イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

2.マハトの生い立ち【2】

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 アクセサリーの類になどなんの興味もないマハトにすら、渡された品が高価な物であると一目で判る。

「なんだこれは?」
「おまえは今まで、儂の分の支払いと、それを今まで賄ってくれた礼じゃな」
「今も言ったが、俺はかねには困っていない。せっかく綺麗な飾りなんだから、おまえが身につけて使えばいいじゃないか」
「デザインが好みでない。そもそも赤は、儂に合わぬ」
「そこまでハッキリ好みじゃないから使わないと言い切るアクセサリーを、なぜ買った?」
「買ってはおらん。貰ったのだ」
だれが? と言うか、こんな高価な物を、対価も要求せずにくれるものなど、いないだろう?」
「対価は儂の美貌じゃな」
「意味が解らん」
「一方的にのぼせあがって、貢物を持ってくるのだ。邪険にしては憐れなので、貢物は笑顔で受け取ってやっておる」

 ぬけぬけと言うタクトに少々呆れたが、差し出された装飾品と同様に、他人の容姿にさほどの関心も無いマハトから見ても、タクトは際立って美しい。
 この性格と態度なのに、なぜそんな格好をしているのか不思議だが、クロスが最初にタクトを見た時に "美少女" と形容したのも無理はないと思う。
 この美しさがあれば、タクトの素性を知らなくても崇拝者や信奉者が出来るだろうし、神耶族イルンの特殊な能力のことまで知られたならば、その数はタクトの言う通り、数多となるに違いない。

 マハトは神耶族イルンの能力に関して、詳細は何も知らない。
 だが、別れ際に契金翼エヴンハールと成ったクロスの放ったじゅつの凄さや、端々で聞かされた話などから想像するに、神耶族イルンの能力が人間リオンには遥かに及ばないものであり、強欲な者にはこのうえもない魅力だと解っている。
 考えてみれば、そんな相手を前にして、昼夜を徹して歩いたところで振り切れるわけも無かったな…と、マハトは今更になって気が付いた。
 普通なら最初に気付きそうな案件だが、金銭的な困窮をすること無く、ひたすらおのれの鍛錬とそこから得られる成果にのみ注力しているマハトは、それ以外の事案には基本的に関心を抱かないために、少々世間知らずなところがある。
 しかし神耶族イルンに関心が持てないことと、宿泊費や食事の代金をマハトが支払い続けるのは別の問題だし、自分でもそんな風にずっと相手に金銭的な負担を掛けていると思ったら、後ろめたさや収まりの悪さを感じるだろう。
 とすれば、目の前の装飾品を突き返すのはむしろ非礼になると考えて、マハトはそれを受け取った。

「じゃあ、これは預かっておく。ところでおまえは、こんな貢物だけで、今まで悠々と暮らしてきたわけか」
「面白いことを言う。そんな鬱陶しい曰く付きのヒモのような生活、面倒この上ないではないか。それにかねなぞ、得ようと思えばいつでも得られる」
「なんだ、おまえでも働くことがあるのか」

 自分達以外の種族を全て見下しているような言動のタクトでも、ちゃんと勤労意欲を持っているのかと、マハトはタクトを見直す気になった。
 だが…。

「本当におまえは、世間知らずじゃの。儂のように才にあふれるものであれば、酒場で一勝負のような些末なゲームから、大物が大金を掛けるゲームまで、どこでも負け知らずだと言っておるのだ」

 ニヤニヤしながら、タクトは自分のこめかみの辺りをツンツンと叩いてみせた。
 その仕草と意味深な笑みに、少し考えてから、マハトはハッとする。

「それは、イカサマと詐欺で収益を得ているって意味か?」
「儂の容姿に目がくらんで、良からぬことを考えておる奴らに、灸をすえてやっているだけだ。なにも悪いことはしておらんわ」

 タクトはカラカラ笑っている。
 タクトにも勤勉な心があるのかと思い、それを真っ向から否定していた自分を反省した分だけ、マハトは余計にうんざりしてしまった。
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