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第五部:ロイ
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ウィリアムと二人、出口の側のベンチに腰を降ろしていたエリザベスは、怪訝な顔でウィリアムを見上げた。
「ビリーさん、どうかしたの?」
「えっ? …あ、いやぁ…」
ギクリとなった後でこちらを向いたウィリアムの表情は、どこかぎこちない笑みを浮かべている。
「ビリーさん?」
「いえ別に、なんでもないです」
答えて、ウィリアムは再び先刻と同じ方を向いた。
今、ミラーハウスから出てきた男の顔には、どこか見覚えがあるような気がしたのだが、それが誰であったかが思い出せないのだ。
「ビリーさん、リンダがいたの?」
「えっ、…いや、そういう訳じゃないんですケド…」
連れがいなくなった、という逼迫した現状を忘れかけていた事を隠すように、ウィリアムは慌ててエリザベスの方に向き直る。
「いたらいいなって、思っただけですよ」
「そうね。…私の早とちりだったらいいんだけど…」
思い詰めたような溜息を零すエリザベスの様子を見て、自身の不謹慎さに苛立ちを覚えながらも、なぜか先刻の男の顔が気になってしまうウィリアムだった。
先程と同じ、扉を選択する方式の暗い廊下をくぐり抜けると、やはり先程と同じように明るい鏡の部屋に出る。
「困ったな…」
後ろを振り返り、ロイは再び眉をひそめた。
ロイは、このアトラクションを「鏡を使った、ホラーハウス」だと思っていた。
しかし、実際は「鏡を使ってオカルト感覚を盛り込んだ、屋根のついてる巨大な迷路」だったのである。
どの扉を選択したとしても、必ず出口にはたどりつける。という点から見ると、迷路という言葉は少し外れてしまうが、出口を見つけるまでに掛かる所要時間は個人差が出てくる物と思われる。
入り口から出口に至るまでのルートは、たぶんひとつではない。
鏡張りの部屋だとて、一体いくつ設置されているのかも判らないときている。
「先に係員に頼んだ方が、良かったのかも」
短く溜息をついて、ロイは鏡に映る自身に目をやった。
たぶん現在、自分はリンダとエリザベスが通った道とは違う、新たなコースを歩いていると思った方が懸命だろう。
そうなると、例えリンダがこのアトラクションの中に取り残されていたとしても、巡り会う確率はほぼゼロに近いと言う事になる。
しかも、戻る事はもちろん、急に止めて出る事も不可能なこの状態では、外のウィリアムに連絡を取る事も出来ない。
「とにかく、早く出るしかないって事か…」
扉が開くのを待って、ロイは再び歩き出した。
エリザベスは、左手に填めている腕時計に目線を落とした。
「…遅いですね、ロイ」
隣に座るウィリアムの声に、エリザベスはハッと顔を上げる。
「うん、私もそう思っていたの。…ロイ、リンダを見つけてくれるかしら…」
「きっと、見つけますよ。カンがいいんでしょ? ロイは」
ニッと笑ったウィリアムの言葉に、エリザベスは顔を上げた。
「ええ、そうね。ロイは、カンがいいものね」
頷いて、エリザベスは目線をミラーハウスへと向けた。
「あっ!」
不意に声を上げて立ち上がったウィリアムに、エリザベスは何事かと辺りを見回す。
「ビリーさん、どうしたの?」
「アイツ、思いだしたっ!」
戸惑うエリザベスに振り返ったウィリアムは、ひどく真剣な、まるで勤務中に張り込みでもしている時と同じ顔をしていた。
「リズさん、俺、ミラーハウスん中に行ってきますっ」
「えぇっ?」
そのまま歩き出そうとするウィリアムに、エリザベスは慌ててベンチから立ち上がると腕をとった。
「一体、どうしたの? だってロイは、ここで待っていろって言っていたじゃない」
「急いで、ロイに伝えなきゃならない事が出来たんです」
「でも、ロイは中に入ってずいぶん経つわ。追いかけるくらいなら、待っていた方が早いわよ」
「大丈夫。出口から入れば、追いつく必要はなくなるでしょう」
ウィリアムはポケットからバッチを取り出して、エリザベスにウィンクしてみせる。
「でも…」
「すいません。リズさんはここで待っていて下さいね」
エリザベスの肩に手をかけベンチにもう一度座らせると、ウィリアムは早足で出口の係員の所に向かった。
「ビリーさん、どうかしたの?」
「えっ? …あ、いやぁ…」
ギクリとなった後でこちらを向いたウィリアムの表情は、どこかぎこちない笑みを浮かべている。
「ビリーさん?」
「いえ別に、なんでもないです」
答えて、ウィリアムは再び先刻と同じ方を向いた。
今、ミラーハウスから出てきた男の顔には、どこか見覚えがあるような気がしたのだが、それが誰であったかが思い出せないのだ。
「ビリーさん、リンダがいたの?」
「えっ、…いや、そういう訳じゃないんですケド…」
連れがいなくなった、という逼迫した現状を忘れかけていた事を隠すように、ウィリアムは慌ててエリザベスの方に向き直る。
「いたらいいなって、思っただけですよ」
「そうね。…私の早とちりだったらいいんだけど…」
思い詰めたような溜息を零すエリザベスの様子を見て、自身の不謹慎さに苛立ちを覚えながらも、なぜか先刻の男の顔が気になってしまうウィリアムだった。
先程と同じ、扉を選択する方式の暗い廊下をくぐり抜けると、やはり先程と同じように明るい鏡の部屋に出る。
「困ったな…」
後ろを振り返り、ロイは再び眉をひそめた。
ロイは、このアトラクションを「鏡を使った、ホラーハウス」だと思っていた。
しかし、実際は「鏡を使ってオカルト感覚を盛り込んだ、屋根のついてる巨大な迷路」だったのである。
どの扉を選択したとしても、必ず出口にはたどりつける。という点から見ると、迷路という言葉は少し外れてしまうが、出口を見つけるまでに掛かる所要時間は個人差が出てくる物と思われる。
入り口から出口に至るまでのルートは、たぶんひとつではない。
鏡張りの部屋だとて、一体いくつ設置されているのかも判らないときている。
「先に係員に頼んだ方が、良かったのかも」
短く溜息をついて、ロイは鏡に映る自身に目をやった。
たぶん現在、自分はリンダとエリザベスが通った道とは違う、新たなコースを歩いていると思った方が懸命だろう。
そうなると、例えリンダがこのアトラクションの中に取り残されていたとしても、巡り会う確率はほぼゼロに近いと言う事になる。
しかも、戻る事はもちろん、急に止めて出る事も不可能なこの状態では、外のウィリアムに連絡を取る事も出来ない。
「とにかく、早く出るしかないって事か…」
扉が開くのを待って、ロイは再び歩き出した。
エリザベスは、左手に填めている腕時計に目線を落とした。
「…遅いですね、ロイ」
隣に座るウィリアムの声に、エリザベスはハッと顔を上げる。
「うん、私もそう思っていたの。…ロイ、リンダを見つけてくれるかしら…」
「きっと、見つけますよ。カンがいいんでしょ? ロイは」
ニッと笑ったウィリアムの言葉に、エリザベスは顔を上げた。
「ええ、そうね。ロイは、カンがいいものね」
頷いて、エリザベスは目線をミラーハウスへと向けた。
「あっ!」
不意に声を上げて立ち上がったウィリアムに、エリザベスは何事かと辺りを見回す。
「ビリーさん、どうしたの?」
「アイツ、思いだしたっ!」
戸惑うエリザベスに振り返ったウィリアムは、ひどく真剣な、まるで勤務中に張り込みでもしている時と同じ顔をしていた。
「リズさん、俺、ミラーハウスん中に行ってきますっ」
「えぇっ?」
そのまま歩き出そうとするウィリアムに、エリザベスは慌ててベンチから立ち上がると腕をとった。
「一体、どうしたの? だってロイは、ここで待っていろって言っていたじゃない」
「急いで、ロイに伝えなきゃならない事が出来たんです」
「でも、ロイは中に入ってずいぶん経つわ。追いかけるくらいなら、待っていた方が早いわよ」
「大丈夫。出口から入れば、追いつく必要はなくなるでしょう」
ウィリアムはポケットからバッチを取り出して、エリザベスにウィンクしてみせる。
「でも…」
「すいません。リズさんはここで待っていて下さいね」
エリザベスの肩に手をかけベンチにもう一度座らせると、ウィリアムは早足で出口の係員の所に向かった。
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