10 / 122
ep.1:剣闘士の男
5:アークの憂鬱(3)
しおりを挟む
世界中を見て回れば、同じ種族に出会えるのかもしれない。
幾度もそう考えた。
だが実行には移せなかった。
自分と同じ種族が、この世界に存在するのかどうかも解らない。
親しんだ人間を失った時の喪失感は、いつも心に刺さった。
この孤独を埋めてくれる誰かを夢見て探しに行き、誰も見つけられなかったら?
いつまで続くのか解らない孤独を埋められる者が、この世に誰一人居ないとしたら?
それを冷静に受け止められるとは、とても思えなかった。
取り残されて孤独になることに怯え、それ故に他者と懇意になるのを避けるようになった。
特定の誰かと穏やかで幸せな時を過ごしてしまったら、その後に訪れる孤独と寂寥感を癒す術など考えもつかない。
そしてただひたすらその恐怖を避けるため、長い長い年月を独りで過ごしている。
独りで居るだけなら、そのうち痛みもぼやけてきて、どんなに長い時の流れも、やがて一瞬と区別がつかなくなる。
そこまでして自分ひとりの居場所を作ってきたのに、どうして扉の向こうに居る、十把一絡げの、ただ一瞬の行きずりの人物を、こんなに気に掛けているのか?
幻獣族とは、ヒトガタをしておらず、更に強大な能力を備え持った生命の総称である。
能力の大きさによって上級・中級・下級と大まかな分類はされ、人間にとっては生命を脅かす危険な天敵の一つと言えた。
ドラゴンは最上級とも言われる幻獣族で、その能力値は人間から見たら生ける天災そのものと言えた。
そもそもドラゴンの身体能力やら頑健さやらを挙げ連ねる前に、その身に備わった魔力の大きさの前に、人間如きは近づくことすらままならない。
好物は鉱石で、特に精錬された物を好む傾向があった。
人間の文明が進み、金属加工の技術が上がったのは、ドラゴンにしてみれば美味しい餌場が提供されたような状態だったと言える。
しかもドラゴンの体は、人間の軍隊がどれほど頑張ったところで、ウロコ一枚剥がすことも出来ない。
一方で、湖の島からは非常に稀で価値の高い、特殊な金属が産出される。
この地の利がさほども無いような山間の湖のほとりに、わざわざ人間が村を作った理由はそれだった。
近隣諸国はこぞって此処から産出される鉱石を買い求め、ドラゴンが現れる以前は各国が採掘の主導権を争ってしのぎを削っていたほどだ。
争いの火種になりかねないその金属の存在は、同時に各国が切磋琢磨して技術や文明を進歩させる原動力にもなった。
件の金属以外の鉱物の精錬技術も進み、この周辺の鉱物加工技術はどんどん進んだ。
そうなれば、当然ドラゴンが好みの匂いを嗅ぎつけてやってくる。
結果的に、人間達はなるべくしてドラゴンを呼び寄せてしまったのだ。
件の金属が特にお気に召したらしいドラゴンは、当然といった様子で坑道に棲み着いた。
そうなってしまうと、どれほど人間達が奮戦したところで、ドラゴンを討伐どころか、追い払うことすらできるはずも無い。
金属に固執した幾つかの国は、ドラゴン討伐に国力を傾けすぎて他国からの侵略を許してしまい、国の存在そのものが歴史から消えていった。
一方のドラゴンは、より好ましい食料がある坑道から出てくることは無い。
結果として "触らぬ神に祟りなし" の構図が出来上がり、更に人間は、いつしか最初の理由であった "稀少な金属" の存在さえも忘れた。
そしてドラゴンの存在は、それが冒険者であれ国家元首であれ、よほどの功名心に駆られた愚か者だけが挑む以外には、誰も触れなくなったのだ。
幾度もそう考えた。
だが実行には移せなかった。
自分と同じ種族が、この世界に存在するのかどうかも解らない。
親しんだ人間を失った時の喪失感は、いつも心に刺さった。
この孤独を埋めてくれる誰かを夢見て探しに行き、誰も見つけられなかったら?
いつまで続くのか解らない孤独を埋められる者が、この世に誰一人居ないとしたら?
それを冷静に受け止められるとは、とても思えなかった。
取り残されて孤独になることに怯え、それ故に他者と懇意になるのを避けるようになった。
特定の誰かと穏やかで幸せな時を過ごしてしまったら、その後に訪れる孤独と寂寥感を癒す術など考えもつかない。
そしてただひたすらその恐怖を避けるため、長い長い年月を独りで過ごしている。
独りで居るだけなら、そのうち痛みもぼやけてきて、どんなに長い時の流れも、やがて一瞬と区別がつかなくなる。
そこまでして自分ひとりの居場所を作ってきたのに、どうして扉の向こうに居る、十把一絡げの、ただ一瞬の行きずりの人物を、こんなに気に掛けているのか?
幻獣族とは、ヒトガタをしておらず、更に強大な能力を備え持った生命の総称である。
能力の大きさによって上級・中級・下級と大まかな分類はされ、人間にとっては生命を脅かす危険な天敵の一つと言えた。
ドラゴンは最上級とも言われる幻獣族で、その能力値は人間から見たら生ける天災そのものと言えた。
そもそもドラゴンの身体能力やら頑健さやらを挙げ連ねる前に、その身に備わった魔力の大きさの前に、人間如きは近づくことすらままならない。
好物は鉱石で、特に精錬された物を好む傾向があった。
人間の文明が進み、金属加工の技術が上がったのは、ドラゴンにしてみれば美味しい餌場が提供されたような状態だったと言える。
しかもドラゴンの体は、人間の軍隊がどれほど頑張ったところで、ウロコ一枚剥がすことも出来ない。
一方で、湖の島からは非常に稀で価値の高い、特殊な金属が産出される。
この地の利がさほども無いような山間の湖のほとりに、わざわざ人間が村を作った理由はそれだった。
近隣諸国はこぞって此処から産出される鉱石を買い求め、ドラゴンが現れる以前は各国が採掘の主導権を争ってしのぎを削っていたほどだ。
争いの火種になりかねないその金属の存在は、同時に各国が切磋琢磨して技術や文明を進歩させる原動力にもなった。
件の金属以外の鉱物の精錬技術も進み、この周辺の鉱物加工技術はどんどん進んだ。
そうなれば、当然ドラゴンが好みの匂いを嗅ぎつけてやってくる。
結果的に、人間達はなるべくしてドラゴンを呼び寄せてしまったのだ。
件の金属が特にお気に召したらしいドラゴンは、当然といった様子で坑道に棲み着いた。
そうなってしまうと、どれほど人間達が奮戦したところで、ドラゴンを討伐どころか、追い払うことすらできるはずも無い。
金属に固執した幾つかの国は、ドラゴン討伐に国力を傾けすぎて他国からの侵略を許してしまい、国の存在そのものが歴史から消えていった。
一方のドラゴンは、より好ましい食料がある坑道から出てくることは無い。
結果として "触らぬ神に祟りなし" の構図が出来上がり、更に人間は、いつしか最初の理由であった "稀少な金属" の存在さえも忘れた。
そしてドラゴンの存在は、それが冒険者であれ国家元首であれ、よほどの功名心に駆られた愚か者だけが挑む以外には、誰も触れなくなったのだ。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる