イルン幻想譚

琉斗六

文字の大きさ
16 / 122
ep.1:剣闘士の男

8:好奇心(1)

しおりを挟む
 浜から少し歩いたところに、廃墟があった。
 ただ打ち捨てられたような感じは無く、明らかにドラゴンとの攻防が見て取れる、家屋や機材を打ち壊された跡が残っている。
 だが、ファルサーはそれらを見ても怖じけること無く、どんどんと森へ向かう。
 廃墟から森に続く道は、元は採掘坑から鉱石を運び出す時に使われていたものらしく、整地された形跡があった。
 長年使われずに放置された道は、重い荷馬車に踏み固められた轍の跡を除けば殆どが雑草によって埋もれている。
 更に進んで森に入ると、道はますます見分けが難しくなった。
 そして湖と同様に、妖魔化ガルドナイズした森の生き物にも警戒しなければならず、なかなか前には進めなかった。

「暗いな…」

 グラディウスで突き出ている枝を叩き折ったところで、ファルサーは独り言のように呟いた。

「森に来たことは無いのかね?」
「僕は、闘技場コロッセオの外に出たコトが殆ど無いので、こういう場所は不慣れなんです」
「君の言う闘技場コロッセオという場所は、野外劇場のような物を想像していたんだが。そこに寝泊まりまでするのかね?」
「ええっと…、すみません。僕は学が無くて…。ヤガイゲキジョウってなんですか?」
「うむ。私も書籍に掲載されていた挿絵程度の知識しかないが、アリーナと呼ばれる平地を中心に、周囲を階段状の、集まったものが観覧しやすい構造にした、巨大な建物だそうだ。ルナテミスのある山の頂上付近に、似た形の遺跡があるが、そこは中央に非常に大きな平たい巨石を据えてあるので、違うかもしれない」
闘技場コロッセオの試合を披露する場所は、そんな形ですね。ただ、近隣の宿舎や訓練場なども含めて、闘技場コロッセオって呼んでいるんです」
「なるほど、宿舎を置いて剣闘士グラディエーターの管理もしているのだね」
「宿舎とは名ばかりの、監視の緩い獄舎のようなものですけどね。一部のものを除いて、ほとんどがそこで家族ともども暮らしてますよ」
「その、除かれた一部のものとは?」
「反抗的で逃亡の可能性があるものは、本当の獄舎に閉じ込められています。逆に功績を認められて准市民になったり、出資者が付いて私物の剣闘士グラディエーターになったものなんかは、宿舎を出て市内で部屋を与えられたり、出資者の屋敷で暮らしたりしてますね。僕はまだ駆け出しだから、そこそこ名前が売れ始めたばっかりなので、出資者もいません。だから、宿舎の外に出る機会はあんまりなかったんです」
「その機会が、ドラゴン討伐か?」

 アークの答えに、ファルサーは自嘲気味に笑んだ。

「結果的に、現在はそうなってしまいましたね。他にも、貴族が自身の荘園で特別な試合をセッティングした時に、選抜メンバーに選ばれたりすると出掛けました。でも、だいたいは道が整備されたところを通るので、道の悪い場所や森なんかは、この旅で初めて経験しました」
「君は、死を賭して戦うと言っていたが。その闘技場コロッセオの中にはどれぐらいの数の剣闘士グラディエーターが暮らしていたのかね?」
「いや、死を賭してと言っても、毎試合死人が出るワケじゃないんです。試合運びが面白くなくて観客の不興を買えば、例え勝っても死の制裁が下されるコトもあるケド。でもあくまでメインはショーですから、そんなにどんどん死なれたら、運営が出来なくなってしまう」
「なるほど、剣闘士グラディエーターの数はある程度維持しなければならないのだな」

 アークは、昨日と同じように好奇心旺盛な様子で話を聞いている。
 どうやら自分の知らない知識に遭遇すると、こうした態度になるらしい。

「頻繁に死者が出たらマンネリ化を招いて、せっかく育てた剣闘士グラディエーターの命掛けの舞台でも、観客の興味を引けなくなってしまいます。王が、民衆からの人気を得るために開催するショーですから、そうなっては元も子もありません」
「なかなか興味深い話だ」

 なるほどと言った顔で、アークは頷いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...