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第一部:アレックス

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 駐車場に停めてあるアレックスの車は、趣味のいいスポーツクーペだった。

「綺麗な車だな」
「大した物じゃない。本当は特注のボディカラーが良かったんだが、なにせ懐が寂しいんでね」

 助手席の扉を開けてやると、ロイはストンとそこに納まった。

「チャイルドシートはないのか?」
「キミの方がよっぽど嫌みだね。セダンならともかく、クーペにチャイルドシートを乗せてる莫迦がどこにいるんだい?」
「子供を乗せる、予定は無いって?」
「キミくらいの身長があれば、もうチャイルドシートは必要ないでしょ」

 車を降りるようなポーズをとるロイを、アレックスは窘めるような口調で引き留める。

「…アンタ、なかなか面白いね」

 クスッと笑って、ロイはシートに背中を預けた。

「うん、アンタすごく面白いよ。気に入ったから、今夜は送らせてあげる」
「どういう意味?」
「つまらなかったらパーティーに戻ろうと思ってたのさ。我慢をしてまでつきあわなきゃならないようなヤツと、わざわざボスの機嫌を損ねてまで一緒にいかなきゃならない理由はないでしょ?」
「機嫌を、損ねたのかい? 私の所為?」
「うん、まぁそうなるかな。でもオレがいなくなれば機嫌が悪くなるんだよ。全部アンタの所為って訳でもない」
「大丈夫なの?」
「マリリンがなんとかしてくれるでしょ。いつもそうだから」
「やれやれ、キミはなかなか大したモンだ。出遅れた男としては、頭が下がるばっかりだね」

 アレックスが溜息と共にエンジンをかけると、少年はさも楽しいといいたげに笑ってみせる。

「ところで、何処が良い? 食事をするのに、良い店を知っているかい?」
「食事はあんまり。パーティで割とちゃんと食べたから」
「じゃあ、どうする?」
「そうだなぁ。本当は飲みに行きたいケド…」
「おいおい、そいつは勘弁してくれ。キミを連れてこの時間にバーに入るのは、至難の業だぞ?」
「だろうね」

 しれっと答えるロイに、アレックスは無言で視線をあてた。

「…解ったよ。マジメに考えます」
「それじゃあ、どちらへ?」

 ロイは暫く考えてから、ピッと人差し指を立てた。

「帰る。マンションまで、送って」
「ちょっと待ってくれ。それって随分と薄情なセリフじゃないかい?」
「どうして?」
「確かに私は、好きでキミを連れだしたけど、一体どうしてそんな事をしたのか、下心が解ってない訳じゃないんだろう?」
「じゃあ、ホテルにでも行く?」
「キミを抱く趣味は無いよ」

 アレックスの返事に、ロイは奇妙な笑みを見せた。

「解ってる。…大丈夫、アンタの事は気に入ったからね、任してくれて良いよ。ちゃんと仕事を回してあげる。ただしオレは普通の幹部と違って、そうそう仕事に口は挟めないからスグにって訳にはいかないよ。待たせる分、大きな獲物を期待してくれて構わないケド」
「頼りになるね。それじゃあ、王子サマをお城までお連れしましょう」

 エンジンをかけて、アレックスは車を発進させた。
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