95 / 122
ep.3:迷惑な同行者
2.マハトの生い立ち【2】
しおりを挟む
アクセサリーの類になどなんの興味もないマハトにすら、渡された品が高価な物であると一目で判る。
「なんだこれは?」
「おまえは今まで、儂の分の支払いと、それを今まで賄ってくれた礼じゃな」
「今も言ったが、俺は金には困っていない。せっかく綺麗な飾りなんだから、おまえが身につけて使えばいいじゃないか」
「デザインが好みでない。そもそも赤は、儂に合わぬ」
「そこまでハッキリ好みじゃないから使わないと言い切るアクセサリーを、なぜ買った?」
「買ってはおらん。貰ったのだ」
「誰が? と言うか、こんな高価な物を、対価も要求せずにくれる者など、いないだろう?」
「対価は儂の美貌じゃな」
「意味が解らん」
「一方的にのぼせあがって、貢物を持ってくるのだ。邪険にしては憐れなので、貢物は笑顔で受け取ってやっておる」
ぬけぬけと言うタクトに少々呆れたが、差し出された装飾品と同様に、他人の容姿にさほどの関心も無いマハトから見ても、タクトは際立って美しい。
この性格と態度なのに、なぜそんな格好をしているのか不思議だが、クロスが最初にタクトを見た時に "美少女" と形容したのも無理はないと思う。
この美しさがあれば、タクトの素性を知らなくても崇拝者や信奉者が出来るだろうし、神耶族の特殊な能力のことまで知られたならば、その数はタクトの言う通り、数多となるに違いない。
マハトは神耶族の能力に関して、詳細は何も知らない。
だが、別れ際に契金翼と成ったクロスの放った術の凄さや、端々で聞かされた話などから想像するに、神耶族の能力が人間には遥かに及ばないものであり、強欲な者にはこのうえもない魅力だと解っている。
考えてみれば、そんな相手を前にして、昼夜を徹して歩いたところで振り切れるわけも無かったな…と、マハトは今更になって気が付いた。
普通なら最初に気付きそうな案件だが、金銭的な困窮をすること無く、ひたすら己の鍛錬とそこから得られる成果にのみ注力しているマハトは、それ以外の事案には基本的に関心を抱かないために、少々世間知らずなところがある。
しかし神耶族に関心が持てないことと、宿泊費や食事の代金をマハトが支払い続けるのは別の問題だし、自分でもそんな風にずっと相手に金銭的な負担を掛けていると思ったら、後ろめたさや収まりの悪さを感じるだろう。
とすれば、目の前の装飾品を突き返すのはむしろ非礼になると考えて、マハトはそれを受け取った。
「じゃあ、これは預かっておく。ところでおまえは、こんな貢物だけで、今まで悠々と暮らしてきたわけか」
「面白いことを言う。そんな鬱陶しい曰く付きのヒモのような生活、面倒この上ないではないか。それに金なぞ、得ようと思えばいつでも得られる」
「なんだ、おまえでも働くことがあるのか」
自分達以外の種族を全て見下しているような言動のタクトでも、ちゃんと勤労意欲を持っているのかと、マハトはタクトを見直す気になった。
だが…。
「本当におまえは、世間知らずじゃの。儂のように才にあふれる者であれば、酒場で一勝負のような些末なゲームから、大物が大金を掛けるゲームまで、どこでも負け知らずだと言っておるのだ」
ニヤニヤしながら、タクトは自分のこめかみの辺りをツンツンと叩いてみせた。
その仕草と意味深な笑みに、少し考えてから、マハトはハッとする。
「それは、イカサマと詐欺で収益を得ているって意味か?」
「儂の容姿に目がくらんで、良からぬことを考えておる奴らに、灸をすえてやっているだけだ。なにも悪いことはしておらんわ」
タクトはカラカラ笑っている。
タクトにも勤勉な心があるのかと思い、それを真っ向から否定していた自分を反省した分だけ、マハトは余計にうんざりしてしまった。
「なんだこれは?」
「おまえは今まで、儂の分の支払いと、それを今まで賄ってくれた礼じゃな」
「今も言ったが、俺は金には困っていない。せっかく綺麗な飾りなんだから、おまえが身につけて使えばいいじゃないか」
「デザインが好みでない。そもそも赤は、儂に合わぬ」
「そこまでハッキリ好みじゃないから使わないと言い切るアクセサリーを、なぜ買った?」
「買ってはおらん。貰ったのだ」
「誰が? と言うか、こんな高価な物を、対価も要求せずにくれる者など、いないだろう?」
「対価は儂の美貌じゃな」
「意味が解らん」
「一方的にのぼせあがって、貢物を持ってくるのだ。邪険にしては憐れなので、貢物は笑顔で受け取ってやっておる」
ぬけぬけと言うタクトに少々呆れたが、差し出された装飾品と同様に、他人の容姿にさほどの関心も無いマハトから見ても、タクトは際立って美しい。
この性格と態度なのに、なぜそんな格好をしているのか不思議だが、クロスが最初にタクトを見た時に "美少女" と形容したのも無理はないと思う。
この美しさがあれば、タクトの素性を知らなくても崇拝者や信奉者が出来るだろうし、神耶族の特殊な能力のことまで知られたならば、その数はタクトの言う通り、数多となるに違いない。
マハトは神耶族の能力に関して、詳細は何も知らない。
だが、別れ際に契金翼と成ったクロスの放った術の凄さや、端々で聞かされた話などから想像するに、神耶族の能力が人間には遥かに及ばないものであり、強欲な者にはこのうえもない魅力だと解っている。
考えてみれば、そんな相手を前にして、昼夜を徹して歩いたところで振り切れるわけも無かったな…と、マハトは今更になって気が付いた。
普通なら最初に気付きそうな案件だが、金銭的な困窮をすること無く、ひたすら己の鍛錬とそこから得られる成果にのみ注力しているマハトは、それ以外の事案には基本的に関心を抱かないために、少々世間知らずなところがある。
しかし神耶族に関心が持てないことと、宿泊費や食事の代金をマハトが支払い続けるのは別の問題だし、自分でもそんな風にずっと相手に金銭的な負担を掛けていると思ったら、後ろめたさや収まりの悪さを感じるだろう。
とすれば、目の前の装飾品を突き返すのはむしろ非礼になると考えて、マハトはそれを受け取った。
「じゃあ、これは預かっておく。ところでおまえは、こんな貢物だけで、今まで悠々と暮らしてきたわけか」
「面白いことを言う。そんな鬱陶しい曰く付きのヒモのような生活、面倒この上ないではないか。それに金なぞ、得ようと思えばいつでも得られる」
「なんだ、おまえでも働くことがあるのか」
自分達以外の種族を全て見下しているような言動のタクトでも、ちゃんと勤労意欲を持っているのかと、マハトはタクトを見直す気になった。
だが…。
「本当におまえは、世間知らずじゃの。儂のように才にあふれる者であれば、酒場で一勝負のような些末なゲームから、大物が大金を掛けるゲームまで、どこでも負け知らずだと言っておるのだ」
ニヤニヤしながら、タクトは自分のこめかみの辺りをツンツンと叩いてみせた。
その仕草と意味深な笑みに、少し考えてから、マハトはハッとする。
「それは、イカサマと詐欺で収益を得ているって意味か?」
「儂の容姿に目がくらんで、良からぬことを考えておる奴らに、灸をすえてやっているだけだ。なにも悪いことはしておらんわ」
タクトはカラカラ笑っている。
タクトにも勤勉な心があるのかと思い、それを真っ向から否定していた自分を反省した分だけ、マハトは余計にうんざりしてしまった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる