イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

6.歴史【3】

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 予告通り、タクトは夜な夜な出かける。
 どうやって情報を集めているのかと気になって、興味本位でそっと見に行ってみたこともあるが。
 タクトはただ、酒場や賭博場といった場所へ足を運び、商人や冒険者アドベンチャーを相手に酒を飲んだり、カードやダイスといった賭け事をしているだけ…にしか見えなかった。

「おまえは、本当に情報収集なんてやっているのか?」
「そういえば、今夜は様子を見にきておったな。宿で大人しく、留守番をしておれとうてあったに」
「ただ遊んでいるだけだったじゃないか。情報収集と言えば、なんらか目星をつけて、話が聞けそうなものにたずねるんじゃないのか?」
ぬし・・は本当に面白いのう。そもそも雲を掴むような話をかき集めようとしておるのじゃ。彼奴きゃつらのぼんやりした記憶を精査し、そこから場所を特定するのが上策じゃ。そのためには、いい気分にさせたところで話を誘導し、『ああ、そういえば…』と思い出させるのが一番順当であろ? それともなにか? 浮かび上がる紋様のパターンで、次の遺跡の場所を察せる能力でも、身についたのかの?」
「いや、そういうのは…」

 以前に、遺跡の場所を地図でチェックしたことはあるが、結局類型を見いだせなかったことを思い出し、マハトは言葉を濁す。
 タクトが当時のデュエナタンに興味を持てなかったと言っている以上に、マハトは自身の "先祖" になんの興味もない。
 知りたいのは、あくまでも自身の血縁者が、他に存在するのかどうか…だけだ。

「だがおまえのやっていることは、ただ、遊びたいのを適当な言い訳で誤魔化しているだけにも見えるぞ」
「だったとしても…だ。儂は貴様と同道しているだけで、個人の行動にまでなんやかやと口出しされる謂れもないじゃろ。と、むしろこれは、旅をともにする時に、貴様が言い出した条件ではなかったか?」

 カカカと笑うタクトに、マハトはますます何も言えなくなった。
 それどころか、そう指摘されたことで、自分がタクトとの旅を重荷に感じていないことに気付く。
 実際、最初の頃はさっさと目的を達成して、早々に一人旅に戻りたいと思っていた。
 タクトの存在を煩わしいと感じなくなった最大の理由は、契金翼エヴンハールへの誘いを控えるようになったことだろう。

 次に、禊鎧場ネメトンを回ることで自身の能力値ステータスが上がることへの危惧が、今はほとんど感じていないこともある。
 確かに気配察知が鋭敏になったり、夜目も効くようになったりと、この辺りは自分の技量を磨いて到達したかったことではある。
 一方で、膂力のように日々の鍛錬で磨きをかけるべき部分には、特に変化を感じていない。
 洗水の儀式を複数体験したことで、マハトが体感でわかったことだが。
 禊鎧場ネメトンは、イルダナハ特殊耐性スキャルダーを強制的に強化することを目的とした施設らしい。
 思うに、他は本人の努力次第でどうにもなるが、特殊耐性スキャルダー特殊技能スキルを効率的に磨こうとしたら、本人の努力どうこう言ってる場合ではない…ということなのだろう。

 タクトが『誤作動だろう』と言った炎の禊鎧場ネメトンは、半分正解で半分間違っていたのだろうな、とマハトは考えている。
 あれは最初から炎の耐性を上げるための攻撃だったが、朽ち掛けていたせいで火力の調整がおかしくなっていたものと思われる。
 そしてどこの禊鎧場ネメトンでも、必ず現れるのが癒やしの水だが、あれは課せられた試練のあとに、イルダナハが負った傷を手当てするためのものなのだろう。

 杣小屋のそば禊鎧場ネメトンのように、たまに水しか出ない時もある。
 だがそれは、イルダナハ自身の癒力を上げる効果があるらしい。
 肩の傷が癒えていたのは、水の回復力と、マハト自身の回復力が上がった相乗効果だったのだろう。
 あの禊鎧場ネメトンが祀られていたのは、そういった効果が言い伝えられてのことなのかもしれない。
 むしろ、先祖の一族が取り仕切っていた当時は、人間リオンの暮らしは現在よりも更に未発達で、非文明的だったに違いない。
 命を守り、傷を癒やすことは、なかなかに難しい時代に、みるみる傷が癒える "神癒の奇跡" を行えたとしたら、デュエナタンのイルダナハ一族は、どれほど大事に扱われ、権勢を誇れたのだろう。
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