イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

3.遺跡巡り【1】

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 ひとしきり笑い転げたあとで、タクトはひょいと身を乗り出してきた。

「そのようなつまらぬ話は、どうでも良い。それよりも貴様は、なぜ遺跡巡りをせんのだ?」
「俺は剣の修業をしている。それ以上の余計なことをするつもりはない」
「じゃが、一族のものたちは、それを望んでいたから、貴様を坊主にしなかったのだろう?」
「一体、何の話だ?」
「砂漠の件を忘れたか?」
「俺はもう二度と、空など飛びたくないぞ」
「そちらではなく、水浴びのほうじゃ。遺跡の水を浴びたら、今まで視えなかった儂の姿ものが視えるようになったのだろ?」
「それはおまえのやったことだろう」
「寝ぼけたことを言うでないわ。そのようなことが出来るぐらいならば、最初からじかに話しかけておる。貴様が "視える" ようになったのは、あの奇跡の泉の御利益だ」
「そうなのか?」
「まったくぬし・・はサウルスじゃの。あの遺跡で、デュエナタンの話をしたことを、カケラも覚えとらんのか?」
「タルトタタンがどうしたとか、言っていたな?」
「つまらぬ揚げ足をとりおって…。デュエナタンというのは、貴様の先祖の総称…つまり古代文明の名称なのじゃ。学校? 学び舎? で歴史を学ばなかったのか?」
「古代文明というのは、邪教を信仰していた野蛮な時代の話だろう? そういうのは、あまり深く触れないぞ」

 マハトの返事に、タクトは「てっ」と言った。

「全く、人間フォルクというのは、物忘れの激しいハダカザルよな」
「どういう意味だ?」
「寿命が短い所為で、短期記憶しか保存出来ぬと言うておる。仕方がないので、儂が此処で貴様ら・・・の歴史を教授してやろうかの」

 タクトは一つ咳払いをすると、持っていたフォークをピッと立てた。

「デュエナタンとは、人間フォルクの一大転換期に栄えた文明よ」
「クロスさんが言っていた、独裁者の国か?」
「いや、それは転換期というよりは、動乱期の文明じゃな。デュエナタンは動乱期ののちに現れた。イルダナハ一族を中心とした神権国家。神事によって国のあり方を決めておった国じゃ」
「やっぱり、邪教の国じゃないか」
「なにを持ってして "邪" とするかは、主観によるわな。そもデュエナタンの連中が崇めていた "神" とはすなわち、ヒトならざる者ヴァリアントであったからの」
「クロスさんの言っていた、おとぎ話のようだな」
そのこと・・・・が事実であっても、歴史が進むにつれ、上層部の都合が悪かったり、物忘れ・・・が激しかったりすると、人間フォルクはどんどん歴史を歪めてしまうからの。ヒトならざる者ヴァリアントを神と崇めておった時代の記憶の名残りが、おとぎ話となったのであろ」
「つまり、ヒトならざる者ヴァリアントは実際に存在している…というのか?」
ぬし・・の知っておる存在だと、幻獣族ファンタズマ…かの? 人間フォルクから見ればヒエラルキーの上位に当たる存在を、まとめて全部、ヒトならざる者ヴァリアントと呼称しておるので、妖精族エルフ魔族ディアブロも一緒くただわな」
「それじゃあ、神が大量にいたのか?」
「ま、貴様が育った修道院の教えからは、かけ離れた話…となるかの。だが、貴様はその "邪教" の総本山、デュエナタンのイルダナハの資格を持つものなのじゃ」
「そう言われてもなぁ…」

 全く興味を示さないマハトに、タクトはつくづく呆れた顔をする。

「デュエナタンの一族の中でも、本当にイルダナハとなれるものは、生まれながらに "素養" を持っていなければならんのじゃ。なんと言ったか…、フトン? マトン?」
「マトンは、羊肉だろう」
「だから、なんでも食べるものに変換するなというに! ううむ…」

 タクトは、珍しく食事の手を止めてまで考え込んだ。
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