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ep.3:迷惑な同行者
3.遺跡巡り【3】
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マハトの機嫌などどうでも良いとばかりに、タクトは言葉を続ける。
「屋台骨の傾いた権力者は、碌な死に目に遭わぬものだ。おまえの先祖が気立てが良いだけのお人好しであったならば、おまえは今ここに存在しておらぬ」
「それはどういう意味だ?」
「つまり、おまえの先祖の誰かは、沈みかけた船から早々に逃げるネズミのように、適当に財産をまとめて逃げ出したのだ。そしてそれだけ目端の利く者なら、逃げた先でも世渡り上手に、身の安全と生活の安定を図ったと言っておる」
「じゃあ、俺の先祖は仲間を見捨てて逃げた裏切り者なのか?」
「さあの? 実際になにがあったかなぞ、儂が知るわけなかろうが。だが、ぬしとてヘタレから、魔導士がどのような扱いを受けているかは聞いておろ? 巫の扱いはそれと同等、それどころか今まで威張り散らしていた者が失墜すれば、民衆の怒りを一身に受けることになる」
「巫は魔導士だというのか?」
「当然じゃな。ヒエラルキーの高位、特に幻獣族を相手にするのに、魔力が無くば前にも立てぬわ」
「俺は持たざる者だぞ」
マハトの返事に、タクトはカラカラと笑う。
「この、魔素が満々たる世界にあって、魔力なき生き物なぞ、存在する訳なかろうが。行使の方法を知らぬだけで、人間とて魔力は持っておるわい」
その指摘に、マハトはひどい衝撃を受けた。
確かにタクトの言う通り、少なくとも魔導士が魔法を使える場には、魔素があって然るべきであり、魔素があるかぎり、魔障の危険はあるのだ。
「なんで俺は、そんな簡単なことに気付かなかったんだろう?」
「それこそが、上層部の都合の良い教育というものじゃろ。少々話がそれてしまったな。一族が民衆の怒りに晒される危険に際して、そこから逃れる手段を講じた者は数多におるじゃろう。例えば忠義に厚い側近がお膳立てをしたり、子供と財産だけを逃したり…とな。そうしたまとまった元手があれば、荘園主なり貴族籍なり買うことは出来よう?」
「つまり、俺の先祖はそうして逃れでた者の誰かだと?」
「院長も、その仲間…と見るべきじゃな」
「だがそれなら、修道院の院長になどなるのはおかしいんじゃないか? 貞節の誓いを立てると、妻も娶れないし、子供も作れないぞ」
「おいおい、少々頭を冷やせ。そもそも修道院の上層部なぞ、元は貴族の三男だの、庶子だのといった者の巣窟ではないか」
「それなら俺の親族が、もっといてもおかしくないだろう?」
「数世代を経て、血縁が分からなくなってる可能性もあるよの」
「どんな可能性だ?」
「そこは己の履歴を鑑みよ。おまえは自分が巫の末裔であることも、院長以外の親族のことも知らぬのであろう?」
「それは、俺が子供のうちに、親も院長も亡くなってしまったからだ」
「だが、おまえがそうなっていると言うことは、他にもそうなってしまった者がいてもおかしくはないだろう。ファミリーツリーの実態を知る者が、後継にそれを継承出来ない…など、短命な人間にありがちな話だ」
最後の揶揄のような言葉に、マハトはハッとなる。
憶測を断定的に語るタクトの話に、いつのまにかすっかり飲み込まれていることに気付いたからだ。
あくまでもこれはタクトの考える仮定の話であり、信憑性など無く、そもそも真実であるかどうかも分からない話なのだと、自分に言い聞かす。
「どうも、おまえの話は胡散臭いな」
「だが、貴様がデュエナタンの巫なのは、不動の事実であろうが」
タクトは、嘲るように「ふんっ」と言った。
「屋台骨の傾いた権力者は、碌な死に目に遭わぬものだ。おまえの先祖が気立てが良いだけのお人好しであったならば、おまえは今ここに存在しておらぬ」
「それはどういう意味だ?」
「つまり、おまえの先祖の誰かは、沈みかけた船から早々に逃げるネズミのように、適当に財産をまとめて逃げ出したのだ。そしてそれだけ目端の利く者なら、逃げた先でも世渡り上手に、身の安全と生活の安定を図ったと言っておる」
「じゃあ、俺の先祖は仲間を見捨てて逃げた裏切り者なのか?」
「さあの? 実際になにがあったかなぞ、儂が知るわけなかろうが。だが、ぬしとてヘタレから、魔導士がどのような扱いを受けているかは聞いておろ? 巫の扱いはそれと同等、それどころか今まで威張り散らしていた者が失墜すれば、民衆の怒りを一身に受けることになる」
「巫は魔導士だというのか?」
「当然じゃな。ヒエラルキーの高位、特に幻獣族を相手にするのに、魔力が無くば前にも立てぬわ」
「俺は持たざる者だぞ」
マハトの返事に、タクトはカラカラと笑う。
「この、魔素が満々たる世界にあって、魔力なき生き物なぞ、存在する訳なかろうが。行使の方法を知らぬだけで、人間とて魔力は持っておるわい」
その指摘に、マハトはひどい衝撃を受けた。
確かにタクトの言う通り、少なくとも魔導士が魔法を使える場には、魔素があって然るべきであり、魔素があるかぎり、魔障の危険はあるのだ。
「なんで俺は、そんな簡単なことに気付かなかったんだろう?」
「それこそが、上層部の都合の良い教育というものじゃろ。少々話がそれてしまったな。一族が民衆の怒りに晒される危険に際して、そこから逃れる手段を講じた者は数多におるじゃろう。例えば忠義に厚い側近がお膳立てをしたり、子供と財産だけを逃したり…とな。そうしたまとまった元手があれば、荘園主なり貴族籍なり買うことは出来よう?」
「つまり、俺の先祖はそうして逃れでた者の誰かだと?」
「院長も、その仲間…と見るべきじゃな」
「だがそれなら、修道院の院長になどなるのはおかしいんじゃないか? 貞節の誓いを立てると、妻も娶れないし、子供も作れないぞ」
「おいおい、少々頭を冷やせ。そもそも修道院の上層部なぞ、元は貴族の三男だの、庶子だのといった者の巣窟ではないか」
「それなら俺の親族が、もっといてもおかしくないだろう?」
「数世代を経て、血縁が分からなくなってる可能性もあるよの」
「どんな可能性だ?」
「そこは己の履歴を鑑みよ。おまえは自分が巫の末裔であることも、院長以外の親族のことも知らぬのであろう?」
「それは、俺が子供のうちに、親も院長も亡くなってしまったからだ」
「だが、おまえがそうなっていると言うことは、他にもそうなってしまった者がいてもおかしくはないだろう。ファミリーツリーの実態を知る者が、後継にそれを継承出来ない…など、短命な人間にありがちな話だ」
最後の揶揄のような言葉に、マハトはハッとなる。
憶測を断定的に語るタクトの話に、いつのまにかすっかり飲み込まれていることに気付いたからだ。
あくまでもこれはタクトの考える仮定の話であり、信憑性など無く、そもそも真実であるかどうかも分からない話なのだと、自分に言い聞かす。
「どうも、おまえの話は胡散臭いな」
「だが、貴様がデュエナタンの巫なのは、不動の事実であろうが」
タクトは、嘲るように「ふんっ」と言った。
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