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第四部:ビリー
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表通りに出ると、ロイは自然に車道側を歩く。流れる人並みで、どんなに焦った人間が走って来ようと、彼女にぶつかる事はない。
「アンタ、ホントにスカしたキザ野郎だね」
「それって、もしかして褒めてるの?」
口元に笑みを浮かべてはいるが、ロイは少し困った顔をしているようだった。彼女は自分の言葉がそんなにおかしいものだったのかと思い、少し考える。
「スゴイ褒め言葉のつもりだけど、ダメかい?」
「普通はあんまり、そうは受け取らないんじゃないの?」
「だって、アンタにはそうって解ったんだろ?」
「そうだね。十代の女の子が無理に年上に見せる為に、知ってる限りの乱暴な言葉で喋るのを、ずいぶん見てるから」
「あ、あたいはもう成人してるよ!」
焦る彼女にロイは静かな視線を投げかける。
「背伸びをしたって良い事なんかなんにもないよ。疲れて、そのうち健がツッちゃうだけさ」
「なんだい、大人ぶって。アンタホントに、幾つなんだよ」
「年なんてね、実際あんまり関係無いのさ。必要なのは、何回反省するかってコト。ま、そんなコト、人に言われてどうこうできるモンじゃないからね。…何処まで送ってけば良いのかな?」
ロイの態度に、彼女は怪訝な顔をした。
そうやってこちらの年を見抜き、人生どうこうの話を始める人間は、たいていもっと年輩で、しかもその話をクドクドといつまでもし続けるものだと思っていた。
「ニューシティーホテルに泊まってるんだよ」
「じゃ、すぐそこだね」
先を歩く男は、それ以上『人生』について語るつもりはなさそうだ。
「アンタ、どうしたあたいが十代だと思うのさ」
「そんなの、一目見れば解るでしょ。十代と二十代じゃ、肌のハリが違うし。そんな娼婦みたいな化粧をするのは、化粧を知らないからでしょ?」
「娼婦!? アンタもあいつらと同じように、あたいを見てるのかい!?」
「ホントの娼婦はそんな化粧しないよ。もっと上手。そういう化粧を世間じゃそう言うけど、彼女達に対して失礼だと僕は思うね」
彼女は、だんだん頭の中が混乱してきた。目の前にいる男の容貌と、彼の返す言葉の内容が、イメージ的に一致しないからだ。
「アンタ、なんかジジイみたいだね」
言ってから、彼女はしまったと思う。普通は「ジジイ」呼ばわりされて、喜ぶ者はいないからだ。
「アッハハ…、そりゃいいや! 確かにジジイかもね」
ケラケラと笑った後に振り向いたロイは、今までの装うようなものではない、ずいぶんと優しい笑みを浮かべていた。
「なかなか良いよ、それ。気に入ったな」
「変な男」
「そうだね、ちょっと変だよ。人に迷惑のかからないタイプの変だけどね」
口元に浮かべた笑みに、彼女は目を瞬かせる。一瞬かいま見た男の素顔が、妙に印象に残った。
「ほら、ホテルが見えたよ」
「あ、ありがと」
ホテルの手前でロイが立ち止まる。ホテルに向かいかけ、彼女は振り返った。
「あたい、この街に来たばっかりで、右も左も良くわかんないんだけど、今度教えてくれないかな?」
「そうだね。キミと話すのは嫌いじゃないから、会っても良いよ。ただ、今度はスッピンが良いな。僕ロリコンだから」
平然と答えたロイに、彼女は吹き出した。
「OK。今度アンタに会う時はノーメイクにするよ。電話番号と、名前、教えて」
ロイはポケットに手を入れると、小さな名刺を取り出した。
「キミの名前は?」
「あたいはリンダ。へえ、ルポライターなの?」
「肩書きだけね。ホントはプー太郎」
「アンタ、ホントに変わってる。じゃあね、ありがと」
ホテルに消えたリンダの背中に手を振り、ロイは少し楽しそうに笑った。
「アンタ、ホントにスカしたキザ野郎だね」
「それって、もしかして褒めてるの?」
口元に笑みを浮かべてはいるが、ロイは少し困った顔をしているようだった。彼女は自分の言葉がそんなにおかしいものだったのかと思い、少し考える。
「スゴイ褒め言葉のつもりだけど、ダメかい?」
「普通はあんまり、そうは受け取らないんじゃないの?」
「だって、アンタにはそうって解ったんだろ?」
「そうだね。十代の女の子が無理に年上に見せる為に、知ってる限りの乱暴な言葉で喋るのを、ずいぶん見てるから」
「あ、あたいはもう成人してるよ!」
焦る彼女にロイは静かな視線を投げかける。
「背伸びをしたって良い事なんかなんにもないよ。疲れて、そのうち健がツッちゃうだけさ」
「なんだい、大人ぶって。アンタホントに、幾つなんだよ」
「年なんてね、実際あんまり関係無いのさ。必要なのは、何回反省するかってコト。ま、そんなコト、人に言われてどうこうできるモンじゃないからね。…何処まで送ってけば良いのかな?」
ロイの態度に、彼女は怪訝な顔をした。
そうやってこちらの年を見抜き、人生どうこうの話を始める人間は、たいていもっと年輩で、しかもその話をクドクドといつまでもし続けるものだと思っていた。
「ニューシティーホテルに泊まってるんだよ」
「じゃ、すぐそこだね」
先を歩く男は、それ以上『人生』について語るつもりはなさそうだ。
「アンタ、どうしたあたいが十代だと思うのさ」
「そんなの、一目見れば解るでしょ。十代と二十代じゃ、肌のハリが違うし。そんな娼婦みたいな化粧をするのは、化粧を知らないからでしょ?」
「娼婦!? アンタもあいつらと同じように、あたいを見てるのかい!?」
「ホントの娼婦はそんな化粧しないよ。もっと上手。そういう化粧を世間じゃそう言うけど、彼女達に対して失礼だと僕は思うね」
彼女は、だんだん頭の中が混乱してきた。目の前にいる男の容貌と、彼の返す言葉の内容が、イメージ的に一致しないからだ。
「アンタ、なんかジジイみたいだね」
言ってから、彼女はしまったと思う。普通は「ジジイ」呼ばわりされて、喜ぶ者はいないからだ。
「アッハハ…、そりゃいいや! 確かにジジイかもね」
ケラケラと笑った後に振り向いたロイは、今までの装うようなものではない、ずいぶんと優しい笑みを浮かべていた。
「なかなか良いよ、それ。気に入ったな」
「変な男」
「そうだね、ちょっと変だよ。人に迷惑のかからないタイプの変だけどね」
口元に浮かべた笑みに、彼女は目を瞬かせる。一瞬かいま見た男の素顔が、妙に印象に残った。
「ほら、ホテルが見えたよ」
「あ、ありがと」
ホテルの手前でロイが立ち止まる。ホテルに向かいかけ、彼女は振り返った。
「あたい、この街に来たばっかりで、右も左も良くわかんないんだけど、今度教えてくれないかな?」
「そうだね。キミと話すのは嫌いじゃないから、会っても良いよ。ただ、今度はスッピンが良いな。僕ロリコンだから」
平然と答えたロイに、彼女は吹き出した。
「OK。今度アンタに会う時はノーメイクにするよ。電話番号と、名前、教えて」
ロイはポケットに手を入れると、小さな名刺を取り出した。
「キミの名前は?」
「あたいはリンダ。へえ、ルポライターなの?」
「肩書きだけね。ホントはプー太郎」
「アンタ、ホントに変わってる。じゃあね、ありがと」
ホテルに消えたリンダの背中に手を振り、ロイは少し楽しそうに笑った。
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