて開いた口唇は、微かに震えただけで結局何も言わずに閉じられる。
そりゃそうだろう。
確かに俺は柊一と私的に特別な接触を図ってはいるが、それは基本的に「同意」の元に行われている訳ではない。
同意…という言い方をするなら、まぁ、最低限の同意は得ているのかもしれないし、柊一が俺を拒めない理由がそこにはある訳だけれど、前提として俺と柊一の関係は強請る者と強請られる者でしかない。
甘やかな恋人同士とか、互いに憎からず想い合っている仲…とかいうモノではないから、柊一の貞操に関して俺がなにかを言及する権利はないし、柊一もまたその事を俺に言い訳したりする必要もない訳だ。
しかし、時に俺との関係を忘れかけて、俺に好意を持ちかけていた柊一にとって、自分のそんな姿を曝される事は恥辱以外のなにものでもないだろう。
だから一瞬、柊一は俺に向かって言い訳めいた何かを言いかけたのだろうが。
言葉にしようとして、そこに存在する違和感に気付き、何も言えないまま黙った…と解釈するのが妥当な線だ。
もし俺が、多聞氏の忠告を受けていなかったら、ココで柊一に目配せの一つもしたかもしれないが。
先に警告をされていた俺は、そこで俺の様子をジッと見つめている椿の隙のない目線が、一瞬の目配せも見逃さない注意深さで向けられている事に気付いていた。
「オマエさぁ、シューイチのカレシなんだって?」
「そんなワケ無いでしょう?」
「なんだよ、違うの?」
「柊一サンにお聞きになったんじゃないんですか?」
椿はニイッと笑うとベッドサイドから離れて、広いソファに乱暴な仕種で腰を降ろした。
「オマエも座れば?」
「それじゃあ、失礼して」
「なんだよ、俺はてっきりハルカがアイツとデキてるんだと思ってたのに!」
「俺はお二人の秘密を偶然知ったので、ちょっとばかりワルイ火遊びがしたくなっただけです。東雲サンだって、そういう気分解るでしょう?」
テーブルの上に置かれた香炉に目線を投げると、椿はふうんと頷いてみせる。
「なぁんだ、残念だなぁ! おい、柊一! ハルカはオマエに気はねェとさ!」
「…だから……そうだと言っただろ…」
ベッドの上の柊一は、掠れた声で反論した。
「じゃあ、アレか? やっぱ中野に散々可愛がられた所為で、男無しにはいられない身体になったってか?」
ギャハハと下品に笑いながら、椿は揶揄するように柊一をなじったが。
柊一のあの様子では、声に出して返事をするのも既にかなり億劫に違いない。
案の定、返事はなかった。
「中野サンって、俺の前にいたサポートのヒトの?」
「面白いヤツだったよ。ただちょっと調子に乗りすぎたンだよな、アイツは」
「北沢サンのお相手を?」
「お相手っつーか。中野と俺が…オマエが言うところの火遊びをしていたら、部屋に入ってきたんだよ、柊一が。入ってくるなって、先に言ってあったのによ。もっとも柊一は元々躾のなってないヤツだから、言っても解ンねェんだけどな。だからって、そのまんまにしておいたら示しがつかねェじゃん? でも俺は折角イイ気分で飛んでる最中だったから、中野に言って代わりに躾をさせたのさ」
「セックスで躾してるんですか?」
俺の問いに、椿はさも可笑しいと言った顔で笑った。
「俺はしねェよ! 当たり前だろ? テメェと同じ顔したオトコ抱くほど困ってねェし、そこまでナルシストにゃなれねェぜ! オマケにアイツには、セックスの躾は向かねェよ。イヤだのなんだの言ったところで、結局最後は腰振って楽しんでるンだ。意味ねェな」
柊一に聞こえよがしに揶揄する辺り、椿の執着が見え隠れする。
「あげくに中野の莫迦は調子に乗って、寄越せとか言い出しやがってよ。よっぽど具合がイイらしいな、柊一のアソコは?」
「さぁ? セックスなんて所詮は嗜好ですからねェ。俺がヨクても東雲サンも気に入るとは限らないでしょ?」
「スカしたコト言うじゃんか。さすがに中野と違って、皆の評価が高いだけあるな、ハルカは」
「褒め言葉に受け取っておきますよ」
「ああ、褒めてンだよ。中野は俺を強請るような莫迦なマネしたからな。寄越さないなら柊一の存在を世間にばらす…とか、寝ぼけたコトまで言ってたぜ。もっとも世間に重大発表する前に、エスのやりすぎであの世にイッちまったけどさ。ワルイコトは出来ねェな! 天罰テキメンだ」
ニヤッと笑った悪魔的な表情の中に、怖ろしいまでの悪意を含んだ殺意が滲んでいる。
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